流波 rūpa ……詩と小説133・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈40





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   気遣いだけ

   まなざしはふたり

   ふたりのときに

   感じあうのは


   想いやり

   たしかにふたり

   ふたりの息吹き

   かたりあうべき


   せめて言葉をさがし

   時間をうめ

   空間をすべて

   空隙を満たし


   そう想いまどい

   惑いにとどまり

   留まり得ずに

   だから、惑い、しかもそれでもささやくのをやめない。その、口をふさがれた瑠璃は。まるで、いまや貴族の夜会のスター然としたコンサート・ピアニストたちの何人かのようにも豊満で、ようするに豪華でゴージャスな肉体を黑ずくめのタートルネックとデニム・パンツに抑え込み、だから体臭。たぶん気付かなったに違いない。本人だけは。たとえばインド産のハッカ煙草を咥えたときの?…短いシガリロを、しかもさわやかすぎかつ砂糖の過剰な炭酸飲料を含んだ直後に咥えたときの?そんな。だからおよそ女の肉の色気とは言い難い、しかし芳香?それはしかも、それでも猶も?わたしは

   いいよ。もう

      …ね?

後ろから押さえた。瑠璃の

   なにも、言わないでよ。もう

      どんなときに

口を。にもかかわらず

   せつなくなるだけ

      笑ったりする?

瑠璃はささやくのをやめない。その唇の、その下の歯の並びの、それを支えた顎の骨格の、それら抗うようなうごき。傷み。たぶん、唇のやわらかな湿った裏には傷み。自分の歯で傷められたそれ、…きっと。彼女に神経が殘っていれば。押さえつけられた鼻。そこにも、さっきわたしに正面からぶちのめされて、鼻血をながしたばかりの傷み、だから傷みが、…たぶん。彼女に痛点さえあれば。だから、わたしの手のひらになすりつけられたのはその体温。そして、赤裸々に無理やりの息遣い。その湿気。そして、もはや時には吹きこぼれた鼻水。…と鼻血。鼻血と唾液。唾液と、…なに?

   聞いた。…なに?

      息吹き

いずれにせよ、体液。と、

「…云えばいい。お前」

   どこ?…下のほう

      あなたの息吹きに

ささやき。だれの?

「たとえば、ね?」

   路上のどこかに

      ふれてみようか?

聞き取れない、それは

「あなたのものにしてください、…」

   ふたりのだれかの

      その

だれの?瑠璃の

「って。もう、あなただけのもの、」

   ふいにあげた聲

      なまあたたかいもの

不意の激昂にこれみよがしなほどに

「…って。認めてください、」

   聞いた。…なに?

      鼓動

恥ずかしげもない程に

「…って、さ、それ以外、お前」

   どこ?…ななめ下のほう

      あなたの鼓動に

傷められ、傷めつけられ

「望み、ないでしょ?」

   壁コンクリの翳りのどこかに

      ふれてみようか?

それでもやめない

「家畜になりたいだけじゃん?」

   配管の、なにか

      その

それは、だから

「違う?」

   つまりかけた音

      くさみのあるもの

ささやき。だれにも

「違うなら、むしろ云って」

   聞いた。…なに?

      失語

聴き取られることのない、それは

「考慮してあげる。たぶん」

   どこ?…平行の橫

      見つめるたびに

事実、いちども

「気が向いたら、だけど」

   廊下のすみの遠いどこかに

      実感が

くち走られさえしなかった

「たぶん、向かないけど」

   だれ?…だれかが、なにか

      言葉もなにも

それは、だから

「ごめんね。だって」

   落としかけた聲

      見失っている、そんな

ささやき。だれの?

「おまえ、くさいから。もう」

   悲鳴?…笑い聲のような

      実感

だから、それは

「どうしようもなく」

   笑い聲?…悲鳴のような

      おののき

瑠璃の。もがきもしないで

「穢いから。おまえ、」

   聞いた。…なに?

      あなたのおののきに

頸からしたの、ひたすらに柔順な

「穢すぎだから」と、それがわたし。十九歳の。瑠璃はだからわたしに、せめてもの誕生日。わたしのための。その個人的なパーティを開いてくれようとしたふいの提案。ビラ・ビアンカ。明け方の、だから七階の窓には遠く、まだ昏い、いやおうなく色彩を、むしと沈痛なまでに沈殿させた神宮の森。謂く、

   ないから。な、な、ない

   ふいにささやき

   返り見、笑み

   きみ。ない、ない、ない


   お祝い、…ね?誕生日

   されないくて、ね?いい

   お祝い、ね?そんな、ね

   そんな、誕生日なんて


   ないから。な、な、ない

   思わず笑い

   わたしも、すでに

   笑み。ない、ない、ない


   忘れられて、…さ。放置?

   されていて、ね?いい

   どうでもいい?そんな、ね

   そんな、誕生日なんて


   なにがほしい?

   …なに言ってほしい?

   な、な、なにがほしい?

   …いま、なにって?


   なにを言ってほしい?

   なにが好き?

   なに?

   なにがいい?


   ひびきあう聲

   わらいあう聲

   みつめあう聲

   照れあったまなざし


   恥じらいあったまなざし

   みつめあう聲

   わらいあう聲

   ひびきあう聲


   なにがいい?

   なに?…な、な、な

   なにが好き?

   なにを言ってほしい?


   …いま、なにって?

   な、な、なにがほしい?

   …なに言ってほしい?

   なにがほしい?


   そんな、誕生日なんて

   どうでもいい?そんな、ね

   されていて、ね?いい

   忘れられて、…さ。放置?


   笑み。ない、ない、ない

   わたしも、すでに

   思わず笑い

   ないから。な、な、ない


   そんな、誕生日なんて

   お祝い、ね?そんな、ね

   されないくて、ね?いい

   お祝い、…ね?誕生日


   きみ。ない、ない、ない

   返り見、笑み

   ふいにささやき

   ないから。な、な、ない

すなわち時に思うのだが、瑠璃。あなたはふいに言葉をうしったのだろうか?たとえば駅前広場を横断しようとしたときに、唐突に、なんの明晰な意味もなく、恐怖。おそれ、おそれ、おそれ、おびえ。なぜかなつかさのある恐怖。おそれ、おそれ、おそれ、おびえ。瑠璃。あなたはふいに汗を吹き出させて仕舞ったのだろうか?たとえば渡りかけた横断ほどの右手の向こうの赤信号に、唐突に、なんの明確な意味もなく、予感。きざし、きざし、きざし、きざされ。なぜか既存感のある予感。きざし、きざし、きざし、きざされ。瑠璃。あなたはふいに骨髄を逆流する冷めた熱気に咬みつかれだろうか?たとえば指先でちぎろうとしたサンドイッチのなまなましい触感に、唐突に、なんの明瞭な意味もなく、破綻。こわれ、こわれ、こわれ、手遅れ。なぜか無防備感のある破綻。こわれ、こわれ、こわれ、手遅れ。あなたは云った、コンサート・ホールもスタジオもどこも、音楽のひびき場所は轟音だ、と。それが如何なる微弱音だったとしても。病的なピアニシ、シ、シ、シモの消えかけのかすれも。それらはすべて轟音なのだと。轟音のなかで、…あんた、笑える?瑠璃はほほ笑み、そう云った。「おまえは?」笑った。瑠璃は、ふと聲をたて、そしてまばたき、笑い、かさねて謂く、

   ないから。な、な、ない

      花、…でしょう?

    おまえは、いつなの?

     好きな色、なに?

   ふいにささやき

      花。まずは

    誕生日?

     花。まずは

   返り見、笑み

      好きな色、なに?

    いつ?

     花、…でしょう?

   きみ。ない、ない、ない


   お祝い、…ね?誕生日

      なぐさめのある聲

    秘密

     その息を、ふいに

   されないくて、ね?いい

      ささやき

    莫迦?

     ささやき

   お祝い、ね?そんな、ね

      その息を、ふいに

    あってないようなもんじゃん?…むしろ

     なぐさめのある聲

   そんな、誕生日なんて


   ないから。な、な、ない

      吐き。まるで

    おまえは、どこなの?

     気づきもしなかったかのように

   思わず笑い

      吐き捨てるように。まるで

    出身?

     吐き捨てるように。まるで

   わたしも、すでに

      気づきもしなかったかのように

    どこ?

     吐き。まるで

   笑み。ない、ない、ない


   忘れられて、…さ。放置?

      花、…でしょう?

    秘密

     誕生花、なに?

   されていて、ね?いい

      花。まずは

    なめてる?

     花。まずは

   どうでもいい?そんな、ね

      誕生花、なに?

    どこでも似たようなもんじゃん?…むしろ

     花、…でしょう?

   そんな、誕生日なんて


   なにがほしい?

      いたわりのある聲

    だから

     その聲を、ふいに

   …なに言ってほしい?

      ささやき

    からかうように

     ささやき

   な、な、なにがほしい?

      その聲を、ふいに

    詮索してやる

     いたわりのある聲

   …いま、なにって?


   なにを言ってほしい?

      止め。まるで

    時に

     過呼吸をおこしかけていたかのように

   なにが好き?

      窒息しかけたように。まるで

    いたぶるように

     窒息しかけたように。まるで

   なに?

      過呼吸をおこしかけていたかのように

    詮索してやる

     止め。まるで

   なにがいい?


   ひびきあう聲

      花、…でしょう?

    わたしは

     どんな匂い、好き?

   わらいあう聲

      花。まずは

    かの女の

     花。まずは

   みつめあう聲

      どんな匂い、好き?

    その耳もとに

     花、…でしょう?

   照れあったまなざし


   恥じらいあったまなざし

      たわむれのある聲

    痛いなら

     その気配を、ふいに

   みつめあう聲

      ささやき

    なかったことにして仕舞え

     ささやき

   わらいあう聲

      その気配を、ふいに

    耐えられないなら

     たわむれのある聲

   ひびきあう聲


   なにがいい?

      翳らせ、まるで

    その耳もとに

     惨劇をひとり、いま見い出していたかのように

   なに?…な、な、な

      悲惨をだけ見ていたように。まるで

    かの女の

     悲惨をだけ見ていたように。まるで

   なにが好き?

      惨劇をひとり、いま見い出していたかのように

    わたしは

     翳らせ、まるで

   なにを言ってほしい?


   …いま、なにって?

      その気配を、ふいに

    詮索してやる

     たわむれのある聲

   な、な、なにがほしい?

      ささやき

    いたぶるように

     ささやき

   …なに言ってほしい?

      たわむれのある聲

    時には

     その気配を、ふいに

   なにがほしい?


   そんな、誕生日なんて

      どんな匂い、好き?

    詮索してやる

     花、…でしょう?

   どうでもいい?そんな、ね

      花。まずは

    からかうように

     花。まずは

   されていて、ね?いい

      花、…でしょう?

    だから

     どんな匂い、好き?

   忘れられて、…さ。放置?


   笑み。ない、ない、ない

      過呼吸をおこしかけていたかのように

    どこでも似たようなもんじゃん?…むしろ

     止め。まるで

   わたしも、すでに

      窒息しかけたように。まるで

    なめてる?

     窒息しかけたように。まるで

   思わず笑い

      止め。まるで

    秘密

     過呼吸をおこしかけていたかのように

   ないから。な、な、ない


   そんな、誕生日なんて

      その聲を、ふいに

    どこ?

     いたわりのある聲

   お祝い、ね?そんな、ね

      ささやき

    出身?

     ささやき

   されないくて、ね?いい

      いたわりのある聲

    おまえ、どこなの?

     その聲を、ふいに

   お祝い、…ね?誕生日


   きみ。ない、ない、ない

      誕生花、なに?

    あってないようなもんじゃん?…むしろ

     花、…でしょう?

   返り見、笑み

      花。まずは

    莫迦?

     花。まずは

   ふいにささやき

      花、…でしょう?

    秘密

     誕生花、なに?

   ないから。な、な、ない

死者たちはゆらぎ、沙羅はもてあそぶ。その指に、そして臀部に、わたしの、だからわたしにまるで、女にそれをするように、じぶんのそれをなすりつけて、そして笑った。沙羅が。耳のうしろで。なぜ?わたしがすでに聲を立てて笑って仕舞っていたから。














Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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