流波 rūpa ……詩と小説130・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈37
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
裏切りのように
まるで辛辣な
裏切りのように
あなたはまばたく
警告のように
まるで容赦ない
警告のように
あなたはうつむく
不意打ちのように
まるで愚弄した
不意打ちのように
あなたはかたむけ
その頸の上に
空のほうを見た
噓。噓。噓
空のほうに、あなたはなにを?だからその山道をのぼった。≪流沙≫と。ひくい山。突き出しはしない山。盛り上がりの山。だからその頂き。気持ち程度に樹木の群れが空隙をつくった、その空き地にまで登りきるあいだ、だから吐き捨てられつづけるにまかせた言葉。記憶されることのなかった言葉。わたしの。かれの。わたしたちの、それらの群れはたぶん、質問?…拘留。ないし保護。詮索?あるいは監視。または管理されていた≪流沙≫の事実…だから、解放。…に、対しての、なに?…ついに、自由。そんなきみはついに、質問?…むしろ、ついに自由。猶予。ただの猶予?だから逮捕拘束までの?だった、の、だろうか。精神的に傷ついてるその≪流沙≫。聞いた。かれはいま、ある医療施設に隔離されていると、すでに聞いていた。それは精神病院?島のひとの口伝てのみではない。テレビのニュース。ワイドショー。雑誌。新聞。それらでも何にでも公表されていた。未成年者。そうである以上、沈黙。饒舌なそれ。こいつだよ、と。いちばんあやしいのは、こいつ。…と。そんな一言をは口には出さず、しかも明言し、どうやって?…明言され、と、思った。わたしは。すでにだれにも共有されていた前提。周知の、あたりまえの、もっともあたりさわりのない前提として、…なに?この子だよ。認識は共有され、…この子が、不穏な、と。わたしには想われた、だからもはや容赦なく不穏で、それは、だから、…なに?そんな、ただあやういだけの唇。
そこに失神を
その聲色も。
かさね、かさねて
花。そのむこう…と、そば、
そこに失神を
と、そして花々。か
しかも散らして
かたわらにも
いきなりさらに失神させた、…と
通りすぎていったのは、
そんな色彩
…はっ。それら、…はっ。
それらは
紫陽花。…え?
なになになに?
は?は?
と。花。たしか、…はっ。結構、
なになにな
な、な、なはっ?は?
傾斜、あるね。…と?その
なになになに?
あ、あ、あ、は?
時に…え?な
なななな。な?
んはっ…?
その≪流沙≫はつぶやいた。
饒舌すぎた失神
なにを?あやういだけのささやき聲で、
失神したままの饗宴
山道。まだ頂きには路を殘す。わずかに、ではあっても。それでも、ただしあとすこし。だから色彩。光り。樹木の翳り。それらさ、もはやどうしようもなくさまざまなななめの散乱。「…なに?」
ささやいていた。わたしは。ただ心のなかにだけ。だからはっきりと耳に、その自分にしか聞こえない聲をだけ聞き取りながら、なにをあなたはいまそこにつぶやいてしまったのだろう?それでも≪流沙≫。かれは…なに?まるで「…な、」と、…に?ほんとうに耳もとに…だれ?ささやかれたかのように、
「あったんだ。…こんなところに、…こ」
「なに?」
紫陽花たちは
ざわわわわっ
返り見ていた。すでに、
ふるえた
ざわわわわっ
わたしは。やや
そんなまぼろしを
さんさわっ
ななめうしろに追随した
見せて翳る
ずんさわっ
≪流沙≫。そのやや息を
光る
ざわわわわっ
乱して、その≪流沙≫。かれをだけ振り返り見、見、ゆるやかな傾斜。息。わたしも、かれをだけを、しかしなめらかな、たいしたことない、でも、傾斜。それでも熱。体内。血が勝手に鼓舞された…だれ?味のある熱をもちはじめるのは、それら…なに?息。吐き、吐きかけられ、吐き捨てられもした、あたたかな
「ほら、…」
息。さ
裂いてたの?
鼻血?びっ…
「紫陽花?」ささやいた。わたしは。その≪流沙≫に助け船をだすように。だから、まるでそこに、その≪流沙≫。かれがそれ、だれでも知ってる花。そのだれにも知られていた名前をひとりだけ、そこにいままで知らないでいるように。
しずく。
裂いてたの?
爪?どぅっ…
世界中でただ、かれひとりだけが花の名前を忘れて仕舞っていたかのように?…錯覚?匂う気がした。わたしは、自分がその花の名をつぶやいたときに、それはだから鼻に、あざやかな鼻孔に、花弁のあざやかな鼻に、匂い。その蕊の…なぜ?匂い。その…なに?花粉の、そしてその留まった水滴、そのし、なに?…しずく、どこかで散ったそ…なに?その飛沫、それら、…なに?なかった。なにも。それら、そんな匂いなど。だからそこに匂いさえも存在させなかった匂いたちのしかし散在。「こんなとこに、咲いてたっけ」
裂いてたの?
眼玉?ぶっ…
「知らないの?」答えなかった。≪流沙≫は。だから、ひびき。なんども、さ、…と、ささやき、き。ここ、さ。お前、さ、…と、ひびき。通ったよね。でしょ?…おれと、さ。一緒に、ね?と、ささやき、き。そんな、もうまさに溢れだしで仕舞いそうになる言葉の群れは、だからささやき、き。わたしの喉の奧にだけ咀嚼され、咬み散らされ、音聲のないくちびるは笑んで、謂く、
わたしも傷
≪流沙≫あなたは
傷。赤裸々に
傷。だから
ひらき、ひらき
蕾のように?
散る雲のように?
ひらき、だから
失語。ささやきは
容赦なき饒舌。それは
失語。擬態した
饒舌。ふたりは
ひらき、ひらき
唇のように?
雪崩れのように?
ひらき、ふたりは
野放図にささやく
ささやかれていた
聲。きこえよがしに
聲。だから
ひらき、ひらき
巢孔のように?
地崩れのように?
ひらき、だから
失語。そのひびきは
苛烈な饒舌。それは
失語。擬態した
饒舌。ふたりは
ひらき、ひらき
瞳孔のように?
陥穽のように?
ひらき、ふたりは
傷。なにもかも
語られたものなど
語られなかったことさえも
傷。なにもかも
ひらき、ふたりは
陥穽のように?
瞳孔のように?
ひらき、ひらき
饒舌。ふたりは
失語。擬態した
苛烈な饒舌。それは
失語。そのひびきは
ひらき、だから
地崩れのように?
巢孔のように?
ひらき、ひらき
聲。だから
聲。きこえよがしに
ささやかれていた
野放図にささやく
ひらき、ふたりは
雪崩れのように?
唇のように?
ひらき、ひらき
饒舌。ふたりは
失語。擬態した
容赦なき饒舌。それは
失語。ささやきは
ひらき、だから
散る雲のように?
蕾のように?
ひらき、ひらき
傷。だから
傷。赤裸々に
≪流沙≫あなたは
わたしも傷
すなわち傾斜に翳る翳った翳りを見た。とおりすぎた。その刹那のうちに。すぅうー…っと。≪流沙≫の、そのすでにつぅうー…と。通り過ぎていた土に。だから、かれのゆぅうー…っと。背後。鳥?…と。その≪流沙≫は云った。ふいに顏をあげ、いま、飛んでったね。ひびいた?羽搏き?ざざざわわっ、…と?かさねて謂く、
わたしも傷
鹿さえも
かさなりあうなど
まばたきます
≪流沙≫あなたは
ほら。ぴっちょんっ
まさか
ほら。ぴっちょんっ
傷。赤裸々に
まばたきます
いつだって
鹿さえも
傷。だから
ひらき、ひらき
もうすぐ空は
虛僞でしかない
もうすぐ向こう
蕾のように?
昏むのです
やさしいふれあい
昏むのです
散る雲のように?
もうすぐ向こう
虛僞のみを塗り
もうすぐ空は
ひらき、だから
失語。ささやきは
向こうのほうで
一致しあうなど
もうすぐなのです
容赦なき饒舌。それは
色むのです
まさか
色むのです
失語。擬態した
もうすぐなのです
いつだって
向こうのほうで
饒舌。ふたりは
ひらき、ひらき
木の葉らさえも
過失でしかない
さわぎます
唇のように?
ほら。くぃくぃくぃくぃくぃっ
やさしいふれあい
ほら。くぃくぃくぃくぃくぃっ
雪崩れのように?
さわぎます
過失のみを塗り
木の葉らさえも
ひらき、ふたりは
野放図にささやく
もうすぐ空は
ひとつであるなど
もうすぐ向こう
ささやかれていた
昏むのです
まさか
昏むのです
聲。きこえよがしに
もうすぐ向こう
いつだって
もうすぐ空は
聲。だから
ひらき、ひらき
向こうのほうで
欠損でしかない
もうすぐなのです
巢孔のように?
色むのです
やさしいふれあい
色むのです
地崩れのように?
もうすぐなのです
欠損のみを塗り
向こうのほうで
ひらき、だから
失語。そのひびきは
風ひとつさえも
やさしくあればあるほどに
消え去ります
苛烈な饒舌。それは
ほら。とぉっ。とゅんっ
その目を抉る
ほら。とぉっ。とゅんっ
失語。擬態した
消え去ります
わたしが、その
風ひとつさえも
饒舌。ふたりは
ひらき、ひらき
もうすぐ空は
やさしくあればあるほどに
もうすぐ向こう
瞳孔のように?
昏むのです
その喉を裂く
昏むのです
陥穽のように?
もうすぐ向こう
わたしが、その
もうすぐ空は
ひらき、ふたりは
傷。なにもかも
あなたの吐息
わたしが、その
ひびいています
語られたものなど
ほら。ほ。ほぃっほうっ
その喉を裂く
ほら。ほ。ほぃっほうっ
語られなかったことさえも
ひびいています
やさしくあればあるほどに
あなたの吐息
傷。なにもかも
ひらき、ふたりは
もうすぐ空は
わたしが、その
もうすぐ向こう
陥穽のように?
昏むのです
その目を抉る
昏むのです
瞳孔のように?
もうすぐ向こう
やさしくあればあるほどに
もうすぐ空は
ひらき、ひらき
饒舌。ふたりは
向こうのほうで
欠損のみを塗り
もうすぐなのです
失語。擬態した
色むのです
やさしいふれあい
色むのです
苛烈な饒舌。それは
もうすぐなのです
欠損でしかない
向こうのほうで
失語。そのひびきは
ひらき、だから
あなたの知ったのひびきだけ
いつだって
わたしの知ったの翳りだけ
地崩れのように?
その鳥たちは
まさか
その鳥たちは
巢孔のように?
わたしの知ったの翳りだけ
ひとつであるなど
あなたの知ったのひびきだけ
ひらき、ひらき
聲。だから
もうすぐなのです
過失のみを塗り
向こうのほうで
聲。きこえよがしに
色むのです
やさしいふれあい
色むのです
ささやかれていた
向こうのほうで
過失でしかない
もうすぐなのです
野放図にささやく
ひらき、ふたりは
もうすぐ向こう
いつだって
もうすぐ空は
雪崩れのように?
昏むのです
まさか
昏むのです
唇のように?
もうすぐ空は
一致しあうなど
もうすぐ向こう
ひらき、ひらき
饒舌。ふたりは
ひびいています
虛僞のみを塗り
わたしの吐息
失語。擬態した
ほら。ほ。ほぃっほうっ
やさしいふれあい
ほら。ほ。ほぃっほうっ
容赦なき饒舌。それは
わたしの吐息
虛僞でしかない
ひびいています
失語。ささやきは
ひらき、だから
もうすぐなのです
いつだって
向こうのほうで
散る雲のように?
色むのです
まさか
色むのです
蕾のように?
向こうのほうで
かさなりあうなど
もうすぐなのです
ひらき、ひらき
傷。だから
もうすぐ向こう
なにも、語るべき
もうすぐ空は
傷。赤裸々に
昏むのです
そんなの、なにを?
昏むのです
≪流沙≫あなたは
もうすぐ空は
語るべき、なにも
もうすぐ向こう
わたしも傷
いたい?と、「…なに?」だから問い直したわたしに、「つぎは、…いつ、…会いたい?」クィン?フィン?かの女は、ふたたび笑む。素肌をいまださらしたまま見送るわたしに、そのドアを閉めようともせずにささやき返し、クィン?フィン?かの女は、そこにだれもいないから。ホテルには。フロントのレセプショニストさえ半日しかいなかった。いま、下にいるかどうかは知らない。観光都市はパンデミックで崩壊していた。もとに戾るのだろうか?職にあぶれた観光業従事者たちが、それなりにべつの仕事を見つけ出して仕舞っているいま。だから、ここ以外には空室しかない、とはいえたしかに監視カメラはあった。廊下に。ご丁寧にふたつも。どうでよかった。見たければ見ればいい。うつくしいわたしの肌を。つれこんだ女に愛されたばかりのうつくしい肌の、傷らしい傷もないしろい綺羅めきを、…と、軽蔑?…自嘲?「いつ、会いたいの?」
問い返したわたしの笑みに、クィン?フィン?かの女は表情をつくりかけ、しかもなにか言いかけ、兩方はたさずにもういちど表情を、しかも言葉を、と、ふたたびいきなり崩壊させて、そして、ふいに、ひたすらに眼を細めて笑っていた。「毎日、会いたい」
「來ればいいじゃない?」
「仕事が、ある、よ」と、「みんな、日本へだれも行けてないけど、もう、行けるようになったし、まだ、行けないひとも、日本語は、勉強しなきゃならないだから、」クィン?フィン?かの女は慥かエンジニアのそれか実習のそれかの送り出し機関の敎師だった。…がんばって、と、そしてふと「戦争なのに?」思いつくままにくち走ったわたしに、「ベトナムじゃないよ…」と、「日本も、だからだいじょうぶだよ」
それら、意味がわかるようでわからないクィン?フィン?かの女のこころのゆれうごくままに、吐かれた言葉にそっと笑みをくれた。
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