流波 rūpa ……詩と小説127・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈34





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   出逢ったのは

   二十歳のころ?…瑠璃

   年増の瑠璃は

   すでに老いていた


   わたしが見たのは

   沁みと皴。…瑠璃

   あえてない。恥じらいは

   あるがまま見せた


   厚塗りのメイクは

   いつかわたしが、…瑠璃

   強いていた?

   崩れて行く、その自覚は


   醜くさの繁殖。その傷みは

   劣えて行く、その恐れは

   あざわらわれた、と

   その自傷は「飽きたの?」と、だからその瑠璃は云う。自分だけ素肌をさらし、ベッドに横たえ、ビラ・ビアンカ。そこは「それは、…さ」そうささやき、「…無理」ささやくわたし。その笑いかけの聲を、瑠璃は聞いていた。頻繁なまばたきに。…なに?

「無理って。…なに?」その瑠璃。想いつめたような瑠璃。しかも事実想いつめ、しかし、どうしようもなくその焦燥さえ擬態じみていて、だからただいかがわしさだけの瑠璃。まがいものじみた気配をだけ聲にさらして。「なにが、なんで、どんふうに、そして、どういう感じにどうして無理なの?」

「何故が二回かぶってない?…それ」あざける気はなかった。そのわたしは。もちろん

   塵り。舞って散り

      好きだ、と云った

ののしる気も。

   塵り。とどまって散り

      この部屋の

からかう気も。共感も。

   塵りら、それら

      このあかるさが

なかった。瑠璃に、

   それらさえ綺羅

      好きだ、と云った

なら、…なに?または

   綺羅ら散りかい

      恥ずかしいくらいの

瑠璃のそのいま、その瑠璃に対しても、その感情。かの女がそこに咬んでいた感情に対しても、…こころ。ましてまなざし。その色。瞼。その気配に対しても。思っていた。もっとやさしく、親切にしてやるべきだと。わたし自身に、呵責?あくまで他人を責め、しかも稀薄に責めて見せたにも似て。冷淡な?…冷静すぎる?…ひややかな?…わたし。すくなくとも瑠璃の虹彩のむこうの風景のなかでは。「だって、…さ」と、そのわたしは「しかも、…さ」故意に冷酷なばかりに「手もにぎったことない。ふれあったことも。だから、ましてやキス。たぶん、ふたりで見つめあったことも」

「あんたのせい。…それ」

なんで?

   熱をおびて

      血。ながす

「あんただけでしょ?」

なんで、さ?

   発熱を咬み

      いま、だから

「あんたが、ひとりで、…ね?わたしを」

…ね。ね、ね、

   しかも醒め

      冷えた毛孔が

「見ない…っていうか、ね?」

なんで?

   醒めきって

      血。ながす

「逸らしもせずに、シカトもせずに」

と、ささやきかけた

   熱を煽り

      その沸騰

「無視さえ」

瑠璃の唇のその気配にかぶせ、「恋人でもないのに、恋人に飽きるなんてできないでしょ。…ちがう?」

「飽きてる。もう、」瑠璃は、かの女の数秒の沈黙。無表情の後に、「あんたは、」ひとりで「勝手に、そこで」その喉につぶやいていた。「もうどうしようもないくらいに飽きてるんじゃない?もう救いようながなくてなすすべもないくらいに、…わかるよ。」と、「ね。…ね、なんで?」

笑っていた。わたしは、聲もなく、ただ実際には

「そんなに、雅雪」

赤裸々に、剝きだしに、もう

   吐く?はっ

      毛孔。おえっ

「ひとりでそんなに、なんで?」

笑い、わたしは、その事実には瑠璃さえき

   吐きそう?はっ

      毛細血管。おえっ

「残酷になれるの?好きなの?」

気づかなかったままに。

   もう吐いた?はっ

      毛根。おえっ

「敎えて。好き?…好きなの?」

傷つけたのでは…よう、と、したのでもない。その瑠璃を。むしろ眼の前にあきらかに傷ついているまばたきの瑠璃がどうしようもなくかなしかった。うるみ。かの女の網膜は、

「すき…好きなんだよ。やっぱ、」

   ね?…ときどき

「いたぶるのが?…ドS?おれが、ドSだって?」

   髮の毛、食べる?

「楓。あれ。…っていう、あの、やつのことが」云った直後、怒り?…嫉妬?…なに?瑠璃の網膜。綺羅。そのうすい…散乱。それらの裏にはあきらかに嫌惡。わたしに、ではない。嫌惡。自分。そのいたましい言葉をあえてつぶやいた自分の舌への?あるいは、…喉への?たぶん、その…唇への?言葉。苛烈なひびき。言葉。それそのものへの嫌悪?「なにそれ」

「じゃ、≪流沙≫?」

   ね?…ときどき

それは眞昼。違った。朝でさえ、夜でさえなく、ただ

「ちがうの?…じゃ、」

   毟って、食べる?

あかるい、眞昼。ただ普通に晴れ、晴れ切った

「九鬼蘭?…ね」

   ね?…ときどき

それは眞昼。…何月の?

「雅雪は他人を、…違う、じゃない。雅雪は、…ていうか、知ってる。ね?わたしは、ね?あんた、本当は、…もう本当にすっごい、すっごい、すっごい、やさしい奴。やさしいだけのやつ。やさしくしかいられないやつだから。だから、それが、…さ。結果、…さ。ね?他人を、さ。不幸にだけ落としちゃうとしても、…さ。わかる?たとえば、さ。≪流沙≫」

「おまえ、なに云ってんの?」

「九鬼?」

   ちしゃ。ちしゃ。むしゃしゃ

      吐瀉。…しゃっ

         血。…しゃしゃっ

「ね、おまえ、」

「…楓?」

   ちしゃ。むしゃ。むしゃしゃ

      吐瀉。…ぐしゃっ

         血。…ぎゃぎゃっ

「…ね?」

「その他、いっぱい、いっぱい、いっぱいぜんぶのいっぱいみなさま。でも雅雪は基本、やさしいから。やさしすぎてやさしいだけのやさしいやつだから。だから、だれも傷つけたくないんだよ。しかも、でも、なんで?…なんで、わたしのことだけ、好きなの?もうめっちゃくちゃにわたしだけ傷だらけにするのだけが、」

「別に、…」

「好きなの?なんで?」

「おまえのことなんかぜんぜん、特別じゃない」

「噓」つぶやいた瑠璃の、その言葉は噓だった。瑠璃の目はもううるみ切り、淚?…泣く?そんなあたりさわりのない感情ではなくて、…なぜ?さらした。とめどもなく動揺を、さらした。ただ憔悴というべき、…なに?さらしていた。ないし焦燥というべき、さらし、そんな行き先もなくかつ、耐えられもせずかつ、ただいたたまれない震え。…と、そしてその明確な色をのみ「…だめ」

ややさく。ややあって、ようやく、だからその

   なんですか?と

      雪、ふるね

瑠璃は。せっつかれたように、

   振り返ったそこに

      空が奇妙に

あくまでも「噓だけは、云っちゃダメ」

   ふいに

      あかるいからね

笑み。そこに、

   雪

      こころが奇妙に

あかるいだけの、無邪気なまでの笑み。すでに勝手にひとり気を取り直し、そしてあえてわたしのためにほほ笑みなおし、ことさらにさとしてやった、と?そういう、だから、そんな、…なに?「似合わないよ。雅雪には、」

笑み。すでに、わたしがたてていた笑い聲。それらのみだれた反響のそこに。謂く、

   どう解釈すれば?

   その、間抜けな出逢いを

   莫迦げた偶然を

   いま、ぼくたちは


   笑いでもすれば?

   その、午前のカフェを

   窓越しの綠りを

   その、街路樹の葉は


   忘れちゃおうか?

   その、ふれた背中を

   嗅いだ匂いを

   いま、ぼくたちは


   道玄坂。夏。光り

   映画館のうえ。窓際で

   その並び。綺羅。席に着く前

   煙り。煙草は。どこに?


   後ろ向き。温度。窓ごし

   步み。なに?背後。だれ?

   步き、ののしり、聲をひそめて

   まばたき。コーヒーの香り


   瑠璃は電話に

   いらだった聲

   かすかに、ぶつかり

   呆気にとられ


   あわて、返り見

   髮の毛がふれ

   衝撃。とまどい

   恥らいが散って


   あれ?…えっ。あ、あっ

   あー…んっ。の、あ、あの

   あんっ…あっ。ちょ。え、あ

   あれ?…えっ。んー…んとっ


   恥らいが散って

   衝撃。とまどい

   髮の毛がふれ

   あわて、返り見


   呆気にとられ

   かすかに、ぶつかり

   いらだった聲

   瑠璃は電話に


   まばたき。コーヒーの香り

   步き、ののしり、聲をひそめて

   步み。なに?背後。だれ?

   後ろ向き。温度。窓ごし


   煙り。煙草は。どこに?

   その並び。綺羅。席に着く前

   映画館のうえ。窓際で

   道玄坂。夏。光り


   いま、ぼくたちは

   嗅いだ匂いを

   その、ふれた背中を

   忘れちゃおうか?


   その、街路樹の葉は

   窓越しの綠りを

   その、午前のカフェを

   笑いでもすれば?


   いま、ぼくたちは

   莫迦げた偶然を

   その、間抜けな出逢いを

   どう解釈すれば?

すなわち記憶。ささやかれはしなかった。瑠璃のくちびる。わたしの舌。そのどちらにも。あえて口に出す価値もないから。ひんまがった眉。惡いのは瑠璃。後ろ向きになぜか移動をはじめ、もう、すべて忘れていた。自分にだけ聞こえた聲以外には。いまだにずぼらな図体をさらした最新型の携帯電話。いまだにややトランシーバーじみていたそれを落としそうになった。ささやく意味などなにもなかった。思い出す値打ちも、記憶する必然も。なにもなかった。かさねて謂く、

   どう解釈すれば?

      咬み、咬む

    時に、あなたは

     倦怠のとき

   その、間抜けな出逢いを

      ふり。咬む、ふ

    茫然とした

     ふり。咬む、ふ

   莫迦げた偶然を

      倦怠のとき

    瞳孔をひらき

     咬み、咬む

   いま、ぼくたちは


   笑いでもすれば?

      ふたりでいた

    まるで、すでに

     その、倦んだ

   その、午前のカフェを

      ふたりだけでいた

    肌さえゆるしていたかのように

     ふたりだけでいた

   窓越しの綠りを

      その、倦んだ

    受け入れおわっていたかのように

     ふたりでいた

   その、街路樹の葉は


   忘れちゃおうか?

      つく。咬み

    時に、あなたは

     退屈なとき

   その、ふれた背中を

      咬みつく。ふり

    意識を飛ばした

     咬みつく。ふり

   嗅いだ匂いを

      退屈なとき

    ふいに、いきなり

     つく。咬み

   いま、ぼくたちは


   道玄坂。夏。光り

      いたっ。た、た、

    まるで、すでに

     傷み。んまっ

   映画館のうえ。窓際で

       やばっ。なぜ?なんか

    肌の匂いさえ知ってるように

     やばっ。なぜ?なんか

   その並び。綺羅。席に着く前

      傷み。んまっ

    体液の温度も知っているように

     いたっ。た、た、

   煙り。煙草は。どこに?


   後ろ向き。温度。窓ごし

      いたっ。た、た、

    見つめていたことさえ

     神経。たっ

   步み。なに?背後。だれ?

      なんか。なに?こころ

    気付かない刹那に

     なんか。なに?こころ

   步き、ののしり、聲をひそめて

      神経。たっ

    その曖昧に

     いたっ。た、た、

   まばたき。コーヒーの香り

   

   瑠璃は電話に

      倦み、膿。倦み

    生きているさえ

     もう、さ、なんか、さ

   いらだった聲

      爛れ。空気が

    忘れたように

     爛れ。空気が

   かすかに、ぶつかり

      もう、さ、なんか、さ

    瞳孔に翳り

     倦み、膿。倦み

   呆気にとられ


   あわて、返り見

      ふ。ふたりで

    色のない翳り

     その、倦んだ

   髮の毛がふれ

      だけ。だ、けでいた

    空白。ただの

     だけ。だ、けでいた

   衝撃。とまどい

      その、倦んだ

    あやうい不在

     ふ。ふたりで

   恥らいが散って


   あれ?…えっ。あ、あっ

      二週間後には

    あやうく、…ね

     その奇蹟の、さ

   あー…んっ。の、あ、あの

      出逢えた奇蹟

    溶けた?…とろろって

     出逢えた奇蹟

   あんっ…あっ。ちょ。え、あ

      その奇蹟の、さ

    あやうく、…ね

     二週間後には

   あれ?…えっ。んー…んとっ


   恥らいが散って

      その奇蹟の、さ

    あやうい不在

     二週間後には

   衝撃。とまどい

      出逢えた奇蹟

    空白。ただの

     出逢えた奇蹟

   髮の毛がふれ

      二週間後には

    色のない翳り

     その奇蹟の、さ

   あわて、返り見


   呆気にとられ

      その、倦んだ

    瞳孔に翳り

     ふ。ふたりで

   かすかに、ぶつかり

      だけ。だ、けでいた

    忘れたように

     だけ。だ、けでいた

   いらだった聲

      ふ。ふたりで

    生きているさえ

     その、倦んだ

   瑠璃は電話に


   まばたき。コーヒーの香り

      もう、さ、なんか、さ

    その曖昧に

     倦み、膿。倦み

   步き、ののしり、聲をひそめて

      爛れ。空気が

    気付かない刹那に

     爛れ。空気が

   步み。なに?背後。だれ?

      倦み、膿。倦み

    見つめていたことさえ

     もう、さ、なんか、さ

   後ろ向き。温度。窓ごし


   煙り。煙草は。どこに?

      神経。たっ

    体液の温度も知っているように

     いたっ。た、た、

   その並び。綺羅。席に着く前

      なんか。なに?こころ

    肌の匂いさえ知ってるように

     なんか。なに?こころ

   映画館のうえ。窓際で

      いたっ。た、た、

    まるで、すでに

     神経。たっ

   道玄坂。夏。光り


   いま、ぼくたちは

      傷み。んまっ

    ふいに、いきなり

     いたっ。た、た、

   嗅いだ匂いを

      やばっ。なぜ?なんか

    意識を飛ばした

     やばっ。なぜ?なんか

   その、ふれた背中を

      いとぅあっ。だづ、った、

    時に、あなたは

     傷み。んまっ

   忘れちゃおうか?


   その、街路樹の葉は

      退屈なとき

    受け入れおわっていたかのように

     つく。咬み

   窓越しの綠りを

      咬みつく。ふり

    肌さえゆるしていたかのように

     咬みつく。ふり

   その、午前のカフェを

      つく。つく。つつつく

    まるで、すでに

     退屈なとき

   笑いでもすれば?


   いま、ぼくたちは

      その、倦んだ

    瞳孔をひらき

     ふたりでいた

   莫迦げた偶然を

      ふたりだけでいた

    茫然とした

     ふたりだけでいた

   その、間抜けな出逢いを

      ふたりでいた

    時に、あなたは

     その、倦んだ

   どう解釈すれば?

思わせぶりに、あえてわたしはクィン?フィン?そのかの女にほほ笑みかけてやり、それはたとえばクィン?フィン?かの女が見蕩れてた、と、ときにそのひらかれた瞳孔の茫然自失に、ふいにわれに返った須臾を持ってば、「なんで?」

「どうしてもだよ」

そのクィン?フィン?かの女ははにかむ。わたしはあるいは、あざけるように笑んでいた。「なんで?」

そう繰り返すわたしの聲にクィン?フィン?かの女はいちどは聞こえないふりにやりすごうそとして、「なんで?」

「いい匂い、するね?」

「それだけ?」

沙羅。もはや沙羅はふと窓のほうに立って仕舞って、だから後ろ向きに見せていたのはその背中、そして臀部、ふともも、それら、そこにさらされるまま放置された素肌。「なんで?」

「鼻が、かたちが、いい、…ね?」

「それだけ?」

褐色のうつくしくどこか冷酷な…つまり、取りつく島もないほどにただ突き放した、そんな、いずれにせよその半分。そして「なんで?」

「まだ?眼…のかたち、とか?睫毛も、なに?…いい、ね?」

「それだけ?」

しかも挑発的な?だから、愚弄と単なる同一語にすぎなくなった言葉、挑発。にもかかわらず「なんで?」

「まだなの?」

「もう?」

「ちがう、よ。顎?…いい。匂いも、いい。…ね?」

「それだけ?」

あまりにも無慚な破綻。その野生のうつくしさの。だから、半身の爛れ。いやがうえにも、もはや見せびらかすようにもそこに悲惨をだけ描いた、「なんで?」

「頸。…でも、いちばん、すきだ、よ。…ね?」

「それだけ?」

引き攣りと萎縮と變形と變色の肌。沙羅は「なんで?」

「胸の…なに?へこんだ、…ね?」

「なに?…鳩尾ち?」

「なに?」

「鳩尾ち…それだけ?」












Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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