流波 rūpa ……詩と小説121・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈28
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
泣きはしなかったと
そう聞いた。あなた
淚さえこぼさなかったと
そう聞いた。かの女
あなたを慰問した、それは
同級生。眼鏡の女
悲しみなど、なにも
怒りさえ、なにも
感じられずに、その喪失を
本当にさえ想えず、あなた
笑いかけさえしてくれた、と
そう聞いた。かの女
耐えられない。もう、淚
ふれさすまま、眼鏡の女
くもり。白濁。なにも
かける言葉などなにも、と、その楓。喪のあけた、その「赦すって、そういう、さ」楓。あざやかな、それは「なれない。から、…さ。そんな気に、」…ね?「おれ、」…ね?「なれない…から、」…ね?「…さ、」ほほ笑み。ただふるえていたその「お前を、」…ね?「さ。…だから、」…ね?「おれ、」目じり。それは春。「死ぬほど嫌い」とささやき、楓。十五歳の?楓。その楓。ひとりっこになった。もう、妹は、…だれ?消え失せたから。…だれそれ?死んで仕舞った。…なぜ?その喪。数日の、楓の喪のやすみの明けた、朝。校庭。樹木の翳り。ふとたちどまった、だから木漏れ日のしたで。櫻。数日やや目を伏せた楓。櫻それら、枝の群れ。赤裸々に。その肌に息吹く体温さえ赤裸々に
出血多量なんだって
まじ?
感じらた、そんな錯覚のあった
血、いっぱい出て
燒死じゃなくて?
楓。すぐ近く。だから
出血多量なんだって
まじ?
至近に、わたしを、そのまなざし。だからあやうくふれあいそうになる距離に見上げ、そして虹彩。わたしの虹彩。楓を見つめ、かれだけを見つめて、その虹彩。綺羅?まばたきもしなかった綺羅?わたしの、もうまばたきさえその眼。楓。その眼。すこしだけ下。ほるえ。ほんのすこし、もうすこし、眼には届かない痙攣?そこ。右だけ。頬?だからふるえ。頬?…の、痙攣?終わりかけ。…なぜ?と。と惑う。なぜ、そんなふうに?と、…なぜ?なぜ、わたしは見つら、そこを?わからなかった。そこけを見つら、見つめているのか。わからなかった。わたしは、もはや眼を逸らしているにもひとしくな。…なに?なぜ?と。くちびる。思わずひらいた、それは、そして聲。言葉。喉に、すでに、もう「笑ってよ」ささわたしはささやき、「…ね?」聞いた。その「せめて笑っててよ。…おれ、」聲。…ね?わたしの。…だから、
体液殘ってたんだって
まじ?
ね?むしろ、「おれ、笑ってるお前のほうが、たぶん、好き、かな?」…強がり?
血、いっぱい出て
砂濱で?
せせらわらい、あざけたような、その
出血多量なんだって
まじ?
…こわかったから?ただひたすらにあかるいだけの聲。初夏だから、櫻は武骨。もはや隠しもせずに。ただ綠り。赤裸々に。見上げなくとも、謂われなくとも、頭の上には容赦ない綠り。健常。健康。氾濫。健全。…光合成?厖大な。…酸素を吐き、吐き、吐き散らして?酸素、謂く、
死者を弔う言葉なら
知っている。厖大に
死者たち。それらは
厖大だから
かれら、失ったひとらに
知っている。捨てるほどに
慰めの言葉。それらは
だれもがすでに口にしたから
死者をなつかしむ言葉なら
知っている。あきれるくらい
記憶の群れ。それらは
ふきこぼれるから
かれら、亡くしたひとらに
知っている。悩ましいくらいに
寄り添う言葉。それらは
すでにだれもにありふれていたから
かれら、殘されたひとらに
知っている。月並みに
諦めの言葉。惜別の言葉
だれもに親しい定型句。でも
知らないね。なにも
惨殺の悲惨に。なにも
弔いのそれも。諦めも
慰めもなにも、言葉など
知らないね。だれも
思わず絶句。しかも
わななく。むなしい、むなしい唇
言葉の兆しは、なにもなく
せめて、なにかを
ささやこうと
つぶやこうと
ただ、ひとことでも
途切れるとしても
つぶやこうと
ささやこうと
せめて、なにかを
言葉の兆しは、なにもなく
わななく。むなしい、むなしい唇
思わず絶句。しかも
知らないね。だれも
慰めもなにも、言葉など
弔いのそれ。諦めも
惨殺の悲惨に。なにも
知らないね。なにも
だれもに親しい定型句。でも
諦めの言葉。惜別の言葉
知っている。月並みに
かれら、殘されたひとらに
すでにだれもにありふれていたから
寄り添う言葉。それらは
知っている。悩ましいくらいに
かれら、亡くしたひとらに
ふきこぼれるから
記憶の群れ。それらは
知っている。あきれるくらい
死者をなつかしむ言葉なら
だれもがすでに口にしたから
慰めの言葉。それらは
知っている。捨てるほどに
かれら、失ったひとらに
厖大だから
死者たち。それらは
知っている。厖大に
死者を弔う言葉なら
すなわち語ることのできるもの。それはそこに見い出されていたもの。あるいは想起するまなざしに見い出されていたもの。あるいは未生を思うまなざしに見い出されていたもの。想起の不可能なものについて語るすべなどあり得ない、かさねて謂く、
死者を弔う言葉なら
知ってる
なぜ?
あなたは。…楓
知っている。厖大に
見ていたんだ
ささやいていた。耳に
見ていたんだ
死者たち。それらは
あなたは。…楓
聲。ななめうしろに
知ってる
厖大だから
かれら、失ったひとらに
知ってる
罪もない子
かれは。…楓
知っている。捨てるほどに
見ていたんだ
あどけない子
見ていたんだ
慰めの言葉。それらは
かれは。…楓
まだ、おさない子
知ってる
だれもがすでに口にしたから
死者をなつかしむ言葉なら
屠殺の現場
なぜ?
口を覆って
知っている。あきれるくらい
その明け方に
ささやいていた。耳に
その明け方に
記憶の群れ。それらは
口を覆って
だれ?無数に
屠殺の現場
ふきこぼれるから
かれら、亡くしたひとらに
破壊の現場
散漫な聲
眼を見張って
知っている。悩ましいくらいに
まだ昏いきざし
聲のちらばり
まだ昏いきざし
寄り添う言葉。それらは
眼を見張って
稀薄な聲
破壊の現場
すでにだれもにありふれていたから
かれら、殘されたひとらに
言葉もないまま
なぜ?
悲鳴もないまま
知っている。月並みに
叫びもないまま
その、まったき他人の
叫びもないまま
諦めの言葉。惜別の言葉
悲鳴もないまま
他人の死
言葉もないまま
だれもに親しい定型句。でも
知らないね。なにも
知ってる
そこで、どうして歎くことができるのだろう?
そう言ったから
惨殺の悲惨に。なにも
みんながそう言い
そこで、どうして憐れむことができるのだろう?
みんながそう言い
弔いのそれも。諦めも
そう言ったから
不安だった
知ってる
慰めもなにも、言葉など
知らないね。だれも
抉られた
男の聲?
ひらいたままの口
思わず絶句。しかも
眼。目。右の
女の聲?
眼。目。右の
わななく。むなしい、むなしい唇
ひらいたままの口
忘れた
抉られた
言葉の兆しは、なにもなく
せめて、なにかを
唇に血
年よりの?
ひらいた股
ささやこうと
唾液?体液。絞める
若い奴?
唾液?体液。絞める
つぶやこうと
ひらいた股
忘れた
唇に血
ただ、ひとことでも
途切れるとしても
股。ふともも
ささやきとして
失禁?体液。のけぞって
つぶやこうと
流れ出すもの
記憶された聲
流れ出すもの
ささやこうと
失禁?体液。のけぞって
その、ひそめられた聲
股。ふともも
せめて、なにかを
言葉の兆しは、なにもなく
言葉もないまま
その、ひそめられた聲
悲鳴もないまま
わななく。むなしい、むなしい唇
叫びもないまま
記憶された聲
叫びもないまま
思わず絶句。しかも
悲鳴もないまま
ささやきとして
言葉もないまま
知らないね。だれも
慰めもなにも、言葉など
知ってる
忘れた
あなたは。…楓
弔いのそれ。諦めも
見ていたんだ
若い奴?
見ていたんだ
惨殺の悲惨に。なにも
あなたは。…楓
年よりの?
知ってる
知らないね。なにも
だれもに親しい定型句。でも
知ってる
忘れた
かれは。…楓
諦めの言葉。惜別の言葉
見ていたんだ
女の聲?
見ていたんだ
知っている。月並みに
かれは。…楓
男の聲?
知ってる
かれら、殘されたひとらに
すでにだれもにありふれていたから
返り見た
不安だった
ほほ笑んだ目
寄り添う言葉。それらは
その目
そこで、どうして憐れむことができるのだろう?
その目
知っている。悩ましいくらいに
ふと、ほほ笑んだ目
そこで、どうして歎くことができるのだろう?
返り見た
かれら、亡くしたひとらに
ふきこぼれるから
…ね?と
他人の死
まなざしを
記憶の群れ。それらは
そんな、やさしい
その、まったき他人の
そんな、やさしい
知っている。あきれるくらい
まなざしを
なぜ?
…ね?と
死者をなつかしむ言葉なら
だれもがすでに口にしたから
言葉もないまま
稀薄な聲
朝のはじまり
慰めの言葉。それらは
叫びもないまま
聲のちらばり
ひとり、照らされた
知っている。捨てるほどに
悲鳴もないまま
散漫な聲
妹の部屋に
かれら、失ったひとらに
厖大だから
なにも語りはしなかった
だれ?無数に
亡骸とともに
死者たち。それらは
沈黙したまま
ささやいていた。耳に
見なかった
知っている。厖大に
だれにも語れはしなかった
なぜ?
窓の向こうの曙光は
死者を弔う言葉なら
知っている。沙羅。その眼にクィン?フィン?かの女を見るときの軽蔑。隠す気もない軽蔑。赤裸々な。知っている。クィン?フィン?かの女は見ない。その沙羅の容赦ない軽蔑をも。じぶんひとりにだけそこにそそがれていた軽蔑をも。クィン?フィン?かの女はそもそも、沙羅のまなざしなど無視していたから。時に、ふいに倦怠のなかに魔が射したかの須臾に、沙羅に話しかける以外には。知っている。沙羅。その眼にクィン?フィン?かの女を見るときの怯え。かくしようもない怯え。赤裸々な。たぶん、沙羅の眼にはあるいはクィン?フィン?かの女は階層の違う女なのかも知れなかった。クィン?フィン?かの女は沙羅を見下しさえもしない。クィン?フィン?かの女はそもそも、沙羅の存在など無視していたから。
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