流波 rūpa ……詩と小説120・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈27





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   た易かった。そこで

   その町に生きて

   生きていって

   生き延びてしまうこと


   おなじこと

   なにもしないのと

   勝手に女は

   纏わりつくから


   た易かった。そこで

   憎まれないで

   むしろ愛されて

   生き延びてしまうこと


   懐疑。嫉妬

   故意の見下しと

   シカト。排除した

   怒りのある目。だからその聲。「匂い、…ね?嗅いじゃう」そう云った。その女は「むしろ、…ね?嗅い」いつ?十七歳。わたしが、…何歳?たぶん、慥かなのは、わたしが歌舞伎町にたどりついてほんの数日か、数週間かののち、そんなころ。その時、「なんで?」

「だって、…さ」

ふいに、顏。近づけていた不用心なその顏の距離。いきなり遠ざけ、のけぞるように笑い。鼻に。その鼻。丸い、低い、笑い聲。息。それら、みだれた…ね?「それしか、さ」ね、ね、ね、「できないじゃん」

…ね?と。それは二度目。二度目の来店。だから、ホストクラブの店の中で、…何歳?

おれ?

ね、…本当は…「来年還暦。…おれ」あえて「意外でしょ?」ひとりだけ呼んだわたしを、しかも向かいあわせの丸椅子のほうに座らせて、——そっちのほうが、すきなの。

   ね、ね、ね

      飛んだ、…よ。ね?

なんで?

   近づかないで。それ以上

      いま、ね?

背筋、そっちのほうが

   ね、ね、ね、

      くちびるのさきに、唾液

きれいになるから。拒否。すでにわたしにいちどふれることを拒否されていた、だからその、行き場所のないゆびさき。だから女は、——なんで?…だって、

   ね、ね、ね、

      散った、…よ。ね?

穢いじゃん

   見ないで。もう二度と

      いま、ね?

わたしが?故意に

   ね、ね、ね、

      その口臭

狎れ切った笑みを作って、その四十近い女。女は身をときにもじもじさせて、…なに?ことさらに…漏らしたの?莫迦。わたしの顏の至近に——やばいな…なんか、さ…

   ね、ね、ね、

      壊れた、…よ。ね?

なに?

   心臓、とめて。それ以上

      いま、その笑顏に

自分が

   息もしないで

      ファンデーションの壁

本気になるの、もう、見え透いてるこの感じがなんか、や。顔を近づけ、や。や。や。そしてや。やなの。や。——ね?…なんで

?だから、なにが?

なんで、なんで、さ。なんでこんな、…その鼻に「いい匂い、するの?」思い切り空気を吸い込んだ。女は、「なんで?」…ね?と、なんで、なんで、さ。「なんで?」ささやく。わたしは「眞沙夜ってむちゃくちゃ、いい匂いするじゃん」むしろ、「…じゃん、じゃん、じゃん、」冷淡なほどに、「…ね?」

   雨はせめて

      壊れていたよ

笑み。ただ、やさしい

   せめてあたたかく

      その昏い空

笑み。もはや名前さえ忘れているその女はやがて、しかもささやく。「興奮した?」

「なんで?」

「わたしは、もう、ね?」と。そしてひとりすけべったらしい眼差しを意図してつくって、謂く、

   いちど必ずまばたいて

   その唇を

   ようやくひらく

   なぜ?…いつも、なぜ?


   ささやく聲はなめらかで

   ふと喉を

   ゆびさきにさする

   なぜ?…息つぎに、なぜ?


   稀れに片目だけ閉じかけて

   すぐに瞼を

   閉じずにひらく

   なぜ?…時に、なぜ?


   笑ってすぐ、息を飲んで

   静止。ふと、息を

   深く吐く

   なぜ?…いつも、なぜ?


   不可解な目、と

   なぜ?…思った。それ

   不安を咬んだ、その味を匂わせ

   なぜ?…思った。それ


   しかも不安の兆しもなくて

   なぜ?…思った。それ

   違和感のある目、と

   なぜ?…いくたびも、それ


   夜、ひとり泣く、その姿を

   想いさえし、ふと笑んだ

   朝、尻をかく、その寝起きを

   想いついては、あざ笑った


   神経質に

   かの女は笑って

   明るい聲で

   その聲を散らし


   ひびかせ、わななき

   その、眉を

   その睫毛を

   わななき、まばたき


   その聲を散らし

   明るい聲で

   かの女は笑って

   神経質に


   想いついては、あざ笑った

   朝、尻をかく、その寝起きを

   想いさえし、ふと笑んだ

   夜、ひとり泣く、その姿を


   なぜ?…いくたびも、それ

   違和感のある目、と

   なぜ?…思った。それ

   しかも不安の兆しもなくて


   なぜ?…思った。それ

   不安を咬んだ、その味を匂わせ

   なぜ?…思った。それ

   不可解な目、と


   なぜ?…いつも、なぜ?

   閉じずにひらく

   すぐに瞼を

   稀れに片目だけ閉じかけて


   なぜ?…息つぎに、なぜ?

   ゆびさきにさする

   ふと喉を

   ささやく聲はなめらかで


   なぜ?…いつも、なぜ?

   ようやくひらく

   その唇を

   いちど必ずまばたいて

すなわちその女。大柄な女。年増の女。しかもそれを矜持した。恥ずかしげもなく、…ね?女は、さ。三十超えてから、さ。なに?…楽器になるよ。いい聲で鳴くよ。その言葉。たぶん、だれか、年上の?…年下の?どこかに男に耳打ちされたもの。しかも、なんの共感もないパクリ。気付かない、女は。そうささやいた聲。そしてくちびるも、かれの物眞似になっていた事実に、かさねて謂く、

   いちど必ずまばたいて

      退屈だった

    …してないの?…ね?

     どうしても

   その唇を

      なぜ?

    なに?

     なぜ?

   ようやくひらく

      どうしても

    …どこにも、タトゥー

     退屈だった

   なぜ?…いつも、なぜ?


   ささやく聲はなめらかで

      飽きていた

    その女は

     もう、なにもかも

   ふと喉を

      なぜ?

    そして笑った

     なぜ?

   ゆびさきにさする

      もう、なにもかも

    好きなの?

     飽きていた

   なぜ?…息つぎに、なぜ?


   稀れに片目だけ閉じかけて

      すべて

    …なに?

     それら

   すぐに瞼を

      目にうつっていたもの

    タトゥー。好き?

      その目にうつされていたもの

   閉じずにひらく

      それら

    …莫迦

     すべて

   なぜ?…時に、なぜ?


   笑ってすぐ、息を飲んで

      すべて

    その女は

     それら

   静止。ふと、息を

      ゆびさきにふれていたもの

    鼻に笑った

     そのゆびさきにふれられていたもの

   深く吐く

      それら

    …しないの?

     すべて

   なぜ?…いつも、なぜ?


   不可解な目、と

      すべて

    …似合うかも?…ね?

     それら

   なぜ?…思った。それ

      舌に感じていたもの

    なに?

     舌に感じられていたもの

   不安を咬んだ、その味を匂わせ

      それら

    …鳩尾に、タトゥー

     すべて

   なぜ?…思った。それ


   しかも不安の兆しもなくて

      陳腐だった

    その女は

     ただ、ひたすらに

   なぜ?…思った。それ

      なぜ?

    かたむいて笑った

     なぜ?

   違和感のある目、と

      ただ、ひたすらに

    好きなの?…花

     陳腐だった

   なぜ?…いくたびも、それ


   夜、ひとり泣く、その姿を

      うんざりしていた

    …花は?

     気が遠くなるほど

   想いさえし、ふと笑んだ

      なぜ?

    花?…なに?

     なぜ?

   朝、尻をかく、その寝起きを

      気が遠くなるほど

    …ブーゲンビリア

     うんざりしていた

   想いついては、あざ笑った


   神経質に

      すべて

    …似合うかも?…ね?

     それら

   かの女は笑って

      こころにきざしていたもの

    なに?

     そのこころにきざされていたもの

   明るい聲で

      それら

    …くびすじに、タトゥー

     すべて

   その聲を散らし


   ひびかせ、わななき

      生きていられた

    …くびすじに、タトゥー

     死に得るほどに

   その、眉を

      求めてないから

    なに?

     求めてないから

   その睫毛を

      死に得るほどに

    …似合うかも?…ね?

     生きていられた

   わななき、まばたき


   その聲を散らし

      辿り着く場所など

    …ブーゲンビリア

     生きていられた

   明るい聲で

      さがしてないから

    花?…なに?

     さがしてないから

   かの女は笑って

      生きていられた

    …花は?

     辿り着く場所など

   神経質に


   想いついては、あざ笑った

      それら

    好きなの?…花

     すべて

   朝、尻をかく、その寝起きを

      そのこころにきざされていたもの

    かたむいて笑った

     こころにきざしていたもの

   想いさえし、ふと笑んだ

      すべて

    その女は

     それら

   夜、ひとり泣く、その姿を


   なぜ?…いくたびも、それ

      気が遠くなるほど

    …鳩尾に、タトゥー

     うんざりしていた

   違和感のある目、と

      なぜ?

    なに?

     なぜ?

   なぜ?…思った。それ

      うんざりしていた

    …似合うかも?…ね?

     気が遠くなるほど

   しかも不安の兆しもなくて


   なぜ?…思った。それ

      ただ、ひたすらに

    …しないの?

     陳腐だった

   不安を咬んだ、その味を匂わせ

      なぜ?

    鼻に笑った

     なぜ?

   なぜ?…思った。それ

      陳腐だった

    その女は

     ただ、ひたすらに

   不可解な目、と


   なぜ?…いつも、なぜ?

      それら

    充血した目

     すべて

   深く吐く

      舌に感じられていたもの

    疾患?一滴さえ

     舌に感じていたもの

   静止。ふと、息を

      すべて

    アルコールなど

     それら

   笑ってすぐ、息を飲んで


   なぜ?…いつも、なぜ?

      それら

    …莫迦

     すべて

   閉じずにひらく

      そのゆびさきにふれられていたもの

    タトゥー。好き?

     ゆびさきにふれていたもの

   すぐに瞼を

      すべて

    …なに?

     それら

   稀れに片目だけ閉じかけて


   なぜ?…息つぎに、なぜ?

      それら

    好きなの?

     すべて

   ゆびさきにさする

      その目にうつされていたもの

    そして笑った

     目にうつっていたもの

   ふと喉を

      すべて

    その女は

     それら

   ささやく聲はなめらかで


   なぜ?…いつも、なぜ?

      もう、なにもかも

    …どこにも、タトゥー

     飽きていた

   ようやくひらく

      なぜ?

    なに?

     なぜ?

   その唇を

      飽きていた

    …してないの?…ね?

     もう、なにもかも

   いちど必ずまばたいて

沙羅がささやく。ぃんにゃあてぇばっ…と?たとえば「あした、死にます」とでも?そのクィン?フィン?かの女のふいのささやき聲に答えて。たとえばクィン?フィン?かの女がわたしとの行爲。倦んで、どちらともなく飽きて、もはやかさねられただけでまさぐりもしないたとえば腕。そのおもささえも胸に忘れかけたころに。「ダナンのひとじゃ、ないよ」クィン?フィン?かの女が「…この子」ふとわたしにささやく。日本語で。だから、そのささやきがただわたしのためだけのものだということがわかる。見ていた。わたしは、壁。たとえば昼ちかい午後、その深い陽光に、いったいなんの反映なのか正体をはあかそうとしない陽炎。その綺羅めくとも言い切れない、あいまいな光りのゆらぎ。それを、ただそれだけをまなざしは見ていた。沙羅がささやく。ぁんばぁすおんにぃい…と?たとえば「それはあなたのせいです」とでも?そのクィン?フィン?かの女に、だからその問いかけに答えた音聲。かの女たちふたりの言語。だから、沙羅はその言語を実際に、正確に話していたということになる。クィン?フィン?かの女がわたしにだけ噓をついていたのでなければ。「雅雪さんは、ね?」

「なに?」

「知らないほうがいいよ。この子のこと」その、いきなりの深い歎きの聲に、わたしは唐突に笑い聲をたてて仕舞う。なぜ?クィン?フィン?かの女が、わたしの問いかけてもいない質問に、しかも、答えなかったから。曖昧な、もはやだれに気をつかったのかもわからないごまかし。たとえばそれは、…温度。まだ行爲のはじめられしない、肌の温度。部屋の眞ん中あたりに、自分から投げ込んだわたしの腕のなかで。あるいは沙羅。そのくちびるがわたしの後頭部の翳りにささやく。とおーぃんにゃっとーはぁあー…と?たとえば「花々はもう、すべて朽ち果てました」とでも?そのクィン?フィン?かの女に、そして、だからややあってそのクィン?フィン?かの女が、「でもね、この子、…」と、わたしに。ベッドのうえに、なぜかふいにじぶんのゆび先にじぶんの喉のおうとつのかたちをまさぐって…なぜ?見せながら、…なぜ?「十歳くらいに、」そして唐突に笑いくずれた。ひとりで。沙羅もわたしをおきざりにして、だからクィン?フィン?かの女はもはやその先をつづけようとはしない。











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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