流波 rūpa ……詩と小説119・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈26
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
すすり泣き、さわぎ
泣き叫べばいい
どうせ、それだけが
あなたの世界
恐れ。まなざしに
不安。鼻孔に
こめかみ。おののき
咽仏に傷み
笑い、もはやわななき
痙攣。ただ、それのみ
どうせ、破滅が
あなたの未来
疑い。ゆびさきに
屈辱。舌に
血管。熱い
爛れる傷み。だから「なんなの?この冷え切った空気」と、だから部屋に入って來るなりその九鬼蘭は笑ったのだが、むしろ≪流沙≫。まだ≪流沙≫たり得る可能性などわたしにさえも見い出されてはいなかったその≪流沙≫。かれ。≪流沙≫の耳が聴き取ったのはその聲の触感。ないしは味覚?だから鼻にかかった聲。その甘さ…のやわらかさ…の、甘み?そのあまっ≪流沙≫。かれの耳に浸透していったのはそんな味覚のほうだったに違いない。≪流沙≫。その想い。だから≪流沙≫。知っていた。もううすうすとは。かれがひそかに九鬼蘭知っていた。すでに
悲鳴。その
ほほ笑み?
赤裸々に。かれに
聞きとられなかった
承認?
思いを寄せていたことは、もう
悲鳴。いちども
嫌悪?
だれもが…よ、ね?
唇にこぼれなど
曖昧な、ただ
知っていた。だから…だ、よ、
ひびきなど
あいまいな、その
ね?楓も。んだ、よ、ね、
しなかったから
唇のひらき
と?いちいち聲に告白されはしなくとも、その——あきらかな。なに?眼差しの色ないし、なぜ?——無防備な。すがたを追ういつ?それともない——色彩。だれ?虹彩。その曖昧な…やめて、と?追尾に、むしろやだやだやだ、と?喉にふれた言葉よりもはるかにささけば?わたしがやだとそれでもはっきりとその耳もとにささやかっ。…れは?≪流沙≫は?…ただ鮮明だった。もう「お前のせいだよ」
こともなげに云った。楓。そしてその楓が。笑っていた。すでに。聲もなく。笑い、「…わかる?」だから
なに、怯えてんの?
あせってんの?
それはわたしの
なになに?なになに?
ひとりで、なんか
部屋のなかだった。だからビ
なに、奥歯咬んでんの?
不安なの?…お前
ビラ・ビアンカ。北向きの
なになに?なになに?
追い詰められてる?
神宮の森のこちら。売れっ子の、…といっても、その時にはまだ一曲のヒットだけの輝き。あなたはが、あるというだけにすぎなかったが、輝き。は。あなたは星。わたしがは?≪あす・ゆめ≫。そのふたりの顏見知りであるということを知った…まじだ。ま、ま、ま、大場葉子は、ぜひ、…まじだ。だ、だ、だ、会いたいと、仮りにここでそう名づ「ひとめひとめ。ひとめでいいからさ、ひとめひとめ。ひとめでオッケーだからさ。ひと」倦怠?いつもはなににも倦怠?退屈げでなににも倦怠?うっとうしげで、どんなときにも倦怠?緩慢にうごくことをこそ葉子。ひとめひとめ。エレガントという意味だと大場ひとめひとめ。すくなくとも葉子。自分でだけはそう知りぬいていた葉子。何人?お前。…の、それは始めて見せた…カラコン。ブルー。性急な顏つきだった。あやうく空より青いの。だからブルー。舌のほとんどまんなかを、…なぜ?いつも咬みそうになる、る、る、それ。葉子以前には聞いたことのなかった発聲。ひとめひと。目はもう、ひとっ銀河中央部の砕け散る星々の綺羅。笑った。わたしは、「なんで?」おまえ意外にみーはー?
好き、なん、だっ
あの聲が
「なに?…ん?」
せつないから。さっすき、
聲が
「なんで、」ん?ん?ん?「あんなの、そんなに」ん?ん?ん?「好きなの?」葉子。かの女。経営者。たしか美容院。三十を越えるか越えないか。下半身だけのボッティチェリ的豊満。その…ルーベンスにはまではとても到らない。葉子は人種的違い?蘭に、だから初対面。やんっ。たぶんもっとも不本意なかたちでやんっ。その本意をとげさせてもらってやん。開かれた太もも。股。失禁?…ただの翳り?もう、もはや泣くことさえできずに、その床の上。その床板。木目。白濁に消滅。葉子そのふともものかたむき。ながれた翳り。色彩たち。それらの生滅。なぜ?それを不穏、と?葉子は股をひろげ、ひろげつづけたまま口をあけひろげた。強姦。…とは、なに?すくなくとも強制された同意。あくまで強制されねば同意されることのなかった同意。なら、それは単なる強制。たしかになに?そうだった。それは、その日の性交。かならずしも、…なぜ?欲望もなかった…だれ?性交。…笑い?
あ。…と。それ
屈辱のあるわらっ
ひらかれた口蓋
笑い聲だけ。ふいの
お。…と。それ
拒絶。それには
すぼめられた唇
腕。暴力的にそれには羽交い絞めし、そしてふいのそ抵抗。それには言葉。あらがうまなざし。など、なにも、腕と汗。濡れた…汗。…に、ね?髮…ね?それらに対する制裁をささやく、言葉。その耳元の暗示。沈められたい?せせら笑った。蘭は。だからその浮かびたい?蘭に、だからお目当ての片方。海、好きか?…お前。蘭に、恐怖のせい?それほどの抵抗をは、ただし、最初から…ね?
痛いの?
なぜ?
は?
なに?
叫ばないの?
東京湾って、
痛いの?
なぜ?
鮫いるか?示さなかった。そんなことをいきなしでっか?いきな蘭がいきなしでっか?いきな冗談のように?しでかすとなど想いつきも、…やっべぇこいつ。つ、つ、知りも、やっべぇぬれて、て、て、考えてみさえも、ど淫乱?糞なかった。まさか。なにも。そんな。わたしと≪流沙≫。だから思わず呆気にとられて…あー…
ん。…と。それ
なに?
思い出したくちびる
え?ふたりの行爲を
い。…と。それ
まるで、
喉。発話しかけた
パロディじみた。見守るしかなく?…いや、お芝居じみた。見守るともなく紛い物じみた、ほ。放置しておくしか…あー…
なに?…いま
生きてるの?そこで
なに?
見てるのは、なに?
まだ、生きてたの?
は?なかった。楓はすでに九鬼を放ったらかしにしていた。部屋に來るなり、葉子に手を出し始める躁の蘭。だから、ときには鬱が?鬱の蘭。勝手に避妊具もなくそこに笑っていたのは蘭。ことを澄まし躁の蘭。それは蘭。九鬼蘭。はーはーはっわたしの部屋のばーばーばっ白い絨毯の上のざーざーざっ九鬼。
だれ?
もういちど
息、吹きかけたの
思ったのだった。女の体で
だれ?
試そうと。九鬼は。たぶん、だから「ごめんなぁー」慰めたり、「そういうつもりじゃないんだけさぁー」さすったり、「水のめ。水。…なっ」なにかしたりしてやったりしながらも、「な、飲めよ。の、な、な、」もう、楓のほうしか見ていなかった。わたし。それは、だからそのまなざしの隅に。…醒めた?九鬼は二度目の最初。指の挿入の直後にさいっ途中やめにした。立って、出て、不意に出て行った。ひとり。九鬼。どこ?かれは、そのどこへ?行き先もつげずになにしに?ひとり、鼻に莫迦。かすかなメロディ。その背中。ハミング。ゆら。パンツをゆらゆら履きなおしゆらっながら。
なぜ?
楓はただ、
のけぞったの
うつむいていた。壁に
なぜ?
もたれて。メモ。その愛用の大学ノートに。おなじく愛用の、…フェチ?鉛筆で。石炭フェチ?知れていた。かれ。楓が、つぎの曲のためのアイデアノートをとっているにらしいことは。知れていた。九鬼がもとからあんな人間なのだということも。成功がよりその傾向を煽ってはいつつも。楓。ことさらに、楓。そのゆびさきで押し付けた鉛筆。ノート。だからことさらな窪み。…蘭と葉子のせいではない。≪流沙≫。だからかれ。その沈黙。そのせ歌詞ではない。なに。な、な、メモは。なにを?≪流沙≫。かれは、作詞は九鬼。どこ?ど、ど、リード・ボーカル。かれの担当。どこに?≪流沙≫。かれは背後。九鬼の役割。事実、そうだったから。≪流沙≫。わたしの背後の窓際に、対旋律。そして、≪流沙≫。そこでなにを?あるいはハーモニー担当の泣きじゃくる?≪流沙≫。サブ・ボーカル。失意の≪流沙≫?失望の≪流沙≫?歯ぎしりを?≪流沙≫。そんな楓のほうに、…やべっなに?一方的に…なにこの聲。なに?シンガーとしての名声をなになになに?かっさらわれながら。…やべっ。謂く、美聲だ、と。しかし、…シルキー・ヴォイス。作曲者の…エンジェル・ヴォイス。楓のほうも、作曲家としての名聲を九鬼に奪われはじめるのに時間はそれほどかからなかった。カラオケでもなんでもいい。九鬼蘭以外のボーカルで聞く≪あす・ゆめ≫の楽曲にまったく魅力が感じられないことは、はじめてのオリコン一位。その一か月後にはすでに周知のものに放置。三十分ほどの。放置。九鬼。そして突然の九鬼。開かれたドア。気配。笑い聲。悩みも翳りもなにもないひびき。侵入。そしていきなりの「お前らなんか、ずうっとこんな、なんか寒かったわけ?」不愉快な発話に、「…だれのせいだと思ってる?」
楓。むしろやさしく笑んでやりながら、その楓は云った。その
あー…ねっ
え、え、えぐっ
聲にようやく、葉子は
ケツいたいかも
ぐ、ぐ、えどぅっ
ふいに
あー…ねっ
え、え、んばっ
橫向きになって、
酸素たりない
ぶふっ
ノイズ。軋む?ベッドの。しかし、まだなにも身に着けない肌。まあたらしいひっかき傷。…だらけ、の、その肌。白。赤み。赤。集中力の無い、色彩。それら散らばる、もう、なんのことやらわけのわからない、色彩。…を、だから曝して、葉子。ぷいっと?むこうをふいっと?向いていた。ふんっと?「なんか、勝手にみんな、さ。なんか楽しんじゃってんかなって、さ。そんな、さ。おれあくまでそういう乘りだったんだけど…なに?」
「ノックもなしに、…さ」と、それは楓。「いきなりだれか入ってきたとき、それでもたのしそうなままでしてられるのって、それ、たぶんお前だけでしょ?」笑った。
いまさらに、ふいに≪流沙≫。その≪流沙≫はわたしの背後に、あはっ。…と?笑った。そんな息をぶはっ。…と?鼻に吐き、わたしをくはっ、…と?ふいに落ちつかせたのだった。胸騒ぎを感じていた事実をようやく、わたしに気づかせながら、謂く、
振り返りなど
しない。ない。しない
なぜ?
そこに、あなたは
鼻息のひびき
しずかに息吹き
なにかを想い
なにかを感じ
知っているから
笑った?…に、似た息
息を吐いたね
女がね、ほら
のけぞったときに
喉をならして
口をあけたとき
しかもなにも叫ばなかったとき
返り見など
しない。ない。しない
なぜ?
そこに、あなたは
痰を切るひびき
前歯を咬み
舌に味わい
なにかの味
知っているから
しゃくりあげた?…に、似た息
ノイズをたてたね
女がね、ほら
引き攣けたときに
二の腕をふるわせ
右をねじったとき
その瞼を、でも、閉じなかったとき
盗み見など
しない。ない。しない
なぜ?
そこに、あなたは
飲む唾のひびき
噎せたように
喉をさすり
唾液にいたみ?
知っているから
せき込んだ?…に、似た息
息づかいをしたね
女がね、ほら
舌をだしたときに
自分の歯のうらをなめ
上唇をだけふるわせたとき
猶も口蓋をとじなかったとき
見たのだろうか?
背後に、あなたも
その綺羅の糸
口蓋の、唾液は
綺羅きらら
ららら
ききららら
らいら
ふるえていたの?
ね?ね?…ちがう?
ね?ね?…ちがう?
ふるえていたの?
らいら
ききららら
ららら
綺羅きらら
口蓋の、唾液は
それ。…ね?綺羅の糸
背後に、あなたも
見たのだろうか?
猶も口蓋をとじずにいたとき
上唇をだけふるわせたとき
自分の歯のうらをなめ
舌をだしたときに
女がね、ほら
息づかいをしたね
せき込んだ?…に、似た息
知っているから
唾液にいたみ?
喉をさすり
噎せたように
飲む唾のひびき
そこに、あなたは
なぜ?
しない。ない。しない
盗み見など
その瞼を、でも、閉じなかったとき
右をねじったとき
二の腕をふるわせ
引き攣けたときに
女がね、ほら
ノイズをたてたね
しゃくりあげた?…に、似た息
知っているから
なにかの味
舌に味わい
前歯を咬み
痰を切るひびき
そこに、あなたは
なぜ?
しない。ない。しない
返り見など
しかもなにも叫ばなかったとき
口をあけたとき
喉をならして
のけぞったときに
女がね、ほら
息を吐いたね
笑った?…に、似た息
知っているから
なにかを感じ
なにかを想い
しずかに息吹き
鼻息のひびき
そこに、あなたは
なぜ?
しない。ない。しない
振り返りなど
すなわちそれは午前。ややふかい午前。初夏だったろうか?かすかな熱気が窓のむこうに、そのむこうにだけ、…その綺羅に?見えていた。感じられていた。汗をかく、と、わたしは思った。だからその、網膜にだけ、かさねて謂く、
振り返りなど
はっきりと、耳に
恍惚。おびえ
ささやかれた、と
しない。ない。しない
そんな気がした
なぜ?
そんな気がした
なぜ?
ささやかれた、と
九鬼。かれは
はっきりと、耳に
そこに、あなたは
鼻息のひびき
たしかに、頸に
眼の前で
ほのめかされた、と
しずかに息吹き
そんな気がした
わたしと楓と
そんな気がした
なにかを想い
ほのめかされた、と
楓と≪流沙≫と
たしかに、頸に
なにかを感じ
知っているから
すでに、背骨に
その眼の前で
打ち込まれた、と
笑った?…に、似た息
そんな気がした
陶酔。不審
そんな気がした
息を吐いたね
打ち込まれた、と
九鬼。かれは
すでに、背骨に
女がね、ほら
のけぞったときに
愛さなかった
たぶん、そこに
一度だって
喉をならして
だれも、あなたを
自分の足が立っていることさえ
だれも、あなたを
口をあけたとき
一度だって
信じられずに?
愛さなかった
しかもなにも叫ばなかったとき
返り見など
愛されなかった
たぶん、そこに
一秒だって
しない。ない。しない
だれにも、あなたは
あしたも生きているのだとさえ
だれにも、あなたは
なぜ?
一秒だって
感じられずに?
愛されなかった
そこに、あなたは
痰を切るひびき
同じように、うつくしい
たぶん、そこに
つかないくらいに
前歯を咬み
見分けなど、もう
すべてが過失だったわけじゃないとさえ
見分けなど、もう
舌に味わい
つかないくらいに
想いきれずに?
同じように、うつくしい
なにかの味
知っているから
スペアのように、うつくしい
覚醒。いたみ
變わらないくらいに
しゃくりあげた?…に、似た息
並べば、もう
なぜ?
並べば、もう
ノイズをたてたね
變わらないくらいに
九鬼。かれは
スペアのように、うつくしい
女がね、ほら
引き攣けたときに
あれ?…おれ?…と
眼の前で
楓のとなりに
二の腕をふるわせ
思った。雑誌
確信。あやうさ
思った。雑誌
右をねじったとき
楓のとなりに
なぜ?かれは
あれ?…おれ?…と
その瞼を、でも、閉じなかったとき
盗み見など
あれ?…おれ?…と
しずかな風さえ
はじめて逢って
しない。ない。しない
思った。たぶん
叫び。絶叫。その耳に
思った。たぶん
なぜ?
はじめて逢って
木の葉の音さえ
あれ?…おれ?…と
そこに、あなたは
飲む唾のひびき
その九鬼は笑った
しずかな風さえ
そのわたしは笑った
噎せたように
その九鬼に
叫び。絶叫。その耳に
その九鬼に
喉をさすり
そのわたしは笑った
木の葉の音さえ
その九鬼は笑った
唾液にいたみ?
知っているから
そのわたしに
ひびきはすべて
そっくりだよね?
せき込んだ?…に、似た息
その九鬼は笑った
哄笑。わらい。その耳に
その九鬼は笑った
息づかいをしたね
そっくりだよね?
音響はすべて
そのわたしに
女がね、ほら
舌をだしたときに
知った。楓の
あざけわらうだけ
それはわたし。そして
自分の歯のうらをなめ
かれの好みを
なにもかにもが
かれの好みを
上唇をだけふるわせたとき
それはわたし。そして
ののしっただけ
知った。楓の
猶も口蓋をとじなかったとき
見たのだろうか?
それは九鬼。≪流沙≫の
ひびきはすべて
それはわたし。そして
背後に、あなたも
かれの好みを
せせらわいの
かれの好みを
その綺羅の糸
それはわたし。そして
だから、轟音
それは九鬼。≪流沙≫の
口蓋の、唾液は
綺羅きらら
それは九鬼。その
秘密にされた
なにを?そこで
ららら
戀のまなざし
ひびきのない聲
戀のまなざし
ききららら
なにを?そこで
だから、轟音
それは九鬼。その
らいら
ふるえていたの?
なにを愛したの?
耳が、吐く
同じように
ね?ね?…ちがう?
うつくしいふたり
血。醗酵した血を
うつくしいふたり
ね?ね?…ちがう?
同じように
耳が、吐く
なにを愛したの?
ふるえていたの?
らいら
だれを見ているの?
だから、轟音
見分けもつかない
ききららら
うつくしいふたり
ひびきのない聲
うつくしいふたり
ららら
見分けもつかない
秘密にされた
だれを見ているの?
綺羅きらら
口蓋の、唾液は
それはわたし。そして
だから、轟音
知った。かれらの
それ。…ね?綺羅の糸
かれの好みを
せせらわらいの
かれの好みを
背後に、あなたも
知った。かれらの
ひびきはすべて
それはわたし。そして
見たのだろうか?
猶も口蓋をとじずにいたとき
そっくりだよね?
ののしっただけ
そのわたしに
上唇をだけふるわせたとき
その九鬼は笑った
なにもかにもが
その九鬼は笑った
自分の歯のうらをなめ
そのわたしに
あざけわらうだけ
そっくりだよね?
舌をだしたときに
女がね、ほら
そのわたしは笑った
音響はすべて
その九鬼は笑った
息づかいをしたね
その九鬼に
哄笑。わらい。その耳に
その九鬼に
せき込んだ?…に、似た息
その九鬼は笑った
ひびきはすべて
そのわたしは笑った
知っているから
唾液にいたみ?
はじめて逢って
木の葉の音さえ
あれ?…おれ?…と
喉をさすり
思った。たぶん
叫び。絶叫。その耳に
思った。たぶん
噎せたように
あれ?…おれ?…と
しずかな風さえ
はじめて逢って
飲む唾のひびき
そこに、あなたは
楓のとなりに
なぜ?かれは
あれ?…おれ?…と
なぜ?
思った。雑誌
確信。あやうさ
思った。雑誌
しない。ない。しない
あれ?…おれ?…と
その眼の前で
楓のとなりに
盗み見など
その瞼を、でも、閉じなかったとき
變わらないくらいに
楓と≪流沙≫と
スペアのように、うつくしい
右をねじったとき
並べば、もう
わたしと楓と
並べば、もう
二の腕をふるわせ
スペアのように、うつくしい
眼の前で
變わらないくらいに
引き攣けたときに
女がね、ほら
つかないくらいに
九鬼。かれは
同じように、うつくしい
ノイズをたてたね
見分けなど、もう
なぜ?
見分けなど、もう
しゃくりあげた?…に、似た息
同じように、うつくしい
覚醒。いたみ
つかないくらいに
知っているから
なにかの味
一秒だって
想いきれずに?
愛されなかった
舌に味わい
だれにも、あなたは
すべてが過失だったわけじゃないとさえ
だれにも、あなたは
前歯を咬み
愛されなかった
たぶん、そこに
一秒だって
痰を切るひびき
そこに、あなたは
一度だって
感じられずに?
愛さなかった
なぜ?
だれも、あなたを
あしたも生きているのだとさえ
だれも、あなたを
しない。ない。しない
愛さなかった
たぶん、そこに
一度だって
返り見など
しかもなにも叫ばなかったとき
打ち込まれた、と
信じられずに?
すでに、背骨に
口をあけたとき
そんな気がした
自分の足が立っていることさえ
そんな気がした
喉をならして
すでに、背骨に
たぶん、そこに
打ち込まれた、と
のけぞったときに
女がね、ほら
ほのめかされた、と
九鬼。かれは
たしかに、頸に
息を吐いたね
そんな気がした
陶酔。不審
そんな気がした
笑った?…に、似た息
たしかに、頸に
その眼の前で
ほのめかされた、と
知っているから
なにかを感じ
ささやかれた、と
楓と≪流沙≫と
はっきりと、耳に
なにかを想い
そんな気がした
わたしと楓と
そんな気がした
しずかに息吹き
はっきりと、耳に
眼の前で
ささやかれた、と
鼻息のひびき
そこに、あなたは
だれでもよかった
九鬼。かれは
だれでも、ね。…ね、ね、ね?
なぜ?
あなたじゃなくて
なぜ?
あなたじゃなくて
しない。ない。しない
ね。…ね、ね、ね?
恍惚。おびえ
だれでもよかった
振り返りなど
いちどもなかった。その沙羅。仮りにクィン?フィン?かの女になんと謂われたところで、狂気、と。沙羅。そのまなざしに。そこにわたしの見ている風景との不穏な差異を、…あるいはそのあきらかな差異に不穏さを、ふとわたしが狂い、と、そう感じて仕舞うことなど、いちども。沙羅への共感としではない。まして擁護としてでも。そもそも沙羅はたぶん、同じ分母の上に乘ってはいなかった。その半身を爛れさせた、しかも猶も異端の美貌をこそ感じさせて仕舞う、そんな留保なき異形。さらに異国人。共通言語もなにもないそれ。存在する地表の違う存在を、正気とも狂気とも規定することは如何にしてもできない。蝶のふるまいを虎が正気とも狂気とも見い出し得ないように。すくなくともわたしにとっては。沙羅にはあるいはもっとも親しいものだったのかも知れないと、そう思われなくはなくも。クィン?フィンその、謂って仕舞えば戀敵にもひとしかった存在を沙羅は、しかもそのいわゆるふたりだけの耽る愛の行爲も、沙羅はただ無防備にほくそ笑みながら見つめた。すぐそばで。わたしになど眼もくれない。クィン?フィン?かの女をだけ見ていた。かすかに身をふるわせて見、まばたき、ほくそ笑むようにして見、まばたき、それら、他人への容赦なき軽蔑にすぎない笑みに、沙羅。肉体。その女、クィン?フィン?ついにいちども、わたしのそれをは受け入れることのなかった肉体。童顏。丸顏。頸から下のおどろくほどの瘠せ身。どこか、やつれた気配のあるそれ。じらしつづけるに似たおわりのないゆびさきと、そしてくちびるに吐く息に依るだけの愛撫に、しかも硬く抱きしめられることさえもなく、その女。肉体。過剰な反応。半分以上、その眼の前にさらけだされる快感は、女がじぶんで無意識に錯覚して仕舞っていただけに想えた。たとえば、もはや正気とは言えない狂いのうちに。その氾濫に。わたしのまなざしに、かの女の体内に、べたべたと見えない他のだれかに溺れられているかにも錯視させて、その聲。基本的には耐えて堪え、堪えるだけ耐える無理やりの沈黙。歯。咬みしめたそれ。たまった息。その穢い塊りを喉に一気に吐き捨てた、そんな、沈黙の聲。息。だからそこにかの女なりに見せつけていた女の、…なに?歓喜とでも?謂えば、どうしても差別的で、軽蔑的になる。眼の前の、他人の狂乱。聲のない恍惚。陶酔。痛みと屈辱。その修羅場にさえちかづいた桃源郷、と?笑む。沙羅。わたしと鞏固な共謀関係でむすばれているかの、徹底的で積極的な無視。わたしへの。まるでもうひとつの、わたしのものでこそあるべきまなざしがそこにあると、わたしの眼に、沙羅。クィン?フィン?その女のしずかな狂態のかたわらに、その笑み。沙羅。その顏に、だからわたしはあるいはじぶんの隠れたけなげで莫迦馬鹿しい自慰を他人の眼にまさに見せつけられているような、そんな陰湿さをだけ感じ、感じさせられ、もう、ただ甘い苦い体液の青虫を前歯に直に咬みつぶしたような、
0コメント