流波 rūpa ……詩と小説118・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈25





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   あなたの末路を、謂おうか?

   線路への投身自殺か

   あるいは事故か。どっち?

   どっちだった?


   本当のことはしらない

   ひとづてに聞いた

   あなたの店の、派手な

   直線眉の女は


   あいつの末路を、言おうか?

   なに?…悲惨だったんだ

   飛散っちゃったんだ

   最後まで、さ


   迷惑なやつ。…知らない

   かの女も、ほんとうのことは

   ひとづてにきいた

   それだけだからその女。執拗にまばたきをばかりかさねる女だった。わたしをそのまなざしに入れて仕舞った、しかも、ふれあいそうな至近には特に。網膜になにか疾患でもあったかのように。…ね?と、「なに?」

ひどっ。言った。女が、ふいに吹き出してわらいだしながら。そして、気づかないふりを、巧みに、つまり、そのときにたぶんウィルキンソンのジンジャエールの成分を多量にふくんでいたはずの唾液を数粒、わたしのくちびるに散らして仕舞った事実を。

「眞沙夜ってさ、基本、ひとの話、聞いてないひとでだよね?」

「聞いてるよ。意外に」

「じゃ、なに言ってた?」

「秘密。…こころのなかだけ思い出、だいじにしたいから」

「莫迦?」あやうくくちびるにふれあいそうな距離に、そして、だから故意に陶然として見せた笑み。その、女の。「つづき、話せよ」

「や」

「なんで?」陶然のままに女のくちびるがひらきかけて、謂く、

   犬を飼っていると

   だから、話にだけ

   いつ、散歩を?

   いつ、餌を?


   歌舞伎町で起き

   歌舞伎町で眠り

   歌舞伎町で生き

   そんな女が


   交配させたと

   だから、思いつきだけ

   もうすぐ、子供を?

   もう、出産を?


   なにがほしい?

   わたしはさぐり

   なにがしたい?

   叶えないまま


   聲。喉を

   ゆすぶるように、その女

   かの女はわらった

   重いその聲に


   低いその聲に

   かの女はわらった

   ゆすぶるように、その女

   聲。喉を


   叶えないまま

   なにがしたい?

   わたしはさぐり

   なにがほしい?


   もう、出産を?

   もうすぐ、子供を?

   だから、思いつきだけ

   交配させたと


   そんな女が

   歌舞伎町で生き

   歌舞伎町で眠り

   歌舞伎町で起き


   いつ、餌を?

   いつ、散歩を?

   だから、話にだけ

   犬を飼っていると

すなわち誕生日に、だからわたしの誕生日に、だが、その女がくれて寄越したのはただ薔薇の一本だけだった。店の席に、あるいは故意に酔いつぶれかかっているふりをしたわたしは、莫迦?「…ね?」笑う。その「舐めてんの?お前。…さすがに」女の鼻先にふれる息が「はじめてかも。おれ」シャンパンの臭気をふくんでいることは「花一輪ですまされたの、やっぱ」知っている。「はじめてじゃない?」

「似合うから」女は言った。眞顏で。「一本だけの薔薇。眞沙夜には」そう、決意もない不穏な確信をさらして、そして、わたしはその女のためにだけ、これみよがしのやさしさの笑みをくれてやった、かさねて謂く、

   犬を飼っていると

      まるで顏も

    なぜ?

     あえて無視した

   だから、話にだけ

      顏も知らない他人のように

    酸味のある匂い

     顏も知らない他人のように

   いつ、散歩を?

      あえて無視した

    髮に

     まるで顏も

   いつ、餌を?


   歌舞伎町で起き

      いつか

    なぜ?

     女づれ。あなたは

   歌舞伎町で眠り

      昼間近くのパリジェンヌで

    極端な光澤

     昼間近くのパリジェンヌで

   歌舞伎町で生き

      女づれ。あなたは

    髮に

     いつか

   そんな女が


   交配させたと

      見かけたことさえ

    なぜ?

     じょうずに無視した

   だから、思いつきだけ

      なにも知らない他人のように

    かすかな、ななめの、大昔の傷

     なにも知らない他人のように

   もうすぐ、子供を?

      じょうずに無視した

    ひたいに

     見かけたことさえ

   もう、出産を?


   なにがほしい?

      いちど

    なぜ?

     気づいていながら。あなたは

   わたしはさぐり

      いつもの席のわたしの前を

    すこしだけの粉っぽい肌荒れ

     いつもの席のわたしの前を

   なにがしたい?

      気づいていながら。あなたは

    右のこめかみだけに

     いちど

   叶えないまま


   聲。喉を

      笑い方にも

    いつ?

     肺に息もれがあるかのように

   ゆすぶるように、その女

      くせがある。まるで

    あなたはいなくなるだろう?

     くせがある。まるで

   かの女はわらった

      肺に息もれがあるかのように

    わたしの前から

     笑い方にも

   重いその聲に


   低いその聲に

      肺に息もれがあるかのように

    あなたの前から

     笑い方にも

   かの女はわらった

      くせがある。まるで

    わたしがいなくなるだろう?

     くせがある。まるで

   ゆすぶるように、その女

      笑い方にも

    いつ?

     肺に息もれがあるかのように

   聲。喉を


   叶えないまま

      気づいていながら。あなたは

    右のこめかみだけに

     いちど

   なにがしたい?

      いつもの席のわたしの前を

    すこしだけの粉っぽい肌荒れ

     いつもの席のわたしの前を

   わたしはさぐり

      いちど

    なぜ?

     気づいていながら。あなたは

   なにがほしい?


   もう、出産を?

      じょうずに無視した

    ひたいに

     見かけたことさえ

   もうすぐ、子供を?

      なにも知らない他人のように

    かすかな、ななめの、大昔の傷

     なにも知らない他人のように

   だから、思いつきだけ

      見かけたことさえ

    なぜ?

     じょうずに無視した

   交配させたと


   そんな女が

      女づれ。あなたは

    髮に

     いつか

   歌舞伎町で生き

      昼間近くのパリジェンヌで

    極端な光澤

     昼間近くのパリジェンヌで

   歌舞伎町で眠り

      いつか

    なぜ?

     女づれ。あなたは

   歌舞伎町で起き


   いつ、餌を?

      あえて無視した

    髮に

     まるで顏も

   いつ、散歩を?

      顏も知らない他人のように

    酸味のある匂い

     顏も知らない他人のように

   だから、話にだけ

      まるで顏も

    なぜ?

     あえて無視した

   犬を飼っていると

咥えた。ふいに、さ迷うだけのゆびを、沙羅は、だからその尖端をだけ。唐突に。くちびるの、あやうく潤みかけた寸前のあたりまでにだけ。笑った気がした。聲もなく、息でだけで。見なかった。その沙羅をは。日本語敎師。クィン?フィン?…その正確な名前をいちども記憶しなかった。ときどき部屋に入り込む三十前の女がいた。その女がここに來て、そしてわたしにおなじベッドで愛撫されるたびに、沙羅はおなじように指先を、そのときのそれぞれのタイミングで、時々、咥えた。へこみのあるベッドには手を附かず、顏と上半身をだけ器用にのぞかせて。時にはクィン?フィン?かの女の胸をなぞるゆびに、だから女の肌にさえくちびるをふれて仕舞って。…變なんだよ。クィン?フィン?かの女はささやく。この子は、ね、こころが、…ね?「頭が?…」あたまが、…ね?ちょっと、こわれちゃってるんだよ、と。あるいは嫉妬?クィン?フィン?その、飼育されている雌のペットへの?クィン?フィン?かの女のその解釈がどこまでただしく、どこまで誤り、どこまでうがちすぎたものの見方だったのか、わたしにはわからない。











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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