流波 rūpa ……詩と小説117・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈24
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
聞かれるはずもない
たわむれのひびき
知っていた。それが
すでに耳。いくつもの耳に
ふれていたこと。あり得ない
そう思っていた。わたし
瑠璃も。しかし、それは
音楽。奇蹟のひびき
それはいやし
まさに啓示
あたらしい風景。いま
聞くものの心に
そんなふうに
だれもがささやき
笑うしかなかった
取り殘されたように「これは、さ」と。それは瑠璃。うしろから近づいて、そしてすぐ「…わかる?」耳もとでささやき、だから「この曲は、さ」その息。体温のある、「ヘヴィ・メタルなんだよ」
「莫迦?」その瞬間、すでにわたしは聲を立てて笑っていた。
コンソールを調整する外国人ふたりには、わたしたちのやりとりは耳慣れない異国語の意味不明なノイズにすぎない。異常なまでに高速で母音を叩きつける、それら耳狎れないささやき聲。「なんで?」
その瑠璃は云った。たしか、≪流沙≫。その二曲目を録音しているときに、その「事実、そうじゃない?」微弱音。聞きとれないほどの微弱音に、かれらエンジニアたちが音量調節し作り上げたひびき。バリトンという楽器の
「重金属。…だっけ?これは」
あるいは美点をすべて崩壊させた、だから
愛なんだっ
…たいに、愛さないか?
「あくまでも、さ」
加工に加工をかさねた、故に
だから、とりあえず
…の日の、夢のように
「音のヘヴィ・メタルなんだよ」
単なる仮構。…むしろ
愛なんだっ
…たいに、愛してみ
虛構のひびき。至近に笑うわたしを瑠璃は赦した。どんな顏で?知らない。返り見なかったから。わたしの笑う息は瑠璃にふれない。瑠璃。エンジニアたちのまなざし。それを充分意識してむしろ、それらまなざしのために?瑠璃はことさらにからだを押しつけるように接近していた。わたしの背中に。なぜ、「…わかる?」一本指だけのピアニストがレコーディングの相棒でなければならないのか、その意味をこれみよがしに見せつけるように?教えさとすために?かならずしも暑くはない室内で、ひとり瑠璃の肌だけがうすく汗ばんでいたことが、背中のそのあやういすれすれに知れ、謂く、
…なぜ?その過剰な匂い
香水。もう
感じないくらい
肌の匂いなど
…なぜ?願いはしない
まして愛。かならずしも
ささやき。それ以上に
なにも。ふれあうことなど
まるで淫乱な
女。飢えた
女。だから
女のように
…なぜ?淫靡なふるまい
香水。ことさらの
異質な臭気
自然さ?もう、わずかにも
…なぜ?あばずれのように
ほほ笑み。至近の
ふきかける息
求めあってなど
まるで壊れた
女。莫迦な
女。そんな
女のように
ふれて、ゆびさき
それだけ。そっと
まなざし。かさなり
それだけ。むしろ
他人のように
こころ赦せない
狎れあえないまま
他人のような
稀薄な。しかも
慎重な。むしろ
回避しあった
それ以上の接近を
照明に、綺羅めき
その睫毛を見ていた
フェイクの、にぶい
その綺羅を見ていた
ふいに言葉を失って
…なぜ?その、わたしは
…なぜ?その、あなたは
ふいに言葉を失って
その綺羅を見ていた
フェイクの、にぶい
その睫毛を見ていた
照明に、綺羅めき
それ以上の接近を
回避しあった
慎重な。むしろ
稀薄な。しかも
他人のような
狎れあえないまま
こころ赦せない
他人のように
それだけ。むしろ
まなざし。かさなり
それだけ。そっと
ふれて、ゆびさき
女のように
女。そんな
女。莫迦な
まるで壊れた
求めあってなど
ふきかける息
ほほ笑み。至近の
…なぜ?あばずれのように
自然さ?もう、わずかにも
異質な臭気
香水。ことさらの
…なぜ?淫靡なふるまい
女のように
女。だから
女。飢えた
まるで淫乱な
なにも。ふれあうことなど
ささやき。それ以上に
まして愛。かならずしも
…なぜ?願いはしない
肌の匂いなど
感じないくらい
香水。もう
…なぜ?その過剰な匂い
すなわち≪流沙≫。あのあくまでも≪流沙≫と、あえてその名でひそかにわたしに呼ばれていた≪流沙≫。かれのふいの思いつきにすぎなかった響きは、最初の音盤の二年後にはしだいに人々の興味をそそりはじめた。はじめはマニアのフェティッシュな樂しみとして。つぎにはすでに廃人状態に追い込まれた性同一性症候群の美貌のシンガーの悲劇。そのもはや聲のない抽象的なかなしみとして。やがてはメディテーション?…癒し?それら、それぞれの具体的な活用法をさらして。わたしは見い出す。そこに他人の耳の存在。それらはもう、わたしの耳の聞いたものとは違う響きをたしかに聞いていた。瑠璃がのめりこみ始めていたのには気づいていた。なぜ?初めての名声だから?はじめての明確な実績だから?はじめてのあきらかな収益だから?あるいは、すでに瑠璃にとって≪流沙≫とは、それは瑠璃そのものだった。それはかの女自身だった。そしてそれはあまりにも無関係な他人の、関わりようもなく共有さえれようも、共鳴されようもない息吹きだった。すくなくともわたしにとっては、かさねて謂く、
…なぜ?その過剰な匂い
おおくの時間を
他人たち
その厖大を
香水。もう
ただ、ばかばかしいくらいの
それら、あくまでも
ただ、ばかばかしいくらいの
感じないくらい
その厖大を
見知らぬものたち
おおくの時間を
肌の匂いなど
…なぜ?願いはしない
浪費したのだ
他人たち
ただ、ほほ笑みに
まして愛。かならずしも
わたし、そして、そしてあなたは
それら、あきらかに
わたし、そして、そしてあなたは
ささやき。それ以上に
ただ、ほほ笑みに
関わりようのない異物たち
浪費したのだ
なにも。ふれあうことなど
まるで淫乱な
おおくの須臾を
ひびいていた聲
その厖大を
女。飢えた
ただ、ばかばかしいくらいの
わらい聲
ただ、ばかばかしいくらいの
女。だから
その厖大を
聞いていた。それら
おおくの須臾を
女のように
…なぜ?淫靡なふるまい
濫費したのだ
耳にふれ、ふれ、しかも
ただ、笑い聲に
香水。ことさらの
わたし、そして、そしてあなたは
なじまない聲
わたし、そして、そしてあなたは
異質な臭気
ただ、笑い聲に
無数の聲
濫費したのだ
自然さ?もう、わずかにも
…なぜ?あばずれのように
おおくの瞬間を
こだましていた聲
その厖大を
ほほ笑み。至近の
ただ、ばかばかしいくらいの
ささやき聲
ただ、ばかばかしいくらいの
ふきかける息
その厖大を
聞いていた。それら
おおくの瞬間を
求めあってなど
まるで壊れた
消費したのだ
耳にふれ、ふれ、しかも
ただ、軽蔑に
女。莫迦な
わたし、そして、そしてあなたは
耳慣れない聲
わたし、そして、そしてあなたは
女。そんな
ただ、軽蔑に
赤裸々な聲
消費したのだ
女のように
ふれて、ゆびさき
それは、憎しみの
とびかっていた聲
軽蔑
それだけ。そっと
ない。ない。なにもない
ささくれた聲
ない。ない。なにもない
まなざし。かさなり
軽蔑
違和のある聲
それは、憎しみの
それだけ。むしろ
他人のように
それは、いらだちの
耳をふさごう
軽蔑
こころ赦せない
ない。ない。なにもない
どうせ、なにも
ない。ない。なにもない
狎れあえないまま
軽蔑
聞き取れないから
それは、いらだちの
他人のような
稀薄な。しかも
それは、惡意の
耳をふさごう
軽蔑
慎重な。むしろ
ない。ない。なにもない
しかも、ひたすら
ない。ない。なにもない
回避しあった
軽蔑
鳴りひびくから
それは、惡意の
それ以上の接近を
照明に、綺羅めき
わたしはなにを?
流れる砂は
軽蔑し
その睫毛を見ていた
なぜ?
こぼれ、散る
なぜ?
フェイクの、にぶい
軽蔑し
流れる砂は
わたしはなにを?
その綺羅を見ていた
ふいに言葉を失って
あなたはなにを?
鳴りひびくから
軽蔑し
…なぜ?その、わたしは
なぜ?
しかも、ひたすら
なぜ?
…なぜ?その、あなたは
軽蔑し
耳をふさごう
あなたはなにを?
ふいに言葉を失って
その綺羅を見ていた
しかも情熱。そして
聞き取れないから
いたたまれない
フェイクの、にぶい
焦燥?…なぜ?
どうせ、なにも
焦燥?…なぜ?
その睫毛を見ていた
いたたまれない
耳をふさごう
しかも情熱。そして
照明に、綺羅めき
それ以上の接近を
なにもかも
違和のある聲
いたたまれない
回避しあった
なぜ?
ささくれた聲
なぜ?
慎重な。むしろ
いたたまれない
とびかっていた聲
なにもかも
稀薄な。しかも
他人のような
いたたまれない
赤裸々な聲
なにもかも
狎れあえないまま
なぜ?
耳慣れない聲
なぜ?
こころ赦せない
なにもかも
耳にふれ、ふれ、しかも
いたたまれない
他人のように
それだけ。むしろ
いたたまれない
聞いていた。それら
しかも情熱。そして
まなざし。かさなり
焦燥?…なぜ?
ささやき聲
焦燥?…なぜ?
それだけ。そっと
しかも情熱。そして
こだましていた聲
いたたまれない
ふれて、ゆびさき
女のように
軽蔑し
無数の聲
あなたはなにを?
女。そんな
なぜ?
なじまない聲
なぜ?
女。莫迦な
あなたはなにを?
耳にふれ、ふれ、しかも
軽蔑し
まるで壊れた
求めあってなど
軽蔑し
聞いていた。それら
わたしはなにを?
ふきかける息
なぜ?
わらい聲
なぜ?
ほほ笑み。至近の
わたしはなにを?
ひびいていた聲
軽蔑し
…なぜ?あばずれのように
自然さ?もう、わずかにも
軽蔑
関わりようのない異物たち
それは、惡意の
異質な臭気
ない。ない。なにもない
それら、あきらかに
ない。ない。なにもない
香水。ことさらの
それは、惡意の
他人たち
軽蔑
…なぜ?淫靡なふるまい
女のように
軽蔑
見知らぬものたち
それは、いらだちの
女。だから
ない。ない。なにもない
それら、あくまでも
ない。ない。なにもない
女。飢えた
それは、いらだちの
他人たち
軽蔑
まるで淫乱な
なにも。ふれあうことなど
軽蔑
轟音。それら
それは、憎しみの
ささやき。それ以上に
ない。ない。なにもない
つぶやき聲の
ない。ない。なにもない
まして愛。かならずしも
それは、憎しみの
群れ。それら
軽蔑
…なぜ?願いはしない
肌の匂いなど
ただ、軽蔑に
轟音。それら
消費したのだ
感じないくらい
わたし、そして、そしてあなたは
響きなき聲の
わたし、そして、そしてあなたは
香水。もう
消費したのだ
群れなした群れ
ただ、軽蔑に
…なぜ?その過剰な匂い
沙羅。パルメザン・チーズに火をつけたような匂い。鼻に、しかも、かの女のなにをも感じとらないままにゆび先は、温度。慥かに、確実にそこにあたたみが。…なに?たぶん、日射しの。そのななめに射した光りの。嗅いだ。もういちど。ふと、沙羅。その体臭を。
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