流波 rūpa ……詩と小説116・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈23





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   そこに崩壊を見ていよう

   もう、うつくしくも

   もう、みにくくも

   もう、いたましくも


   ないから。なにも

   そこにきみの、…なに?

   魂さえも?…たまっ

   精神さえも…すぁっ


   そこに崩壊を見ていよう

   もう、かなしくも

   もう、おかしくも

   もう、あわれでさえも


   ないから。なにも

   それきみの、…なに?

   だから抜け殻。九鬼

   すでに亡き骸、それは蘭。九鬼蘭。…ゆ、ゆ、ゆ、と、「ゆに、ゆに、」ささやき。その、明瞭。いやになるほど明瞭な聲に、「ゆにばぁー…」と、ふいに、そしてふいの「すっ」

「なに、これ?」笑った。わたしは、思わず聲を立てて楓?楓も?笑った。わたしのうしろ。ななめうしろに、なぜ?事実としてすべなど。そのときなすすべなど。それ以外には。なにももう、だからなかったから。「…ね」と、わたしのその聲にん?…と?ふと振り返った無言。その沈黙?意図ものないただの無言。それは楓。だから向かいの壁。そこにもたれて立っていた楓。それは楓。髮。ほとんど坊主に近くまで短く、髮。その髮を刈り上げて、ひたすらに楓。どうしようなく綺麗な楓。…だから、二十歳の?その容姿。二十一歳の?だから…ゆ、ゆ、ゆ、と、「ゆに、ゆぅに、」その「にぃっ…」いやになるほど明瞭な「ゆにぃっ…」聲に、

   こすれあう。それら

      らららって

「ぶぃっ。…ぶ、ゆにぃぶ、ぶぅあっ…」と。ふいの「すっ」それは

   ひびきもなく

      さららって

蘭。九鬼蘭。もう、

   翳りのたわむれ

      はかなく、ね?

やめていた。やめはじめていた?事実上はすでにやめていた。九鬼蘭であることなどもう、不可能だったそれは、廃人?しかもジャンキー?かつは、しかしまだかろうじて蘭。九鬼蘭。かれをあやうく擬態してはいた、その、さよなら!それ。さよっ本人。擬態の意識さえもないさよなら!本人。あくまでもさよっ…栄光の日々。蘭。九鬼蘭。廃人。見つめ、そのさよなら!楓はわたしをだけ見つめ、見つめたさよっまなざしのままに、称賛しかあり得なかった日々。なに?なにを言うでもなく、…なぜ?たぶん、かれの選択していたその…だれ?沈黙が、わたしにはこれといって理由もなくただ流れ去ってくんだ。赤裸々にただ流れ去ってくんだ。不安なのだった。そのさよなら!わたしはだから、もういちどさよっこれ見よがしに…おれたちの輝いてた日々。笑ってみせて、さよっ楓。ただ楓。それは楓。かれのためだけに。わたしは笑った。もう、笑い、わらっわたしは豪快なくらいに笑っていて、はっきりと聲。聲を喉。喉にもうたててささやき。そっと、ささやく程度の、ささ繊細。こわれそうな?繊細すぎたささ音価で、…聞こえた?「こいつって、さ」楓。きみに、その耳に「まじ、こいっ」楓はわたしのその聲をは「こいつってさ、まじ、」無視しない。まなざしに、しかしなにも答えはしないままに記憶。思い出す。振り向く前、その寸前のかれは窓の向こうをだけ見ていた。…なぜ?そこは綺羅。ら、ら、ら、日当たりの極端にあわい綺羅。ら、ら、ら、惡い、楓が広尾に買った隠れ家マンション。その部屋の中、綺羅。燦燦と?じゃなくて、光り、しかし、らんらんと。ら、ら、ら、…ゆ、ゆ、ゆ、と「ゆに、ゆに、」その「ゆぃっ…」いやになるほど明瞭な「ぃいんっ…」聲に、

   こすれあう。それら

      くくくくって

「ゆにぃ、ばばっ。んばぶっ、ふぅあっ…」と、ふいの「すっ」それは

   ひびきもなく

      とぅとぅとぅとぅって

蘭。九鬼蘭。借景なんだよ、

   綺羅らのたわむれ

      こわれそうに、ね?

と。ね?…その、どしようもなく…でしょ?居心地のいい、日当たりの借景なんだよ。惡さ。一階のそこは、ね?…すぐそこにすこしの崖をなしていて、…でしょ?隣りの寺の敷地に拡がる樹木の群れに借景なんだよ。隠されていた。ドアをただね?…あけさせすれば、…でしょ?樹木の匂いが漏れ入り、清冽。「…ね?」それはささやき。わたしの、…だれ?な、「ゆぅっ…」なぜ?…ゆ、ゆ、ゆ、と、「ゆぅっ、に、に、にぃ、」そのいやになるほど明瞭な「んぃっ…」聲に、

   木漏れ日。もう

      ね、ね、ね、

「ぶ。あぅうっ。つっうっ。うぅっ。ぶあぃっ…」と、ふいの「すっ」それは

   それは、煽るような

      とけていく

蘭。九鬼。セカンド・ハウスに過ぎない。

   やさしさ

      ひかり

そこは。本当に居住していたのは、なぜかそこから出ていかなかった、いつまでも、ながい間、いつまでも、古い。渋谷の住みにくい古いデザイナーズ・マンション。…好きなんだよね。ここ

   こころが、もう

      お、お、お、

なんで?

   こわれそうなほどに

      おれちゃうぉっ

あの木が、好き。…と、それは

   木の葉たち

      お、お、お、

ビラ・モデルというギザついた

   …ふらっ

      おるちゃうぉっ

集合住宅。そのエントランスに一本だけ植えられていた樹木。「こいつ、だから」そのわたしは必死に「さ。…ね?…さ、」ほほ笑む。ただ楓のためにだけ…ゆ、ゆ、ゆ、と、「ゆにぃっ、にぃっ、ぃあっつ。…」そのいやになるほど明瞭な「す。ぅうぁっ」聲に、

   木漏れ日。もう

      ね、で、じぇ、

「ぶぅあぃっ、ぶぅあぃっ…」と、ふいの「すっ」

「殺したほうがよくない?」おもわずわたしが云った、その不用意な言葉を楓は赦した。あるいは赦してさえいなかった。無視?…するともなく無視?聞き取り、無視?聞き取りながらも無視?答えずに、だからただ、ね、ね、ね、わたしにね、で、じぇ、笑いかけているに過ぎない。その息づかいさえ。わずかに漏れる笑い、その息づかいさえもなく。

   芋虫?なに?

かなしそうに?

   その擬態。ケツだけ

まさか。

   突き出して、ゆら

いっさい、かなしみなど

   ゆらゆらゆら

どうやっても近づけない完璧さで、…ゆ、ゆ、ゆ、と、「ゆにぃ、ぃにぃ、にぃ、っいっ。い、い、い、」そのいやになるほど明瞭な「いぃんっ…」聲に、

「ぶぅ。ぅあー…ぃあっ、あぃっ…」と、その「すっ」たぶんアクロス・ザ・ユニヴァース。神話的なビートルズの、後期の神話的な楽曲。それを口ずさみかけつづけているらしい九鬼蘭が、すでにその意識を崩壊させかけていることは知っていた。楓に聞いていたから。おれら、もう駄目だよ、と。要するに当時の所謂合法麻薬からはじまったジャンキー九鬼の、その覚醒剤の濫用のせいで。事実、すでに噂されていた。≪あす・ゆめ≫のシンガーの右のほうは、あれはもう相当の中毒者だと。ドラッグ疑惑。もちろんまだワイドショーのネタではない。事務所との関係で。だからコンビニに売られる実録!闇世界の云々が売りの、しょうもないタブロイドの匿名ネタ。≪A・S≫のKR。巻頭ページ、どこかのやくざの何代目かの襲名。その襲名式のルポルタージュ。その次の次。やがてそれらをおしのけて、トップ記事。二人組ユニット某の右のほう、薬物疑惑、と。なんにんもの女たち…芸能人だぜ?と、所謂キメセクを…みんな有名どころだぜ?キメている、と。お相手。たとえば某グラドル、某清純系女優。やや年増のメジャーな女優。…などなど。イニシャル付き。その詳細までは、わたしは知らない。楓。すでにパートナーを見捨てていた楓は、他人。もう、廃人九鬼蘭のことを他人。いちいち話のネタにさえ楓。口にはしなかった。自分からは。「かわいいでしょ?」楓。そう云った。ささやき、ふいに、唐突に、その口にこぼれた、ささやき。ささやく、ささやき、ひびき、ささそのたしかにうつくしい聲。さすがに。楓。耳に殘る稀有なシンガー。女みたいな聲。そうでしかいあれなに聲。そのひびきには、なになにな傷み。かなしみ?人のこころをせつなさ。あれなに?いたたまれなさ?意味もなく女説あるよね?…あっちの泣かせる力があなつかしさ。あれな澄み切った?あると、そう表現したのはどの雑誌のライターだっただろう?たしか専門誌、まだ、ロックという音楽が特別なもので有り得ていた最後の時代。ただしもう急激に自分たちの時代のおわりをだけその種の音楽の群れは匂わせはじめながら、特別な音楽。それでもそんな最後の時代の最後に特権的だったとんがったやつらの特別な音楽。専門誌の類の崩壊の最先端つっぱしってんじゃん?断末魔のすこし前、だから、ミュージック・マガジンとか?ロッキング・オンとか?たぶん、そんな雑誌に例外的に掲載された記事の一行だった。いやに気取った批評文体。基本的にはアイドル歌謡系にすぎない≪あす・ゆめ≫など本來顏を除かせる余地のないそこに、…だから、ロッキング・オンのほう?不意に載せられた、——どう?

   Love is real, real is love

      ラーヴィはリーィです

         り、り、りぃ…んりっ

   それは事実しますという意味です

その記事を見せながら九鬼は

   Love is feeling, feeling love

      ラーヴィはフィイリッです

         ふぃ、ひっ、ひぃ…んりっ

   それは感覚しますという意味です

云った。わたしに。まともな人間の、その

   Love is wanting to be loved

      ラーヴィはウ。オンティンッです

         う、うぉっ、おぅっ…てぃっ

   それは欲望しますという意味です

須臾に。「この記事?」

   Love is touch, touch is love

      ラーヴィはタァツィンッです

         た、たっつ、つぅっ…つぃっ

   それは接触しますという意味です

「笑えない?」

   Love is reaching, reaching love

      ラーヴィはリッ。ツィンッです

         るぃ、りぃっ、りぃんっ…んぃっ

   それは到来しますという意味です

すくなくとも九鬼にとっては、≪あす・ゆめ≫の

   Love is asking to be loved

      ラーヴィはアックィンッです

         あっ、あっ、くあっ…あぃっ

   それは尋問しますという意味です

成功は…ことし紅白だね?不本意だったに

   Love is you

      ラーヴィはユウ…ウゥです

ちがいない。インダストリアル寄りの

   You and me

      ユウアッミィです

九鬼にとっては、だから専門誌のその記事は

   Love is knowing

      ラーヴィはノゥウィッです

ちいさな、しかし決定的な成功の、その

   we can be

      我々がビィです

いまのところの

   Love is free, free is love

      ラーヴィはフヒィッです

         ふぃっ、ひっ、ふるぃっ…るぃっ

   それは無料しますという意味です

かれにとっての成功のすべてだったかもしれない。とはいえ、

   Love is living, living love

      ラーヴィはリィブィンッです

         りぃっ、ぃっ、ぃあっ…あぃっ

   それは居間しますという意味です

それを矜持したそぶりもない。むしろ

   Love is needing to be loved

      ラーヴィはニィ。ディンッです

         ぬぅっ、ぬぃっ、ぬあっ…あんぃっ

   それは必要性しますという意味です

意図したとは見えなかった赤裸々な見下しを眼尻りにさらし、「単なる馬鹿でしょ?」その、健常な瞬間の瞬間的な九鬼は、わたしにそっとそう云い、謂く、

   ささげよう。たとえば色彩

   …どんな?

   花を。咲き乱れ、もう

   …その色


   色は?…その

   森をなし、もう

   花ざかりの森

   森なした花ら


   ささげよう。たとえば、さえずり

   …どんな?

   さえずりを。ひびきあい、もう

   …その音


   音は?…その

   森をなし、もう

   こだましあう森

   森なしたひびきら


   ささげよう。たとえば、香り

   …どんな?

   香りを。みちあふれ、もう

   …その匂い


   匂いは?…その

   森をなし、もう

   香りたつ森

   森なした香りら


   目などないから。ないから

   ないから。耳など、ないから

   ないから。鼻さえ、ないから

   なにもないから。ないから


   色などないから。ないから

   ないから。ひびきなど、ないから

   ないから。香りさえ、ないから

   なにもないから。ないから


   ささげよう、あなたに

   そのせめてもの記憶に

   想起する須臾。刹那にさえも

   ささげよう、つねに


   それら、森。…壊れ

   壊れていたひと。花盛りの森

   それら、森。…滅び

   滅びていたひと。ひびきあう森


   それら、森。…朽ち

   朽ちていたひと。匂いたつ森

   …だれ?

   笑ったの、だれ?


   それら、夢のようにもうつくしい

   埋葬として?そこに

   埋められた、土に

   目をあけたままに


   耳をすまし

   鼻孔をひろげ

   孔なすままに

   孔ひらくままに


   壊れ、壊れて

   滅び、滅びて

   朽ち、朽ちて

   そこに、ささやくように


   わめき、さけぶように

   ささやき、ささやくように

   ののしり、ののしるように

   つぶやき、つぶやくように


   わめきちらし、聲。そこに

   笑うのだった。それは

   わたしたち。それは

   口をひらいて


   鼻をひらいて

   耳をそばだて

   笑うのだった。そこに

   わたしたち。それは


   わたしたち。それは

   笑うのだった。そこに

   耳をそばだて

   鼻をひらいて


   口をひらいて

   わたしたち。それは

   笑うのだった。それは

   わめきちらし、聲。そこに


   つぶやき、つぶやくように

   ののしり、ののしるように

   ささやき、ささやくように

   わめき、さけぶように


   そこに、ささやくように

   朽ち、朽ちて

   滅び、滅びて

   壊れ、壊れて


   孔ひらくままに

   孔なすままに

   鼻孔をひろげ

   耳をすまし


   目をあけたままに

   埋められた、土に

   埋葬として?そこに

   それら、夢のようにもうつくしい


   笑ったの、だれ?

   …だれ?

   朽ちていたひと。匂いたつ森

   それら、森。…朽ち


   滅びていたひと。ひびきあう森

   それら、森。…滅び

   壊れていたひと。花盛りの森

   それら、森。…壊れ


   ささげよう、つねに

   想起する須臾。刹那にさえも

   そのせめてもの記憶に

   ささげよう、あなたに


   なにもないから。ないから

   ないから。香りさえ、ないから

   ないから。ひびきなど、ないから

   色などないから。ないから


   なにもないから。ないから

   ないから。鼻さえ、ないから

   ないから。耳など、ないから

   目などないから。ないから


   森なした香りら

   香りたつ森

   森をなし、もう

   匂いは?…その


   …その匂い

   香りを。みちあふれ、もう

   …どんな?

   ささげよう。たとえば、香り


   森なしたひびきら

   こだましあう森

   森をなし、もう

   音は?…その


   …その音

   さえずりを。ひびきあい、もう

   …どんな?

   ささげよう。たとえば、さえずり


   森なした花ら

   花ざかりの森

   森をなし、もう

   色は?…その


   …その色

   花を。咲き乱れ、もう

   …どんな?

   ささげよう。たとえば色彩

すなわち不安。…とか?なかった。その崩壊の時期に。楓。そのまなざしに、恐れ。…とか?なかった。その破綻の時期に。楓。その口元に、失意。…とか?なかった。その解体の時期に。楓。その頬にはゆるみ。やさしい、ゆるみ。こぼれたやさしさ。やわらかな満足。充実と、しあわせ。それ、見蕩れるような、その目元には。ふれている光り。木漏れの翳り。翳りと光り。綺羅ら。その、だから窓越しの、その、綠りなし、茶色を散らし、白濁に噎せ、散り散りに、しかも氾濫し、しかも撒き散って、しかも充溢し、それら橫溢するだけ、あふれかえった色彩。あざやかな色ら。ふきこぼれ、みだれ飛び散る色彩の群れら、——ね?

   すがすがしかった

と。聲。

   だれかの崩壊は

ほら、…ね?

   行きどまりだから

ささやき、楓は

   新鮮だった

きれい、でしょ?

   崩壊はいつも

楓がささやき、そして笑った。ちいさなひびき。くちさきにひびき、くちさきにふるえかさねて謂く、

   ささげよう。たとえば色彩

      ほほ笑みながら

    ひらく。口

     壊れてくひと

   …どんな?

      見つめてた

    みずみずしい

     見つめてた

   花を。咲き乱れ、もう

      壊れてくひと

    口。吐き

     ほほ笑みながら

   …その色


   色は?…その

      あざ笑いながら

    吐く。息

     滅びてくひと

   森をなし、もう

      見つめてた

    しめりけのある

     見つめてた

   花ざかりの森

      滅びてくひと

    息。こぼし

     あざ笑いながら

   森なした花ら


   ささげよう。たとえば、さえずり

      せせら笑って

    こぼす。聲

     朽ちてくそのひと

   …どんな?

      見つめてた

    なに?それ。うなり?

     見つめてた

   さえずりを。ひびきあい、もう

      朽ちてくそのひと

    音。もらし

     せせら笑って

   …その音


   音は?…その

      くちびるに笑い

    もらす。匂い

     笑い聲こそふさわしいから

   森をなし、もう

      …なぜ?

    くさい。喉のおくの

     …なぜ?

   こだましあう森

      笑い聲こそふさわしいから

    匂い。なぜ?

     くちびるに笑い

   森なしたひびきら


   ささげよう。たとえば、香り

      目元にほほ笑み

    ふるえた。…ね?

     それ以外もう、すべもないから

   …どんな?

      …なぜ?

    その鼻に、ほら

     …なぜ?

   香りを。みちあふれ、もう

      それ以外もう、すべもないから

    鼻水。…ね?

     目元にほほ笑み

   …その匂い


   匂いは?…その

      ほほにゆるみ

    こぼれだし

     むしろ、ほほ笑ましいから

   森をなし、もう

      …なぜ?

    音をたて、匂い

     …なぜ?

   香りたつ森

      むしろ、ほほ笑ましいから

    匂ったよ。それ

     ほほにゆるみ

   森なした香りら


   目などないから。ないから

      容赦なく

    どんな?…ね、ね、

     絶望的なくらいに

   ないから。耳など、ないから

      無慈悲なまでに

    その色。どんな?…ね?

     無慈悲なまでに

   ないから。鼻さえ、ないから

      絶望的なくらいに

    どんな?…ね、ね、

     容赦なく

   なにもないから。ないから


   色などないから。ないから

      陰湿な

    その音。どんな?…ね?

     いたましさ

   ないから。ひびきなど、ないから

      傷み。昏い

    どんな?…ね、ね、

     傷み。昏い

   ないから。香りさえ、ないから

      いたましさ

    その匂い。どんな?…ね?

     陰湿な

   なにもないから。ないから


   ささげよう、あなたに

      他人の壊れ

    すすった。…ね?

     他人の朽ち果て

   そのせめてもの記憶に

      他人の滅び

    その下唇に、ほら

     他人の滅び

   想起する須臾。刹那にさえも

      他人の朽ち果て

    涎れ。…ね?

     他人の壊れ

   ささげよう、つねに


   それら、森。…壊れ

      まなざしは、たぶん

    あふれだし

     他人をしか見ないから?

   壊れていたひと。花盛りの森

      いつも殘酷

    音をたて、匂い

     いつも殘酷

   それら、森。…滅び

      他人をしか見ないから?

    匂ったよ。それ

     まなざしは、たぶん

   滅びていたひと。ひびきあう森


   それら、森。…朽ち

      まなざしは、たぶん

    どんな?…ね、ね、

     すべてを他人にしてしまうから?

   朽ちていたひと。匂いたつ森

      いつも冷酷

    その色。どんな?…ね?

     いつも冷酷

   …だれ?

      すべてを他人にしてしまうから?

    どんな?…ね、ね、

     まなざしは、たぶん

   笑ったの、だれ?


   それら、夢のようにもうつくしい

      せめて、やさしく

    その音。どんな?…ね?

     苛酷なだけの

   埋葬として?そこに

      笑っていようか?

    どんな?…ね、ね、

     笑っていようか?

   埋められた、土に

      苛酷なだけの

    その匂い。どんな?…ね?

     せめて、やさしく

   目をあけたままに


   耳をすまし

      まなざしのなかに

    知らねぇよ。知らっ、ら、ら、

     せめて、やさしく

   鼻孔をひろげ

      笑っていようか?

    ららないから。ないから

     笑っていようか?

   孔なすままに

      せめて、やさしく

    頭部もないから

     まなざしのなかに

   孔ひらくままに


   壊れ、壊れて

      ほら、ひびく。聲

    なにもねぇよ。なぃにぃっ、いっ、いっ、

     噎せかえるように

   滅び、滅びて

      笑い、笑った、あえぐように

    いいないから。ないから

     笑い、笑った、あえぐように

   朽ち、朽ちて

      噎せかえるように

    抜け殻だから

     ほら、ひびく。聲

   そこに、ささやくように


   わめき、さけぶように

      えづくように

    壊れさえも。も、も、

     かなしむように

   ささやき、ささやくように

      笑い、笑った、あざけるように

    滅びさえも。も、も、

     笑い、笑った、あざけるように

   ののしり、ののしるように

      かなしむように

    朽ちさえも、も、も、

     えづくように

   つぶやき、つぶやくように


   わめきちらし、聲。そこに

      いとおしむように

    あたたかな

     つぶやくように

   笑うのだった。それは

      ささやくように

    ほら、きみの息吹きを

     ささやくように

   わたしたち。それは

      つぶやくように

    感じていたよ

     いとおしむように

   口をひらいて


   鼻をひらいて

      つぶやくように

    やわらかな

     いとおしむように

   耳をそばだて

      ささやくように

    いま、きみの吐息を

     ささやくように

   笑うのだった。そこに

      いとおしむように

    感じているよ

     つぶやくように

   わたしたち。それは


   わたしたち。それは

      かなしむように

    感じているよ

     えづくように

   笑うのだった。そこに

      笑い、笑った、あざけるように

    いま、きみの吐息を

     笑い、笑った、あざけるように

   耳をそばだて

      えづくように

    やわらかな

     かなしむように

   鼻をひらいて


   口をひらいて

      噎せかえるように

    感じていたよ

     ほら、ひびく。聲

   わたしたち。それは

      笑い、笑った、あえぐように

    ほら、きみの息吹きを

      笑い、笑った、あえぐように

   笑うのだった。それは

      ほら、ひびく。聲

    あたたかな

     噎せかえるように

   わめきちらし、聲。そこに


   つぶやき、つぶやくように

      せめて、やさしく

    朽ちさえも、も、も、

     まなざしのなかに

   ののしり、ののしるように

      笑っていようか?

    滅びさえも。も、も、

     笑っていようか?

   ささやき、ささやくように

      まなざしのなかに

    壊れさえも。も、も、

     せめて、やさしく

   わめき、さけぶように


   そこに、ささやくように

      苛酷なだけの

    抜け殻だから

     せめて、やさしく

   朽ち、朽ちて

      笑っていようか?

    いいないから。ないから

     笑っていようか?

   滅び、滅びて

      せめて、やさしく

    なにもねぇよ。なぃにぃっ、いっ、いっ、

     苛酷なだけの

   壊れ、壊れて


   孔ひらくままに

      すべてを他人にしてしまうから?

    頭部もないから

     まなざしは、たぶん

   孔なすままに

      いつも冷酷

    ららないから。ないから

     いつも冷酷

   鼻孔をひろげ

      まなざしは、たぶん

    知らねぇよ。知らっ、ら、ら、

     すべてを他人にしてしまうから?

   耳をすまし


   目をあけたままに

      他人をしか見ないから?

    その匂い。どんな?…ね?

     まなざしは、たぶん

   埋められた、土に

      いつも殘酷

    どんな?…ね、ね、

     いつも殘酷

   埋葬として?そこに

      まなざしは、たぶん

    その音。どんな?…ね?

     他人をしか見ないから?

   それら、夢のようにもうつくしい


   笑ったの、だれ?

      他人の朽ち果て

    どんな?…ね、ね、

     他人の壊れ

   …だれ?

      他人の滅び

    その色。どんな?…ね?

     他人の滅び

   朽ちていたひと。匂いたつ森

      他人の壊れ

    どんな?…ね、ね、

     他人の朽ち果て

   それら、森。…朽ち


   滅びていたひと。ひびきあう森

      いたましさ

    匂ったよ。それ

     陰湿な

   それら、森。…滅び

      傷み。昏い

    音をたて、匂い

     傷み。昏い

   壊れていたひと。花盛りの森

      陰湿な

    あふれだし

     いたましさ

   それら、森。…壊れ


   ささげよう、つねに

      絶望的なくらいに

    涎れ。…ね?

     容赦なく

   想起する須臾。刹那にさえも

      無慈悲なまでに

    その下唇に、ほら

     無慈悲なまでに

   そのせめてもの記憶に

      容赦なく

    すすった。…ね?

     絶望的なくらいに

   ささげよう、あなたに


   なにもないから。ないから

      むしろ、ほほ笑ましいから

    その匂い。どんな?…ね?

     ほほにゆるみ

   ないから。香りさえ、ないから

      …なぜ?

    どんな?…ね、ね、

     …なぜ?

   ないから。ひびきなど、ないから

      ほほにゆるみ

    その音。どんな?…ね?

     むしろ、ほほ笑ましいから

   色などないから。ないから


   なにもないから。ないから

      それ以外もう、すべもないから

    どんな?…ね、ね、

     目元にほほ笑み

   ないから。鼻さえ、ないから

      …なぜ?

    その色。どんな?…ね?

     …なぜ?

   ないから。耳など、ないから

      目元にほほ笑み

    どんな?…ね、ね、

     それ以外もう、すべもないから

   目などないから。ないから


   森なした香りら

      笑い聲こそふさわしいから

    匂ったよ。それ

     くちびるに笑い

   香りたつ森

      …なぜ?

    音をたて、匂い

     …なぜ?

   森をなし、もう

      くちびるに笑い

    こぼれだし

     笑い聲こそふさわしいから

   匂いは?…その


   …その匂い

      朽ちてくそのひと

    鼻水。…ね?

     せせら笑って

   香りを。みちあふれ、もう

      見つめてた

    その鼻に、ほら

     見つめてた

   …どんな?

      せせら笑って

    ふるえた。…ね?

     朽ちてくそのひと

   ささげよう。たとえば、香り


   森なしたひびきら

      滅びてくひと

    匂い。なぜ?

     あざ笑いながら

   こだましあう森

      見つめてた

    くさい。喉のおくの

     見つめてた

   森をなし、もう

      あざ笑いながら

    もらす。匂い

     滅びてくひと

   音は?…その


   …その音

      壊れてくひと

    音。もらし

     ほほ笑みながら

   さえずりを。ひびきあい、もう

      見つめてた

    なに?それ。うなり?

     見つめてた

   …どんな?

      ほほ笑みながら

    こぼす。聲

     壊れてくひと

   ささげよう。たとえば、さえずり


   森なした花ら

      窓越しの光り

    息。こぼし

     その鼻すじに

   花ざかりの森

      翳りを投げた

    しめりけのある

     翳りを投げた

   森をなし、もう

      その鼻すじに

    吐く。息

     窓越しの光り

   色は?…その


   …その色

      やわらかな朝の

    口。吐き

     その鼻は笑んだ

   花を。咲き乱れ、もう

      白濁を散らし

    みずみずしい

     白濁を散らし

   …どんな?

      その鼻は笑んだ

    ひらく。口

     やわらかな朝の

   ささげよう。たとえば色彩

ベッド。軋み。ふいの。なぜ?…気づく。そして、もうすでに知っていたことにも。気づく。スマホを掴んだまま投げ出したわたしの腕が派手に跳ねていたのだった。見た。その、綺羅。なんら礙げのないしかし、ただやさしいだけの日射しにふれられた腕。それを、わたしは、…なぜ?沙羅。ふと、さっき、沙羅が見たから。腕を。投げ出された、その、うつくしい…なに?皮膚。…何歳?と。ときに聞かれた。うぶ毛。わずかな綺羅。年をとればとるほど…何歳なんですか?まさっ実年齢と、まなざしに類推されるそれとの年数とは、ただ隔たりばかりを…何さっひろげつづけた。え?…と。かならずしもやばっ…と。若さも、さらにはそれまじなんですか?…と。うつくしささえも、もはや…まじで言ってます?それ…と。いまさらじぶんにもとめることなど須臾さえないままに。傷ひとつない美貌。その、傷ひとつない肌。その、張り。その、霑い。まさに夢。夢のなかに見た夢のような存在。思った。あるいはその沙羅。そのきわ立って異質な外貌のせいで、巧妙に隠されつづけていながらも、あるいは沙羅も実際にはおなじまなざしで?他の女たち。無数のかの女たちに變らない、變り映えのしない、大差ない、おなじ、…どうなのだろう?まなざし。その虹彩のむこうに、なに?見ていたのは、どんな?…わたしを。そのブルー。ブルーのまばたきの一切ない虹彩に。または琥珀。琥珀いろの昏く狂暴な虹彩に。思わず、見えない方のてのひらにその、見えない沙羅の頬をふれようとして、そして、ゆび先が空間をさぐる。なにも、なにものにもまだふれないままに。











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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