流波 rūpa ……詩と小説111・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈18
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
なにを、ささやくべきだったかな?
最後に、なにを?
わたしの舌は
なにを、たとえば
かなしみを?
やるせない傷みを?
絶望を?
むしろ諦めを?
なにを、ささやくべきだったかな?
最後に、なにを?
あなたの舌は
なにを、たとえば
櫻の花を
見おろして
その色彩を
もはや忘れ、それは慥かにうつくしいものに想われつづけたのだった。なぜ?こころに傷、傷め、こころをなぜ?わたちたちは傷つけ、精神?…魂?…なんだろう?なぜ?わたしたちはしかも傷なし、傷をさらし、流れ出す如何なる血も、
なぜ?わたしたちは
匂いは、どこに?
滲み出す如何なる体液もなく、こころに
なぜ?わたしたちはしかも
とおく、遠く、足元の
傷、傷め、こころを傷つけ、赤裸々に、
ささやくのだろう?
とおい、遠い、下のほうには
だから傷み。その
いちども聞きとられることのなかった
色彩。それら
うつくしさは。美。美。美。ぶ?つまりは、たとえば
ささやき
香りは、どこ?
至近。ふと至近にかならずしもそれ。まさかそれを見出そうとたくらんだ事実などない須臾のあれ?あやうさに、あれ?垣間見たなに?なにそれあれ?くちびるに。…≪流沙≫。その、かれ。まだ≪流沙≫ならざるその≪流沙≫。かれ。しかももう≪流沙≫たるその≪流沙≫。かれ。それ、そんな、それはくちびる。色彩。およびそれら、くちびる。なに?…の、やわらかい?なに?むしろ、あたたかな?
櫻。さきみだれ
ひらら
唇そのものにはわずかに逸れて、なに?
不穏なくらいに
ひらひら
皮膚。そのなに?
かなしいくらいに
夜の櫻たち
ふくらみ。あれ?
赤裸々に
ひらら
寸前。唇に終にはなって仕舞うあやうい直前。あやうっ。その寸前あぶなっ。ふくらみ。そのあたりの、ふくらみかけた、…未満?ふくらみ以下。口元。だから、やや上のほう。くちびるの、ややななめ上。なに?なにそれあれ?思った。こころに傷、傷め、美。こころを傷つけ、それ、…うつくしい、と。「…語るべきじゃないから」美。思っていた。だれ?そしてその…いつ?「もう、…ね?」なまめいた、しかも、…なぜ?たしかに「…語られるべきじゃないから」単に凡庸な≪流沙≫。ありきたりの「もう、…ね?」≪流沙≫。けれどもあくまでも鮮明。屈辱に似て、鮮明。鮮明に、しかも「覚えてる。たしかに」煽情的に、まじ?もうあきらかには称賛をさえ「忘れてなんか、…」つぶやけないほどに、…と、「忘れられなんか、…」なにそれあれ?とにかく、そんな、だから「忘れられた一瞬さえない。…ね?」うつくしいという言葉。単純なひびき。そのひとことを「傷み。もう」ひとことに…噓!「どうしようもない、…」つぶやくしかないわたしたちの、「傷み。でも、」噓!噓!——莫迦。わたし自身の「でも、…ね?」容赦ない愚鈍。…ね?「どうでもいいよ」と、その、だれ?もう≪流沙≫でなくなる寸前のころの≪流沙≫。だれそれあれ?かれはささやき、そうささやき、それらささやき。ささやかれていた言葉。櫻。…ね?まるで慰め、…なに?わたしを慰めるように。さらにいつくしむように。またはあたえるように。赦しをそっと。ちょっと。ぽんっと。つまり、いいよ。もう、いい。いいんだ。いんだよ。君は。君は。いまのその、君は。君のままでもう、君は。いんだよ。いいんだよ。
…と?
「よくないでしょ」
「なんで?」
だからそれは、かれが
あれ?…いま
さらららら
「イノチの問題じゃん。そんなものが」
「なんで?」
二十一歳のとき。だから
ゆれた、かな?
ゆらららら
「お前にとっても、それ、すっごい重要な、」
「なんで?」
もう楓は、そして「…なんで?」と、ふたたび念を押して見せた≪流沙≫。まだ≪流沙≫だった、それは≪流沙≫。しかも彼がくれた須臾のわたしたちふたりのふいの沈黙の中に、だからそのうつくしい唇のななめうえの口元を見つめるわたしは、「ふざけるな」
あれ?…いま
遠く、遠くに
なぜ?
散った、かな?
色彩はゆれた
そんな、あやうく沈黙を壊してしまいかねない言葉を?
ほら、…いま
ふうらっ
繰り返された「なんで?」その言葉さえ、わたしたちの沈黙をいたましくない程度に埋め、うすめ、いたましさをだけ隠し、だからいたましさをむしろひとつの容赦ないやさしさに変えるための、それは配慮?≪流沙≫。かれの無意識の配慮?それにすぎなかったのだ、と、「ちがう。…お前だって、ちがう。お前こそ、…ね?傷ついた。…だよね?それ、…じゃない?事実でしょ?あきらかに、…なぜ?それをなぜ、そんな言葉で、ぜんぶ、」
「もう」
「お前は、」
「どうでもいいんだよ」
かなしげでさえなかった。その
なぜ?…引き攣るの?
まだ、やや寒い
「なぜ?」
「だって、もう、ぜんぶ」
≪流沙≫は。もうわずかにも、そして
きみの、ほほ
あたたかくはない
「お前、さ」
「おわっちゃった。もう」
わずかな悔恨さえ、≪流沙≫。その
なぜ?…わななくの?
寒すぎない
「なに?ひとり勝手に」
「おわっちゃったこと。だから」
≪流沙≫は。もう、なつかしさ?
きみの、口元
わずかに寒く
「なに、病んでのんの?」
「おれたちに、…お前に」
せめてもの記憶のなつかしみさえ、その
なぜ?…ふるえるの?
痛みもない
「なに?」
「おれにも、だから」
≪流沙≫には。もう
うぶ毛のかがやき
肌はまだ
「犠牲者のつもりですか?」
「なにかいうべき言葉さえ」
だから、もう
なぜ?…きらめくの?
ゆるみもしない
「…ない」
「自己正当化なんかしてんじゃねぇよ」
ほほ笑み。わたしは。そして、だから≪流沙≫も。そのどうしようもないほどにやさしい、ほほ笑み。それはむしろ必死にふたりでそこにあるだけのほほ笑み。そこにあり得ただけの、そこにあり得るかぎりのやさしさをぜんぶかき集めて、ようやくわたしたちふたりのほほ笑み。口元にだけそっと散らして見せた、そんな、
「泣きそうな顏してる…」そう≪流沙≫は、そしてそのときにようやく言った。ささやき。だから聞き取れないほどのやさしいひびきのうちに。赦した。わたしは、やがて、その指先でわたしの唇にそっとふれた≪流沙≫——慰撫?
赦していた。慰撫。その指先のかすかなふるえごとそのゆびさきを。しかも≪流沙≫のすべてを。
「…お前、死ねよ」
わたしはつぶやいていた。だからその時にはすでに。それは
「…ね?」
「死んだほうがいいよ」
とろけて仕舞え
息吹きなど。もう
ひびき。まるで独り言散たような、そんな
「死んでお詫びを?」
「生きてる資格、お前に」
いま、すべて
何の息吹きも。兆しさえ
それはひびき。わたしは
「…ね?」
「死ねよ。もう」
とろけあっちゃえ
もう。何の兆しも
まばたき、その≪流沙≫は眼の前に、わたしの至近にきらって?あざやかなきららって?まばたき。ただきらって?いとおしい。「罪の償いって、なに?…ね?雅雪。おれに敎えてみて。なに?敎えさとしてみてよ、むしろ。おれに、…なに?ね?いま、つぐなわれるべき?…罪は。なら、…ね?つぐなわれ得て、だからつぐなわれなければならなくて、だからつぐなうしかないなら、…ね?敎えて。つぐないとは、なに?…ね?たとえば、見てる。おれたちは、孔。孔を。たとえば孔があって、でっぱりがあるって。孔にはでっぱりが入れられるべき。でっぱりは孔に入り込むべき。で、なにもなかったふりをするべき。孔なんてなかった。でっぱりもなかった。欺瞞…ちがう?それって、もうあきらかな欺瞞。…とか?虛妄。…とか?虛僞。…とか?錯覚。…とか?うそ僞り…とか?見かけだけの幻。…とか?…もしも孔に孔しかなかったら?もしもでっぱりにでっぱりしかなかったら?もしもすべての事象がひらいた孔としてだけ見い出されるべきだったとしたら?すべての事象が突き出すでっぱりとしてだけ見い出されるべきだったとしたら?…ね?おれに教えて。むしろ教えさとして」
「赦せないから」ささやく。わたしは。それは、「赦せ…おれが、赦せ、…すくなくともおれは、赦せないから」すぐさまに。≪流沙≫のことばにもう、打ち消すように、もう
血の匂い?
なつかしい、かな?
「お前、…さ」聲にかぶせさえして、その
飛び散っていた、血
それでも猶も
「お前って」それら、言葉。ひびき、耳。あくまでも≪流沙≫の言葉にだけ
血の匂い?
なつかしいのかな?
「こころ、ないの?」聞き耳を立て、立てつづけながら。ひびかない、言葉。ひびかない、ひびき。≪流沙≫。そのくちびるには美。うつくさ。だから沈黙。ささやきかけた、そしてささやかないままの美。うつくしさ。だからもうあやうくて、…なぜ?それはだから、いつ?
燃える、色彩
いるんだ、ね?
ない。なにも、その
まなざしにはもう
洪水のなかに
季節の記憶さえもない。だから
いつでも、すでに
氾濫のなかに
わからない。なんら、
燃える、色彩
いるんだ、ね?
その月、何月?そんなことなどわからない。すべ、推察のすべもなくまして、それが何日だったかなど。時間。朝、昼、晩。その記憶さえ。だからもう、本当はもう、そのやさしい口元の色彩。きらっと?その色の本当の気配さえきららっと?わからないのだった。たとえばきらっと?人工の間接照明に淡かったのか。直射の自然光にあからさまだったのか。うす暗がり?昏み、霞み?むしろ見出せないほどだったのか。だからわたしはここで与える。それらただ言葉のひびきにすぎない記憶にせめてもの香りを。与えた。いつも。その想起のたびに、わたしたちはそこ、わたしたちがそのときたしかに
燃える、色彩
もうすぐ、ね?
存在していた空間には
まなざしにはもう
この夜は空に
花。花。花。花で埋められ
いつでも、すでに
滅びるだろう
花だらけで、だからもうどうしようもない
燃える色彩
あざやかに
花たちのそれぞれの匂いのつらなかった、胸苦しいほどの?分別不能なそれぞれの胸を燒くほどの?香りたちの立ちのぼりの散乱。胸をくだくほどの?…それらのなかに喰え、花。埋もれていた、と。なぜ?鼻に。ただ、喰え、花。そうであってほしいから。わたしにとって、…そうでるべきだから。わたしたちは常に…じゃない?そうであるべきさだと、…なぜ?思われていたから。それは鮮烈。ひたすらに強烈な臭気。もはや惡臭。花たち。よこなぐりに花。花。花。花。射し込む光りに照らされて、——だから、それは這う。清純な朝。虫たちはそっとあまりにも茎さえ傷つけないように花に清らかに澄んでいた朝。
あっ…
ゆれた
花。這う。はっ
ね、しずく
くららって。いま
朝の花たち。匂い立ち、くさく、よどむ、くさく?無防備なまでにくさい?清冽な息吹きのなかにわたしたちは、謂く、
櫻たち
だから、その櫻たちについて
花びらたち
あるいは、そこに見られるべきだったそれら色彩について
野生の櫻を思う
それら。たとえばそこに
目。それらを見るべき
まなざしを欠き
野放しの櫻
それら。たとえばすでに
色。みんな滅び
まなざしは不在
自生の櫻
色彩は猶も、猶もゆらぎ
色彩は猶も、猶も綺羅めき
色彩は猶も、猶も散り
さらされた腐乱
野生の櫻。その下に
わたしと、…だれの?
色彩の包囲
剝き出しの悲惨
野放しの櫻。その下に
わたしと、…あなたの?
色彩の充溢
なすすべもない錯乱
自生の櫻。その花ら
だれもが不在の
色彩のなかに
まなざしのない
色めきのなかに
そのあざやかな色彩
しずかな、氾濫
ざわざわと
ゆらら。くら
くらら。ゆら
ざわざわと
しずかな、氾濫
そのあざやかな色彩
色めきのなかに
まなざしのない
色彩のなかに
だれもが不在の
自生の櫻。その花ら
なすすべもない錯乱
色彩の充溢
わたしと、…あなたの?
野放しの櫻。その下に
剝き出しの悲惨
色彩の包囲
わたしと、…だれの?
野生の櫻。その下に
さらされた腐乱
色彩は猶も、猶も散り
色彩は猶も、猶も綺羅めき
色彩は猶も、猶もゆらぎ
自生の櫻
まなざしは不在
色。みんな滅び
それら。たとえばすでに
野放しの櫻
まなざしを欠き
目。それらを見るべき
それら。たとえばそこに
野生の櫻を思う
櫻たち
だから、その櫻たちについて
花びらたち
だから、必ずしも見られてはいなかったそれら色彩について
無意味だよ。もう
その瞼さえ
目をひらくことさえ
その睫毛さえ
虹彩に綺羅
無意味だよ。もう
まばたくことさえ
猶も綺羅
猶も燃えていた
まなざしのそとに
虹彩に綺羅
猶も綺羅
猶も色彩ら
燃え上がるままに
好き放題に
すべて燃え上がり
噎せ返り
色彩ら。それら
自分勝手に
赤裸々に、しかも
ざわざわと
ゆらら。くら
くらら。ゆら
ざわざわと
無防備に、しかも
自分勝手に
色彩ら。それら
噎せ返り
すべて燃え上がり
好き放題に
燃え上がるままに
猶も色彩ら
猶も綺羅
虹彩に綺羅
まなざしのそとに
猶も燃えていた
猶も綺羅
まばたくことさえ
無意味だよ。もう
虹彩に綺羅
その睫毛さえ
目をひらくことさえ
その瞼さえ
無意味だよ。もう
すなわちその時には、≪流沙≫。もう終わるべきだった。わたしたちは。≪流沙≫。わたしも。≪流沙≫。ともに?…べつべつに?…かさなりあって?…とおく、遠く、とおく離れて?…終わるべきだった。もう、…ちかく、近く、ちかくあやうく?≪流沙≫。わたしたちは。だからあなたは、≪流沙≫。ひとり勝手に燃え上がったのだろうか?そこに。≪流沙≫。墮ちる焰。それは≪流沙≫。墮ちるひと。それは≪流沙≫。生き殘ったのは、≪流沙≫。それはわたし?…ただひとり?…それがわたし?≪流沙≫。知っている。むしろあなたは生き殘っていた。≪流沙≫。すでにわたしは滅びていたのだろう。だから生き殘り。それは、≪流沙≫。あくまで擬態にすぎなかったのだろう。あなたの、≪流沙≫。その滅びさえも、≪流沙≫。またはその生き殘りさえも、≪流沙≫。擬態にすぎなかったそのままに、≪流沙≫。まるでその模倣のように、だからわたしはそこに生き殘り、≪流沙≫。生き殘っていた。あなたに、≪流沙≫。もう、取り殘されることもないままに。かさねて謂く、
櫻たち
あふれていた
わたしは見ている。それは
あなたに、…ね?
だから、その櫻たちについて
それはいとしさ
わたしの存在しない風景。しかも
それはいとしさ
花びらたち
あなたに、…ね?
目覚めたわたしのまなざしのうちに
あふれていた
あるいは、そこに見られるべきだったそれら色彩について
野生の櫻を思う
叫び。もう
孤独など
そんなふうに
それら。たとえばそこに
すべて、叫び。…と
あり得なかった
すべて、叫び。…と
目。それらを見るべき
そんなふうに
そこに
叫び。もう
まなざしを欠き
野放しの櫻
知った
孤立さえ
だれが?
それら。たとえばすでに
…だれ?
あり得なかった
…だれ?
色。みんな滅び
だれが?
そこに
知った
まなざしは不在
自生の櫻
わめく聲。もう
ここにも
そんなふうに
色彩は猶も、猶もゆらぎ
すべて、わめき聲。…と
あそこにも
すべて、わめき聲。…と
色彩は猶も、猶も綺羅めき
そんなふうに
むこうにも
わめく聲。もう
色彩は猶も、猶も散り
さらされた腐乱
知った
どこに
だれが?
野生の櫻。その下に
…だれ?
なにも
…だれ?
わたしと、…だれの?
だれが?
息吹きさえ
知った
色彩の包囲
剝き出しの悲惨
泣き叫んでいること、それは事実
なんの救いも
鼻も、口も
野放しの櫻。その下に
もう、まなざしも
ない、なんの痛みも
もう、まなざしも
わたしと、…あなたの?
鼻も、口も
ない、なにも
泣き叫んでいること、それは事実
色彩の充溢
なすすべもない錯乱
なにもないのに?
まなざしさえ
だれもいないのに?
自生の櫻。その花ら
なにも、どこにも
せめて、だから
なにも、どこにも
だれもが不在の
だれもいないのに?
やさしさをだけ
なにもないのに?
色彩のなかに
まなざしのない
怒り狂っていること、それは事実
やさしさだけを、わたしたちは
頸からしたも
色めきのなかに
もう、頸からうえも
せめてあつめて
もう、頸からうえも
そのあざやかな色彩
頸からしたも
せめて見い出し
怒り狂っていること、それは事実
しずかな、氾濫
ざわざわと
ゆ、ゆ、ゆぃんっ…くっ
ひびきさえ。もう
く、く、くぃんっ…ゆっ
ゆらら。くら
るぃるぃるぃ
ざわわ
るぃるぃるぃ
くらら。ゆら
く、く、くぃんっ…ゆっ
ひびきさえ。もう
ゆ、ゆ、ゆぃんっ…くっ
ざわざわと
しずかな、氾濫
頸からしたも
せめて見い出し
怒り狂っていること、それは事実
そのあざやかな色彩
もう、頸からうえも
せめてあつめて
もう、頸からうえも
色めきのなかに
怒り狂っていること、それは事実
やさしさだけを、わたしたちは
頸からしたも
まなざしのない
色彩のなかに
だれもいないのに?
やさしさをだけ
なにもないのに?
だれもが不在の
なにも、どこにも
せめて、だから
なにも、どこにも
自生の櫻。その花ら
なにもないのに?
まなざしさえ
だれもいないのに?
なすすべもない錯乱
色彩の充溢
鼻も、口も
ない、なにも
泣き叫んでいること、それは事実
わたしと、…あなたの?
もう、まなざしも
ない、なんの痛みも
もう、まなざしも
野放しの櫻。その下に
泣き叫んでいること、それは事実
なんの救いも
鼻も、口も
剝き出しの悲惨
色彩の包囲
だれが?
息吹きさえ
知った
わたしと、…だれの?
…だれ?
なにも
…だれ?
野生の櫻。その下に
知った
どこにも
だれが?
さらされた腐乱
色彩は猶も、猶も散り
そんなふうに
むこうにも
わめく聲。もう
色彩は猶も、猶も綺羅めき
すべて、わめき聲。…と
あそこにも
すべて、わめき聲。…と
色彩は猶も、猶もゆらぎ
わめく聲。もう
ここにも
そんなふうに
自生の櫻
まなざしは不在
だれが?
そこに
知った
色。みんな滅び
…だれ?
あり得なかった
…だれ?
それら。たとえばすでに
知った
孤立さえ
だれが?
野放しの櫻
まなざしを欠き
そんなふうに
そこに
叫び。もう
目。それらを見るべき
すべて、叫び。…と
あり得なかった
すべて、叫び。…と
それら。たとえばそこに
叫び。もう
孤独など
そんなふうに
野生の櫻を思う
櫻たち
あふれかえっていたのだった
わたしは知った。そこに
胸をも喉をもうち碎き
だから、その櫻たちについて
それはいとしさ
あきらかなわたしの不在に、すでに
それはいとしさ
花びらたち
胸をも喉をもうち碎き
わたしなど消えてしかるべきだと
あふれかえっていたのだった
だから、必ずしも見られてはいなかったそれら色彩について
無意味だよ。もう
見ていた。それは
目覚め
それはあなた
その瞼さえ
ほほ笑むあなた
猶も
ほほ笑むあなた
目をひらくことさえ
それはあなた
目覚めてつづけて
見ていた。それは
その睫毛さえ
虹彩に綺羅
見ていた。それは
わたしはそこに
ささやくあなた
無意味だよ。もう
つぶやくあなた
それでも
つぶやくあなた
まばたくことさえ
ささやくあなた
そこに
見ていた。それは
猶も綺羅
猶も燃えていた
その聲など
矛盾もなく
わずかにさえも
まなざしのそとに
もう、なにも聞こえない
謎もなく
もう、なにも聞こえない
虹彩に綺羅
わずかにさえも
あるべきままに
その聲など
猶も綺羅
猶も色彩ら
見ていた。それは
ありうるかぎり
それはわたし
燃え上がるままに
泣きじゃくるあなた
ありえたままに
泣きじゃくるあなた
好き放題に
それはわたし
救済もなく
見ていた。それは
すべて燃え上がり
噎せ返り
見ていた。それは
行く先もなく
それはわたし
色彩ら。それら
胸を掻くあなた
戾る場所もなく
火を放つあなた
自分勝手に
それはわたし
目覚めたままに
見ていた。それは
赤裸々に、しかも
ざわざわと
ゆ、ゆ、ゆぃんっ…くっ
ひびきさえ。もう
く、く、くぃんっ…ゆっ
ゆらら。くら
るぃるぃるぃ
ざわわ
るぃるぃるぃ
くらら。ゆら
く、く、くぃんっ…ゆっ
ひびきさえ。もう
ゆ、ゆ、ゆぃんっ…くっ
ざわざわと
無防備に、しかも
それはわたし
目覚めたままに
見ていた。それは
自分勝手に
火を放つあなた
戾る場所もなく
胸を掻くあなた
色彩ら。それら
見ていた。それは
行く先もなく
それはわたし
噎せ返り
すべて燃え上がり
それはわたし
救済もなく
見ていた。それは
好き放題に
泣きじゃくるあなた
ありえたままに
泣きじゃくるあなた
燃え上がるままに
見ていた。それは
ありうるかぎり
それはわたし
猶も色彩ら
猶も綺羅
わずかにさえも
あるべきままに
その聲など
虹彩に綺羅
もう、なにも聞こえない
謎もなく
もう、なにも聞こえない
まなざしのそとに
その聲など
矛盾もなく
わずかにさえも
猶も燃えていた
猶も綺羅
ささやくあなた
そこに
見ていた。それは
まばたくことさえ
つぶやくあなた
それでも
つぶやくあなた
無意味だよ。もう
見ていた。それは
わたしはそこに
ささやくあなた
虹彩に綺羅
その睫毛さえ
それはあなた
目覚めてつづけて
見ていた。それは
目をひらくことさえ
ほほ笑むあなた
猶も
ほほ笑むあなた
その瞼さえ
見ていた。それは
目覚め
それはあなた
無意味だよ。もう
戦争って、どうなっちゃうのかね?と、その桧山と、ここで仮りに名づけておく年下の男は云った。「…知らねぇよ」一応、知ってるんですか?ロシアの侵攻。そっちでも結構、もうその話ばっかだったりすんの?「…ネット。ヤフー・ジャパンとユーチューブの日本語」ふいに、だからスマホのむこうで桧山の聲が笑った。その着信は時間がすでに夕方の五時をまわっていたことを知らせた。ラインの無料通話で、用もない日にも一日一回の定時連絡をするのが桧山の仕事だったから。…なるほど、ですね。ま、そんなもんか。コロナ、もうなんか飽きたしね。渋谷と代々木と広尾。完全に歌舞伎町をはなかったことにして島をひろげたわたしのカフェ・チェーンは、「そっちは?」…戦争?ま、そっちより近いし、なにもしないオーナーに任された桧山の…なんだっけ?北方領土?一括管理の下にあった。もう、よほどの古参社員以外、わたしの聲さえも聞いたことがない。…もう、毎日、「その話ばっか?」昨日コロナ、今日戦争…火山もありましたね…あと、地震も、「予言マニアは多忙だよ。今年は」…好きなの?でも、世代だよね?終末論の。地下鉄サリンとか。「莫迦?」特権。ホストあがりの桧山はわたしに唯一タメ語で話すことができる。年の離れた後輩だった。そっちって、共産圏でしょ?一応は。桧山が云った。…そっち的にはロシアって善玉なの?「惡玉なんじゃない?」…興味ないね?「あるよ。祈ってる。早期終結」…噓。桧山。はじめてわたしに男を知った。強引な導きではなかった。かれは勝手に眼の前の男に墜ちていて、ただ、自虐的で屈辱的な甘い苦悩の気配にあった。すでに。だから、あるいはわたしはそっと、かれを救った。すくなくともたとえば量子の波動や震動でありつづけるよりは、明確に粒だったかたちに自分を見い出したいはずだった。だから、かたちを与えた。かれにとって昏い強姦だったか、それとも唐突な目覚めの恍惚だった、それはわたしの知ったことではない。わたしに覆いかぶさるようにして、上半身にその上半身の翳りだけを落とす沙羅の、その鼻のあたまにふれてやった。だから左のゆび先で。表情は見とれない。淡い、逆光のままだったから。うえから降る光りにふれられている気がした。
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