流波 rūpa ……詩と小説110・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈17
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
うすいくちびる。あやうい
なぜ?…裏切り、と
なぜか、わたしは知る
そこに、裏切り
その意味を
うつくしいひと
そのほほ笑み
せつないほどに
昏い瞼。いかがわしい
なぜ?…嘲弄、と
なぜか、わたしは知る
そこに、あざけり
その意味を
かけがえないひと
そのまばたき
胸のいたむほどに、だからささやいた。…だれ?返り見た。だから、…いつ?その楓を。十四歳の、…なぜ?それ、色彩。逆光。昏み、そして白濁。綺羅にうぶ毛をもさらした際立ち。くまどり。翳り。さがした。わたしは。だから、すでに消え失せて消え去っていた消え去りかけの名殘り。ひびきの、もうなにもひびかせてはいなかった須臾の存在の消滅の名殘り。「なに?」と、そのささやき。わたしの。喉に。それは。わたしの、喉。そこにだけひびき、…というより聞き取られ、…というより兆しのみ知られ、だからささやき。そんなささやきなど唇にこぼれるまえには最初からすでに消えていた。しかも消えかけもせずにすでにひびき。耳に、ひびき。楓。その楓。ひびき。ささやき。それは、
「ぃるぅるばっ」
ノイズ。ノイズたち
聞かない。なにも
息を吹き、吹き
「るぃんど。ぅるぅうる、」
ふきこぼれた?それら
君の聲。その
吹きかけらように、
「すぃんはぁんだっ」
ノイズ。ノイズたち
聲以外には
しかも息を
「ひぃるぅい、」
とっちらかった?それら
聞かない。なにも
息を吹き、吹き
「るぃがぁんっばっ」
ノイズ。ノイズたち
すさまじい、もう
吹き込んだように、
「てぇいんだんって、さ」
はじけあってた?それら
轟音のなかでも
そして眉。まばたいた。かれの眉毛を見ていた。「…なに?」
ふいに、その瞬間にわれに、唐突に返っていたわたしはあわてて「ごめん。おれ、いま」楓に「聞いてなかった。…ね」ささやくのだった。「なに?」
「莫迦?」
笑うしかない。赤裸々に、その楓。知っていた。四維にひびく、ひびくともなく停滞し、停滞するともなくひびいてた聲。他人の聲の群れ。中学の、だから教室の、朝?…だから、おはよう、と。見ていた。ただ、邪気もなく
おはよう。ぼくら
はじけるよ。もう
くずれ、ゆらぎ、
ぼくらのこの
淚。せんさいな
くずれつづける楓の
殘酷な世界
怒りと憎惡そして嫌惡と罵倒の
顏。笑顏。知っていた。楓、その
おはよう。ぼくら
雫たち
細められ、わななくだけの虹彩に見られ、見い出されていたのはわたし。同じくに聲を立てて笑うわたし。その背後、…どこ?≪流沙≫。かれは?…どこに?かれも笑った?笑っていた?その聲、謂く、
ふさいでいたのだろう
耳を。むしろ
あきらかにひびく
その聲の群れのそば
話すべきではなかった
あなたは。楓
その姉の…だれ?
あの、名前
ののしる言葉
あなたは。楓
あかるく騒いで
騒ぎたてもして
ことさらに、まるで
親しいかのように
いまさらに、そこで
ゆがむくちびるに
それは影。まるで
あなたに沁みたかのように
不穏な翳り。まるで
あなたにからみついたかのように
あざける言葉
あなたは。楓
無造作にわめいて
笑いさえして
しゃくりあげる言葉
あなたは。楓
ひそめさえして
不意に、秘密めかして
ふさいでいたのだろう
耳を。むしろ
すべてはノイズ
わたしの言葉
それさえもノイズ
あなたの、楓
その言葉さえ
耳。ふれたささやきさえ
見て。そこで
わたしをだけ
見て。あきれるくらいに
わたしのことだけ
愚か。わたしは莫迦
死んだほうがいい
加害者だから
壊すものだから
たすけて。楓
いま、わたしだけを
いま、わたしだけを
たすけて。楓
壊すものだから
加害者だから
死んだほうがいい
愚か。わたしは莫迦
わたしのことだけ
見て。あきれるくらいに
わたしをだけ
見て。そこで
耳。ふれたささやきさえ
その言葉さえ
あなたの、楓
それさえもノイズ
わたしの言葉
すべてはノイズ
耳を。むしろ
ふさいでいたのだろう
不意に、秘密めかして
ひそめさえして
あなたは。楓
しゃくりあげる言葉
笑いさえして
無造作にわめいて
あなたは。楓
あざける言葉
あなたにからみついたかのように
不穏な翳り。まるで
あなたに沁みたかのように
それは影。まるで
ゆがむくちびるに
いまさらに、そこで
親しいかのように
ことさらに、まるで
騒ぎたてもして
あかるく騒いで
あなたは。楓
ののしる言葉
あの、名前
その姉の…だれ?
あなたは。楓
話すべきではなかった
その聲の群れのそば
あきらかにひびく
耳を。むしろ
ふさいでいたのだろう
すなわち凡庸なひと、と。なぜかいつもそう思い出す。まるで、昨日、別れたばかりであるかのような鮮明さで。ただ凡庸なひと、と。すでに、まともに見つめたことさえもないひと。名前さえ忘れた。その名前、姉、と。楓の姉、と、かろうじて記憶されていた、その鮮明なひと。なぜ?思い出すのだろう?そのときも、あのときも、いつも、一度もなかった。楓がかの女のことを話すことなど。すでに、存在しないにひとしかったから。かさねて謂く、
ふさいでいたのだろう
胸やけするくらい
ささやきあう
容赦ないまなざし
耳を。むしろ
そんな、それ
いつでも、それは
そんな、それ
あきらかにひびく
容赦ないまなざし
強姦するように
胸やけするくらい
その聲の群れのそば
話すべきではなかった
胸がくるしくなるくらい
ささやきあう
見つめたまなざし
あなたは。楓
そんな、それ
いつでも、それは
そんな、それ
その姉の…だれ?
見つめたまなざし
辱めるように
胸がくるしくなるくらい
あの、名前
ののしる言葉
なぜ?楓
ささやきあう
だれ?
あなたは。楓
そんな目で
いつでも、それは
そんな目で
あかるく騒いで
だれ?
貪りつくすかのように
なぜ?楓
騒ぎたてもして
ことさらに、まるで
見つめ
ささやきあう
なに?
親しいかのように
それ。その目で
いつでも、それら
それ。その目で
いまさらに、そこで
なに?
赤裸々な暴力
見つめ
ゆがむくちびるに
それは影。まるで
わたしを見つめ
いたぶる
だれ?
あなたに沁みたかのように
そんな目で
なぶる
そんな目で
不穏な翳り。まるで
だれ?
ぶちこわす
わたしを見つめ
あなたにからみついたかのように
あざける言葉
いたましいくらい
くだく
孔をなすまなざし
あなたは。楓
そんな、それ
かむ。かみ
そんな、それ
無造作にわめいて
孔をなすまなざし
くいちぎる
いたましいくらい
笑いさえして
しゃくりあげる言葉
いたましいくらい
さく。ひきさく
孔をなすまなざし
あなたは。楓
そんな、それ
えぐる
そんな、それ
ひそめさえして
孔をなすまなざし
咀嚼する
いたましいくらい
不意に、秘密めかして
ふさいでいたのだろう
もう、こわいくらい
ぬりたくる
咬みついたまなざし
耳を。むしろ
そんな、それ
ぬりこめ、むしる
そんな、それ
すべてはノイズ
咬みついたまなざし
むしりとる
もう、こわいくらい
わたしの言葉
それさえもノイズ
瞳孔は孔
けだものたち
孔。瞳孔は
あなたの、楓
ひらかれた口
ささやきあって
ひらかれた口
その言葉さえ
孔。瞳孔は
けだものたち
瞳孔は孔
耳。ふれたささやきさえ
見て。そこで
胸やけするくらい
匂いたつ
飢えてる?…飢えた?
わたしをだけ
そんな、それ
けだものたち
そんな、それ
見て。あきれるくらいに
飢えてる?…飢えた?
悪臭の散乱
胸やけするくらい
わたしのことだけ
愚か。わたしは莫迦
胸がくるしくなるくらい
けものたち
渇いてる?渇いた?
死んだほうがいい
そんな、それ
虛空をちぎる
そんな、それ
加害者だから
渇いてる?渇いた?
かみちぎる
胸がくるしくなるくらい
壊すものだから
たすけて。楓
ひびわれた地面が飲み込んだ
空間のゆがみ
ひびわれた空が飲み込んだ
いま、わたしだけを
だれを?
重力のあるじ
なにを?
いま、わたしだけを
ひびわれた空が飲み込んだ
けものたち、吼え
ひびわれた地面が飲み込んだ
たすけて。楓
壊すものだから
渇いてる?渇いた?
けものたち、吼え
胸がくるしくなるくらい
加害者だから
そんな、それ
重力のあるじ
そんな、それ
死んだほうがいい
胸がくるしくなるくらい
空間のゆがみ
渇いてる?渇いた?
愚か。わたしは莫迦
わたしのことだけ
飢えてる?…飢えた?
かみちぎる
胸やけするくらい
見て。あきれるくらいに
そんな、それ
虛空をちぎる
そんな、それ
わたしをだけ
胸やけするくらい
けものたち
飢えてる?…飢えた?
見て。そこで
耳。ふれたささやきさえ
孔。瞳孔は
悪臭の散乱
瞳孔は孔
その言葉さえ
ひらかれた口
けだものたち
ひらかれた口
あなたの、楓
瞳孔は孔
匂いたつ
孔。瞳孔は
それさえもノイズ
わたしの言葉
咬みついたまなざし
けだものたち
もう、こわいくらい
すべてはノイズ
そんな、それ
ささやきあって
そんな、それ
耳を。むしろ
もう、こわいくらい
けだものたち
咬みついたまなざし
ふさいでいたのだろう
不意に、秘密めかして
孔なしたまなざし
むしりとる
ひそめさえして
そんな、それ
ぬりこめ、むしる
そんな、それ
あなたは。楓
ぬりたくる
孔なしたまなざし
しゃくりあげる言葉
笑いさえして
だれ?
咀嚼する
わたしを見つめ
無造作にわめいて
そんな目で
えぐる
そんな目で
あなたは。楓
わたしを見つめ
さく。ひきさく
だれ?
あざける言葉
あなたにからみついたかのように
なに?
くいちぎる
見つめ
不穏な翳り。まるで
それ。その目で
かむ。かみ
それ。その目で
あなたに沁みたかのように
見つめ
くだく
なに?
それは影。まるで
ゆがむくちびるに
だれ?
ぶちこわす
なぜ?楓
いまさらに、そこで
そんな目で
なぶる
そんな目で
親しいかのように
なぜ?楓
いたぶる
だれ?
ことさらに、まるで
騒ぎたてもして
見つめたまなざし
赤裸々な暴力
胸がくるしくなるくらい
あかるく騒いで
そんな、それ
いつでも、それら
そんな、それ
あなたは。楓
胸がくるしくなるくらい
ささやきあう
見つめたまなざし
ののしる言葉
あの、名前
容赦ないまなざし
貪りつくすかのように
胸やけするくらい
その姉の…だれ?
そんな、それ
いつでも、それは
そんな、それ
あなたは。楓
胸やけするくらい
ささやきあう
容赦ないまなざし
話すべきではなかった
その聲の群れのそば
死んでたよ。そこに
辱めるように
死んで生まれた
あきらかにひびく
けものたちなら
いつでも、それは
けものたちなら
耳を。むしろ
死んで生まれた
ささやきあう
死んでたよ。そこに
ふさいでいたのだろう
なにも聞こえなかったから?…とどまりを知らないパンデミックの継続。さらに感染者数に関してだけ謂えば未曽有の繁殖をそこにも見せていたパンデミックの、しかしもはやロックダウンもされなくなった都市には、それでもひとびとの群れの息遣いと音聲の群れに溢れ返っていたはずだった。かつての外国人観光客をはごっそりとのぞいて。まだ、…四時?四時半?夜の散策がはじまるにははやいということなのか。ホテルの部屋の中に、奇妙なほどに息づく都市の、窓のそとに赤裸々なはずの息吹きは、なにも聞こえてこなかった。気づいた。たしかにいつもそうだった、と、唐突なその事実に。七階とは言えペント・ハウスだった。だから一応は高層階と呼ばれるべきそこまで、ひびき。地上を低徊するひびきなど聞こえてこない、と?時に湾岸道路を疾走する貨物か客車か大型車両のモーターのひびきが、まるで失踪した遠い他人の口の中の轟音のようにも聞こえ、それさえもただ静謐と、その空間にそんな気配を投げ落とす。沙羅はベッドに身を橫たえかけるわたしを見ていた。知っている。わたしの背後。まなざしのそとで。そして、ベッドのスプリングのへこみに添って、だからすこしだけ傾きを知る沙羅。その背中。
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