流波 rūpa ……詩と小説108・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈15





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   破滅的な、そのうつくしさ

   それは終末の時期に

   終焉の時期に

   だから終わりに


   破滅の、そのうつくしさ

   それは春の終わりに

   咲き乱れ、咲き

   咲きあふれ、咲き


   雪崩れのように

   色彩。鮮烈。むらさき

   崩れおちるように

   むらさき。崩壊。その色彩


   藤の花。うつくしさ。それが

   破滅でしかないうつくしさ

   見上げれば、美

   そのしずまりかえった殲滅は、だから好きだった。藤の花が。なによりも好きだった。わたしは。だからわたし。その、それ。まなざしのなかにわたしは藤が、その紫色の厖大な花々が好きだった。櫻。むしろあれら、しろい花々の散乱よりも。櫻の図太い樹木。ふてぶてしい儚さの乱舞。雪崩れ。むらさき色の、雪崩れ。藤。…なぜ?藤の花が好きだった。わたしは。それら、雪崩れる色彩。雪崩れない、雪崩れるかの、雪崩れるすれすれにあやうく存在しているのかの、だから終には雪崩れない、その雪崩れの色彩。あまりにも巨大な紫の散乱、と、「…夢みたい、…かも」ささやいていた。わたしの後頭部の、ななめうしろの方に≪流沙≫。かれ。それは≪流沙≫。その聲。もう逃れようもなく≪流沙≫。ただ≪流沙≫でこそありながらかたくなにその事実にだけは気づいていない、その≪流沙≫。…あれは、さ。

   なぜ、…だろう?

なに?

   なぜ、春の風は

あくまでも山崎さんと

   あたたかいの?

雅雪の、作品じゃん。…≪流沙≫。もう

   肌に、なぜ?

すでに、二枚目の音盤が

   なぜ、…だろう?

流通していた。それはすでに

   なぜ、風の匂いは

ひとびとの耳のそれぞれにそれぞれの息吹きに淫されていた。耳。耳ら、耳。いつか、予想を超えてもはや数うべくもないおおくの人々のそれに。耳。メディテーション・ミュージック。耳、耳。癒しの音楽。耳。奇蹟の音楽、…廃人…楓。廃墟のひびかせたひびき。耳、耳。廃人がこぼれおとしてしまった、耳。綺羅めき、耳、耳。奇蹟の綺羅。耳。…だから?燒身自殺をはかった。…で?しかも生き延びた。あるいは…だから?しくじった。その…で?廃人はさらに…だから?投身自殺をはかった。しかも生き延びた。…で?あるいはしくじった。生きること、…だから?悲惨?死ぬこと、悲惨。悲惨だね?悲惨しか目にあたえない、悲惨だよね?それ。耳。敗殘の廃人。その耳、耳。それ。相棒?…蘭?もと相棒なら、とっくに腐った花。蘭。もう廃人ですよ。腐った、廃人たちのたわむれでした。蘭。音楽。楓の、…しかも、楓の

   ささやき。あるいは

      嗅いでいた。すぐ

音楽。いま、奇蹟の

   耳を掻き、ふいに

      そばに匂った

ひびき。楓。しかももう

   消え失せた

      あなたの髮の

その名前などほとんど

   ささやき。それら

      しめった臭気

忘れられ、仮りに≪流沙≫。それは≪流沙≫。それが≪流沙≫。だから≪流沙≫と、その名でもう、そう呼ばれるようになっていた楓。しかも≪流沙≫と、その名に呼ばれた時にはかつての美貌の、…あれって、ほんとは女だよね?謎めいた美少年シンガー、楓。その形姿など≪流沙≫と、その名に呼ばれた時には≪流沙≫。そのひびきとともに忘れられて、≪流沙≫。だからまだだれもその姿を直に見たことのない≪流沙≫。悲惨と奇蹟の作曲家。廃人。まだ、あやうかった。二度目の自己破壊…未遂。から、生き延びれるかどうか。まだあやうかった。それは。春。そんなころ、春。その三月?四月?二度目の櫻。自殺未遂から、まだ櫻。あやうかった。春。散れ、櫻。殺さないけど。…ね?と、咲くとともに散れ、わたしは、櫻。あくまでも、…ね?と、金をつかませて。「好き?おまえ、櫻」かれの愚かな姉に…死ねば?

   淚?…それくさくない?

      溶けてるよ。その

「見に行かない?…櫻」…なに?なぜ、≪流沙≫、「好き?」

   猶も、淚?

      田舎もんメイク

「見たくない?…櫻」…なぜ?≪流沙≫、

   淚?…それなまあたたかくない?

      ファンデーションのすじ

きみは「好き?…櫻」むしろ、あなたのほうこそ死ねばいいのに。できそこないの姉。つかませて、必要以上の金を、…いいの?

好きにつかって。それは三月…の、終わり?…くらい?…か?…「いいよ。…じゃ、」四月の?いいの?

   もらってください

      あれ?

おれの気持ちだから。櫻、

   ぼくの

      魂が、いま

見ない?櫻?…スポット、

   かなしみ

      くだけたぐばっ

知ってる。「いいよ。…おれ、さ」スポット?だから「行こうよ。お前が、」六本木。「お前が、さ」旧防衛庁跡地のまだ「見たいんなら、」存在していた九十九年に、…だめだよ。

   感じてください

      あれ?

いいから、受け取って。できっ

   ぼくの

      精神が、いま

…できないから。おれ、

   いたみ

      とろけたぁいんっ

このくらいしか。こいつ、…楓に、これからもずっと、友達だった。おれら、…与える。…すっげぇ、いい友達。与える。…いいの?おれがかれにイノチを与える。…いいの?貰って。与える。かれに、イノチを、わたしは与え、与え、…いいよ。ありがと。与え続ける。受け取ってくれて、ありがと。…から、ね?だから流れよ。流れおちよ、その赤裸々な淚。…くそ。

   淚。いま

      見よう…。と、

ね、ね。なが

   あなたが発熱させていたもの。それが

      思ってた。せめてその色

流れよ。流れおちよ、その

   淚。ほら

      淚の、その

温度なす淚。…くそ。

「…やばい、ね」

受け取る、…ね。もうすぐ、…ごめん、…ね。世界、…ありがと、…ね。滅びるかもね。ノストラダムスのためには、ね。世界はやっぱ、滅びるべきじゃん?「好き?」

「なに?」と。だからわたしは返り見た。その、その日の≪流沙≫を。もうすぐ、夜のあけはじめる時間に。店は勝手に休んだ。歌舞伎町のホスト・クラブ。六本木の、≪流沙≫のための廃墟の櫻のために。そしてそれをわたしに見せられて驚嘆するべき≪流沙≫、その日、その時に≪流沙≫であることを止めて仕舞うその≪流沙≫のためだけに。

「こんなところに、こんな、…櫻」

「…でしょ?」

   ほのかで、さ

      あっ…と

跡地、その向かいの雑居ビルに

「咲いてたんだ…おれ、」

「なんか、こう、さ」

   でも、でもね?

      息をのむ

だから、無断の

「知らなかった。…な」

「綺麗じゃん。廃墟の櫻」

   あざやかで、さ

      のむ。のんだ。なぜ?

不法侵入?…とまれ

「來たこと、それくらい、きっ。あるけど」

「ここ?」

   鮮烈で、さ

      強靭な繁殖

櫻。その花のためには存在しない、ただ

「六本木。…でも」

「來るんだ?お前でも、こんなとこ」

   でも、でもね?

      あふれかえった

かたわらの照明に照らされて

「イメージ、なくない?…ここ、」

「櫻?」

   淡くて、さ

      ずぶといイノチ。…樹の

櫻。間接的に、むしろ

「ヒルズはもち、さ。おれでも、さ。知ってて、」

「だれと來るんだよ」

   浮き上がるような

      おぅっ…と

赤裸々に、ひたすら

「交差点?…知ってて、さ」

「こんなとこ、お前、だ」

   でも、でもね?

      息をのむ

あざやかに、夢?

「東京タワーとか?」

「麻布じゃない?それ」

   幻のような

      のむ。のんだ。なぜ?

夢のように、櫻。それら

「知ってる。…けど」

「何もない。ここ。ただ、退屈な、」

   非現実的な

      空間完全制圧。殘酷な

幻のように、櫻。だからフェンスに

「櫻、は、さ、…」

「ね?」

   でも、でもね?

      色彩の支配

覗き込み、櫻。網の目の下

「ないな。…そんなイメージ」

「好き?」

   あきらかな

      暴力的な

はるかな地表に櫻。散っていた

「櫻っていうイメージ、ここに」

「好きなの?」

   無造作に

      くはぅっ…と

白。…白。しろ。白。それら、櫻。お前も、と。その≪流沙≫は。照射。だれに?お前も、と。わたしに?ほほ笑み、それ。照らされたもの。櫻におなじく間接的に照らされていたもの。≪流沙≫。照らされたものたち。≪流沙≫。だから、照明たち。あわく、かれのためには存在しない、それらは照射。どこかの、…月?月の?照明、…星の?

「はじめて、知ったかも。…おれ」

だから、照射。三月の星たちの?

   見えるかな?

      儚い、な

「雅雪、ね?…おれ」

巨大な、力の…照射。炸裂のかたまりの?

   今日は

      こわれそう

「雅雪が、さ。櫻、」

その何百年もの、何千年もの、はるかな…しかもいまの照射。過去の綺羅そのいまの殘像。

   お空に、星は

      消えちゃいそう

「好きだったっていうこと、いま」

燃え上がり、照射。燃え上がり、照射。燃え上がっていた照射。破壊の赤裸々。ちいさな

   その、わずかな

      儚い、な

「櫻なんか、…さ。はじめて」

星たち。知った、と、≪流沙≫。その破綻する≪流沙≫。そのビルに燃えて、みずから燃えて、焰。ガソリンに引火した焰。ゆらっ。…に、ぼぉうっ。同じく?楓に。ぐぼぉうっ。かつての楓に。模倣?死へのヴァージンをやぶりかけた楓の、…なぜ、しかも模倣。墜ちた。燃えて、墜ちた。燃え上がり、墜ちた。燃え上がりながら、照射。…ね?見ていた。わたしは、…ね?泣きながら?まさか。茫然と?本当?…たしかに思わず口を両手に覆って、目は?そのわずかな上に、わたしの眼は?

   でさ。でさでさ

      なに?…ぼふっ

目は?

   でも。でもでも

      なに?…ばふっ

「…意外だった。なんか、おれ」と。≪流沙≫。まだ≪流沙≫だった≪流沙≫。最後の数分の≪流沙≫。知っていた。それら、一方的にささやく≪流沙≫の唇のこちらに言い訳?わたしは言い訳?…なぜ?わたしの喉の、だから好きってわけじゃ、じゃ、じゃ、ないけど、言い訳?聞くのだった。じゃ、じゃ、じゃ、耳は、それら、じゃ、じゃ、喉のノイズ。かなぐりたつ喉のノイズ。それらささやかれた言い訳。すでにわたしたちはふたり、フェンスをよじ登って越え、向こう。崖なすビルの尖端のふちに吹き上げる風に吹かれてみた。≪流沙≫は聲を立てて笑った。だからわたしも笑顏のままでいた、謂く、

   やさしくあって

   すぎたほどに

   やさしすぎるほど

   やさしくあって


   きみの最後は

   滅びの時は

   かぎりなく、もう

   泣き伏したいほど


   しあわせであって

   すぎたほどに

   しあわせすぎるほど

   しあわせであって


   きみのせめてもの

   失墜の時は

   どうしようもなく、もう

   わめきちらしたいほど


   きれいな光りは

   ふりそそげ

   あなたの最後

   その、阿鼻叫喚


   いま、阿鼻叫喚

   あなたの最後

   ふりそそげ

   きれいな光りは


   わめきちらしたいほど

   どうしようもなく、もう

   失墜の時は

   きみの終わりは


   しあわせであって

   しあわせすぎるほど

   すぎたほどに

   しあわせであって


   泣き伏したいほど

   かぎりなく、もう

   滅びの時は

   きみの最後は


   やさしくあって

   やさしすぎるほど

   すぎたほどに

   やさしくあって

すなわち見たいわけじゃない。でも、見ていた。息をひそめて?まさか。あえてそこに背筋をのばして。背伸びさえして。見ていた。昏い空を見上げたまなざし。そこに赤裸々に、燃えるように散り、散りかう白。しろ。それら白。櫻。

その花の

   もう、ね?

      いま?

色彩。色彩の、

   春。はっ…

      いま、もう?

乱舞。それら

   春だよ

      もう?

たぶん、あなたが最後に見たもの。燃え上がる目の、その燃える網膜に。浴びたガソリン。その雫さえ引火し、燃え、引火。豪火。焰。そして撒き散らす。その臭気を四維に、飛び散らせ。わななかせ。見ていた。あなたが最後に、たぶん見たもの。それは色彩。赤裸々に、燃えるように散り、散りかう白。しろ。それら白。櫻。

その花の

   もう、ね?

      もう?

色彩。色彩は、

   滅びた。はっ…

      もう、いま?

乱舞。それら

   あの冬は

      いま?

かさねて謂く、

   やさしくあって

      傷みをあげよう

    夜。昏み

     自分自身に

   すぎたほどに

      わたしに

    昏みの底に

     わたしに

   やさしすぎるほど

      自分自身に

    墮ちていった、ね?

     傷みをあげよう

   やさしくあって


   きみの最後は

      まるで、ささやかな

    焰。燃え

     自分にだけに

   滅びの時は

      ご褒美のように

    燃え上がり、焰

     ご褒美のように

   かぎりなく、もう

      自分にだけに

    なにを、道づれに?

     まるで、ささやかな

   泣き伏したいほど


   しあわせであって

      ほら、傷みだよ

    眩む

     燒ける

   すぎたほどに

      燃え上がり

    眩み、まばたきもせず

     燃え上がり

   しあわせすぎるほど

      燒ける

    眩んでる

     ほら、傷みだよ

   しあわせであって


   きみのせめてもの

      ほら、傷みだよ

    なにも見えはしなかっただろう

     燒ける

   失墜の時は

      燃え盡きず

    ゆらめく焰

     燃え盡きず

   どうしようもなく、もう

      燒ける

    その翳りだけ

     ほら、傷みだよ

   わめきちらしたいほど


   きれいな光りは

      傷みをあげよう

    夜の昏みさえ

     自分自身に

   ふりそそげ

      わたしに

    見なかっただろう

     わたしに

   あなたの最後

      自分自身に

    その翳りだけ

     傷みをあげよう

   その、阿鼻叫喚


   いま、阿鼻叫喚

      まるで、ささやかな

    焰は翳った

     自分にだけに

   あなたの最後

      恩寵のように

    あなたの瞼に

     恩寵のように

   ふりそそげ

      自分にだけに

    口蓋にさえも

     まるで、ささやかな

   きれいな光りは


   わめきちらしたいほど

      ほら、燃えてたよ

    眩んでる

     昏いまま、もう

   どうしようもなく、もう

      空さえ夜に

    眩み、まばたきもせず

     空さえ夜に

   失墜の時は

      昏いまま、もう

    眩む

     ほら、燃えてたよ

   きみの終わりは


   しあわせであって

      ほら、焰だよ

    なにを、道づれに?

     冴えたまま、もう

   しあわせすぎるほど

      大気は夜に

    燃え上がり、焰

     大気は夜に

   すぎたほどに

      冴えたまま、もう

    焰。燃え

     ほら、焰だよ

   しあわせであって


   泣き伏したいほど

      冴えたまま、もう

    墮ちていった、ね?

     ほら、焰だよ

   かぎりなく、もう

      大気は夜に

    昏みの底に

     大気は夜に

   滅びの時は

      ほら、焰だよ

    夜。昏み

     冴えたまま、もう

   きみの最後は


   やさしくあって

      昏いまま、もう

    だれ?叫んでるの

     ほら、燃えてたよ

   やさしすぎるほど

      空さえ夜に

    泣き叫ぶ。耳に、耳に至近の

     空さえ夜に

   すぎたほどに

      ほら、燃えてたよ

    だれ?叫んでるの

     昏いまま、もう

   やさしくあって

沙羅。ホテルに連れこんだ…連れこんだ?…日。だから、…救済?単に、転がり込んだ?その深夜。なぜその沙羅をシャワーで洗浄したのかわからない。そこに意志、または意図があったのかどうかも。それともいつもの惰性にすぎなかっただろうか?その、沙羅を暴力的にシャワールームにぶち込んだふるまいは。普通、砂と海水にふれれた肉体の表皮は、眞水で洗いながされるべきだから。いずれにせよ沙羅。肉体。あえぎ、えづく肉体を水浸しにして、そして止められた水流に、その肉体。唐突な苦痛の消滅。もう暴流じみた水の急流に肌も気管も傷めつけられていない事実をようやくさとった肉体は、ふと、顏をもたげた。ひと心地ついた、くずれた女の子ずわりの肉体。見えない。せまい空間の昏さ。わたしのまなざしの中に、だから翳り。その息吹きだけ。手を伸ばして照明をつけた。その瞬間に沙羅。その半身の無慚な燒け爛れた傷痕の氾濫を見た。まるで肌に寄生し、しかも這い、しかも自分では身動きがとれなくなっている、そんな。だから、はっと?わたしは息を飲んだのだろうか。その傷みに。普通に感じればただ傷ましいだけで余地のない傷ましさ。あるいは醜い、と?思わず眼をそらして仕舞ったのだろうか。後悔に苛まれながら?こんな生き物を部屋に担ぎ入れて仕舞ったじぶんを、まさに多大な過失そのものとして。あるいは憐れみを?眼の前に、あきらかに傷つき、その傷ついた肉体をさらす幼い肉体。眼にもあざやかな虐待…折檻…加害…その悲惨。それら、眼をおおいたくなる、しかもしこにはなんら事象の詳細をは明示していない、しかし、兆し。どうしようもなく明瞭すぎる顯らわれ。あるいは、だから共感?共鳴?…ないし、怒り。なにに?その、眼には見えない事象。それら、その群れ。見えなくも、しかしあったには違いない、なにか時空をゆがめた気がした赤裸々な顯らわれ。氾濫。かつ散乱。いずれにせよ慥かなのは、わたしが沙羅にちかよって、そのもはや褐色の肌を無防備にさらした沙羅。その四肢のこまかなふるえの間歇的な生起を、だから、身を屈めた。…どんなふうに?ひざまづくように、そして…なにを思って?あからさまな…なにを感じて?美貌。少年じみた少女の。または少女じみた少年の。半身にことさらに際立ったそれ。ふいに、思った。眼の前の肉体が少女なのなら、かの女は男親に似ていたのだろうと。逆に少年なら女親にそっくりだったに違いない。唐突に、なにか、屈辱的で自虐的ないとおしさがわたしに兆して、だから、その爛れたほうの頬にふれていた。ゆび先が。濡れた肌に水滴のむれの潤いと、しかも反発する皮膚のはりつけた乾きの触感。變形の表皮。そのざらつきとともに。肉体は確実に、猶もそこに生きていた。知っていた。沙羅。その表情の殘る美貌の半面。琥珀いろの虹彩のむこうにわたしを見つめているのを、そしてその沙羅。なすすべもなく昏いまなざしが浮かべるのが、たしかにやさしいほほ笑みであることも。










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000