流波 rūpa ……詩と小説107・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈14





以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またそのような一部表現によってあるいは傷つけてしまったとするなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。





あるいは、

   沙羅。褐色の肌

   その色彩に名づけた

   沙羅と。沙羅。それは

   白く咲くから


   沙羅。たどりつた

   異国。ふいに

   見出すのは、それら

   汚らしい軽蔑


   沙羅。ほら、人、人、人の姿の

   すべてに軽蔑

   下等、と、…他人ごとの

   笑みのした、差別


   沙羅。なら、なぜ、ここに?

   自虐として?すでに

   沙羅。処罰されるべき

   わたしは惡意。惡しきもの、ほくそ笑んだのは、それは九鬼蘭。…だれ?山田楓。かれが、家出して東京にたどりつき、…なぜ?わたしからも≪流沙≫からも姿をくらましてだれが?だれ?だから、すでにだれが?だれ?きみを追いだしたのは、だから消息の不明のしかもだれが?だれ?きみを追放したのは「なんか、…さ」なつかしく、ただ「すっごいひさっ」なつかしく、猶もなつかしいなどという言葉でさえも「ひさしぶりって謂う、そんな感じ、さ。全然しないんだけど。…さ。けど、一応、…」隔たり。「ひさしぶり、…だね?」あきらかな隔たり。なつかしさ。その気配がふいに生起した気それは乖離。息吹き。ひとりよがりの感傷などもはやよせつけはない切迫。せまり、押し寄せ、せまり、眼の前に、完璧にせまり、無防備に切迫していたいとおしさ。…愛?を、こそ…愛?撒き散らして、「かれのせいだよ…」わたしたち。「かれが、結局、楓を、…」愛。もう、赤裸々に、≪流沙≫。九鬼蘭…あの、ほら。楓のとなりにいるやつ。かれ。あれが、たぶん、結果として楓をつれさったんだよ。おれたちから、…ね?そう、再会のあとの…じゃない?いつかにそうささやいた、それは≪流沙≫。って、時系列まちがえてない?≪流沙≫。愛。かれにもわたしにもその名、楓。楓の名。楓。その名は禁忌にほかならない傷みだった。かれ。楓。その不在の期間には。傷み。だから血をながすいたっ…傷だった。傷いたっ…そのものにだけなりおおせていたいたっ…三年ほどの不在。きみはどこ?不在のどこどこ?あいだに、ぼくは

   敎えて。たとえば

      あしたは、雨が

ここ。わたしたちは

   滅びをうたう詩人は

      雨がふりそうだ

十六歳になった。わたしたちは。だから、やがて

   自分の血まみれの屍に

      もう、雨が

十七歳になった。わただから、やが

   なにをつぶやくのだろう?

      雨だけが降っているから

十八歳になった。…って、それで、やがてはなるだろう。それぞれの日付けになるだろう。もう、十九歳にもなろうとしてる、その…なに?日々。まなざしにさらされつづけるしかないあきらかな日々。それら、いまや、その日々。留保ない回想のなかにしかいまや存在し得ないその日々。の、「おれも。…ぜんぜん、ひさしぶりって、」

「でしょ?」

「テレビとか、雑誌とか?…ほら、おまえ」日の群がり。時期。不在。たしかに、だからこそより一層の耐えられなさで「≪あす・ゆめ≫?」その名をじぶんでつぶやいすぐさまに軽蔑。楓。三年ぶりの?再会の楓。なぜ、故意に見えた軽蔑の色を、不在。その虹彩に、だからこそわたしにも≪流沙≫にも忘れられることなどなかった楓はその不在に於いてさえあきらかにどこ?存在し、存在しつづけて…どこ?きみは、どこ?存在し、たしかに、ここ。ぼくは、

   敎えて。たとえば

      あしたは鉛が

ここ。たぶんもう

   愛をうたう詩人は

      鉛が降りそうだ

二度と遇えないのだと

   自分のいつかの性交の腰振りに

      もう、鉛が

確信?やだ。ただ

   なにをつぶやいたのだろう?

      鉛だけが降っているから

せつないやだ。やだよ、やだ。悔恨——なぜ?…傷み。その対象はあくまでも不在の楓。その存在。きみは…いつでもそばにいた、きみは…それは楓。そのきみは…十七歳の時に出逢ったのがかがやいてた、かな?「あれは、おれの音楽じゃないから」九鬼蘭なのだと、後のかなしかった、かな?再会に楓はもうこわれてた、かな?かれがやがて紹介したのだがこわれそうだった、かな?憎しみ?…九鬼?

   敎えて。たとえば

      あしたは内臓が

あるいは。九鬼蘭。あたらしい

   戦争を政治的技法と呼んだ詩人は

      内臓が降りそうだ

パートナー。嫉妬?…蘭。嫉妬?

   吹っ飛ぶ脳漿と

      もう、内臓が

あるいは。ユニット。フェミニンな顏の

   踏みつぶされた眼球に

      内臓だけが降っているから

ボーカル・ユニット。嫌悪?…だれ?

   なにをつぶやくのだろう?

      ね?…見てごらん

お前、だれ?あるいは。親しみ。…と、そしていとおしさ。そのふたつ以外のさまざまなあらゆる感情をだけ掻き立ててもう、「東京に出てきたころに、さ」九鬼。蘭。うつくしくない「渋谷で…なんか」蘭。撒き散らすように「ライブ・ハウスで、さ」掻き立ててもう、「会ったの。こいつと」

「知ってる」九鬼。蘭。花やぎのない「なんで?」蘭。かなぐるように「聞いた。…その話」

「どこで?」掻き立ててもう、「テレビでしゃべってたじゃん。その、九鬼さんのほうが」蘭。九鬼、香りのない「フジのやつ」蘭。かれ。それが九鬼だった。そしてもう、どうしようもなく老いさらばえてわたしの眼の前にあらわれた。あらわれるべくもない、もう存在しない九鬼蘭。なぜ?しかもそのあり得なさをいっさいそこに感じさせなかった自然さで、それはベトナム中部の町。ダナン市の海辺のホテルのペントハウスに、…やっ、と。「相変わらず、だね」と。ややっ、と。ほくそ笑んだ、それはやぁ、やぁ、やぁ、と。だからたしかに老いさらばえた九鬼。ウクライナで侵攻ではじまって、パンデミックはすでに話題として飽和状態で、しかもまだおわらずに夏。それは、肌寒い夏。三月。亜熱帯の、だから海で火山の噴火した年のすずしすぎる「なんか、すっげぇ…」夏。敎えて、たとえば

   燃えるような

      あ、あ、あ、…

戦略核兵器と殲滅核兵器の

   火を、火を

      っつ、あ、

だから、違いはなに?夏、

   火を吹くような

      っつ、あ、あ、…

春?しかも「ひっさしぶりに顏あわせるんだけど、さ」うららかな春?日本では。ここでは旧正月の前後数か月以外ことごとく夏めいた息吹きしか大気はさらさないのが普通だったから。「…お互いに、——ね?」

「ね、じゃないよ」九鬼はささやき、そしていつもの不遜なまなざしに、そっと、その見慣れた無造作な不遜。かつてのいつも、たしかにそうだった、だからそのままに不遜。そしてそれら無数のいつものいつものように、九鬼はすぐさまに目を逸らした。投げつけ合った眼差しが衝突していたその事実にはじかれたにも想えて。目。見つめられないの?目。空間を、目。ずれ、ずれて、流れ、目。ふさわしい所在の唐突な喪失。そんな。あるいは所在の不当への突然の気づき。そんな。いずれにせよ九鬼。もともとかれは人の目をしっかり見てものを云うたぐいの人間ではなかったし、なぜ?あるいは非常に有名な男。すくなくともその唄声をはだれもが知っている。もっとも、ちゃんとなんらかの情報なり記憶なりの想起をともなう既知のものとして認識できるのはある限られた世代以上ということには違いなくも。ただ、からっぽな既知感覚というだけならだれも、だれもが、…だれ?日本人のだれもが一度は耳に知っていたに違いないもの。そんな聲だった時期がある。≪あす・ゆめ≫と省略されて呼ばれていた男のふたりのシンガー・ユニット。所詮みじかい一年数か月に限る、かれらの黃金期。

「なにが?」

「なにって…」九鬼は目を逸らしたままに、痛いの?まるで、あなたひとり痛いの?苛烈な傷み、もはや重圧でしかない傷み。そのぶあつさ。それをなんとかしのぎ、しのぎ、飲み込めないほどのぶあつさ。やりすごしていたかのようにあやういね。「おれに、なんの連絡もよこさずに」

「どっちが…」思わずわらうわたしはあやういね。なんか、…九鬼に、痛いの?まるで、あなたひとり苛烈な傷み、もう重圧にほかならない傷みのぶあつさをなんとかあやういね?なんか…ようやくしのいでるかのようにそっと、そっと?やさっ、…おしつけがましく?やさっ、…しかもそっと、ちょっと、やさしいまなざしを。そこに、そして、わたしはそのあやうさに稀薄な笑みをささげた。九鬼が。「連絡不通になったの、むしろお前のほうからでしょ?」

「それ、だれのせい?」

「おれなの?」笑い聲。じぶんひとりがひとりでにたてた、そしてじぶんの耳に違和をのみ殘ししかもふれつづける聲。その笑い聲にさえわたしはもう、退屈をだけ痛いの?まるで、あなたひとり苛烈な傷み、もう重圧にほかならない傷みのぶあつさを、そこでなんとかかろうじてしのいでるかのよ「こんなとこに、…さ。ひとりで、…さ。しかも、そんな男の子なんか…なんか、勝手にしけこんじゃって、さ」

「おれのせい?…」

   黙れ!…もう

      痛いのかな?

「それで、おれたちみんな」

「って、いうか、ぜんぶ」

   窓のそとには、爆弾の雨

      もう、治ったかな?

「…捨てちゃったつもりなんでしょ?」

「お前のせいだとおもうけどね。俺は」もはや、笑みのわずかなない。ない。なかった。殘存さえ頬にも、…だれ?笑みなど…口元にも、…なに?笑みなど…瞼にも笑みなっ、な、な、…目じりにも殘せなかったわただから、そっとかたわらに沙羅。そう名付けた、あやういほどに、…沙羅。かの女のおさなさの殘る頭を…なぜ?なぜた。…なに?

「だいたい、その子、なんなの?」

なにが起きているのか理解しない、沙羅。十三歳?、の…勝手な決めつけ。実年齢など、「いたいけもない、…さ」かの女は、むしろ柔順にわたしをだけ見上げつづけていたまま、あら?…ベッドのふちに「まさか、拉致ったんじゃないねよ?」あらっ?…すわりこんだまま、わたしを「親は?…了承済み?」あらっ?あんただれ?見上げていた。あるいは「少年。…」それは「おまえ、…」恩寵なのだった。沙羅。その褐色の、瘠せた「日本語しゃべれるのかな?こいつ」九鬼はわたしにささやいた。いきなり。頸を橫に振るわたしを、だからただ歎かわしいまなざしに…なぜ?九鬼は、見。沙羅。愛撫。ふいの、マスターによる愛撫。それは沙羅には、かの女には、恩寵?笑みかけて、九鬼はだから吼えて見ろ、愛撫。よろこびいさんで、ぐおぉぉぉ…愛撫。ただ、

「年、とったね」

「お前は、でも」

   ぼくらは、ね

      冷たい空気が

わんっ、と?ふってみろ、沙羅。喜び勇んで、その

「老いさらばえた、…かな?でも」

「老けないね。まるで」

   殺し合う。いま

      海を撫ぜてていた

腰を、もう、がくがくっ。骨格さえ

「綺麗なまま。お前は、やっぱり」

「二十年前っていう、そんな昨日の、十何時間か前に、」

   ほほ笑んでいてさえ

      なんでだろう?

内側からへし折れそうな勢いで、きゃん。きゃ、きゃぃっ、そして

「うつくしいよ。実際」

「別れたみたいに」

   ぼくらは、ね

      なんでだろう?

体中、痛みにむせかえりながら、それは立てつづけの悲鳴、

「くやしいほどに、…ね?」

「楓のつぎに、…でしょ?じゃない?」

   ぶち、ぶち殺、ころ、

      凍った空気が

きゃいんきゃいっきゃいっ「…は?」と、いまさらにわたしを返り見、その何秒?一、二、三、…くらい?。すぐさまに、…くらい?。だからぎゃいっもう九鬼は眼差しをながして仕舞ったあとだった。不本意であることをいまさら、ことさらにその眼差しにも口先にも誇示してかれは「楓なんて…」

それは擬態。あくまでも、その独り言散るに似たつぶやき、その表情は、「知ってる」擬態。わたしは、「…知ってるよ」擬態。九鬼のためにやさしい聲をつくって、そうやさしく。やさしく。やさしくささやくのだった。事実、こころは

   あなたのしあわせのために

ただ九鬼のためだけに

   この世界は

ささげられたやさしい

   朽ち果てた

息吹きにのみ満たされ、とけ、とろけあってすでになじみきっていたから。「理解してる。言わないだけで。…俺は」

「…噓。どうでもいんでしょ?」

「知ってる。おまえのために、理解してる」

「さらに、噓」九鬼はそして、ひとり窓際に歩いて、だから光り。それら、莫迦らしいほどに無造作な窓越しの光りをそこにあびた。知っている。わたしは、かれが見い出しているべきは海。遠い波立ち。もはや波紋をさえつくらない波。無際限な震動。そのまなざし。そこにひろがり、そしてそれを埋めつくしているべきは海。ただ鮮明な綺羅の無数の風景であるべきだった。事実、網膜に白濁を散らし、そのまなざし。その事実は

   あなたの須臾のまばたきのために

まさに、そうだった。たとえ、その

   この世界は、いま

意識がまなざしに

   失墜した

存在しない、背後のわたしをしか見い出していなかったにしても。「…やっぱり」沈黙?と、ふたりの唇も喉もそろってなにも沈黙?発話しなかった以上、そうには違いなくも、沈黙?決して沈黙など。わたしも。九鬼も。だから「でも、さ、」それは、発話のない饒舌?そんな「やっぱり、おまえは、さ、」空隙——充滿した空隙。そこからふいにこぼれおちたかのように、「おまえは綺麗だよ」だから、それは九鬼。

「燒け殘った半分が、でしょ」

「燒け爛れた半分の方も」

自分で燒いた。わたしは。ガソリンをあびて、そして火を、だから同じように。あの≪流沙≫。そして楓と。ちょうどひだり半分だけがきれいに燃えた。爛れた。引き攣った。半身だけ。あの≪流沙≫とも、そして楓とも違って。かれらは全身が燒けた。九十パーセント以上が。九鬼。その九鬼は背をむけたまま、かたくなにわたしを返り見ない。拒否?…だから拒絶されているように感じ、拒絶?拒否。それでなければ戦略的なシカト、とでも?その戦略の目的。それがなにかわたしにはついに理解できそうもなかった。「きれい、…じゃない。みにくい。…やっぱ、実際、みにくいよね。お前。けど、さ。なんか見ちゃうんだ。その半分も。なぜか。その、燒け爛れた肌の下に、ある…の、かな?あるはずの?あってほしい?あったはずの?…ないけど。もう、なにも、もちろん何も殘ってないんだ、けど、…さ。焰が、たぶん、ふれることさえできずに燃えつきちゃった綺麗なままのお前」

「嫉妬?」

「かも。…実際、おれも、たぶん、楓も、どうしようもなくお前に嫉妬してたんだよ」と、その「たぶん、…」自分勝手なひとり語りに「…ね?」ふいの気づき。わたしは気づくのだった。九鬼。その九鬼。かれは振り向くことが

   あやういじゃん

      咬め。か、か、

         さわったら

できないのだった。あやうく

   なんか、ね

      花。咬みちぎれ

         爆発しちゃうぞ

わたしを、たとえば

   あやうすぎんじゃん

      咬め。か、か、

         さわったら

五秒以上そこで見つめて仕舞えばその心はも、も?…も。なにも、なにもかも、もうほんとうにもう跡形もなく壊れて仕舞うから。なぜ?そんな被虐を、…被虐?それでも猶も戀?…戀と?愛と?なんと?謂く、

   死者たち。それら

   翳りについて。いま

   死者たち。それら

   色彩のない翳りらは


   いつから?

   わたしの、まざしに

   まなざし?それら

   こころのなかに?


   まさか

   虹彩のそこ?どこに?

   白濁に?それら

   琥珀の綺羅に?


   いつから?

   わたしの、そこ?網膜に?

   視神経に?それら

   須臾のゆらぎに?


   見つづけていた

   たぶん、あの月

   水の底の月。それら

   その向こうに?…月


   そこにも、どこ?見ていた

   そのときにさえ、いつ?月

   冴えきった月。それら

   だから無数の月たち


   波だちらに映え

   波立つまま。ゆれ

   ゆらぎ、ゆれうごき、ゆれ

   無数の月たち


   死者たち。それら

   翳りについて。いま

   死者たち。それら

   色彩のない翳りらは


   色彩のないまま

   なにを?わたしは、…だれ?

   だれが?あざやかに、それら

   あきらかに見た


   それら死者たち

   色彩をしか見ないはずの

   まなざしは見ていた。それら

   それら死者たち


   死者たちのなかに

   あなたを見ていた

   まるで死者たち。それは

   それら、一群のなかに


   赤裸々なきわだち

   それはあなた、…だれ?

   だれが?あざやかに見た

   あきらかに見た


   それら死者たち

   色彩をしか見ないはずの

   まなざしは見ていた。それら

   それら死者たち


   明晰に。猶も、これ見よがしに

   くもりもなく。それら

   翳りさえなく。それら

   明晰に。猶も、これ見よがしに


   それら死者たち

   まなざしは見ていた。それら

   色彩をしか見ないはずの

   それら死者たち


   あきらかに見た

   だれが?あざやかに見た

   それはあなた、…だれ?

   赤裸々なきわだち


   それら、一群のなかに

   まるで死者たち。それは

   あなたを見ていた

   死者たちのなかに


   それら死者たち

   まなざしは見ていた。それら

   色彩をしか見ないはずの

   それら死者たち


   あきらかに見た

   だれが?あざやかに、それら

   なにを?わたしは、…だれ?

   色彩のないまま


   色彩のない翳りらは

   死者たち。それら

   翳りについて。いま

   死者たち。それら


   無数の月たち

   ゆらぎ、ゆれうごき、ゆれ

   波立つまま。ゆれ

   波だちらに映え


   だから無数の月たち

   冴えきった月。それら

   そのときにさえ、いつ?月

   そこにも、どこ?見ていた


   その向こうに?…月

   水の底の月。それら

   たぶん、あの月

   見つづけていた


   須臾のゆらぎに?

   視神経に?それら

   わたしの、そこ?網膜に?

   いつから?


   琥珀の綺羅に?

   白濁に?それら

   虹彩のそこ?どこに?

   まさか


   こころのなかに?

   まなざし?それら

   わたしの、まざしに

   いつから?


   色彩のない翳りらは

   死者たち。それら

   翳りについて。いま

   死者たち。それら

すなわちそれは月。ゆらぐ。ゆらぎ、ゆらぐ、月。それ、それら。だから月。水に映え、それ、それら。映え、それ、それら、ゆらぎ、だから無数に映えていた月。むしろそこに生えていたように?自生?そこに。だから月。それら、自生の月ら。それ、それら。だから数うべくもなく、…なぜ?月たち。…なぜ?ゆらぐ波だち。飛沫?波たち。…ゆらぐ波だち。…飛沫?どこに?さらされた。綺羅だけが。散乱。煽り、散乱。わななき散乱。昇る。それら昇り、のたうつしずかな水泡。ぷちっ。水泡の群れ。ぷちちっ。生滅のぷちっ。綺羅。それらにかき乱されて、それらにかき乱れて、それら、だから無際限に…なぜ?ゆらぐ。ゆらぎ、ゆらぐ、月たち。ほら、いま、滅びたよ。波たち。波だちのひとつ。波たち。ひとつひとつがまたひとつ、滅ぼしていたよ。それら、だから月たちは生滅。無際限に、明滅し、かさねて謂く、

   死者たち。それら

      わかるでしょ?

    親しむ

     わたしは、わたし

   翳りについて。いま

      わかる?

    なぜ?…だって

     わかる?

   死者たち。それら

      わたしは、わたし

    見ず知らずの

     わかるでしょ?

   色彩のない翳りらは


   いつから?

      たしかに、わたし

    赤裸々な他人

     たしかに、あなた

   わたしの、まざしに

      わたしは、あなた

    見ず知らずの

     わたしは、あなた

   まなざし?それら

      たしかに、あなた

    ただの他人

     たしかに、わたし

   こころのなかに?


   まさか

      わかるでしょ?

    親しむ

     あなたは、わたし

   虹彩のそこ?どこに?

      わかる?

    なぜ?…だって

     わかる?

   白濁に?それら

      あなたは、わたし

    ほほ笑むから

     わかるでしょ?

   琥珀の綺羅に?


   いつから?

      わたしは、ことば

    見ず知らずのあなたは

     あやうい凶器に

   わたしの、そこ?網膜に?

      ことばは凶器

    すでに、わたしも

     ことばは凶器

   視神経に?それら

      あやうい凶器に

    わたしにも

     わたしは、ことば

   須臾のゆらぎに?


   見つづけていた

      かろうじてすがる

    親しむ

     裸のままで

   たぶん、あの月

      あやうい猨が

    なぜ?…だって

     あやうい猨が

   水の底の月。それら

      裸のままで

    そこに息吹くから

     かろうじてすがる

   その向こうに?…月


   そこにも、どこ?見ていた

      あやうくつぶやく

    だれが?

     あやうくまばたく

   そのときにさえ、いつ?月

      あやうくささやく

    いま、だれ?

     あやうくささやく

   冴えきった月。それら

      あやうくまばたく

    だれが、いま?

     あやうくつぶやく

   だから無数の月たち


   波だちらに映え

      わたしは、知性

    なにが?

     だから狂人

   波立つまま。ゆれ

      知性は狂気

    いま、なに?

     知性は狂気

   ゆらぎ、ゆれうごき、ゆれ

      だから狂人

    なにが、いま?

     わたしは、知性

   無数の月たち


   死者たち。それら

      狂人たちにはすべがない

    吼えていた

     せめてもの生存のために

   翳りについて。いま

      かろうじてすがる

    …ね?

     かろうじてすがる

   死者たち。それら

      せめてもの生存のために

    裸の猨が

     狂人たちにはすべがない

   色彩のない翳りらは


   色彩のないまま

      すべて、あやうい

    啼いていた

     なにもかも

   なにを?わたしは、…だれ?

      あやうくゆらぐ

    …ね?

     あやうくゆらぐ

   だれが?あざやかに、それら

      なにもかも

    冴えきった目に

     すべて、あやうい

   あきらかに見た


   それら死者たち

      猨はもう、死んでいた

    いっちゃった目だよ

     だから、せめて話し合おうか

   色彩をしか見ないはずの

      裸の猨は

    飛んじゃった目だよ

     裸の猨は

   まなざしは見ていた。それら

      だから、せめて話し合おうか

    きめちゃった目だよ

     猨はもう、死んでいた

   それら死者たち


   死者たちのなかに

      せめてもの倫理について

    それは燃える目

     せめてもの生存のために

   あなたを見ていた

      かろうじての倫理について

    眼球もないのに

     かろうじての倫理について

   まるで死者たち。それは

      せめてもの生存のために

    燃さかるだけの目

     せめてもの倫理について

   それら、一群のなかに


   赤裸々なきわだち

      猨は最初から、死んでいた

    それは燃える目

     だから、せめて話し合おうか

   それはあなた、…だれ?

      裸の猨は

    焰もないのに

     裸の猨は

   だれが?あざやかに見た

      だから、せめて話し合おうか

    燃えさかるだけの目

     猨は最初から、死んでいた

   あきらかに見た


   それら死者たち

      せめてもの倫理その可能性について

    頭、吹き飛ばし

     せめてもの生存その可能性のために

   色彩をしか見ないはずの

      かろうじての倫理その可能性について

    笑った、…ね?

     かろうじての倫理その可能性について

   まなざしは見ていた。それら

      せめてもの生存その可能性のために

    猨。その裸の猿は

     せめてもの倫理その可能性について

   それら死者たち


   明晰に。猶も、これ見よがしに

      だから、せめて話し合おうか

    猨。その裸の猿は

     猨は最初から、死んでいた

   くもりもなく。それら

      裸の猨は

    笑った、…ね?

     裸の猨は

   翳りさえなく。それら

      猨は最初から、死んでいた

    頭、吹き飛ばし

     だから、せめて話し合おうか

   明晰に。猶も、これ見よがしに


   それら死者たち

      せめてもの生存のために

    燃えさかるだけの目

     せめてもの倫理について

   まなざしは見ていた。それら

      かろうじての倫理について

    焰もないのに

     かろうじての倫理について

   色彩をしか見ないはずの

      せめてもの倫理について

    それは燃える目

     せめてもの生存のために

   それら死者たち


   あきらかに見た

      だから、せめて話し合おうか

    燃さかるだけの目

     猨はもう、死んでいた

   だれが?あざやかに見た

      裸の猨は

    眼球もないのに

     裸の猨は

   それはあなた、…だれ?

      猨はもう、死んでいた

    それは燃える目

     だから、せめて話し合おうか

   赤裸々なきわだち


   それら、一群のなかに

      なにもかも

    きめちゃった目だよ

     すべて、あやうい

   まるで死者たち。それは

      あやうくゆらぐ

    飛んじゃった目だよ

     あやうくゆらぐ

   あなたを見ていた

      すべて、あやうい

    いっちゃった目だよ

     なにもかも

   死者たちのなかに


   それら死者たち

      せめてもの生存のために

    冴えきった目に

     狂人たちにはすべがない

   まなざしは見ていた。それら

      かろうじてすがる

    …ね?

     かろうじてすがる

   色彩をしか見ないはずの

      狂人たちにはすべがない

    啼いていた

     せめてもの生存のために

   それら死者たち


   あきらかに見た

      だから狂人

    裸の猨が

     わたしは、知性

   だれが?あざやかに、それら

      知性は狂気

    …ね?

     知性は狂気

   なにを?わたしは、…だれ?

      わたしは、知性

    吼えていた

     だから狂人

   色彩のないまま


   色彩のない翳りらは

      あやうくまばたく

    なにが、いま?

     あやうくつぶやく

   死者たち。それら

      あやうくささやく

    いま、なに?

     あやうくささやく

   翳りについて。いま

      あやうくつぶやく

    なにが?

     あやうくまばたく

   死者たち。それら


   無数の月たち

      裸のままで

    だれが、いま?

     かろうじてすがる

   ゆらぎ、ゆれうごき、ゆれ

      あやうい猨が

    いま、だれ?

     あやうい猨が

   波立つまま。ゆれ

      かろうじてすがる

    だれが?

     裸のままで

   波だちらに映え


   だから無数の月たち

      あやうい凶器に

    そこに息吹くから

     わたしは、ことば

   冴えきった月。それら

      ことばは凶器

    なぜ?…だって

     ことばは凶器

   そのときにさえ、いつ?月

      わたしは、ことば

    親しむ

     あやうい凶器に

   そこにも、どこ?見ていた


   その向こうに?…月

      あなたは、わたし

    わたしにも

     わかるでしょ?

   水の底の月。それら

      わかる?

    すでに、わたしも

     わかる?

   たぶん、あの月

      わかるでしょ?

    見ず知らずのあなたは

     あなたは、わたし

   見つづけていた


   須臾のゆらぎに?

      たしかに、あなた

    ほほ笑むから

     たしかに、わたし

   視神経に?それら

      わたしは、あなた

    なぜ?…だって

     わたしは、あなた

   わたしの、そこ?網膜に?

      たしかに、わたし

    親しむ

     たしかに、あなた

   いつから?


   琥珀の綺羅に?

      わたしは、わたし

    ただの他人

     わかるでしょ?

   白濁に?それら

      わかる?

    見ず知らずの

     わかる?

   虹彩のそこ?どこに?

      わかるでしょ?

    赤裸々な他人

     わたしは、わたし

   まさか


   こころのなかに?

      燒きつくすのだろう

    見ず知らずの

     無慈悲なまでに

   まなざし?それら

      なにもかも

    なぜ?…だって

     なにもかも

   わたしの、まざしに

      無慈悲なまでに

    親しむ

     燒きつくすのだろう

   いつから?


   色彩のない翳りらは

      燒きつくすのだろう

    光り。無防備にふりそそぎ

     絶望的でさえあり得ないほどに

   死者たち。それら

      なにもかも

    燒きつくされていたのだろう

     なにもかも

   翳りについて。いま

      絶望的でさえあり得ないほどに

    光り。赤裸々にふりそそぎ

     燒きつくすのだろう

   死者たち。それら

だから沙羅の、そのちいさく垂れたままのそれを、ふいに口蓋にふくんでやる。粘膜はそして、その温度に気づく。冷え切った皮膚。そこに、しかも温度。体温。知っている。たとえば舌がなにをし、どんなことをし、如何にそれをもてあそんだところで沙羅。少年にそれは覚醒しない。なぜ?理由があったのだろうか?それとも生得的にそうだったのか。共通言語もないわたしたちの、そのわたしは沙羅を、それ以上知るすべなどない。











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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