流波 rūpa ……詩と小説105・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈12


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またもしもそのような一部表現によってあるいはわずかにでも傷つけてしまったなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。



あるいは、

   傷つけていいよ

   その唇に、その

   ささくれた皮膚に

   そう、つぶやく


   だから瑠璃は

   傷つけられる

   眼差し。わたしの

   その眼の前に


   視野が昏く

   昏くなる。空も

   昏く、昏く、花も

   壁も、なにも、昏く

   

   ぼろぼろにしてよ

   その鼻孔に、その

   昏い開口に

   そう、つぶやき、ね、…と。ささやく。だれ?ささやいた。いつ?「そこで、さ。…ね?」その、わたしの聲にふと「お願い。ね、」顏をあげて瑠璃、「勝手におれの部屋で体液垂れながすのやめてね」笑った。わたしは。表情のない瑠璃のために。そのせめてもの代理に?その瑠璃。引き裂いた彼女のしろいブラウスに目隠しを、…透けた。ブラさえ透けた。故意に?目もとパッチリだから恥知らず?その生地に落書きのただの淫売?目。兩目。片目にウィ色情魔?…カス。ン、…くっウィンク。かわいい?油性マジックはたぶん、すでに肌にももうすでに直に滲んでいただろうか?すでに汗まみれの「くさいから」ささやく。わたしは、だからビラ・ビアンカ。明治通りの古い角ばったマンションの「くさっ…」

   痛いんだ

      なぜだろう?

瑠璃は沈黙。…なぜ?

   ふれただけでも

      蔦に、蔦に

口にはなにも

   痛いんだ

      しろい花

咬まさせていなかったのに。

「やばいね、…お前」と、だから自虐的な瑠璃の性癖のために、かの女のためにそう罵りつづけ、途切れ途切れに。あくまでもささやき聲で。あくまでもその耳もとに。しかもふれはしないで。不思議だった。その夏のおわり。だから憎むべき八月。過剰にきかされたエア・コンディショナーの人工の凍てつきのなかで、なぜ?なぜ?なぜ、その肌は汗を?瑠璃。その瑠璃だけが、なぜ?「自分で自分、ひっぱたいてみな」

「なんで?」

   口じゃないよ

      なにも、なにものも

瑠璃がささやきはじめた瞬間にはもう、

   これは肛門

      傷つけたくないぼくは

わたしはクルグのボトルの

   花をいっぱいに

      ひとりで海を

尻にその鼻を

   咬みつぶす襞

      飲み干して

つぶしていた。だから息。おくれてのけぞった緩慢な上体。そこに息。詰め、詰めて、ふいにぶふっ。「きたねぇんだよだから」ささやく。わたしは。「自分で、自分ぶちのめせよ」

「なんで?」

「おまえにふれるのさえやだから」謂く、

   傷つけていいよ

   好きなだけ。きみの

   思い通りに。もう

   こころもないんだ


   傷めつけていいよ

   思うまま。きみの

   好き放題に。もう

   肉体もないんだ


   生きてさえ

   擬態。ぼくはもう

   死体。息吹きさえ

   もう、すでに


   殺されたから

   例えば水の中に

   あの月の綺羅ら

   それらの中に


   綺羅のみなもに

   あの月の綺羅ら

   例えば水邊に

   殺されたから


   もう、すでに

   死体。息吹きさえ

   擬態。ぼくはもう

   生きてさえ


   肉体もないんだ

   好き放題に。もう

   思うまま。きみの

   傷めつけていいよ


   こころもないんだ

   思い通りに。もう

   好きなだけ。きみの

   傷つけていいよ

すなわちホスト。成功したホスト。軽蔑と見下しと色目の対象。社会生活の失敗者。かつ、禁忌じみた憧憬。羨望。または発情。赤裸々に、ぶしつけな、だから視姦?女たち。気弱げな、だから視姦?女たち。ひそめた、あるいは自分で自分に噓をつこうとした須臾の視姦?女たち。無数の。十七歳の家出のあとで、わたしが女たちの前にさらしていた姿はしかし、たとえば十二歳の、たとえば十四歳の、たとえば十六歳のそれとなんら變わりはしなかった。島でも歌舞伎町でも、女たちの眼はわたしに発情以外に知らなかったから。楓を模倣していた。だから、わたしの頭は徒刑囚のような丸刈りだった。「きれい…」と。はじめて出会ったときの瑠璃はそうつぶやいた。ひとり語散るように、あっ。と。あ、あ、ごめんなっ、と。さ、と。さい、ごめっ「いきなり、變なこと云っちゃいましたよね」芸能のひと?…ホスト?…とか?じゃないですよね。まさか。モデルさんですか?「ホスト」…です、と。わたしは眼を逸らしながら云った。その須臾に、…やっぱり。…と。瑠璃。「…だと、思った。やっぱ」日本語話せてる?わたしはくちびるにだけ笑んで、瑠璃。清純なまなざし。黑ずくめ。淫靡すぎる肉体を無理やり押し付けたタートル・ネックと、そしてデニム。黑、かさねて謂く、

   傷つけていいよ

      見ないで

    のけぞる。のけぞり

     おれを見ないで

   好きなだけ。きみの

      おれを

    痙攣。喉に

     おれを

   思い通りに。もう

      おれを見ないで

    おぅっ。ノイズ

     見ないで

   こころもないんだ


   傷めつけていいよ

      閉じてて

    肉体。なに?これ

     閉じてて

   思うまま。きみの

      その目

    しめってんの

     その目

   好き放題に。もう

      閉じてて

    しっけちゃってんの

     閉じてて

   肉体もないんだ


   生きてさえ

      見て。こころに

    窒息。須臾の

     いっちゃえ

   擬態。ぼくはもう

      想像に

    がたつき。喉に

     想像に

   死体。息吹きさえ

      いっちゃえ

    あぶふっ。ノイズ

     いっちゃっていいよ

   もう、すでに


   殺されたから

      感じて

    精神。なに?これ

     そのこころに

   例えば水の中に

      妄想だけ

    体液。いきもの

     妄想だけ

   あの月の綺羅ら

      そのこころに

    いきものの汁。散る

     漏らしちゃえ

   それらの中に


   綺羅のみなもに

      そのこころに

    いきものの汁。散る

     漏らしちゃえ

   あの月の綺羅ら

      妄想だけ

    体液。いきもの

     妄想だけ

   例えば水邊に

      感じて

    精神。なに?これ

     そのこころに

   殺されたから


   もう、すでに

      いっちゃえ

    あぶふっ。ノイズ

     いっちゃっていいよ

   死体。息吹きさえ

      想像に

    がたつき。喉に

     想像に

   擬態。ぼくはもう

      見て。こころに

    窒息。須臾の

     いっちゃえ

   生きてさえ


   肉体もないんだ

      閉じてて

    しっけちゃってんの

     閉じてて

   好き放題に。もう

      その目

    しめってんの

     その目

   思うまま。きみの

      閉じてて

    肉体。なに?これ

     閉じてて

   傷めつけていいよ


   こころもないんだ

      おれを見ないで

    おぅっ。ノイズ

     見ないで

   思い通りに。もう

      おれを

    痙攣。喉に

     おれを

   好きなだけ。きみの

      見ないで

    のけぞる。のけぞり

     おれを見ないで

   傷つけていいよ

笑む。その沙羅は、だから青い濃い遠い光り。あくまでも色彩をのみそこにさらしていた光源。空。窓越しの、それ。そのこちらに、沙羅。わたしの眼のまえに、笑む。だからその沙羅は。ベッドのふちに器用に兩足をあげるのを見ていた。その股をおおきくひらいて。だから、まだまばらな翳りには埋もれようないその性別をあかした。沙羅がそれを求めているとは思えなかった。まして発情?その若さを思えば、慥かに背骨が噎せ返るほどにもそんな欲望にまみれて。そんな衝動にまみれて。…擬態、と。そう思った。発情の、その、意図的な擬態?沙羅がほんとうに感じたことなどないことは知っている。ふれられる肌にここちよさとしてのここちよさなどなにも。すこしも。沙羅にとって、接触とはなんだったのだろう?ただの触感の確認?だから、まして快感。その頂点の不意の切れ目に白濁、そんな普通の。あるいは健常な?あるいは健全な?そんな、…まさか。だから、わたしは頸をまげると、沙羅のためにことさらに屈辱的に、それの至近に顏をちかづけた。故意に家畜じみて。頭のうえに沙羅の笑んだままの顏があることは知っている。沙羅がわたしのふいの家禽化によろこんでいるのかどうかはしらない。褐色。沙羅自身がなげる翳りに、さらにも褐色。わたしの頭部の落とす翳りにも、さらにさらに褐色。翳り。そのうごき。その体温がわずかに感じられた。しかも赤裸々に。その肌。その表皮はあくまで冷え切っていた。あたたかみのない温度。どれだけ冷えているのか、それだけを伝える温度。室内があまりにも寒いから。沙羅にとってのここちよい適温。空調の、設定限界の下限にだけいつも、沙羅は調整した。かれに、それ以外の設定などあり得なかった。硬まりはじめさえしない沙羅のそれに、そしてわたしは息を吹きかけた。











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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