流波 rūpa ……詩と小説104・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈11


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またそのような一部表現によってあるいは傷つけてしまったとするなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。



あるいは、

   泣くしかなかった

   血を吐く叫びのように

   だから、その女は泣き

   楓。その最初の死


   見るしかなかった

   ふかい歎きのように

   だから、わたしもそこに

   見ていた。その叫び


   気付けばいい

   楓はあなたも捨てていた

   十六の家出。失踪に

   いまさらに泣いた


   泣くしかなかった

   身内のもののように

   だから、その女は泣き

   楓。もう意識もなく姉。その姉。楓の。なんど楓がこわれても楓を介護した。なぜ?…だからようやく拘禁した楓に逆に取り憑かれていたかのように?姉。その姉。楓の。楓が最初の廃人になった燒け焦げの肢体をさらすベッドに、そのかたわらに姉。その姉。仮りにここで花美とでも名づけておけば、かの女は滂沱の淚。病室に入ってきたふたりの男。それがわたし、そして≪流沙≫だったと

   逆光!…あざやかな

      香水?なぜ?

まばたき。たてつづけの

   昏み!…赤裸々な

      こんなところで

まなざたきのさなかの

   しかもやさしく

      香水?なぜ?

数秒にあれ?…と。思いつき

   やさしい日射しは

      そんな顏に

あれ?…と。思い至ってあれ?…と、そう聲が思わずくちびるにこぼれるまえにはいきなりの号泣。慟哭。だから滂沱の淚。こわれた?もはや耐えられないようにこわれた?あんたも。なにが?もはや泣く以外にやめてね。うざいからすべがないかにもこわれた?あんたも。顏。その顏をやめて。くさいから手におおいもせずにしかもこわれた?あんたも。覆うためにあげかけた腕。ひらいた手のひらをぴったりとやめて。きたないだけだからつなげて、しかも墜ちて來るなにかをそこにこわれた?あんたも。受け止めようとしているかのように、「すみません」と、そう人間の言葉に翻訳すればそう意味を持つはずのノイズを散らした。その頭の周辺に。附きそうナースがひとり、眼を背けた。どこから情報を嗅ぎつけて、あの島から

   なぜだろう?

      塵りさえも

上京してきたのか

   なぜ、かならずひとは

      綺羅きら綺羅ら

腑に落ちなかった。花美は

   みにくく泣いて

      爪さえも

だれにも必要とされていなかった。

   みにくく笑うの?

      綺羅き

いたわった。わたしは。そして≪流沙≫は。かの女以上にすでに傷ついていながら。「なんか、もう…」と、それは「だれなんだろ?」聲。ふるえ、ややふるえ「…こんな、」しかしけなげに?「…全身打撲って。でも」聲。その聲「なんにんに?…しかも、」舌をときにあやうく咬み「骨とかまで、もう、しかも」咬みそうに、「まして、こんな、…こっ」なに?…聲。「体液。殘ってて。それ、いま」眼を逸らしていた、その「鑑定?…なに?」≪流沙≫。まるで「わからない。なにも、」耐え難い傷み。傷みに責め苛まれて?「だれ?…人間じゃない」体重。その女「しかも、こんな、こ、」なに?…聲。「ファンなんですか?アンチなの?こういう」女のからだが悶えるように「獸。…家畜。…信じられない」あばれかけるたびに体重。しかも「通報してくれたひと?…それだって」恥ずかしげもなく「こんな、こっ」なに?…聲。「見捨てて逃げちゃったんでしょ?信じられます?信じられない」錯綜する情報。楓の「あり得ない。…しかっ」唐突な焼身事件に関する「かも。しかもこ、」なに?…聲。「違います?」生みだされた厖大な「犯人、こんな、こ、」なに?…聲。「殘酷な、」憶測と不確かな「もう、人間じゃ、」情報の群れに「じゃ、じゃないくらい傷めて、傷めて」ね?と、その切迫した「もう、いたぶって、…」まなざしは上目に、「いたぶっていたぶりぬいて、」…ね?と?「いたぶっまくって、で、」でしょう?…ね?…ね?「こんな、しかっ」ね、ね、ね、「しかも、」

「火をつけて燒いちゃった、と?」云った。わたしは。惡意?なかった。あるいは。言い淀みつづけられ、回避されつづけていた言葉。それを、思わずに出した助け船として?わたしに肩を抱かれて、そしてようやくに泣き已んで、更にようやく言葉を話しはじめていた花美は、いきなり獸の聲にのけぞった。抱きしめるように、わたしはかの女のからだをささえた。体臭が匂った、謂く、

   忘れて仕舞っていたのだった

   楓。かれを

   自分がすでに見捨てて

   そして、しかも


   忘れて仕舞っていたのだった

   楓。かれを

   自分がすでに見殺しにして

   そして、しかも


   忘れて仕舞っていたのだった

   楓。かれを

   自分がなにも見なかったことにして

   そして、しかも


   あなたは、…ね?

   やさしいだけの姉

   だれにも、…ね?

   やさしかった姉


   忘れて仕舞っていたのだった

   楓。その事実を

   自分がすでに見捨られてて

   そして、しかも


   忘れて仕舞っていたのだった

   楓。その事実を

   自分がすでに見限られてて

   そして、しかも


   あなたは、…ね?

   無能だった姉

   なににも、…ね?

   傍観者の姉


   十六の時には捨てられていた

   その弟、…妹?かれ。楓

   最初からもう、見限られ

   あなたはそこにいなかった


   存在しなかったにもひとしかった

   どの面さげて?

   いまさらなんで?

   存在しなかったにもひとしかった


   あなたはそこにいなかった

   最初からもう、見限られ

   その弟、…妹?かれ。楓

   十六の時には捨てられていた


   傍観者の姉

   なににも、…ね?

   無能だった姉

   あなたは、…ね?


   そして、しかも

   自分がすでに見限られてて

   楓。その事実を

   忘れて仕舞っていたのだった


   そして、しかも

   自分がすでに見捨られてて

   楓。その事実を

   忘れて仕舞っていたのだった


   やさしかった姉

   だれにも、…ね?

   やさしいだけの姉

   あなたは、…ね?


   そして、しかも

   自分がなにも見なかったことにして

   楓。かれを

   忘れて仕舞っていたのだった


   そして、しかも

   自分がすでに見殺しにして

   楓。かれを

   忘れて仕舞っていたのだった


   そして、しかも

   自分がすでに見捨てて

   楓。かれを

   忘れて仕舞っていたのだった

すなわちそのあまりにも見事な犠牲者の気配を。そこ、眼の前にさらされ、もはや鼻に擦りつけられたようにもさらされ、もはや顏中に塗りたくられたようにもさらされ、赤裸々な犠牲者。十六歳の楓。その唐突な家出。そのだれの目からも消えてなくなった失踪からの再会。取り殘されていた姉の、ふいにその肉体と肉体に於けるそれ。それは五年後の屍。息づく屍。装置にイノチを、イノチを与えられた屍。わたしに、わたしの金銭にイノチを、イノチを与えられて滅び、滅びたまま息づき、息づかされて屍。楓、かさねて謂く、

   忘れて仕舞っていたのだった

      惜しみなく淚を

    噓じゃ、…まさか

     きみの腕、どこ?

   楓。かれを

      楓。…ね?

    噓じゃなかった

     楓。…ね?

   自分がすでに見捨てて

      きみの腕、どこ?

    そのふるえは

     惜しみなく淚を

   そして、しかも


   忘れて仕舞っていたのだった

      ちぎれたんだね?

    泣きじゃくる体

     腐ったんだね?

   楓。かれを

      くっつかなかった?

    もがくように

     くっつかなかった?

   自分がすでに見殺しにして

      腐ったんだね?

    腕のなかに

     ちぎれたんだね?

   そして、しかも


   忘れて仕舞っていたのだった

      惜しみなく淚を

    噓じゃ、…まさか

     きみの顏、どこ?

   楓。かれを

      楓。…ね?

    噓じゃなかった

     楓。…ね?

   自分がなにも見なかったことにして

      きみの顏、どこ?

    そのわななきは

     惜しみなく淚を

   そして、しかも


   あなたは、…ね?

      つぶれたんだね?

    恥じらいさえない体

     腐ってんだね?

   やさしいだけの姉

      再生不能?

    あえぐように

     再生不能?

   だれにも、…ね?

      腐ってんだね?

    腕のなかに

     つぶれたんだね?

   やさしかった姉


   忘れて仕舞っていたのだった

      惜しみなく淚を

    噓じゃ、…まさか

     きみのこころ、どこ?

   楓。その事実を

      楓。…ね?

    噓じゃなかった

     楓。…ね?

   自分がすでに見捨られてて

      きみのこころ、どこ?

    そのわななきは

     惜しみなく淚を

   そして、しかも


   忘れて仕舞っていたのだった

      こわれたんだね?

    おしつけがましくしかない体

     腐ってたからね?

   楓。その事実を

      しかたがなかった?

    あばれるように

     しかたがなかった?

   自分がすでに見限られてて

      腐ってたからね?

    …やりすぎじゃない?

     こわれたんだね?

   そして、しかも


   あなたは、…ね?

      知っていた

    本当だった

     自分で自分を傷めて嬲って

   無能だった姉

      音楽家の末路

    その、…この?淚は

     音楽家の末路

   なににも、…ね?

      自分で自分を嬲って

    わたしの頬に

     知っていた。わたしも

   傍観者の姉


   十六の時には捨てられていた

       見てたから

    飛び散りつづけた

     自分で自分に火を放ち

   その弟、…妹?かれ。楓

      あなたの最期

    わたしのその、…この?淚は

     あなたの最期

   最初からもう、見限られ

      燒却。生ごみ燃えて

    ほら、髮のうえにも

     見てたから。わたしも

   あなたはそこにいなかった


   存在しなかったにもひとしかった

      知っていた

    こんなに、背、低かったんだ

     見てたから。櫻

   どの面さげて?

      凄惨な暴力

    はじめて知った

     頭の上には

   いまさらなんで?

      自己破壊。ひとり

    こんなに、あなた、華奢だったんだ

     櫻。散り、きみに

   存在しなかったにもひとしかった


   あなたはそこにいなかった

      わたしに、かれにも

    ほら、髮のうえにも

     燃えた。自己破壊。ひとり

   最初からもう、見限られ

      櫻。散り、三月

    わたしのその、…この?淚は

     凄惨な暴力

   その弟、…妹?かれ。楓

      散り、ほら、焰にも

    飛び散りつづけた

     知っていた

   十六の時には捨てられていた


   傍観者の姉

      燒却。生ごみ燃えて

    わたしの頬に

     見てたから。わたしも

   なににも、…ね?

      あなたの最期

    その、…この?淚は

     あなたの最期

   無能だった姉

      見てたから

    本当だった

     自分で自分に火を放ち

   あなたは、…ね?


   そして、しかも

      嬲って

    …やりすぎじゃない?

     知っていた。わたしも

   自分がすでに見限られてて

      音楽家の末路

    あばれるように

     音楽家の末路

   楓。その事実を

      知っていた

    おしつけがましくしかない体

     自分で自分を傷めて

   忘れて仕舞っていたのだった


   そして、しかも

      腐ってたからね?

    そのわななきは

     こわれたんだね?

   自分がすでに見捨られてて

      しかたがなかった?

    噓じゃなかった

     しかたがなかった?

   楓。その事実を

      こわれたんだね?

    噓じゃ、…まさか

     腐ってたからね?

   忘れて仕舞っていたのだった


   やさしかった姉

      きみのこころ、どこ?

    腕のなかに

     惜しみなく淚を

   だれにも、…ね?

      楓。…ね?

    あえぐように

     楓。…ね?

   やさしいだけの姉

      惜しみなく淚を

    恥じらいさえない体

     きみのこころ、どこ?

   あなたは、…ね?


   そして、しかも

      腐ってんだね?

    そのわななきは

     つぶれたんだね?

   自分がなにも見なかったことにして

      再生不能?

    噓じゃなかった

     再生不能?

   楓。かれを

      つぶれたんだね?

    噓じゃ、…まさか

     腐ってんだね?

   忘れて仕舞っていたのだった


   そして、しかも

      きみの顏、どこ?

    腕のなかに

     惜しみなく淚を

   自分がすでに見殺しにして

      楓。…ね?

    もがくように

     楓。…ね?

   楓。かれを

      惜しみなく淚を

    泣きじゃくる体

     きみの顏、どこ?

   忘れて仕舞っていたのだった


   そして、しかも

      腐ったんだね?

    そのふるえは

     おれもうもたねぇじゃん

   自分がすでに見捨てて

      くっつかなかった?

    噓じゃなかった

     泣かないでよまじ

   楓。かれを

      ちぎれてたんだね?

    噓じゃ、…まさか

     まじもたねぇじゃんおれ

   忘れて仕舞っていたのだった

その沙羅。唾液にわずかに綺羅を知るゆび。かすかに鼻に感じられた気がしたその体液の匂いとともに、わたしがゆびをじぶんの唇にあてて見せたときに、沙羅はひとり笑い聲に派手にくずれた。だから、好き放題にその痴呆の色を散らして。











Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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