流波 rūpa ……詩と小説103・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈10


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またそのような一部表現によってあるいは傷つけてしまったとするなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。



あるいは、

   知らないの?

   ≪流沙≫…それは、ね?埋葬

   わたしたちの、楓への

   惜別。埋葬


   だから、殺した

   わたしたちは、≪流沙≫

   生かしながら

   楓を殺した


   知らないの?

   ≪流沙≫…やさしさのなかの、埋葬

   いつくしまれた、楓への

   追憶。埋葬


   だから、染まってた

   わたしたちの手、≪流沙≫

   延命を強いながら

   すでに殺し、だからしかも、聲。ささやき、ややさく、明晰な、しかしささやき。聞き取れないほどに、しかも聲。それは聲。「たぁー…ぁー…ぁー…」と、≪流沙≫。なぜ?

「Dの#、…ね?」

   冷え切ってた。…かな?

      忘れそうだ

わたしは、むしろおびえるように

「休符。沈黙、…静寂、——」

   神宮前の、その部屋は

      きみのこと以外

なにを?たとえば、その≪流沙≫まで、

「…任意の休符…無音。そして」

   部屋の空気も

      気付かなそうだ

後を追って?だから、わたしを

「てぃっ…」

   冷え切ってた。…かな?

      そのほほ笑み以外

おいてけぼりにして、と、なぜ?

「…そしてふいに連呼される音、ふたつ、」

   なんでだろう?

      たとえ、鳥たちが

わたしは、むしろデジャブの味気なさと目舞いを?

「D、…」

   ぼくたちは至近に

      燃えながら海に飛び込んだとして

なにに?たとえば、その、もはや

「てぃんっ…」

   寄り添いながら

      たぶんね、なにも

恥ずかしげもなく楓。そのかたわらに

「そして、D。…」

   冷え切ってた。…かな?

      見えなかったよ

わたしにしがみついた、かれの

「繰り返し。…無限の」

   かくしようもなく

      見蕩れそうだ

腕。そして握りしめた、その

「だから、ふたたび、たぁー…ぁあぁー…ぁーんっ…」

   かくす気もなく

      きみにだけに

手のひらの、どうしようもない

「Dの#、…ね?」

   ひたりだけで

      狂っちゃいそう

かたくなさな

「アダージョ?…ラルゴ?もう、」

   吸い込んだ空気

      きみにだけに

力。拘束?≪流沙≫はわたしを

「これ以上ない程の緩慢な店テンポで」

   冷え切ってた。…かな?

      ぼくを滅ぼして!

はじめて死にかけた楓。その、殘骸をのせた医療ベッドのかたわらに。集中治療室。そのふともも。≪流沙≫。あやうくシーツにふれそうにさえして仕舞ながら、「聞こえた?」

「なに、言ってるの?」

「楓が、勝手にひとりで埋葬して仕舞っていた世界。たぶんそこに鳴り響いていた曲」

   きみのうつくしさとともに

      壊滅。それが

すでにわたしは≪流沙≫の

「…ね?」

「聞こえた?」

その口に説明しているひびきを、もう

   わたしは、滅びたい

      わたしのこころ

「聞いていい?いま」

「もう、耳に」

たしかに聞いていた。慥かに

   きみのほほ笑みの一瞬とともに

      殲滅。それが

「お前が謂った世界って、それ」

「楓が勝手にひとりで埋葬して仕舞っていた世界。そこに鳴り響いていた曲」

すでに聞き続け、すでに

   わたしは死にたい

      わたしの風景

「なに?」

「かれの、かれだけが聞き、」

聞き取られつづけていた、だから

   殺して。わたしを

      荒廃。それが

「なに、言ってるの?…それ」

「ひびき。…聞いていた曲。かれが、…葬られていた。おれたちは、そこで、だから」

ありふれた響きであるかにも

   いま、まさに、その

      わたしの事実

「人間の言葉?いま」

「だれひとりとして」

「何語、話してる?おまえ、」と「…いま」そう云ったわたしに≪流沙≫。その瞬間たしかにすでに≪流沙≫になりおおせて仕舞っていたその≪流沙≫。二十一歳のかれはささやき返すのだった。わたしに、それは「もう、おれたちを捨てないで。雅雪。おれたちは、もう、後戻りしないで、…ね?滅びていこうか?楓の葬った世界に、一緒に、滅びていこう」二十一歳のわたし。なぜか、たしかに熱にむせ、むせかっていた、ひとり、だからそんな≪流沙≫。ひとり、情熱。もうたしかに≪流沙≫。情熱。≪流沙≫にほかならなかった≪流沙≫。その聲。その情熱。赤裸々な不愉快さ。そして居心地の惡さ。収まり難さ。なぜ?それらの気配に赤裸々。情熱。思わず赤裸々。聞き耳をたてながらなぜ?こんなにも赤裸々な嫌惡?わたしはだから、それはひさしぶりに、…ね?楓。そして≪流沙≫に…ね?いっぱい、いっぱい、出逢った、だから再会。その数か月後、…半年後?…の、それは二月。…ね?最初の決定的な自殺未遂。たくさん、たくさん、燒身未遂。ささやきあおうよ。「…ね?」——それだけ。≪流沙≫。あのとき、それは≪流沙≫。雪は?そのひびき。その生誕のときに窓。その外。そこに雪は?≪流沙≫。もう≪流沙≫だった≪流沙≫。かれがわたしに聲を、すこしもひそめもせずに…ね?その聲。敎えたその…ね?そんな聲だったっけ?お前。その聲。唇にこぼれたひびき、それら響きのすべては、…ね?そんな、たしかに、なに?それだけだった。慥かに、謂く、

   僞造。ないし擬態

   あくまでも、だから、そうじゃない

   創造?そんな、だから

   そうじゃなかった


   追悼?そんなんじゃ、だから

   そうじゃなかった

   僞造。ないし擬態

   捧げられたもの、その不在のひとに


   もう、完璧に

   だから、その自覚さえない

   留保なく、あきらかに

   その意図もない


   それは、しかも

   埋葬。あくまでも、だから、他人のための

   埋葬。もう、消失し

   そこに息づく、その不在のひとに


   それは、しかも

   ささげもの。あくまでも、だから、だれへの?

   だれ?…だれに?…だれ?…だから

   それはたしかに、その不在のひとに


   不在でさえない、しかも不在

   しかも猶も息づくものに

   いま、息づく価値もないものに

   赤裸々な、それ。その欠落に


   淚もなく、追憶もなく

   かなしみも、あわれみもなく

   埋葬。あくまでも、だから、他人のために

   そこに生き延びた、その不在のひとに


   僞造。ないし擬態

   でも、でもね、そうじゃない。だから

   ふれた気がした

   音楽家の魂に


   聞いた気がした

   音楽家の息吹き

   それは、だれ?だれの?…ささげられていた

   だから、そのひとに


   不在のひとに、もう

   消えさったひとに。しかも

   そこにいるひと

   まだ息吹くひと


   だから、たわむれ?…あるいは

   擬態。しかも猶

   不在のひとの、その魂など

   その息吹きなど、すでに


   最初から、だから

   さがしもせずに

   はじめから、だから

   想いもせずに


   ささげていよう

   わたしたちは

   あるいは忘却を

   嘲笑に似た


   あるいは惜別を

   いま、ささげよう

   それら、不在のものたち

   それら、すべてに


   せめて、せめて

   うつくしさを。せめて

   赤裸々な美、その実在を。せめて

   せめて、せめて


   それらすべてに

   それら、不在のものたち

   いま、ささげよう

   あるいは惜別を


   嘲笑に似た

   あるいは忘却を

   わたしたちは

   ささげていよう


   想いもせずに

   はじめから、だから

   さがしもせずに

   最初から、だから


   その息吹きなど、すでに

   不在のひとの、その魂など

   擬態。しかも猶

   だから、たわむれ?…あるいは


   まだ息吹くひと

   そこにいるひと

   消えさったひとに。しかも

   不在のひとに、もう


   だから、そのひとに

   それは、だれ?だれの?…ささげられていた

   音楽家の息吹き

   聞いた気がした


   音楽家の魂に

   ふれた気がした

   でも、でもね、そうじゃない。だから

   僞造。ないし擬態


   そこに生き延びた、その不在のひとに

   埋葬。あくまでも、だから、他人のために

   かなしみも、あわれみもなく

   淚もなく、追憶もなく


   赤裸々な、それ。その欠落に

   いま、息づく価値もないものに

   しかも猶も息づくものに

   不在でさえない、しかも不在


   それはたしかに、その不在のひとに

   だれ?…だれに?…だれ?…だから

   ささげもの。あくまでも、だから、だれへの?

   それは、しかも


   その意図もない

   留保なく、あきらかに

   だから、その自覚さえない

   もう、完璧に


   捧げられたもの、その不在のひとに

   僞造。ないし擬態

   そうじゃなかった

   追悼?そんなんじゃ、だから


   そうじゃなかった

   創造?そんな、だから

   あくまでも、だから、そうじゃない

   僞造。ないし擬態

すなわち幸福。むしろわたしと≪流沙≫。その、実際にはすでに≪流沙≫たりえていたかれ、だから≪流沙≫。わたしたちふたりのそれら、幸福。たしかに、うそのようにそこに存在していたほほ笑みと幸福。そしてひびき。それはある女。かの女が部屋に殘して行ったフェンダー・ローズその重い、重い、重すぎるエレクトリック・ピアノ。初期型?…それは鍵盤。神宮前のビラ・ビアンカの最上階ちかくの部屋。わたしの指がおさえるのは鍵盤。いやに安っぽい鍵盤。かるい。手ざわり。その、そしてひびき。それはひびき。深く、深いというよりは遠く、はるかに遠く、ゆびさきからははるかに、はるかに、鍵盤からもはるかに、はるかに、すくなくとも孵化前の蛹のなかのしろい蝶の丸まりにとっては。もう、その這ってたどりつくことさえできないはるかな遠さ、はるかに、はるかに、…だからすこし離れた床の上のベース・アンプに増幅された響き。ゆれ。ひびくゆれ。ゆれるひびき。ゆれ。あたたかに、あたたかなゆれ。若干の電気ノイズ。不穏なゆれ、音のゆれ、…うつくしい?

   とけてゆく。…ね?

      ふれたことなどない

ゆれ。曖昧な、ゆれ。…しかも、

   とろけてゆく。…ね?

      わたしたちは、それ

うつくしい?

   あとかたもなく、…ね?

      まったき静寂などには、と

幸福。わたしと≪流沙≫、その、まだ

   とけてゆく。…ね?

      ジョン・ケージはそう云った

自分が≪流沙≫にほかならないことに気付いていなかった、そんな≪流沙≫。かれのくちずさんだ音程を、わたしの指は押さえた。かれ。そしてかれにほほ笑んだわたしにさえもまだ≪流沙≫とは気付かれていなかったそんな、あるいは未生の≪流沙≫。未覚醒の≪流沙≫。しかし赤裸々な≪流沙≫。ひびきはかれが聞いていたもの。かれ。その巨体。その翳りをすぐそばの、わたしの瘠せたからだの一部にだけ落としてささやく。もう、

   聞いた?…いま

      ぷちっ

聴き取られる瞬間から

   細胞がひとつ、滅びたよ

      ぶちっ

忘れられていく、微細な

   いまほほ笑んだ

      ぐぢゃっ

ささやき。ささやき

   その

      が、が、ごーんっ

ささやきら。ささやく。

   くちびるに

      ど、ど、ぐがぁーんっ

ささやき、なにを?なに?どんなこと?どんなふうに?わたしたちはささやく。ささやき、その、ななめに日射しの差し込んでいた部屋で。やや北向きの、だから辛うじて窓の向こうに神宮の森が。遠く濃い色彩の翳りとしてゆれ、かさねて謂く、

   僞造。ないし擬態

      だから、せめても

    ここに、置いていい?

     過剰なほどの、赤裸々な美

   あくまでも、だから、そうじゃない

      うつくしさを

    ここに、置いとくね?

     うつくしさを

   創造?そんな、だから

      過剰なほどの、赤裸々な美

    いいよね?いい?

     だから、せめても

   そうじゃなかった


   追悼?そんなんじゃ、だから

      絶望するしかないんでしょ?

    その女。極端な弱気

     それ以外の未来、ないんじゃん

   そうじゃなかった

      事実もう、絶望してんじゃん

    被害者の目

     事実もう、絶望してんじゃん

   僞造。ないし擬態

      それ以外の未来、ないんじゃん

    その女。もう

     絶望するしかないんでしょ?

   捧げられたもの、その不在のひとに


   もう、完璧に

      だから、せめても

    足の先には

     過剰なほどの、赤裸々な美

   だから、その自覚さえない

      うつくしさを

    奈落だよ?…でしょ?

     うつくしさを

   留保なく、あきらかに

      過剰なほどの、赤裸々な美

    傷みしかない、それは奈落

     だから、せめても

   その意図もない


   それは、しかも

      悲惨だけしかないんでしょ?

    もう、知っていた。かの女は

     それ以外の過去さえ、ないんじゃん

   埋葬。あくまでも、だから、他人のための

      事実もう、悲惨すぎんじゃん

    あそばれるだけ

     事実もう、悲惨すぎんじゃん

   埋葬。もう、消失し

      それ以外の過去さえ、ないんじゃん

    もてあそばれるだけ

     悲惨だけしかないんでしょ?

   そこに息づく、その不在のひとに


   それは、しかも

      だから、せめても

    足の先には

     過剰なほどの、赤裸々な美

   ささげもの。あくまでも、だから、だれへの?

      うつくしさを

    奈落だよ?…でしょ?

     うつくしさを

   だれ?…だれに?…だれ?…だから

      過剰なほどの、赤裸々な美

    傷みしかない、それは奈落

     だから、せめても

   それはたしかに、その不在のひとに


   不在でさえない、しかも不在

      破綻するしかないんでしょ?

    嗜虐にすぎない

     それ以外の可能性、あり得ないんじゃん

   しかも猶も息づくものに

      事実もう、破綻してんじゃん

    やさしい聲も

     事実もう、破綻してんじゃん

   いま、息づく価値もないものに

      それ以外の可能性、あり得ないんじゃん

    いつくしむ目も

     破綻するしかないんでしょ?

   赤裸々な、それ。その欠落に


   淚もなく、追憶もなく

      だから、せめても

    足の先には

     過剰なほどの、赤裸々な美

   かなしみも、あわれみもなく

      うつくしさを

    奈落だよ?…でしょ?

     うつくしさを

   埋葬。あくまでも、だから、他人のために

      過剰なほどの、赤裸々な美

    傷みしかない、それは奈落

     だから、せめても

   そこに生き延びた、その不在のひとに


   僞造。ないし擬態

      でもね、もう、知ってた

    もう、知っていた。かの女は

     狂暴でなければならない

   でも、でもね、そうじゃない。だから

      うつくしいものは

    壊されるだけ

     うつくしいものは

   ふれた気がした

      狂暴でなければならない

    壊されてくだけ

     でもね、もう、知ってた

   音楽家の魂に


   聞いた気がした

      絶望だけがもとめられていたから

    嗜虐以外に、なにもないから

     屈辱だけ

   音楽家の息吹き

      言い表せない蹂躙だけ

    虹彩のむこうに

      蹂躙だけ

   それは、だれ?だれの?…ささげられていた

      胸を燒きつくす屈辱だけ

    綺羅の向こうに

     絶望だけがもとめられていたから

   だから、そのひとに


   不在のひとに、もう

      でもね、…でしょ?

    破壊以外に、なにもないから

     うつくしさに、ぶちのめされたいんだ

   消えさったひとに。しかも

      うつくしさに、壊されたいんだ

    虹彩のむこうに

     うつくしさに、壊されたいんだ

   そこにいるひと

      うつくしさに、ぶちのめされたいんだ

    綺羅の向こうに

     でもね、…でしょ?

   まだ息吹くひと


   だから、たわむれ?…あるいは

      あそこもかよ

    わたしの部屋、ちいちゃいからっ、ねっ

     莫迦なの?

   擬態。しかも猶

      あそこも?

    せまいんだっ。すごく

     はりつくかんじ?

   不在のひとの、その魂など

      莫迦なの?

    すっごく、…だから

     あそこもかよ

   その息吹きなど、すでに


   最初から、だから

      たしかに、お前

    重いんだっ。すごく

     莫迦なの?

   さがしもせずに

      めっちゃくちゃおもっ

    すっごく、…これ、ね?

     すがってるかんじ?

   はじめから、だから

      莫迦なの?

    置かして、…ね?

     たしかに、まじで

   想いもせずに


   ささげていよう

      死んだら?

    ここに、置いていい?

     普通に、死んで。…ね?

   わたしたちは

      まじで

    ここに、置いとくね?

     まじで

   あるいは忘却を

      普通に、死んで。…ね?

    いいよね?いいよね?

     死んだら?

   嘲笑に似た


   あるいは惜別を

      消えたら?

    ここにあっても、いいんだよね?

     いますぐ、消えて。…ね?

   いま、ささげよう

      まじで

    いいよね?いいよね?

     まじで

   それら、不在のものたち

      いますぐ、消えて。…ね?

    ね、ね、ね、

     消えたら?

   それら、すべてに


   せめて、せめて

      壊して!

    ささげようか?

     完璧に壊して…

   うつくしさを。せめて

      ぼくを、…ね?

    ちぎって握ってつぶした百合を

     ぼくも、…ね?

   赤裸々な美、その実在を。せめて

      完璧に壊して…

    ささげようか?

     もう、もう、もう壊して!

   せめて、せめて


   それらすべてに

      燒きすてて!

    ね、ね、ね、

     完全に燒いて…

   それら、不在のものたち

      ぼくを、…ね?

    いいよね?いいよね?

     ぼくを、…ね?

   いま、ささげよう

      素粒子レヴェルの燒却

    ここにあっても、いいんだよね?

     やきっ、きっ、きぃっ、燒きすてて!

   あるいは惜別を


   嘲笑に似た

      いますぐ、消えて。…ね?

    いいよね?いいよね?

     消えたら?

   あるいは忘却を

      まじで

    ここに、置いとくね?

     まじで

   わたしたちは

      消えたら?

    ここに、置いていい?

     いますぐ、消えて。…ね?

   ささげていよう


   想いもせずに

      普通に、死んで。…ね?

    置かして、…ね?

     死んだら?

   はじめから、だから

      まじで

    すっごく、…これ、ね?

     まじで

   さがしもせずに

      死んだら?

    重いんだっ。すごく

     普通に、死んで。…ね?

   最初から、だから


   その息吹きなど、すでに

      莫迦なの?

    すっごく、…だから

     まじで

   不在のひとの、その魂など

      めっちゃくちゃおもっ

    せまいんだっ。すごく

     すがってるかんじ?

   擬態。しかも猶

      たしかに、お前

    わたしの部屋、ちいちゃいからっ、ねっ

     莫迦なの?

   だから、たわむれ?…あるいは


   まだ息吹くひと

      莫迦なの?

    綺羅の向こうに

     あそこもかよ

   そこにいるひと

      あそこも?

    虹彩のむこうに

     はりつくかんじ?

   消えさったひとに。しかも

      あそこもかよ

    破壊以外に、なにもないから

     莫迦なの?

   不在のひとに、もう


   だから、そのひとに

      うつくしさに、ぶちのめされたいんだ

    綺羅の向こうに

     でもね、…でしょ?

   それは、だれ?だれの?…ささげられていた

      うつくしさに、壊されたいんだ

    虹彩のむこうに

     うつくしさに、壊されたいんだ

   音楽家の息吹き

      でもね、…でしょ?

    嗜虐以外に、なにもないから

     うつくしさに、ぶちのめされたいんだ

   聞いた気がした


   音楽家の魂に

      胸を燒きつくす屈辱だけ

    壊されてくだけ

     蹂躙だけ

   ふれた気がした

      絶望だけがもとめられていたから

    壊されるだけ

     絶望だけがもとめられていたから

   でも、でもね、そうじゃない。だから

      言い表せない蹂躙だけ

    もう、知っていた。かの女は

     屈辱だけ

   僞造。ないし擬態


   そこに生き延びた、その不在のひとに

      狂暴でなければならない

    傷みしかない、それは奈落

     でもね、もう、知ってた

   埋葬。あくまでも、だから、他人のために

      うつくしいものは

    奈落だよ?…でしょ?

     うつくしいものは

   かなしみも、あわれみもなく

      でもね、もう、知ってた

    足の先には

     狂暴でなければならない

   淚もなく、追憶もなく


   赤裸々な、それ。その欠落に

      過剰なほどの、赤裸々な美

    いつくしむ目も

     だから、せめても

   いま、息づく価値もないものに

      うつくしさを

    やさしい聲も

     うつくしさを

   しかも猶も息づくものに

      だから、せめても

    嗜虐にすぎない

     過剰なほどの、赤裸々な美

   不在でさえない、しかも不在


   それはたしかに、その不在のひとに

      それ以外の可能性、あり得ないんじゃん

    傷みしかない、それは奈落

     破綻するしかないんでしょ?

   だれ?…だれに?…だれ?…だから

      事実もう、破綻してんじゃん

    奈落だよ?…でしょ?

     事実もう、破綻してんじゃん

   ささげもの。あくまでも、だから、だれへの?

      破綻するしかないんでしょ?

    足の先には

     それ以外の可能性、あり得ないんじゃん

   それは、しかも


   その意図もない

      過剰なほどの、赤裸々な美

    もてあそばれるだけ

     だから、せめても

   留保なく、あきらかに

      うつくしさを

    あそばれるだけ

     うつくしさを

   だから、その自覚さえない

      だから、せめても

    もう、知っていた。かの女は

     過剰なほどの、赤裸々な美

   もう、完璧に


   捧げられたもの、その不在のひとに

      それ以外の過去さえ、ないんじゃん

    傷みしかない、それは奈落

     悲惨だけしかないんでしょ?

   僞造。ないし擬態

      事実もう、悲惨すぎんじゃん

    奈落だよ?…でしょ?

     事実もう、悲惨すぎんじゃん

   そうじゃなかった

      悲惨だけしかないんでしょ?

    足の先には

     それ以外の過去さえ、ないんじゃん

   追悼?そんなんじゃ、だから


   そうじゃなかった

      過剰なほどの、赤裸々な美

    その女。もう

     だから、せめても

   創造?そんな、だから

      うつくしさを

    被害者の目

     うつくしさを

   あくまでも、だから、そうじゃない

      だから、せめても

    その女。極端な弱気

     過剰なほどの、赤裸々な美

   僞造。ないし擬態

あの日、あの深夜に沙羅は、果たしてわたしをどんな存在として見い出していたのだろう?その左右に対比をだけさらす虹彩のむこうに。じぶんを拘束監禁する不当な男?見た?息をひそめて。あるいはじぶんを解放したやさしい救済者?見た。息をようやく吐きだして。…なに?いつから沙羅がここに棲みつくことを決断したのかわたしには知るすべもない。そもそも棲み家とみなしていたのかさえも。時にわたしはまるで犬。犬に餌を喰わせるように、沙羅。喰わせてやった。近場の露店に買ってきたパンを、…バン・ミーと呼ばれる。それをゆびにひきちぎって。くちびる。やわらかいそれをこじ開けるようにして。咬ませてやった。しろい、並びのでたらめな歯。極端に小食な生き物。沙羅。咥えた。意図的ににやついて、そしてたわむれを企むまなざしの悪戯ら。虹彩。その綺羅の明滅とともに沙羅は、咥えてみせた。指を、顎をつきだして。咥えこんでみせた。わたしのゆびを。愛撫するように。いつくしむように。そして見下し、軽蔑。侮辱するように。せつなげに。しかも不遜に。やがて鼻にすてばちに息を吐く。沙羅。ささやいた。沙羅が。咀嚼しながら。なに?たとえばぃいんちゅぅんにゃっ「あなたがほほ笑む、夢、見ちゃった」とでも?「お前、何歳?」ふいに、たとえばそんな言葉。わたしは沙羅に、そんな言葉をかの女の聲に答えてつぶやいてみる。日本語で。つまりは、理解不能な他人の言語で。「結婚式は、あしたの明け方がいい、…かな?」沙羅。たとえばそんな?「十三…十二、…四?」わたしがつぶやきおわらないうちに、その沙羅は聲をたててわらっていた。…なぜ?「ブーゲンビリア、塩ゆでするとおいしいんだっ」沙羅。たとえばそんな?「とりあえずお前、ベトナム人ではあるんだよね?」口をあける。沙羅が。喰わせろよ、と?舐められたいんだろ?顎がいちどだけゆれた。ゆび。しゃぶられたいんだろ?そのゆび。褐色の沙羅。…違う?そしてわたしはゆび。バン・ミーの端をきちんとひとくちサイズにちぎる指を見る。じぶんの、そして、ちぎる。










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000