流波 rūpa ……詩と小説101・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈08
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またそのような一部表現によってあるいは傷つけてしまったとするなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
いま、夢、見てた?…そんな
やさしい、やさしい
まなざし。瑠璃。あざやかに
けなげさと、健全
むさぼられるための?…そんな
やらしい、やらしい
からだ。瑠璃。笑えるくらい
淫靡と、下品
世界の市場のために
アジアン・メイクを
白人好みに
イメージ通りに
他人の妄想のために
醒めた目つきを
褐色の肌に
柔順そうに、瑠璃、と。その苗字のない、瑠璃、と。だからその下の名前だけの瑠璃、と。わたしたちのそう呼び、かの女を瑠璃と知っただれからも瑠璃と呼ばれていた…僞名?女。…ビジネス・ネーム?かの女が…タレント・ネーム?ふいに笑って、…なに?と。
「いやなの?」
だからその≪流沙≫。あの最初の曲をはじめて人前で演奏しようという企画。もう二曲目も企画され、しだいに地味にカルト・ヒーロー化しはじめていた≪流沙≫。そう呼ばれはじめていた…楓?かつて楓だった生き物。振り向きざまに、だから瑠璃。その女。かの女に依る唐突な提案に、「いやと言えば、…いや」
「じゃ、…さ」と「いやじゃないと謂えばいやじゃないんじゃん」瑠璃は「…でしょ?」
笑うの、上手だね。わたしは答えなかった。笑顔、上手だね。瑠璃を、ただ、その笑顏、いいね。見ていた。それは呼び出されたカフェ。瑠璃に。携帯電話。そのショート・メール・サービスで。代々木上原。簡素な。あまりにも上品に簡素という事象をそこに実現しようともくろむあまりにも技巧的な簡素。しずかなカフェ。妙に白いその空気のなかに、「やめて」と。
なんで?…こんなに
心は、でもね
しかも壁の色はあわい
しずかなのかな?
燃えてるよ
ベージュなのに?やさしく笑む
きみが、ぼくを
日差しさえもが
そと行きの顏を
咬みちぎるのに
髮を燒いてた
ふいに、あわい目の醒めるような
そのゆびさきを
心は、でもね
ベージュなのに?ななめにゆがんでいる顏。瑠璃。いつか、すでに瑠璃。いつもの不愉快な顏に、その顏を戾して。「そういう、…さ。まだるっこしいの、…さ。やめない?…も、」
「なんで?」
「嫌いだから。わたしが」
その曲、≪流沙≫。あくまでもそれはその曲の名前。わたしのピアノ。一本ゆびだけのピアノ。フェンダー・ローズ。ステージ。MKⅡ?…その、「あくまでもわたしが。…ね。」バリトンという、古楽器。瑠璃。それは「知ってるでしょ。…じゃない?」瑠璃が弾いた。いやになるほどの「…わたし、さ。そういうの、」倍音の奔流。むしろ「さ。いちばん、さ」乱反射「嫌いなの、ね?」エンジニアが瑠璃の要請のもと、その楽器としてはあり得ない微弱音に加工…仮構?した。そもそも瑠璃に聲をかけたのはわたしだった。曲。≪流沙≫に依って暗示されたあの曲、≪流沙≫の具現化、あるいは音源化のための相棒として。音楽家の知り合いなど瑠璃しかいなかった。すでに廃人の楓。そして九鬼蘭をのぞけば。瑠璃。一部のマニアには名の知られたバリトン奏者だった瑠璃。かの女に聲をかけたのは、…ね?夏?…の、はじめ?だから…なに?初夏?おわり?…ね?むしろ梅雨。あのあじさいの色彩の…だからなに?終わり。…逢おうよ。
見ないで
発情してんの?
やだ。
淚にぬれて
やらしくなってた?
でも、おまえ、
見ないで
ひとり、発情?
なに?
そのぬれた目で
爛れてる?
おれに逢いたいでしょ?いまや希少な古楽器。その難解な響きを曲にゆぃいぃ…ん、んっ。殘響。もとめたのではなかった。だからただゆぃいぃ…ん、んっ。殘響。しかもかならずしも共謀者としてかの女を、とゆぃいぃ…ん、んっ。殘響。選んだ?まさか。瑠璃の、あるいは…過剰なまでにいやらしそうな躰。瑠璃。たぶん男の首筋にさえふれたことがない。世界的な知名度とレコード会社との…過剰なまでにおいしそうな躰。瑠璃。コネをもとめた、と、あるいは…過剰なまでに惡趣味な躰。瑠璃。ほしいの?≪流沙≫はそう思っていたかもしれない。それはね、ね、ね…なに?あるいは事実だったかも知れない。無意識的にでも。ほしいの?ただしそれ以外にすべはない。音源化を望むなら。まだインターネット時代のさきがけ。黎明期。どうやって?音源を公表するとすればどうやって?レコード会社の制作する商品物にたよる以外にどうやって?手立てなど。ない。なにも。なかった。なにが?なにも、≪流沙≫に音楽業界へのコネはなかった。なにも。わたしにも、わたしは単に完全な素人だったから。はじめて。そもそも、ほしいの?なにもかも。咥えてほしいの?ピアノに…バカ。ふれることさえなにもかも。もっとも著名人という事実などなかった。瑠璃に。自覚さえも。自分が有名奏者であるというそんな、たとえば瑠璃。かの女がドンペリ一本を一気飲みした埿醉の思いあがった頂点の勝手な妄想としてさえなにも。なかった。もちろんわたしにも。≪流沙≫にも。なにもなかった。だから、わたしが瑠璃を利用したというのはのちの≪流沙≫。そのこじつけ。嫉妬?でたらめな焦燥?…考察。なぜ?ひとりよがりで、うがったものの見方。じぶんだけに赤裸々な妄想に溺れすぎただれ?だれ?だれ?≪流沙≫。すでに≪流沙≫とこそ呼ばれるべきだった
かさねて、さ
見ろよ。ほら
かれ、≪流沙≫。考えた。
こころをこころに
火がゆらぐ
考えた。頭脳は。なぜ?
かさねて、さ
ちいさくゆらぐ
もちろん、意識されない水面下にわたしは
ゆびさきにゆびさきを
きみの爪のさきに
知らない。だから知らない瑠璃。かの女の利用をある方法論の当然の方法のひとつとしてすでに知らない。だから知らない。思いついていたかも知れない。知らない。だからたしかに、≪流沙≫。かれ。≪流沙≫がその口頭に与えた、るぅ…しゃ。「…え?」≪流沙≫。その「なに?」ひびきのるぅ…しゃ。「…え?」≪流沙≫。その曲のアイデアを具現化するために、不可能だった。わたしひとりでは。≪流沙≫ひとりでも。楓がいたとしても。じゃ、なぜなら≪流沙≫とは楓の崩壊に対するまなざしが楓といういわば廢墟に見出したひびきであったにすぎないから。…だれ?不可能だった。≪流沙≫。基本的には三聲。三聲部しかないひびき。たぶん、まともなピアニストなら造作なくひとりで…ああっ。ひきこなしてああっ。しまうにちがいない。わたしにはああっ。
…ね?
流されていたのは
ドビュッシー?
これ、いいかも。指さき一本一本でああっ。
…ね?
ピアノ。ソロ。…だれ?
とろけるような
これ、やばいかも。鍵盤を押さえる以外の奏法を知らなかった。だから、わたしには——ね?
なに?
モーリス・ラヴェル?
流れ去る音
どう?とりえずは瑠璃が必要「…なんでよ」と、それは瑠璃。ふいに、おもいあぐねたように。
やろう、よ
やらっ…やっ
「なにが?」
やらねぇよ
やっ…やろう…ぉう…
「なんで、やなの?」わたしは答えなかった。無視ではない。たんに答えるべき言葉を思いつかなかったのだった。「なんで?」と、それはややって、わたし。見つめた?ふいに、むしろ見つめた?瑠璃を。意を決したように見つめた?瑠璃を。重労働にとりかかる見つめた?瑠璃ごときを。肉体の負担。それについての、だから見つめた?決意。
「なにが?」聲。
空間に、ノイズ
聞こえる?
「なんで、やりたいの」その耳元に
暖房装置の
なにが?
「眞似しないで」瑠璃は聲を立てて笑った
耳障りな、しかも
聞こえた?
「そんな気はない」聲。
微弱音
だれが?
「茶化さないで」その耳元にふるえて
その空間に、ノイズ
聞いてる?
「ちゃか」消えた。…もう
ささやく聲の
なにを?
「…してるよ?いま、眞沙夜。結果的に、…だから、さ。ね。なんで?なんでいまこの瞬間にいきなり勝手にひとり引きこもりたくなっちゃったりするの?」瑠璃の世界的な知名度というのは、あくまでバイリトンという、ハイドンにばかり精通して仕舞う結果にしかならない極端にマイナーな楽器の知名度に比例した。まともな演奏家など
好きなんだ!
匂い、嗅いでいいかな?
世界中数えるほどしか
精一杯、いま
若干、さ
いなかった。すくなくとも
好きなんだ!
すっぱくないかな?
そのころは。いまも?だから永遠に?瑠璃。かの女はせめて月が碎けるまで?世界中の一部の西欧古楽マニアの太陽が獏に夢のなかに喰いちぎられるまで?一部にだけは知らないもののいない知名度をほこり、かつ、世界中のほとんどだれにも知られていない演奏家だった。かかわりのあるレーベルは古楽専門の超マイナー・レーベルにすぎない。たしか
聞いたことのない
孔ぐらに
スコットランド国籍の。それにしても
響きを、聞こうよ
鼠。ぃいっ。ぃいっ
専属契約などという大それたものではない。なんでも
見たことのない
孔ぐらに
網羅しなければ気が済まない
風景を見ようよ
蚯蚓。ぅいっ。ぅいっ
レーベル。その厖大なハイドン・ツィクルスの一環として依頼された録音計画。とろとろといつ果てるともなく進行中。と、いうだけにすぎない。ツィクルスの計画がとん挫するか、計画が完成して仕舞えば瑠璃にはたぶん、あたらしいレコーディングがセッティグされることはない。普通に考えれば。もっとも、普通に考えて百五十曲前後にのぼるハイドンのバリトン系楽曲の全曲録音には十年以上かかる。まだ、ほんの十曲前後しか録音されていなかった。だからとうぶん瑠璃にはプロフェッショナルとしての居場所がある。コンソールの前のエンジニアたち。その聴覚とまなざしの向こうにぃいっ…ん。極端にいやらしく大づくりなぁいぃんっ…。体躯を黒ずくめのぉうぃんっ。パンツ・スタイルにぃいぃ…んっ。おしこんで。なぜか…はみ出てない?ミュンヘンぃゆぅうんっ…。なまりのドイツ語を話すイングランド人と、そのぉうぃいぃ…んっ。パートナーたるリヴァプール出身の技術者。いつもバイトン特有の倍音とゆぃいぃ…ん、んっ。殘響。反響の半狂乱にく、く、苦労する。く、く、
「…必然性、ある?」
「コンサート?」
くそっ
な、な、な、
「…必要性、ある?」
「だからなに?」
くそっ
な、な、な、
「もとめてる人、いるの?」
「いるんだよ」
なんだよこれ
くそっ
「どこに?」
「…ここに」と、そう言って、それは瑠璃。もったいつけて沈黙した瑠璃。それが瑠璃。…が、ようやくにやけはじめる前にはすでにわたしは「バカじゃないの?」吐きすてるように。その聲をあびせて吐き捨てるように。瑠璃に。あくまで「お前の」聞き取れないほどのささやき聲で。むしろ「小遣いかせぎかよ」やさしく聞こえるように。…なぜ?
「わるいの?」
やさしい聲を
遠くには
「わるくない。ただ、くだらない」
「それ。どんな違いなのかな?」
聴いてたいんだ
叫び。…どこ?
「ほとんどない」
「形而上学的に拒否するのやめて」
なだめるような
喉がいま、血を流しているよ
「ニュアンス。あくまで個人的でパーソナルなニュアンスの、」
「個人的とパーソナルとの日本語的語彙論的意味作用の相違って、…あんの?」
なだめあうような
耳もとには
「自分で考えたら?」
「…ね、わるいことって、さ」
やさしい聲だけを
叫び。…なぜ?
「自分の頭くらいあるんでしょ?…まだ」
「わるいの?」言って、そして瑠璃は故意にもの思わし気な顏をつくった。「わかんないよね。雅雪には。こういう、哲学的な省察ってさ、」
「その気はないよ。とにかく、コンサート?そんな気になれない」わたしは云う。瑠璃は聞かない。故意に。だから故意に聲をかぶせて、「あんたじゃなくてもいい」そして、見せつけていた。ただ、こみよがしな沈黙を。
「だれでもいいんだよ。わたし的には」
「勝手に、…」
人類とは、たぶん
笑う。…ごめん、ぷっ
「じゃ、だれに許可とればいい?…あんた?違うよね?…あのぶさいこな子?ちがうよね?…わたし?」
「違うよね」
殺し合うという事象
笑っ。…ごめっ、ぶっ
「じゃ、いいじゃん」
瑠璃は云って、そして、しあわせ?むしろ、ただいま、しあわせ?とろけそうにやさしい顏に、いま、きみ、しあわせ?ひとり、笑んだ。
「好きにしなよ」
「て、いうか、ね、雅雪」
人類とは、たぶん
笑う。…ごめん、ぽっ
「なに?」
「そういう態度、良くないと思うけどな。お姉さんは、」
殲滅し合うという事象
笑っ。…ごめっ、ぼっ
「って、どんな?」
「ひとり、なんか他人こ莫迦にした、そういう…」と、瑠璃はもはや思わず吹き出して笑って仕舞いながら「うすら笑いで、わたしを見つづけてんの、もうやめてね。…それ、嫌いかな?Mっけないから。意外にね。…わたしは」謂く、
一度もなかった
やさしくあろうなどとは
あなたとは
瑠璃。愛に餓えていたひと
一度もなかった
いつくしみあうことは
あなたとは
瑠璃。愛におぼれていたいひと
いらだった眉に
知っていた。ひとりで
愛されるべきだと
確信。…なぜ?
はやくちの舌に
粘膜に渇き。勝手で
なげやり。わななく笑みと
不遜。…なぜ?
いたたまれないほどに
追い詰められたひと
なぜ?…瑠璃、いまも
猶も不幸なの?
やさしい日差しも
木漏れ日も
それは焦燥。きみだけを
そこに燒きつくし
そこに燒きつくし
それは焦燥。きみだけを
木漏れ日も
やさしい日差しも
猶も不幸なの?
なぜ?…瑠璃、いまも
追い詰められたひと
いたたまれないほどに
不遜。…なぜ?
なげやり。わななく笑みと
粘膜に渇き。勝手で
はやくちの舌に
確信。…なぜ?
愛されるべきだと
知っていた。ひとりで
いらだった眉に
瑠璃。愛におぼれていたいひと
あなたとは
いつくしみあうことは
一度もなかった
瑠璃。愛に餓えていたひと
あなたとは
やさしくあろうなどとは
一度もなかった
すなわちモーリス・ラヴェルか、あるいはドビュッシー…だれ?そのあかるいカフェに。日当たりのいい、しかも敢えて選んだ翳りのななめにある席に。…なぜ?きみは聞いていたのだろう。わたしの聲を。軽蔑しかさらさないわたしの聲を。…なぜ?きみは穢いのだろう?わたしにとって、そのまなざしのなかに。瀟洒なカップに、口紅が殘る。なすったように。あなたのように。あなたそのもののように、だから穢れもの。穢れたものたち。たくらみあっていた、それら穢れたち、かさねて謂く、
一度もなかった
それはノイズ
ささやかれたいんだ
そっと
やさしくあろうなどとは
耳に
きみは、無価値、と
耳に
あなたとは
そっと
いつでも耳に
それはノイズ
瑠璃。愛に餓えていたひと
一度もなかった
やさしいノイズ
ささやかれたいんだ
沁み込んでゆく
いつくしみあうことは
からだのなかにも
きみは、汚穢、と
からだのなかにも
あなたとは
沁み込んでゆく
ふれそうな至近に
やさしいノイズ
瑠璃。愛におぼれていたいひと
いらだった眉に
それはピアノ
じぶんこそ
せつないほどに
知っていた。ひとりで
それはノイズ
あなたこそ
それはノイズ
愛されるべきだと
せつないほどに
わたしこそ
それはピアノ
確信。…なぜ?
はやくちの舌に
うつくしいピアノ
泣きそうなくせに
きたらなしいよね?
粘膜に渇き。勝手で
それはノイズ
なぜ、笑ったの?
それはノイズ
なげやり。わななく笑みと
きたらなしいよね?
軽蔑的に
うつくしいピアノ
不遜。…なぜ?
いたたまれないほどに
壁際のタンノイ
愛し合おうか…ね?
骨董のくすみ
追い詰められたひと
どこで買ったの?
傷つけながら
どこで買ったの?
なぜ?…瑠璃、いまも
骨董のくすみ
傷められながら
壁際のタンノイ
猶も不幸なの?
やさしい日差しも
孤立。わたしたちはそれぞれに
愛されてんだ、と
孤立。わたしたちは
木漏れ日も
しあわせを描いたカフェになかで
赤裸々な噓
しあわせを描いた
それは焦燥。きみだけを
孤立。わたし
あなたにあげよう
孤立。わたしたちはそれぞれに
そこに燒きつくし
そこに燒きつくし
骨董のくすみ
あなたにあげよう
壁際のタンノイ
それは焦燥。きみだけを
どこで買ったの?
赤裸々な噓
どこで買ったの?
木漏れ日も
壁際のタンノイ
愛されてんだ、と
骨董のくすみ
やさしい日差しも
猶も不幸なの?
きたらなしいよね?
傷められながら
うつくしいピアノ
なぜ?…瑠璃、いまも
それはノイズ
傷つけながら
それはノイズ
追い詰められたひと
うつくしいピアノ
愛し合おうか…ね?
きたらなしいよね?
いたたまれないほどに
不遜。…なぜ?
せつないほどに
軽蔑的に
それはピアノ
なげやり。わななく笑みと
それはノイズ
なぜ、笑ったの?
それはノイズ
粘膜に渇き。勝手で
それはピアノ
泣きそうなくせに
せつないほどに
はやくちの舌に
確信。…なぜ?
沁み込んでゆく
わたしこそ
やさしいノイズ
愛されるべきだと
からだのなかにも
あなたこそ
からだのなかにも
知っていた。ひとりで
やさしいノイズ
じぶんこそ
沁み込んでゆく
いらだった眉に
瑠璃。愛におぼれていたいひと
そっと
ふれそうな至近に
それはノイズ
あなたとは
耳に
きみは、汚穢、と
耳に
いつくしみあうことは
それはノイズ
ささやかれたいんだ
そっと
一度もなかった
瑠璃。愛に餓えていたひと
ぼくに、ください
いつでも耳に
ののしってあげるから
あなたとは
赤裸々で無防備でこれみよがしな愛を
きみは、無価値、と
赤裸々で無防備で
やさしくあろうなどとは
ののしってあげる
ささやかれたいんだ
ぼくに、くだ
一度もなかった
かの女を愛したことなど、一度も。惹かれたことも、一度も。まして発情?…まさか。そのときに、手にふれるをも厭わずにかつぎあげてその肉体を、自分の占拠した部屋に連れ帰ったのは、…なぜ?共感?あり得ない。親近感?まさか。同情?間違っても。憐憫?そもそも同情と憐憫との違いはなんなのか?眠るように身をあずけて、肩にその肉体は抗わなかった。気を失っているようにも想えた。しかし、知っていた。わたしだけは。それがすでに眼を閉じてさえいないことをは。生まれてからずっと、瞼を閉じて眠ることなどなかったはずだと、そんな無意味な確信さえすでに。わたしの腰に、その額をときに、それは激しくぶつけて仕舞いながらにも。足元。ただ砂にまみれているというだけで大して外傷も見止められず、しかしたしかに凄惨というしかない印象。それだけが赤裸々だった肉体。それ。片膝をついて覗き込んだ。…なぜ?潮騒がうるさい。あり得ないくらいにうるさく聞こえ、…なぜ?うるさい。その目隠しを剝ぎ取った。顏をそむけそうになった。…なぜ?波。波のひびき。だから、それら、色違いの虹彩がそれぞれに、違う方向を見て、そしてわたしに気付いてさえいなかったから?…ふいに、美少女のほうの瞼がまばたいた。仏像の火焰じみたはんぶんに、瞼は引き攣りもしなかった。月の直射が、それをもふくめた肉体をただひたすらしろく、際立たせていた。白とは名づけようもない色彩のさまざまなそれを。しかし、白。しろい。しかも白砂の白とはあざやかな翳りの対比をも描きつくして、白。しろい。その色彩にと惑った。屈辱じみて、白。だから、しろいとそれだけあえて認識しておき、その名前も知らない肉体。そを沙羅、と、そう名づけていた。そのおびただしく咲く花の色は白だから。
0コメント