流波 rūpa ……詩と小説100・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈07


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またそのような一部表現によってあるいは傷つけてしまったとするなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただ、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。



あるいは、

   それは何月?

   季節は、いつ?

   たぶん、初夏かな?

   日影に蜉蝣


   ひなたに陽炎

   うすく、燃える

   季節は、いつ?

   それは初夏?


   いたずらをした

   わたしは、わたしに

   あなたは、あなたに

   もてあそぶ、あそび


   いじわるをした

   わたしは、こころに

   あなたは、こころに

   火照ったからだはだから知らない。わたしは。いま以て。それがどちらからだったのか?それ。その肌をかさねようとし、かさねることを求め、しかもまったき事実としては肌はついにかさなりあわないままに。それ。だからかさねられて仕舞ったにもひとしく、しかも

   愛について

      なんですか?

躊躇しつづけた肌。それ。それら、それは

   ぼくらの愛

      この、匂い

どちらから?どちらの

   愛について

      きみの髮から

肌がさきに目覚めて?

   話さないか?

      薰るのです

愛するということ。わからない。いま以て。だから完璧な謎。赤裸々に謎。もはや。わたしにとっては。≪流沙≫にとっても?楓にとっても?楓。≪流沙≫。どの≪流沙≫?…あの楓?だれ?どれ?どちらが?いずれにせよささやきあうように、わたしたちはただふれあう至近にたわむれ、存在しない。わたしがもとから同性愛者だった事実など。まして楓。まして≪流沙≫。ささやきあうように存在しない。わたしたちには同性愛という事実があった、その認識さえも。そもそもささやきあうなら、それはなに?愛?むしろ赤裸々に愛とだけ?わたしたち。わからない。いま以て。楓と≪流沙≫、わたしと

   ささやきあうように

      せつなさは

楓、≪流沙≫とわたし。それら

   ささやきあうように

      速度。ただ

それぞれの行爲が

   わたしたちは見つめて

      加速しか知らない

同性愛と

   ささやきあうように

      速度。もはや

見なされるべきだったのか、わたしにはついにわからない。想起される記憶のもろもろのさらしつづける不可解は、もちろん単なる記憶操作にすぎないのかもしれない。わたしの。個人的な。しかし、事実としてのささやくような、ささやきのような、言葉を聴き取られることをしずかにそこに羞じていたかのようなささやきのような…どんな?ふれあい、…未滿。ふれあい未滿の、しかもふれあい。≪流沙≫。かれが一方的にふれて。ぼくに。仕掛けたのかもしれなかった。楓。かれがふれて。ぼくに。一方的にあるいはわたしたちはふれて。ぼくに。もとから同性愛者だったのかもしれない。たしかなのは

   ふれて。ぼくに

      せつなさは

わたしたちにはもう、十歳になるころにはすでに

   聞き逃されたささやきのように

      焰。反吐がでそうな

恋愛と名づけて仕舞うしかない

   ふれて。ぼくに

      灼熱。焰の

陰湿で、…なぜ?淫靡で、…なぜ?むしろやわらかにとける鐵粒を無数に咬むような?…なに?しかも清冽さ。…なぜ?しかも健康をももとめる?そんな息吹き。それら矛盾が不可解な矛盾をさらしつづけるままに、だからしずかにのたうちまわるしかない感覚のなかに赤裸々に目覚めていて、…いつから?そしてなすべもなくわたしたち。そのわたしたちはそれ。いきいきとしたその息吹きに…無防備な暴力に?屈従…衝動。突き動かす。従属しているしかなかったのだった。なぜ?あくまでも…衝動。突き動かす。自分の欲望と知り、知りすぎるほど知り、…なに?明晰に。知り、知りすぎるほど…あれ?空が。明瞭に。知り、知りすぎるほど空が、あれ?…衝動。突き動かす。だから晴れ渡った空。あきらか。あきらかすぎてあれ?空が。かつ他人の強制のようにこそ光り。光り。つき射し、…虐げられた。…光り。ぼくだけが!…そんな

   射してるよ。もう

      窒息。あっ…

         萌える芽きざし

自分自身にすでに

   きみの肛門にも

      まばたき、眩み、昏み

         萌えた芽ちらり

とまどいつづけながら。とまれ

   朝の光りが

      窒息。あっ…

         萌える芽めざめ

十四歳の?…たぶん、だから、たぶん、——ね?十三歳の?…たぶん、だから、たぶん、——十五歳になる、それはその寸前のあやうい、…たぶん、あやうい、ね?だから、あやうい、よね?それは楓。楓はそっと、わたしにその背中をあずけて、不意に、吹き抜けた?

   もうすぐ、ね?

いちぢんの風が?

   空が萌えます

なに?そうやって、しかも

   轟音のなかに

かならずしも抱きしめようとはしていなかった。胸は。それは、だからわたしの胸は。…あたたかな?…胸にかれはかれをうずめた。ちいさな、ちいさな、ちいさなかぼそい楓。少女のように華奢な、むしろ華奢な少年らしく華奢なわたしよりも更にかぼそく少女のように。その異質さ。むしろ、赤裸々な異質さ。笑ってよ。少女のように。柔道部に勧誘されさえした≪流沙≫。巨体の≪流沙≫。凡庸な額に汗つぶをうかべた、そんな体臭の似合う≪流沙≫。かれにくらべれば、もうくらぶべくもなくこわれそう。こわれちゃいそう。どうしようなくこわれ、こわれ、こわそんな、それが楓。かれの肉体。…ね?

   ふれあおう

      こわしてよ…

わたしの部屋のなかだった。だから

   まるですべてを

      でしょ?でしょ?

たぶん、日曜日に?…なら、

   あざわらうように

      こわしまくってよ

≪流沙≫。かれはそのとき、どこに?…いたの?あれほど、…いたの?想起される記憶のことごとくで、おれのこころにいたの?もはやわたしたちのそばにいて、ずっと、しかもわたしはかれらの側にいて、ずっと、楓はわたしたちのそばに、ずっと、だから、どこに?そのときに。例外だったのだろうか?あるいは忘却された≪流沙≫。かれが、そこにもまばたいていたのだろうか?凡庸にあぶらぎりはじめた額にうすい汗をうかべて。似つかわしい匂い。しかもそんな瞬間。ふたりだけしか存在しない、そんな瞬間。それが例外的な須臾とするならば、それはかならずしも例外とは言えない。ありふれていて。事実、なんども、なんども、ありふれていて。わたしと楓。ふたりはふたりでささやきあい、…だけ。ふたり。ふたりだけ、で。そして…だけ。だけ、で。ふたり。肌。そして肌。それとそれ。すれすれにあやうくちかづけあって息吹き。肌。その息吹き…どちらの?は、ただ眞摯にたわむれ、たわむれ、…なぜ?たわむれあったのだから。たぶん、まだ

   いつでも、ふたり

      ふりそそぐ

≪流沙≫ならざる≪流沙≫は

   恋人たちは。いつでも

      暴力的な雨が

家事の手伝いでもしていたのだろうか。過剰に

   ふたりだけ

      頸筋にそそぐ

こどもたちをかかえすぎた貧困家庭のいそがしい≪流沙≫。自分より十何歳年下の、母親の違うこどものおしめをでも?多忙な≪流沙≫。かれとかれらがまだ幸せだったころ。笑った、と、だからそう思った。楓が。笑った?聲をたてて、なぜ?みじかく、なぜ?なぜ?ただ一刹那、花の匂いをぼくは嗅ぐ。だからいたずらな、なぜ?嘲弄に似た、なぜ?なぜ?吐かれた息。どこに?息づかう。息は、どこに消えて仕舞うのだろう。生きてる?呼吸。舞う塵りさえ綺羅。ひびき。ひびく、耳元に。息。その、あやうくふれあいそうになるたびにたしかに

   かなしさ。それは

      あたためよう…ね?

楓。肌を避けあって楓。その

   ふれなかった事実。あなたの

      ぼくだけを

肉体に於ける事実としてかれが

   吐いた、その息。その

      きみの、すべてで

少女にほかならないことを

   温度のある息が、

      あたためよう…ね?

ことさらに、わたしの

   ついに、わたしに

      あたっ…

肌。そこにふれあう温度を

   わたっ…

      きみだけを

暗示だけした面積。その

   わたしにふれはしなかった

      きぃっ

すべてに。生地をとおしてさえも

   そんな事実。かなしさそれは

      ぼくの、すべて

温度。赤裸々に、克明に、

   赤裸々に、ただ

      あたためよう…ね?

明示。あたたかみ。悟らせ。しかも

   鮮烈な

      ぼくらのほろびの

息吹き。なんらなにをも矜持することもなく、見て。あっ…そして、あっ…その

   かなしみ

      その前日に

見て。あたたかいんだね。胸。やわらかな。ひとよりおくれてふらみはじめた接触。右の胸に接触。わたしの左手を、わたしたちの接触。…なぜ?いざないの手のひら。ふるえ?そのときに、…怯えもないまま?「女の子、なんだ。一応。やっぱ」聲。嘲笑?わたしの。だから、わたしだけが

   そっとななめに

      お水はね

わらう。こぼれ、

   日射しが

      イノチを

こぼれだした、

   差し込んでいます

      イノチを

…なに?息。

   ほら、その窓に

      はぐくむのでした

それはわたしの、笑いに

   だれかの置いた

      お水はね

ふれた息。

   ベゴニアの鉢

      お空にのぼ

あたたかい?

「違う。…おれは」

「男?」

   傷つけてあげる

      それは覚醒

「たぶん、…ね?」

「なに?」

   ぼろぼろに、きみを

      わたしたちの覚醒

「おれたちは、もっと素晴らしいものなんじゃない?」

あり得なかった。その楓が笑っていたはずは。錯覚。ただの錯覚にすぎなかった。その笑みは。そう思った。赤裸々な笑み。顎の下に、ややかたむけた顎をつきだし、ただ、あざけるように?なにを?わたしをちょろまかす気?なぜ?見上げた楓のそのおちょくる気?なにを?目にはあきらかに絶望…の?、絶望?…の。色が、きみはただ赤裸々な絶望。浮かんでいたから。思い詰められるだけもう、思い詰めもう

   きみは絶望を

      いつも、いつでも

         噓、つかないで

ひとり、もうとっくに

   絶望だけを、くれた

      いくつも、いくつでも

         そんなきみは

もう思い詰められ得る限界以上にもう、そこに

   ぼくにだけに、くれた

      いつも、いつでも

         嫌い、かも

ただもう、思い詰めて仕舞っていたかのように。翳りなど。わたしはそのもはや昏くさえもない。翳りなど。そこになんら、ただただ冷酷なだけの翳りなど。絶望。その、わずかにさえも翳りなど。そこに張り詰めた強靭…なんの?おののきもせず、…なんの?あるいはなぜ?そこになぜ?楓をさえ見なかった。楓さえも見ていなかった。はっきりと見られてはいない。見つめていたものは見られてはいない。…なぜ?嗜虐的なわたし。なにを見たの?穢らしく、陰湿に、なになに?きっ楓をなにを?きたなっ追い詰めてなにを見たの?追い込み、きっ加虐のためにのみきたなっ加虐する虐待者それがわたし。…と、——穢い。思う。わたしは楓に、穢いよ穢いよ穢すぎたよ楓を誘惑したわたしの穢いよ穢いよ穢さを思い、——穢い。思う。思い知らされ、知った?わたしが?なにを?かれを、まさに誘惑したのはわたしだったのだと認識して仕舞いながら、過失。…すでに?わたしが?

   ほら、淚

      ふるえたね?

いつ?

   淚の味は

      ふるるるるって

記憶。

   体液のくさみ

      ふるえていたね?

たしかにわたしは楓に、だから発情さえしていたのかもしれなかった。やめて。やめてクラスの同級生、学校のやめて。やめて。少年たち、そしてやめて。やめて。ぼくはうつくしい。少女たちとおなじように?…その、なすすべもないほどにうつくしい、そして、それら美しいという事実を見い出すまなざしのさまざまがさまざまに知っていた美のまったき事実に、ただ違和をのみ違うから。つきつめる、おれね違うからね。容赦なく暴力的な、そんな違うから。息吹き。少女たち。しかも少年たち。だれもがもう知っていた。町で知れ!もっともうつくしい知れ!少女はその

   ふれあうふりを、してようよ

うつくしすぎる肉体を知れ!空の

   ぼくら

絶叫。なに?すがたのない

   ふれあうふりを、してようよ

赤裸々な少年に支配させていた楓。あるいは爪の絶叫。なに?少年は少女の肉体に閉じ込められそれが楓。だから眉の絶叫。なに?虐げられていた?だから不穏なまでうつくしい楓。かれはうつくしいひとつの不穏…謎。…惡意?に、ほかならなかった。

排除されはしなかった。ぼくは惡意。受け入れられてもいなかった。赤裸々に惡意。軽蔑など。まして。恋され、憧れられ、遠ざけられ、だから、楓とはいったいなにものとして自分をわたしたちの前のさらしていたのだろう?「いいよ」と。

   壊してよ!

      咬め。空を

だから、

   おれを!おれも!

      その色彩の空虛

そう云った。ささやき。…その聲。楓。ささやき。ひたすらやさしく、ささやき。なぐさめるように、だから、ささやき。ひとり傷つき、傷つけられていたのは、わたし?

「…なに?」

「さわって、いいよ」

   素直になりたいのに

      赦しあうしか

楓の聲。それはただ、なぜか痛ましくて、傷ついた心、傷つき

「…ね、」

「さわりたい?」

「おれ?」

   素直になれないときには、…ね?

      すべはなかった

台無しにされた、それは

「…じゃない?」

「なんで?」

「…違う?」

   死ねよ

      認めあうしか

楓の魂。…精神?——と、まなざしの至近に、見なかった。もう。ささやく楓の唇をは見なかった。もう。表情さえない、冴えたまなざしを、綺羅。ないないない。虹彩。きら、ないないない。見ていた。わたしは、…綺羅。虹彩。きら、息をひそめさえせず、むしろ…綺羅。大胆に?虹彩。きら、誇示するように?綺羅。不遜なほどに。だから楓にえらばれたわたし。その選ばれてあることのぼくがきみのそばにいた!特権の存在。恍惚とすべき?楓。かれに手のひらはもはやなぜ?許される意味などなぜ?かすかな汗。きみ。なかった。すでに、なぜ?かすかな生地ごしにであれ楓。すでに

   なんで?きみは

      いいんだ

ふれていたから。だから

   虐げられてるひとたちみたいに

      ぼくは。ぼくでいて

ふれたりしてようよ。ただ

   笑んでるの?

      いいんだ

その温度を、…楓。してようよ。その肌の息吹きにふたりだけでさ。してようよ。あたためられた、楓。生地の?…綺羅。楓。虹彩。きら、わたしは綺羅。感じていた。手のひらに、楓の生きてそこにある綺羅。楓。虹彩。きら、その容赦ない事実を、謂く、

   笑っちゃう

   いい?笑っても

   わたしたちは

   殘酷だから


   発情しちゃう

   いい?しちゃっても

   わたしたちは

   赤裸々だから


   嗅いでたのは、…ね?

   あなたの匂い

   隱しもせずに

   それ、だって


   隱されてさえいなかったから

   殘酷なくらい

   赤裸々に、ただ

   さらされてたよね?…ん


   嗅いでたのは、…ね?

   唇の匂い

   魚くさくない?

   それ、だって


   隱されてさえいなかったから

   殘酷なくらい

   赤裸々に、ただ

   さらされてたよね?…ん


   嗅いでたのは、…ね?

   髪の汗の匂い

   醗酵してない?

   それ、だって


   隱されてさえいなかったから

   殘酷なくらい

   赤裸々に、ただ

   さらされてたよね?…ん


   知ってるね?

   あなたも、もう、ね?

   知ってたんだよね?

   射しつらぬく


   わたしたちを光りが

   燒きつくすために

   燒きすてるために

   怒りさえなく


   絶望さえなく

   燒きすてるために

   燒きつくすために

   わたしたちを光りが


   射しつらぬく

   知ってたんだよね?

   あなたも、もう、ね?

   知ってるね?


   さらされてたよね?…ん

   赤裸々に、ただ

   殘酷なくらい

   隱されてさえいなかったから


   それ、だって

   醗酵してない?

   髪の汗の匂い

   嗅いでたのは、…ね?


   さらされてたよね?…ん

   赤裸々に、ただ

   殘酷なくらい

   隱されてさえいなかったから


   それ、だって

   魚くさくない?

   唇の匂い

   嗅いでたのは、…ね?


   さらされてたよね?…ん

   赤裸々に、ただ

   殘酷なくらい

   隱されてさえいなかったから


   それ、だって

   隱しもせずに

   あなたの匂い

   嗅いでたのは、…ね?


   赤裸々だから

   わたしたちは

   いい?しちゃっても

   発情しちゃう


   殘酷だから

   わたしたちは

   いい?笑っても

   笑っちゃう

すなわちふいに香り。その香りが鼻先に匂い、香り。それら、匂いたち。それら、たとえば髪の毛のなまなましい匂い。その楓。むしろ短く刈りあげた短髪のくせに。なに?嗅ぎ取るべきだったものは。なに?少年の髪の?少女の髪の?わたしは嗅いでいた。むしろその匂い。もう、少年でもなく、少女でもなく、男でも女でも、楓でも楓と呼ばれた生き物でもなく、だから寄生。寄生する自生。楓に生えたもはや楓とは名づけ得ない自生物。その?…そんな?匂い。あるいはもはやなにかの匂いでさえなく、なんの匂いとも呼ぶべきでもなく、なに?どの匂いでも、この匂いでも、なんでもなくて、だからそれら、いわば微粒子のざわめき。…ね?その鼻孔にも、朝の微光。わたしたちは。朝は微光。そのときに、かさねて謂く、

   笑っちゃう

      秘密をつくる

    あなたのまえでは

     巢をつくるように

   いい?笑っても

      …なぜ?

    知らない。わたしは

     …なぜ?

   わたしたちは

      巢をつくるように

    おそれなど

     秘密をつくる

   殘酷だから


   発情しちゃう

      僞りを生む

    あなたのまえでは

     巢には出口が

   いい?しちゃっても

      …なぜ?

    知らない。わたしは

     …なぜ?

   わたしたちは

      巢には出口が

    おびえなど

     僞りを生む

   赤裸々だから


   嗅いでたのは、…ね?

      ひらいている

    あなたのまえでは

     ひらひら

   あなたの匂い

      いつでも

    知らない。わたしは

     いつでも

   隱しもせずに

      ひらひら

    おののきさえも

     ひらいている

   それ、だって


   隱されてさえいなかったから

      あたらしい風も

    吸い込んだ

     ひらひら

   殘酷なくらい

      心地よい風も

    いっぱい、わたしは

     心地よい風も

   赤裸々に、ただ

      ひらひら

    うるおう大気

     あたらしい風も

   さらされてたよね?…ん


   嗅いでたのは、…ね?

      さわがしいほどに

    停滞していた

     こころ、いたっ

   唇の匂い

      だから胸さわぎ

    あなたのそばに、それは

     だから胸さわぎ

   魚くさくない?

      こころ、いたっ

    香りをうつし

     さわがしいほどに

   それ、だって


   隱されてさえいなかったから

      そこに、いたっ

    匂いに染まって

   殘酷なくらい

      むし、ふんだ

    笑っていい?

     むし、ふんだ

   赤裸々に、ただ

    …なぜ?

     そこに、いたっ

   さらされてたよね?…ん


   嗅いでたのは、…ね?

      飛び散る体液

    紫外線が、…ね?

     いっせいに

   髪の汗の匂い

      むしたちは孵化

    あなたを燒いたよ

     むしたちは孵化

   醗酵してない?

      いっせいに

    いま、そっと

     飛び散る体液

   それ、だって


   隱されてさえいなかったから

      ほら、はばたくよ

    自然的状態に於ける放射能が、…ね?

     あげは蝶たち

   殘酷なくらい

      蝶たちは、いま

    遺伝子を燒いたよ

     蝶たちは、いま

   赤裸々に、ただ

      あげは蝶たち

    いま、そっと

     ほら、はばたくよ

   さらされてたよね?…ん


   知ってるね?

      蝶たちは燃えた

    電磁波が、…ね?

     灰はゆらめき

   あなたも、もう、ね?

      太陽が燃やした

    うぶ毛を咬んだよ

     太陽が燃やした

   知ってたんだよね?

      灰はゆらめき

    いま、そっと

     蝶たちは燃えた

   射しつらぬく


   わたしたちを光りが

      雪のように?

    蝶のめざましい羽搏きは

     無数の雪

   燒きつくすために

      空は青く

    いつか空に

     空は青く

   燒きすてるために

      無数に雪

    チェレンコフ光を放つだろう

     雪のように?

   怒りさえなく


   絶望さえなく

      無数に雪

    …なに?

     雪のように?

   燒きすてるために

      空は青く

    いつか空に

     空は青く

   燒きつくすために

      雪のように?

    …は?

     無数の雪

   わたしたちを光りが


   射しつらぬく

      灰はゆらめき

    いま、そっと

     蝶たちは燃えた

   知ってたんだよね?

      太陽が燃やした

    うぶ毛を咬んだよ

     太陽が燃やした

   あなたも、もう、ね?

      蝶たちは燃えた

    電磁波が、…ね?

     灰はゆらめき

   知ってるね?


   さらされてたよね?…ん

      あげは蝶たち

    いま、そっと

     ほら、はばたくよ

   赤裸々に、ただ

      蝶たちは、いま

    遺伝子を燒いたよ

     蝶たちは、いま

   殘酷なくらい

      ほら、はばたくよ

    自然的状態に於ける放射能が、…ね?

     あげは蝶たち

   隱されてさえいなかったから


   それ、だって

      いっせいに

    いま、そっと

     飛び散る体液

   醗酵してない?

      むしたちは孵化

    あなたを燒いたよ

     むしたちは孵化

   髪の汗の匂い

      飛び散る体液

    紫外線が、…ね?

     いっせいに

   嗅いでたのは、…ね?


   さらされてたよね?…ん

      むしろ

    …なぜ?

     そこに、いたっ

   赤裸々に、ただ

      むし、ふんだ

    笑っていい?

     むし、ふんだ

   殘酷なくらい

      そこに、いたっ

    匂いに染まって

     むしろ

   隱されてさえいなかったから


   それ、だって

      こころ、いたっ

    香りをうつし

     さわがしいほどに

   魚くさくない?

      だから胸さわぎ

    あなたのそばに、それは

     だから胸さわぎ

   唇の匂い

      さわがしいほどに

    停滞していた

     こころ、いたっ

   嗅いでたのは、…ね?


   さらされてたよね?…ん

      ひらひら

    うるおう大気

     あたらしい風も

   赤裸々に、ただ

      心地よい風も

    いっぱい、わたしは

     心地よい風も

   殘酷なくらい

      あたらしい風も

    吸い込んだ

     ひらひら

   隱されてさえいなかったから


   それ、だって

      ひらひら

    おののきさえも

     ひらいている

   隱しもせずに

      いつでも

    知らない。わたしは

     いつでも

   あなたの匂い

      ひらいている

    あなたのまえでは

     ひらひら

   嗅いでたのは、…ね?


   赤裸々だから

      巢には出口が

    おびえなど

     僞りを生む

   わたしたちは

      …なぜ?

    知らない。わたしは

     …なぜ?

   いい?しちゃっても

      僞りを生む

    あなたのまえでは

     巢には出口が

   発情しちゃう


   殘酷だから

      巢をつくるように

    おそれなど

     秘密をつくる

   わたしたちは

      …なぜ?

    知らない。わたしは

     …なぜ?

   いい?笑っても

      秘密をつくる

    あなたのまえでは

     巢をつくるように

   笑っちゃう

事実、見蕩れられていたかどうかは知らない。そのわたしが。いずれにせよすでに青。笑って仕舞うほどにも、いやがうえにも濃い青。窓の向こうに空はその——青。…と。そう、その一語に切り捨てられるしかない色彩の、しかしすさまじい微細のむれの厖大をそこに散らして、色彩。静寂。すでにただ、静謐。ひたすらに濃い。もう午後の遅い時間だから。もうすぐ背後。壁面の向こう。その見えない場所で見上げられた空には、あるいは夕燒けが。紅蓮の?朱の?オレンジの?色彩。色彩と名づけられたそれら。日没の色彩。それら、虛空に擦りつけるように顯らわれはじめるに違いなかった。だから照らす。ふりそそぎ、ふれたものを、ことごくに。死者たち。それらは時間に関わりもなくまなざしのそこにゆらぎ、ゆらぎつづけていた。くずれ、雪崩れかけつづけていた。死者たち。わたしの…わたし?そのまなざしに。いつからなのだろう?わたしのまなざしは、たとえばわたしを見上げる沙羅の形姿とともにもその死者たち。それらのすがたを、…すがた?顯らわし、顯らわれつづけ、こちらに。むこうに。そこに。どこかに。あやうく沙羅にもかさなるように?しかもこちらでもなく、むこうでもなく、そこでも、明確なそこに、そしてなににもかさなることなく。死者ら。色彩のない、それら死者ら。翳りとしか、取り敢えずは仮りに呼んでおくしかすべもなく、しかもなんら翳りは。まして綺羅らぎも。死者たち。孔をひらく。無数の孔を。ひらきつづける。音も、息吹きもなく、かたちなど。静寂。かたちと呼ぶべき、…静謐。かたちなど。色彩さえないそれにどうしてそのかたちの固有など察知し得ただろう?でぃんばちゅうっ。…と?沙羅。その喉がふと、ひとの喉の音聲を発した。わたしはわれに返るともなく、…事実、われを忘れた須臾などなかったから。だからその、聞き取れない音声を聞いた。沙羅は見ていた。わたしを。むしろすがるような?訴えるような?もとめるような?…なに?曖昧な、しかもまなざしはそこに明確に捉えてこそいた表情。感情が見えない。沙羅。見慣れることのない、その沙羅。狂暴なまでに爛れ、變形した半面。しかも半面の野蛮な匂いのあるおさない美貌。ふと思った。最初に砂濱で沙羅をひろったときに、慥かに沙羅は強姦されていたのだろう、と。したものたち。かれらは、…如何となればかの女たちであっても。あるいは、いささかも心を傷めずに済んだのかもしれない。だから遠慮もなくただ、やりたい放題に。沙羅は傷つくことなどあり得なくも見えた。だから?そのうつくさの質が。野蛮な匂い。狂暴の兆し。その眼にあざやかな気配のせいで。沙羅がわたしに返答をもとめているのは顯らかだった。自分の言語がわたしに通じないことなどもう気づいているのに。知っているのに。沙羅。連れこまれた最初の日に投げ込まれたバスルーム。そこで、急激なシャワーの水流に頭から洗浄されたときからすでに。言葉などなにも通じない事実。つめたい水の奔流。散る暴力的な飛沫。沙羅は全身をふるわせた。痙攣?水が止まった時に、そして沙羅は顏をあげると鼻水を吹き出した。血が散った。と、そう思った。わたしは。沙羅はわたしを見つめながら、感謝?…そのひたすらに昏く狂暴な琥珀の虹彩をだけ、ふいに綺羅めかせて、いきなり笑った。聲をたてて。知性の完全に置き忘れられた、痴呆の顏。…わたしは?そのときに、わたしは?顏。わたしの顏。どんな顏を?…記憶にない。










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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