流波 rūpa ……詩と小説098・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈05


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またそのような一部表現によってあるいは傷ついたとするなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただし、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。



あるいは、

   たわむれるように

   わたしたちはささやく

   なにも

   なにも聞きとらず


   なにも

   なにも、もう

   自分のくちびるの

   ささやきさえも


   たわむれるように

   わたしたちはささやく

   なにも、それらも

   ただのたわむれ。死者たちは


   たわむれるように

   わたしたちがささやく

   なにも

   なにも、もうすでにだからふと、思い出したようにその≪流沙≫は云った。

「ぼくらが、例えば、燃え上がったときに」

「その蝶じゃないよ」

   なんで?…いとおしい!

      夢のような、その

「蝶も一緒にもえるのかな?」

「その蝶は、勝手にどこかで朽ちて行くだけ」と。その

   なんで?…すきすぎっ!

      あざやかに、色づき

ささやきは、たぶん、もはや茫然とした色彩にその虹彩をうめつくした≪流沙≫。その≪流沙≫。だからまだ≪流沙≫と呼ばれるべき可能性のきざしさえもがなかったその≪流沙≫。かれは聴き取らなかった。わたしの、そのせめても敎えさとそうとした?それはささやき。そんなささやきなどは。これら、なにも。なにも。聞かれなかった。これら、なにも≪流沙≫は。これら、しかもあり得ない記憶。どう考えてもあの時に≪流沙≫。かれもわたしもこんな話しなどしなかった。だから単にのちに捏造された記憶?そして、なら、しかも猶もあざやかで克明な記憶。記憶とは?そして、知っていた。ひとり、楓がまるでわたしたちの親密な会話の、もはやただ赤裸々な親密を完全に意識して叩き壊そうと?…耳にふれつづけていた。わたしの耳には。楓。その聲。かれにしてはおおきめの…いつも、ささやき。聲にわめいていた…いつも、ささやき。聲。楓。それら、耳にただ騒音でしかない聲。その持続。ののしるような?軽蔑するような?しかもやや、しかし赤裸々に自虐的な、だからあくまでもささやき。聞き取れないほどの微弱音。あくまでも独り言散るだけの、楓。そのわめき。楓。聲。切迫した?

   すべての悲しみをぼくにください

      いま、風は

あるいは。

   きみを

      風はそっと

焦燥した?

   きみを護りたいから

      いま、日射しは

あるいは。

   すべての傷みをぼくにだけください

      日射しはそっと

不愉快な?すくなくとも

   きみを

      いま、気配。花たちの

わたしには、そんな印象をさえも与えずにただ無視されていたにすぎない、——舌を咬むような?

   あなたのしあわせ。もう

わらってしまいそうなほど、

   それだけが

早くちな?

   わたしの真実

あるいはそうだったかもしれない。そうでなかったかも。なにも。なにも。なに?完全にもはや、一音さえ聞き取られてなどいなかった。だれ?だれに?それは、わたしにだから不在の、不在?存在しなかった、不在の?≪流沙≫。かれだけが見ていた蝶。それは蝶。飛んでゆくよ。あざやかに…なぜ?飛んでゆ羽搏き、飛ん羽搏き、飛んでゆくよ。黑。そしてむらさき、それら蝶の羽搏きの鱗粉。飛んだ?そのもう飛んだ?音そのまじ?ひびき飛びであるかにも。飛び散った?それは意識したシカトではなかった。だから、ふと、

   わたしたちは

いまさらに

   やさしさだけを

さっきから自分の話しかけていたのが

   かきあつめ

わたしだったのだとその微熱を感じさせる頬のうえ、それは≪流沙≫。双渺の下のあたりのそれが≪流沙≫。やわらかな、うすいそれは≪流沙≫。肉と皮膚との火照りの気配の無防備に、そして≪流沙≫は

   わたしたちは

      感じて、ほら

唐突に、わたしを見ているという事実に

   殘酷さだけを

      日差しはいまや

思いついた?…だから、かれは

   よせあつめ

      あたたかく、いま

云った。あくまでも、ささやき聲に。

「だから、燃えるんだ」

「その蝶は、たぶん」

   燃え上がる。こころは

      痛いんだ

「一緒に、無造作な破壊の無造作な光りの横溢のなかに」

「あした朽ちるだけ。ぼくたちが知らないうちにどこかでひっそりしかもそれ自身には赤裸々に朽ちて行くだけ」と。その

   燃え上がる。ぼくのこころは

      きみを思うと、それだけで

ささやきは、「…なんで?」と、

「なに?」

   燃え上がる。羞恥したぼ

      傷むんだ

「なんで、お前」ささやき。はっきりと耳もとに鳴っていた、それは楓。その「ひとりでにやついてんの?」容赦ない、「さっきから、」軽蔑。

「…ぼく?」そう、わたしは本当に口に出しただろうか?まじ?それともまじ?心にだけまじ?つぶやいたのだろうか?あるいは、慥かに、わたしは見た。ゆらぐなぜか、いまにもゆらぎ。見ていた。ゆらぐあやうくふと

   見た…だれ?

      ゆらぐ、ゆらぐ

吹き出して、すべてを、たとえば

   見ていた…なに?

      ゆらぐ、ゆらぐ

すべての秩序を、この

   死者ら。それら

      色彩もなく

秩序ある世界ごとにすべて叩き壊して仕舞うかにも思われた、だから辛辣なわらい、そのあくまで個人的なありふれた聲。しかも無造作で、しかもよくひびき、ひびき、ひびきあう対象もなくひびき、ふるえを堪え、痛みを感じながらかろうじて持ちこたえているわたしの事実を、謂く、

   見ていたよ

   …だれ?

   わたしは、もう

   あなたのかたわらに


   見ていたよ

   …なに?

   わたしも、もう

   わたしたちのかたわらに


   …なぜ?

   この世界の、この滅びを見ようよ

   たとえば燃える

   燃える空の下に


   …なぜ?

   この世界の、この滅びを見ようよ

   たとえば湯立った

   湯立った海の沸騰の横に


   …なぜ?

   この世界の、この滅びを見ようよ

   たとえばとろけた

   とろけはじめた砂粒の上に


   なに?…これは

   鮮烈なかげり

   容赦なきかげり

   いま、ふいに


   いま、すでに

   容赦なきかげり

   鮮烈なかげり

   なに?…これは


   とろけはじめた砂粒の上に

   たとえばとろけた

   この世界の、この滅びを見ようよ

   …なぜ?


   湯立った海の沸騰の横に

   たとえば湯立った

   この世界の、この滅びを見ようよ

   …なぜ?


   燃える空の下に

   たとえば燃える

   この世界の、この滅びを見ようよ

   …なぜ?


   わたしたちのかたわらに

   わたしも、もう

   …なに?

   見ていたよ


   あなたのかたわらに

   わたしは、もう

   …だれ?

   見ていたよ

すなわち世界は、…ね?健康だよ。世界は、…ね?健全だよ。だから、とっくに滅びた滅びの風景。意外に、すでに知っていた。実際には世界など滅びはしないと。爲政者たちは無能なままでやりすごすように生き延びて仕舞うだろう。結局は。明確な滅びの瞬間など、たぶんあの千九百九十九年にさえも降り注ぎはしないだろう。違う?だからとっくに滅ぼされていたその、わたしたちみんなの壊滅の風景。そのあざやかな滅びの景色に、ぼくらはぼくらの滅びを見よう、…ね?ぼくらはぼくらの、ぼくらだけの、ぼくらもいっしょの、…ね?ね?ね?かさねて謂く、

   見ていたよ

      さらされていた

    滅びてた!

     衰えが

   …だれ?

      なに?

    とっくに

     なに?

   わたしは、もう

      衰えが

    とっくに

     さらされていた

   あなたのかたわらに


   見ていたよ

      衰微

    壊れてた!

     憔悴

   …なに?

      なに?

    とっくに

     なに?

   わたしも、もう

      憔悴

    とっくに

     衰微

   わたしたちのかたわらに


   …なぜ?

      その花、その花の色は

    翼であろう

     花たち。それら

   この世界の、この滅びを見ようよ

      雨に

    わたしは、きみの

     雨に

   たとえば燃える

      花たち。それら

    翼っしょ?

     その花、その花の色は

   燃える空の下に


   …なぜ?

      衰微

    しょ、しょ、

     憔悴

   この世界の、この滅びを見ようよ

      なに?

    しょうですね

     なに?

   たとえば湯立った

      憔悴

    舞い上がれ!

     衰微

   湯立った海の沸騰の横に


   …なぜ?

      その雨、その雨のなかでは

    光りであろう

     色をいよいよ、濃くしながらも

   この世界の、この滅びを見ようよ

      色彩

    わたしは、きみの

     色彩

   たとえばとろけた

      色をいよいよ、濃くしながらも

    光りっじょ?

     その雨、その雨のなかでは

   とろけはじめた砂粒の上に


   なに?…これは

      衰微

    じょ、じょ、

     憔悴

   鮮烈なかげり

      なに?

    じょうでつね

     なに?

   容赦なきかげり

      憔悴

    かがやけ!

     衰微

   いま、ふいに


   いま、すでに

      色をいよいよ、濃くしながらも

    なに?…なぜ?

     その雨、その雨のなかでは

   容赦なきかげり

      色彩

    爪だけがしずかに燃えているのだろう?

     色彩

   鮮烈なかげり

      その雨、その雨のなかでは

    なに?…なぜ?

     色をいよいよ、濃くしながらも

   なに?…これは


   とろけはじめた砂粒の上に

      憔悴

    かがやけ!

     衰微

   たとえばとろけた

      なに?

    ぞうでつね

     なに?

   この世界の、この滅びを見ようよ

      衰微

    ぞ、ぞ、

     憔悴

   …なぜ?


   湯立った海の沸騰の横に

      花たち。それら

    光りっぞ?

     その花、その花の色は

   たとえば湯立った

      雨に

    わたしは、きみの

     雨に

   この世界の、この滅びを見ようよ

      その花、その花の色は

    光りであろう

     花たち。それら

   …なぜ?


   燃える空の下に

      憔悴

    舞い上がれ!

     衰微

   たとえば燃える

      なに?

    ぽうですね

     なに?

   この世界の、この滅びを見ようよ

      衰微

    ぽ、ぽ、

     憔悴

   …なぜ?


   わたしたちのかたわらに

      衰えが

    翼っぽ?

     さらされていた

   わたしも、もう

      なに?

    わたしは、きみの

     なに?

   …なに?

      さらされていた

    翼であろう

     衰えが

   見ていたよ


   あなたのかたわらに

      色彩のない雨

    とっくに

     短い歓声、そして駆けだすのだった。前のめりになって

   わたしは、もう

      雨にうたれて

    とっくに

     ほんの数秒後に

   …だれ?

      綺羅ら散乱

    オメェだれ?カス

     その、ふいに降り始めた初夏の雨。まえぶれもなく

   見ていたよ

その沙羅。すでにくちびるは離されていた。しかもそれにはまだ気づいていない?そんな、曖昧なほほ笑みの沙羅。どこまでも稀薄なまなざし。そんな瞳孔のゆるみのむこうで、その沙羅はわたしを見ていた。至近に、それでもやや遠ざかって、だからようやく視野の健全を取りもどしたまなざし。風景。見つめ合い、見つめ合われ、だから見、見つめ、見つめられて風景。わたしも。慥かに、わたしもかの女を見ていた。その沙羅。恍惚?…なぜ?…くちびるとくちびる。ふたつがかさねあわされて、唾液。その温度を感じっとっていた昏んだ混濁。あまりにも接近しすぎた目昏ましの距離のなかにあったときにも、その沙羅。かの女はおなじ呆然のまなざしをそこにさらしていたのだろうか。わたしに見られ、見つめられたまま見い出されもせずに。思わず、…なぜ?わたしは聲をみじかく口先にだけ立てて、そしてすでに笑って仕舞っていたのだった。…なぜ?










Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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