流波 rūpa ……詩と小説097・流波 rūpa;月。ガンダルヴァの城に、月 ver.1.01 //亂聲;偈04
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
また、たとえ一部に作品を構成する文章として差別的な表現があったとしても、そのようなあらゆる差別的行為を容認ましてや称揚する意図など一切ないことを、ここにお断りしておきます。またそのような一部表現によってあるいは傷ついたとするなら、お詫び申し下げる以外にありません。ただし、ここで試みるのはあくまでも差別的行為、事象のあり得べき可能性自体を破壊しようとするものです。
あるいは、
もう、…ね?…ん。どうでもよかったんだ
本当に。…≪流沙≫。だから
まだ≪流沙≫ではない、それは
≪流沙≫。…ぼくには
あなたが見た、そんな
蝶。蝶。蝶。その
すがたなど。まして
蝶。蝶。蝶。羽搏き
あなたが見た、そんな
蝶。蝶。蝶。その
羽搏きなど。まして
蝶。蝶。蝶。それらの色彩
興味などなにも
わずかにさえも
こころ惹かれた
刹那さえも
もう、…ね?…ん。なにもなかったんだ
本当に。…≪流沙≫。だから
まだ≪流沙≫ではない、それは
≪流沙≫。…ぼくには
あなたを見つめた
そんな虹彩。まなざしは、それ
見られなかった蝶にもまして
虹彩。まなざしは
うつくしい、それは
綺羅の散乱
とまどうなような
曖昧な、しかもあざやかな
あなた。流れ
流れ墜ちる砂
流れ昇る砂
あなたは≪流沙≫
蜃気楼を見ていた
それは夢
いつか見た
だから醒めながら
月の無数の陽炎を見ていた
空に、それは夢
あきらかに見た
あなたを見つめていながらに
月は砂
いまそれは流れ墜ち
それはすじ
ひとすじの砂ら
厖大な砂
あやうく細い
それはすじなし
ひとすじの砂ら
月の無数の陽炎を見ていた
海のうつす、それは夢
あきらかに見た
あなたを見つめていながらに
月は砂
いまそれは昇りあがり
それはすじ
ひとすじの砂ら
厖大な砂
あやうく細い
それはすじなし
ひとすじの砂ら
言葉さえなく
驚く。わたしは
くずれて行くよ
その蜃気楼は
言葉さえなく
おののく。わたしは
きえうせて行くよ
その月たちさえ
それらは砂粒
空に昇り、流れ落ちる
しろい淚
淚のように
まさか。…そんな、と
その実体は
もっと、もっと、たしかにもっと
すばらしいものであるはずだった
もっと、もっと、たしかにもっと
不可解なものであるべきだった
もっと、もっと、たしかにもっと
解きほぐせない謎めきこそが、相応しかった
流れる砂を
わたしは見ていた
わたしは孔
ひらかれた孔
目も口も
ひらかれた孔
手も頸も
ひらかれた孔
孔なす孔に
わたしは見ていた
茫然と?流れる砂ら
墜ちてゆく砂ら
あなたの綺羅に
わたしは見ていた
茫然と?滅びる砂ら
昇りゆく砂ら、だから思うに楓。その抜け目のない楓。嫉妬?かれ。頭の切れる楓には、まばたき?焦燥?まばたきもなく、それでもあきらかだったのだ。その楓。冴えた頭脳に。あるいは感性、羽毛のさえカミソリの鋭利と感じとるかれのそれ。まばたきもなく、だからほほ笑みさえ、しないんだね?きみは。わたしのこころにだけ鮮烈だった痛み、そのほほ笑みさえ、しないんだね?きみは。存在さえも、背骨。だから背骨の骨髄をも掻き、掻き、掻き毟るような、発火?いとしい、と。ほほ笑みさえ、しないんだね?きみは。まなざいの赤裸々な嫉妬?掻き、掻き、いとしい、と。焦燥?掻き毟るような、…翳り。そんな強烈な、だから…なぜ?苛酷。楓はかぎりもないやさしさをのみそこにそのかれ。その身に、その肌に、その髪の毛にさえも纏う臭気。なに?くさみ。なぜ?…惡臭。…に、だけ、意ともなくほのめかし、だからこぼれ落としてしまったかにも。うつくしいひと。少年の匂うよ。息吹き。やがてくさいよ。少女の体臭。ささやいた。——だったら、…と、自分の舌を咬みかけながら
「本当なんだよ。いま」それは楓。ただ、
「なに?」
ほほ笑みさえ、しないんだね?
生きてますか?
だからひとり、しらけてゆくだけの場をとりなす、それは
「≪流沙≫が蝶を見たっていうのは、ぜったいに」
「…ね?」
ぼくを見つめて
死んでますか?
楓の画策。ひたすらにやさしい
「本当なんだよ」
「なに、言ってるの、」お前…と、やさしい
見つめるだけで
どこにいますか?
「否定なんか、しないであげて」軽蔑。叫ぶように。その最後の言葉。そのまともに発話されなかったひびきを喉の奥にだけ咬みつぶしながら咬み、わたしはひそかに呪った。なに?楓のやさしさをなぜ?なに?まざまざ、と。わたしは呪った。そこにまざまざ、と。だから、そこにかたくななまでにまざまざ、と。楓を返り見なかったわたしは屈辱に——なぜ?もはや鮮明な屈辱?燃える。燃え、燃えあちっならば
それら、ささやきは
なんですか?…これ
なにを見ていたのか。わたしは、楓の
まるで、…ね?
わたしの眼玉に
たぶん、そこにわたしのためにだけに
まるで、…ね?
ゆらいだものは
さらしていたほほ笑みをさえ
ちいさな花を
それは触手
見てはいなかった、だから
花をゆらして
匂いのある
その時に。顏のない≪流沙≫を?
きえた風の
むらさき色の
その、どんな表情をしていたのか一切
風の須臾のように
それは触手
記憶されず、そもそもその時においてさえ知られない。知られなかった。だから知らなかった。はっきりと認識されては知らない。知られなかった。なにもあきらかに見い出されてえてさえいなかったこころの知らない。知られなかった。なにもその、きみのその時のまなざしの色さえ。なに?その顏。その顏に、だからたしかにきざしていた気配。なに?あれ?…風。だから空白。むしろ、なに?この香り、風のゆらとともにそっとすべもない、埋めようもない空隙。ぼわんっ…ね?も、も、ぽわんっ。…ね?とりもどしようもないとわんっ。…ね?も、喪失。も、
「もうすぐ、世界、滅びるじゃん?…そのときに、蝶も滅びちゃうのかな?ぼくらと一緒に」
千九百九十九年に?ひと息に、ほぼ、も、ほぼ≪流沙≫はほぼひと息に、來年?かれはこともなげにさ來年?そう云った。常識。あくまでもそれはごくごくあたりまえのたしなみじみた共通認識。そんな周知の事実のいまさらの示唆。なぜ?楓はふいに、こわばった。なぜ?笑っていい?その存在、…息吹き?なぜいまあなたのこころ、笑っちゃっていい?傾いて…こころの気配、が?そのこわばり。怯えた?なになにいまさら…引き攣りまではしない、そんななになにいまさら?
あっ…
さわぐなよ
硬直。來たるべき
いま、空、飛び散った
さわぐなよ。ほら
世界滅亡の
きれー…
髮が燃えてる
事実になどではない。もし
すっげぇ…
燃え移ってる
本当にこのときわたしたちが十歳だったなら、その人間たちの世界は西暦に謂う千九百八十四年で、だから、こどもたちはもう誰もが知っていた。このいつでも滅亡の危機に瀕した壊れやすい人間たちのための世界は、やがて本当に人間たちのせいで滅亡して…自滅?仕舞うにちがいないということを。たとえば、ぜんぶ巻き添え。自滅。一番ありふれた可能性としてはぜんぶぜんぶ巻き添え。自壊。全面核戦争で。人間たちはことごとく、ことごとく滅び、滅びて仕舞い、その
あれ?いま
生きてる?
阿鼻叫喚?あるいは
空、発光したね
死んだよ。もう
さまざまな、言葉もない
やばっ
だから死ね
阿鼻叫喚?厖大な
あれ?いま
生きてる?
イノチの群れをもわずかな
海、沸騰したね
殺したよ。もう
悲鳴さえない阿鼻叫喚?巻き添えにして
やばっ
だから死ね
絶叫さえない、つまりはある生態系の一気呵成のだだだだんっ壊滅。それはあきらかなだだだだんっ終局だった。まだ、殺さないで。わたしはオメェが死ね。気付かなかった。たとえ二千年、三千年、撒き散らされた放射能。それがすさまじくあれくるったところで、所詮あれ?…細胞溶解。それだけ。なんでもなかった。それらあれ?…細胞融合。イノチの無数におけるそれら巨大すぎる時間は、惑星にとってはまばたきにも滿たないという事実に。そのあまりの赤裸々に。須臾の、須臾の、須臾の…なに?一事象にすぎなかった。ある鮮烈な滅びさえ厖大な事象の中の、ただの断片にも足らないひとつ未滿として、だからやがてはなるようにだけなってゆくだろう。楓は、世界の
こわくないよ
どこ?きみの
滅亡ではなくて、いま、
こわくないんだ。きみが
きみの顏、どこ?
すがすがしい
ぼくのとなりで
どれ?きみの
大気のなかに≪流沙≫が
わらってたから
きみの顏、どれ?
ふいに自分自身をふくむまったき滅亡を口に出してしまった事実そのものに、滅び!…たぶん。わたしはおびえ!おびえ!ぼくらだけの。だから滅び!楓のかたわらに、おびえなど!おびえさえ!おびえなど!あえて楓をはおび!び!び!返り見ないままにその気配の露骨な不安をだけ感じ取ってい、もう、い、むしろただもう、い、うざったいほどにい、謂く、
もうすぐ、世界、…ね?
滅びるじゃん?…ね?
蝶も、…ね?だから
いっしょに、いっしょに
滅びちゃうのかな?
みんな、なかよく
なかよしだから
燃えあがっちゃう?
燃え上がるのかな?
みんな、なかよく
なかよしだから
とろけちゃう?
とろけちゃうのかな?
終わりなら、ぜひ、八月に
七月ではなく
二月ではなく
六月ではなく
九月でもなく
終わりなら、ぜひ、八月に
灼熱の、汚らしい
八月に
八月にこそ
八月にだけ
終わって仕舞え
もうすぐ、世界、…ね?
滅びるじゃん?…ね?
八月に、…だから
いっしょに、いっしょに、みんな、いっしょに
いっしょに、いっしょに、みんな、いっしょに
八月に、…だから
滅びるじゃん?…ね?
もうすぐ、世界、…ね?
終わって仕舞え
八月にだけ
八月にこそ
だから八月に
冴えきった、汚らしい
終わりなら、ぜひ、八月に
九月でもなく
六月ではなく
二月ではなく
七月ではなく
終わりなら、ぜひ、八月に
とろけちゃうのかな?
とろけちゃう?
なかよしだから
みんな、なかよく
燃え上がるのかな?
燃えあがっちゃう?
なかよしだから
みんな、なかよく
滅びちゃうのかな?
いっしょに、いっしょに
蝶も、…ね?だから
滅びるじゃん?…ね?
もうすぐ、世界、…ね?
すなわちいつだっけ?…いつ?三人で見た。あの燃え上がる空。それは夕燒け?そう、ぼくらがやさしくそう名づけた色彩。燃えあがる空に、その色をうつしその蝶は、その色に映えて、その蝶。それは、だからあなたの頬もすでに燃え上がっているのだったが、見なかった。わたしは、あえて。…は?わたしは?…は?見なかった。ほほは?…は?わたしの、あえて見なかった。ほほは?…は?かさねて謂く、
もうすぐ、世界、…ね?
傷み?そんな
知っていた。もう
なにも
滅びるじゃん?…ね?
傷みなどない
そんな滅びは
傷みなどない
蝶も、…ね?だから
なにも
まやかしだよね?
傷み?そんな
いっしょに、いっしょに
滅びちゃうのかな?
悲しみ?そんな
知っていた。もう
なにも
みんな、なかよく
悲しみなどない
そんな滅びは
悲しみなどない
なかよしだから
なにも
くるはずもなく
悲しみ?そんな
燃えあがっちゃう?
燃え上がるのかな?
八月の灼熱
あしたはあした
水はまだつめたいから
みんな、なかよく
でも、ね?
朽ちてゆく
でも、ね?
なかよしだから
水はまだつめたいから
あしたはあした
八月の灼熱
とろけちゃう?
とろけちゃうのかな?
灼熱の八月
きのうはきのう
夜の水は冴え切って
終わりなら、ぜひ、八月に
でも、ね?
朽ちはてた
でも、ね?
七月ではなく
夜の水は冴え切って
きのうはきのう
灼熱の八月
二月ではなく
六月ではなく
魚のように
たぶん、なにも、なにも滅びないから
泣き叫ぶのは
九月でもなく
ぼくは泳ごう
所詮、なにも
いまもそこで
終わりなら、ぜひ、八月に
どこまでも
ふてぶてしいほど
だれ?
灼熱の、汚らしい
八月に
鯨のように
たぶん、なにも、なにも滅びないから
も掻いてるのは?
八月にこそ
ぼくは浮かぼう
所詮、なにも
いまも猶
八月にだけ
はっきりと
ばかばかしいほど
だれ?
終わって仕舞え
もうすぐ、世界、…ね?
クラゲのように
なんで、イキモノは
…不可能だから
滅びるじゃん?…ね?
ぼくは踊ろう
みにくいの?
なにも失われはしなかった
八月に、…だから
波のなかに
なんで、イキモノは
だいじょうぶ
いっしょに、いっしょに、みんな、いっしょに
いっしょに、いっしょに、みんな、いっしょに
だいじょうぶ
ばかばかしいほど
波のなかに
八月に、…だから
なにも失われはしなかった
所詮、なにも
ぼくは踊ろう
滅びるじゃん?…ね?
…不可能だから
たぶん、なにも、なにも滅びないから
クラゲのように
もうすぐ、世界、…ね?
終わって仕舞え
だれ?
ふてぶてしいほど
はっきりと
八月にだけ
いまも猶
所詮、なにも
ぼくは浮かぼう
八月にこそ
も掻いてるのは
たぶん、なにも、なにも滅びないから
鯨のように
だから八月に
冴えきった、汚らしい
だれ?
きのうはきのう
どこまでも
終わりなら、ぜひ、八月に
いまもそこで
朽ちはてた
ぼくは泳ごう
九月でもなく
泣き叫ぶのは
きのうはきのう
魚のように
六月ではなく
二月ではなく
夜の水は冴え切って
あしたはあした
灼熱の八月
七月ではなく
でも、ね?
朽ちてゆく
でも、ね?
終わりなら、ぜひ、八月に
灼熱の八月
あしたはあした
夜の水は冴え切って
とろけちゃうのかな?
とろけちゃう?
水はまだつめたいから
くるはずもなく
八月の灼熱
なかよしだから
でも、ね?
そんな滅びは
でも、ね?
みんな、なかよく
八月の灼熱
知っていた。もう
水はまだつめたいから
燃え上がるのかな?
燃えあがっちゃう?
なにも
まやかしだよね?
悲しみ?そんな
なかよしだから
悲しみなどない
そんな滅びは
悲しみなどない
みんな、なかよく
悲しみ?そんな
知っていた。もう
なにも
滅びちゃうのかな?
いっしょに、いっしょに
なにも
ぼくらはみんな供犠にふされた
傷み?そんな
蝶も、…ね?だから
傷みなどない
ぼくらの未来の
傷みなどない
滅びるじゃん?…ね?
傷み?そんな
供犠にささげた
なにも
もうすぐ、世界、…ね?
滅び。あからさまな崩壊。それは沙羅。あまりにも接近しすぎたまなざしは、その見開かれた鮮明の、…克明。その、あるいはまさにその赤裸々の故にただ解体をのみさらす。色彩の滅び。破滅。かたち。かたちの破滅。滅び。だから、滅び。沙羅の。あるいはその虹彩のむこうに、わたしの。ふたりの、同時の破滅。しかも、だれにも同じくには見い出され得ない、それぞれだけの滅び。…沙羅。その、燒けたチーズの匂いの少女をは、海の砂のうえに見つけた。もう何年も棲んでいたホテル。そこは海辺にあったから、だから月の冴えた夜に…滿月ではない。やや、すこしだけ欠けていたはずだ。いずれにせよ、その月。眠れない夜と、そうことさらに呼ぶ気もしない。ただ、深夜をすぎて起きていたのだから、眠れなかったのだ。眠る努力に飽きたわたしは海に行った。その砂浜に。なぜ?深夜になればしずまりかえるしかないそこで、だから、行くべきは海岸くらいしかない。普通、深夜営業などダナン市では行われていない。砂濱にはだれもいない。いたかもしれない。気づかなかった。背後には湾岸道路の街燈。海。そのむこうのほうに光りの粒。あくまでもまばらな数点。あるいは時には点滅を、船?…しかも海はただ、猶も綺羅のこまかな生滅の散乱としてのみ、そこに存在をあかす。白。そしてひびき。波の。波打ち際にまだ遠いところで気づいた。肉体。波の寄せるすれすれ。とめどもなく移り気な伸縮の水たちにさわられて仕舞いそうなあやうさに、あお向けた全裸の肉体が横たわっていた。生きているのか。死んでいるのか。立てた股をひろげて、強姦?…あるいは。その立膝のせいで性別はわからない。胸にふくらみも、押しつぶされたやわらかさの気配も、あるいは脱力している筋肉の息吹きもなにも気づかせない。水平線のように?よく見なければ見過ごして仕舞うかすかな、かすかな、かすかな彎曲。潮が匂った。うめつくしていた。これみよがしにも、陰湿にも。なぜか鼻を燒きのする湿った臭気。まだ、肉体はその体臭などあかす余地をもたなかった。それが沙羅だった。月に照らされるままに、沙羅はその肌の褐色をさえも敎えなかった。失神しているかに見えた、その沙羅は。もし、それが生きて息吹きつづけているのならば。近づくと、しろいTシャツを…肌着?引きちぎった適当な眼帶に、沙羅はその視力を奪われていた。腕を投げ出して、そして、脇の白にあわい、しかしあきらかな翳り。浮かびあがるような。かすかにひらいたくちびる。その口蓋の深い昏さをわたしは見た。知っていた。すこし、顏をあげればわたしは猶もそこに見るのだった。鮮明に、月。中天近くにかたむく月。その白。投げ落とされた光りたち。そらに乱反射する波。波。波のとめどもない綺羅。潮騒がやまないのだった。
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