流波 rūpa ……詩と小説088・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
浴びた。そうしなければならない必然があるわけでもなく、纔かにでも汗ばんでいたわけでもなく、まして、ユエンを厭うたわけでも。可憐な女だった。眼を閉じて見れば。あるいは殊更に鼻から上だけを見れば。唇、特に下唇からユエンは、要するに…ぼってり。ぼっ淫蕩な気配をだけ撒き…ぼってり。ぼっ散らした。未だに、ひとりも、たぶんわたしさえも…ぼってり。ぼっある意味、その体をは知らないままに。
肛門は?
寄生する、それ
バスルームに入る時、ベッドの上には未だに沙羅がその
肛門、どこ?
ラフレシア。不安
不在のふりを
肛門は?
寄生する、それ
つづけていた。聲もかけなかった。あるいは本当に眠ってしまっていたのかもしれない、と、…眠れ。思った。バスルームに入れば、…眠れ。嗅ぎ取り得るはずもない、ユエンの…眠れ。いまもあの胎内の匂いが殘っている気がした。水の
やめて
あした、咲く花
匂いしかしなかった。纔かに
もう
ぼくたちは
そっと仄めかされた程度の。飛沫が
じぶん、きずつけるの
きっと。たぶん、ね?
わたしの半分の
やめて
あした、咲
白い肌と、半分の爛れた肌に散り、散りながら流れ、水。水滴。飛沫。水、冷たい、温水を一切まじらせなかった水は。流れつづけた水道管の中に、自然にあたたまった自然な温度のみ、その水流だから、——なに?あまあたたかな?それはじかにわたしにふてていた温度。ふれて流れ去るその須臾にだユエンはなにも言わなかった。二年前?不意にわたしが沙羅をそのかたわらに添わせるようになっても。時に、わたしの部屋で、——だから、窓際のベッドの上で、わたしに肌をさらす時にも、その、自らの肌の剝き出しの橫に沙羅の存在することにも。
狂ってます?
時には
ええ
右に。時に、
若干だけ、もう
左に。あるいは、背を向けて、
苛酷な程度に
沙羅。眠るフリ?スマートホンを弄り、時になにもせず、自分の指を弄り、あるいは、
壊れてます?
のぞきこむように、…片肘を
ええ
ついて?寝そべったまま。あえぐ
若干だけ、もう
他人の頭の橫に胡坐をかいて。
苛烈な程度に
笑みながら。…軽蔑的に?
あなたは廃人
いとおしい、と
上気して?
…おれ?
思ったのだ。その
焦がれて?
廃棄物。もはや
不器用さ。たとえば
焦燥して?
…まじ?
見かけと中身の
嫉妬して?
孔掘って隔離
不均衡。その
憎しみを隠さず?
…やばっ
容赦ないいびつ
許し。その、ストリーミングですけべな学生から見せられた画像の純正日本人のそれに学んだ日本流儀のように、その時の聲と発音を擬態する彼女を?
倫理とは、…ね?
まばたきながら?
知ってる?ただ
凝視しながら?
ね?他人の幸せのためにだけ
見慣れた、…れ、はじめている、…れていた?眼差し、——飽きた、もう。
飽きちゃった。この人の、こういうの。
とか?
まだ?…と、それとも、本当は、まだ?
やべっこういうエッチくさいの好きかも。…とか?
たして興味もなく、眼差しはむしろなにも見ていないかのように…とか?
あるいは、ベッドに腰かけ、時に返り見てわたしをだけ見た、その沙羅。
時に返り見てユエンをだけ見た、その沙羅。
ねじれた裸身の、その背筋。
時には着衣の。
時には乱れた着衣。
時にはわたしの衣服を適当に羽織った、その沙羅。
あるいはそもそもふたりには見向きもくれない、その沙羅。
向こうを見つめ、向こうをだけ、…なに?自分が獲得することのついになかった、その少年のような、しかも慥かに少女のみの持ち得るそれには違いないその華奢。すべり、流れおち、まるでなにかがすがたもなく陥った、そんな——どんな?…だから、ひとつの陥穽?…沙羅。そのうしろむきの形姿。
ユエンは。
嫉妬?
たぶん、彼女はそんな昏い感情など抱いたことさえなかったかもしれない。翳りの無い、明るい、要するに摺れたところのない女だったから。フィクションのように見えるほど、痴呆的にさえ見えるほど、すでにして狂気に近づきつぎていさえ見えるほど。
それはたぶん、彼女の心の、だから、…なに?なんらかの欠損?
羨望?
あるいは、あわい、もう、憎しみにも殺意にも辿り着かない、例えば満ち足りた蛇が不意に蝶に感じた、…とか?そんな。
満ちたりながら、それでもよりわたしの側にいたいのかもしれない。
奇妙な執着。
時に、ユエンは取り憑かれたように沙羅を見つめていた。言葉も無く。そして本人に、自分が沙羅を見つめている自覚さえもなく。
食いつくように。
咬みつくように。
貪るように。
刺すように。
燒きつくそうとしたように。
あまりにも無表情に、目をだけ見開き、絞り切った瞳孔に?
おびえさせながら?
わたしの背後に故意に隱れさせながら?…その沙羅の在った赤裸々な事実を。
たまらず終に眼を逸らさせながら?
軽蔑されながら?
無視されながら?
見下されながら?
厭われながら?
憎まれながら?
気付きさえされないままに?
鼻に笑われながら?
ふと、にらみ返されながら?
ふいに、聲を立てて笑われながら?
バスルームを出るとただ、鮮明な違和感だけがそこに
ぼくは、暗号
ある。その
赤裸々すぎて
正体には気付かない。ベッドに
難解な
すわろうとした。いまだ
暗号
着衣もないままに。その時に気付いた。床。ベッドのふちの投げた、青みのある翳りの切れた先から、——噓。むしろ翳りにあやうくかさなりあいながら、——噓。須臾占領しては放棄するゆらぎのその部分にだけ翳る翳りの翳りを完全に破壊してしまいながら、いずれにせよ、そこにまばたきひろがっていた陽炎。なにかの、反映。なんの?背にした窓の方から。思う、一体、なんの反映なのか、と。その、それら、ゆらぐ陽炎ら。色彩のさだまりようのない焰のように?だから、幻のように、夢のように、その留まるべきかたちを一瞬さえ留まらさず、だから生滅のかたち。かたちら。たぶんそれらは、それがいま、まさに停滞したと錯覚された眼差しのなかの幻?常にとめどもないそれら、たとえばとろける綺羅、綺羅らの溶解。流れる落ちる雨、雨の無際限な無数のさざめき。流れつづけた水の面に散乱していたさわがしい月のかたち。探してやらなければならない、と。
わたしはすでに、そう
気付いていた。その時には
その色を
いちども、なかった
すでに
見い出したことなど
見えたことなど
もう、気付いていた沙羅の不在を、心に
その海
なかった。あなたを見たこと
ようやくに知りはじめながら。だから、
見飽きた海の
いちども。
あるいは逃げ出した、——奪い去られた?
その波の
かたちなど見えたことなど
沙羅を、——誰に?だから
色など見えたことなど
そのあなたの
見つけ出してやらなければならない。ベッドの上に、
いちども、
見飽きたあなたの
…ベランダにも、どんなちいさな
なかった。海を見たこと
そのかたち
もの影のすみにも、沙羅は
見えたことなど
見い出したことなど
そこにはいなかったから。だから
いちども、なかった
そのあなたを
恐怖。むしろ、赤裸々なまでの。取り殘された不安とか、不意に消えて居なくなった喪失感とか、あってしかるべく思われていたものに対する、だから違和感とか?そんなものではなくてあざやかなまがう余地なき恐怖。
なぜ?
沙羅を愛していたとは言えない。ユエンたちと同じように。すべてのベトナム人女。すべての日本人女。ありとあらゆる女たちと同じように。想えば、彼女になにかを求めていたこともなかった。ほほ笑みの須臾も。いやしも。つくされることも。そこにいることさえ。または彼女そのものを求めたことさえなかった。その心、…魂?(——意識?)あるいは、肉体をも。わたしに愛され得る肉体としては、あるいは理想的だったのかもしれなくとも。あの、かならずしも女の色気というものを持たない造形。
恐怖。
首筋に立っていた鳥肌を撫ぜた。夢を見た。目を覚めたままに、だからもう、降る——降り、光りの——降りそそいでいた、それら、粒ら。
立ったまま、わたしはそこでその一瞬に、まるで時間さえ融けたかに想えた、尽きる事のない光りら、その粒なした光りら、その粒らの降り注ぐそれら、それは夢。
そそげ
あっ、…と
あれ?…涌き、
天から?
そそげ
息を飲む、そんな
涌き立ち
…たぶん。
そそぎつづけ、しかも
須臾。それら
つぶ立ち
まっすぐに
そそげ
連鎖
あれ?…涌き、
上昇した。それら、光りらの粒らはもはや見えない足の方から(もう、)降る。無数に。(だから、)降るように(もう、わたしの眼は)上昇し、際限なく。だから(ただ正面をしか)降る。光りらは(見い出せなかった。なぜなら)降り注ぎ(たぶん、もう)盡きることなく。もう(鼻の眞ん中から下は)とめどもなく(もう、斷ち切られていて——生滅?)知っている。もう(あるいは)ずっと前から(生滅?もう)あるいは(だから、まっすぐしか見えないのだった。ちゅうぶらりんで)生まれる前から(むしろ、)此処で(ちゅうぶらりんに浮かびながら)こうしてずっと探す。あわてて服を着て、…濡れたままで。
適当に、指先で髮の水滴を弾き、それだけで出てきた。バスルームから。
なぜ?
いつも拭うのは、…体を。わたしの体をバスタオルに拭うのはいつも、沙羅の仕事(特権?)だったから、敢えて(それは、)彼女の爲に(特権?)。
んばぁ、…と?無音
口に、息
どこへ?
ひらいた、口
吐き、はっ…
それは部屋に
眼の前に
息、口に
入り込んだ最初の頃に、
んばぁ…と?無音
吐き、はっ…
シャワーを浴び終わりかけたドアをあけて、その沙羅はバスタオルを拡げて笑った。こっちへ來いと、…響き。哄笑するようなベトナム語の。
なに?
たとえば來て…ね?…いいよ、と、聴き取れない、意味の分からない、嘲りながら糾弾するに似た
わたしは、暗号
響き。たとえば來て…ね?…子供みたいに、と、…なに?
赤裸々すぎて
それ以來の習慣。母のように?自分を母と錯覚した、母のいない心の壊れた殘骸のように?たとえば來て…ね?…いいよ、と、そしてその、聲なく笑った、ひらかれきった口蓋の上に目。
痴呆の色。
あざやかな、容赦ない無能の。
ただのぼんくら。
ただの畜生以下の家畜の。
蚯蚓以下の知性しかない、そんなほほ笑みに鍵は閉めなかった。恐怖?心の?その恐怖のせい?もはや意識など
おびえてる
どこ?あなたが
なかったから。意識、鍵、
あなたを思う
いまひとり
というもの。そんなものが
そのたびに
おびえてるの、どこ?
かつて存在したことへの、意識。走るように。
おびえてる
あなたが、いま
廊下を。わたしは、背後に
こころは、もう
ひとり
ようやくしまったドアの、その
いとしさのきわまり
なみだするの
響きを遠く聞いた。
ひそめた。
足音。
なぜ?
響き。
忍び足で。
だからあくまでも走るように、忍ばせ、うかがい、走りはせずに。
駈けるように、駈けはせずに。
ころがるように、ころがりせずに。
息をただ、殺し、吐き、殺しながら。
口から。
喉から。
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