流波 rūpa ……詩と小説077・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



      空、その

アルト、——聲のか

   ごい、さ

      青

みかっ、…と、咬みちぎるよ。

   神契る?

それ。十七歳の

   髮ちぎる?

耳は聞く。その聲、狂暴なっくらいに、つややかで、譬えば喉に稀有な障害のある美聲の少女の不意打ちじみた低音のように?…なにそれ?つややかすぎてもはや狂暴な、…なに?だから夢路。その聲を、聞いていた。わたしの(——だれ?)耳は。

…ゆめ、ぢ。

夢の通う路、息のかかる(…温度さえ)すれすれの(その)纔かにだけ(やさしい、陰湿な)あやうくふれあわない(息の温度さえ)至近に。…なんで?

ようやくささやき返すわたしの聲など、夢路はもはや聞こうともしない。しずかな、むしろ、なんの感情も感じさせない、だからただ冴えた静かなひびきに、彼はややあってささやく、「どこ、咬みちぎってほしい?」

双子のよう、と

「なんで?」

言われた、知り合う

「言え、いま」

だれにも、特に

「…ね」

女たち

「どこを?」

言葉もなく

「眼。むしろ」

気配もなく

「指先?」

掠め取るように

「眼を」

発情する無数の

「その」

女たち

「壊して」

彼女たちに

「小指。…ね。だれか」

双子みたい…ね?

「好きにしていいよ」

どこも、なにも、ただ

「殴ったことある?」

美しいと謂う

「好きに」

それ以外に

「あるよね?」

なんの共通もないわたしたちに

「好きなように」

女たちは

「お前」

そっくり、…

「あげた」

と、

「何回も」

噓を言った。その

「もう」

自覚もなく

「分かる。見れば」

心からの

「あげた、おれ」

真実の

「拳」

聲として

「おまえに」

性別を

「壊した?」

あざ笑う——哄笑。…ために

「捨てた。もう」

その爲にだけ

「どれだけ」

生まれてきた

「滅ぼした」

それくらい

「何人、壊した?」

華奢な

「もう」

少女のような

「何人?」

そして

「壊した」

少女の形姿を

「絶望?」

裏切る、息づく

「砕いた」

狂暴な

「…させた?絶望?」

しなる筋肉…ういた、あばら。…に

「咬みちぎって」

多くの人々を

「殘酷に」

気のむくまま

「あげた」

壊した。見さかいもなく

「血も」

時に自分を

「もう」

窮地に

「血も淚も」

時に、彼等

「全部」

死にかけ

「血も」

傷を

「もう」

時に傷を

「へし折ろうか?いま」

最後には

「なんの意味も無い」

歯型によって

「咬みちぎって」

かろうじて

「おれの」

認識された

「咀嚼?」

肉と骨の

「存在」

あくまでも

「痛みを」

あくまでも途切れ途切れの

「もう」

断片的な

「後悔させてあげる」

殘骸になって

「お前に」

その

「生まれてきたこと」

最後の姿を

「もう…」

さらした。ゆらぐ

「だから、」

わたしの

「おまえを愛したから」

裸眼の中に

「小指」と、ささやきおわらないうちに夢路は吹きかけた。一度、わたしの、無防備な全裸の小指、その根元に。そして歯をあて、そっと、滑る子ませるせるように、かれは舌を這わす。

やさしく。ただ、限りもなくやさしく。その名前、久遠夢路、と。名乘るそれが本名とは似ても似つかない僞名に過ぎないことはだれもが知っていた。歌舞伎町の店の爲の源氏名だったから。まるで、おそらくは才能のない少女漫画の作者のセカンド・ネームのような、あまりにも痛ましく夢見がちな名前は、ただ、夢路の生まれつきに想えた暴力性を、…匂い。血と破壊の匂い。

それを、ひたすら無造作に飾った。二歳年上の久遠夢路について思うとき、わたしがイメージするのは墜落してく形姿。なぜ?かけがえのないその一瞬を、意図もなくかけがえのないものとして生きつづけたから?…この、あまりにもお仕着せの、わたしに依る勝手なその形姿。いま、かれが見ている風景、その時間が、その明確とは言えない殘量を量るかたちでしか存在しなく——死?それを存在させる、生きとし生けるものすべての自覚されない日常のように?その殘り少ない時間としてしか彼の時間が存在しないことの、…まさか。かれの、その生存する時間全体としての両性俱有、…の、できそこない?ひとつの時間に俱有されることのない、謂わば虛構の俱有など、夢路にとって何の苦痛でさえなかった。たぶんすでに絶望しきっていた彼にとって、性別さえどうでもよかったにちがいない。なら、捨てられるように、捨てられたままで生きていたことの報われなさ?——彼にとって、親の顏の記憶も無く、まるでひとりでに生まれたかのように生きてきた事実は、夢路の自由を証明しはしても障碍、欠損などなにも意味しなかった。百メートルを九秒で走り切れないイソギンチャクの緩慢な歩みは、それはその生命体の欠損だったのか?まして障害でなど。あの、あざやかな触手を好き放題さざめく波にたゆたわせて。だったら、なぜ、かれはわたしの眼差しの中に墜落しつづけるのだろう?

その形姿。

幻見られた、あまりに鮮明でリアルな、痛みさえ殘す形姿。だから、すくなくともわたしの眼差しの中に、

   落ちる、落ち

      波の

それは無間の

   落ち続け

      聞いて

底の無い、どこまで

   落ち、落ちる

      波の

落ちつづけても

   叫びながら?

      聞いて

どこまでも

   わななきながら?

      響き

どこにも辿り着かない

   ふるえながら?

      波の

その底の無い

   引き攣り

      明け方の

空間。無竆の、だから

   身をよじり

      月の

その極まりを

   いまも、猶も

      白い

その果てを

   痙攣しながら?

      月の

その邊りを知らない、

   むしろ

      光り散る海

落ちる。だから

   その聲もなく

      聞いて。波の

かれの、もはや

   かすかにひらかれた彼の

      さまよい出だす

その速度さえ

   やわらかで

      心の

あくまで固有の速度さえも

   誘うふしだらな

      通う

感じさせない

   唇のほほ笑み

      夢の

墜落。…違う

   だから

      幻見た

すでに無効だったのだった。はじめから

   かれは、そこでひとり

      夢の

わたしの描いた

   ほほ笑みながら?

      波の

形姿の中で、その

   落ちる、落ち

      見て。散る。もはや

果てをさえ無くした速度は

   落ち続け

      形のない

速度でさえあり得ない。だから

   落ち

      月の

それを夢路の孤独な形姿と名づけておくべきだっただろう。その夜、——夙夜?

夙夜。夜の、そのどの時間よりも深い、闇をだけ(…だから欠損)ひたすらに(救いようのない)感じさせた(光の不在)夜明け前の(…だから)数十分に、——まだ、死なない。

夢路は云った。

渋谷。公園通りを上がり切った(…下がり始める手前)そこ。パルコを通り過ぎ(神宮を背に)NHKを過ぎて(谷底の)右手に(なぜか妙に田舎びた繁華街の中に)旧‐国立競技場(流れ落ちる手前の)街路樹。だから眼の前には神宮の杜。兩わきと、眼の前の未だ遠い樹木、それら濫立の、空虛な中間。ひらけた、昏い空には月。だから——しろ?

きいろ?

きん?…通りの眞ん中に「まだ生きてるよ」夢路はささやく。

殘酷さなどなにも感じさせない、かなしいくらいのやさしさで。

女は(——忘れた。此の)路面のこまかな(此の女のそれも)砂粒を(他の)舐めた?(他の女の)血を滲ませた(それと同じように)…溢れさせた?(いま、だから)唇。…その(わたしは)舌に?

二十代半ばのその女は、通の眞ん中に俯せて、なんどか前のめりに這うような挙動を、やがて突き出した尻をわたしたちに向けた。乞うように?…礼拝?神宮に?(自称スピリチュアリストの田島佳奈美は言った、神宮にはね)祈るように。だから頭の遠い先には、あるいは、救いを(神様、いなんだよね)もとめるように?(空っぽの…あそこ)まさか。もう(元陸軍演習場でしょ?)女は救いなど(知って)求めていない。もう(知ってた?)受け入れることもなく、救われる得ることその可能性の存在など放棄…ないし、そもそも人間の言葉のさえ

   おはよう

      これはわたしです

忘れていたから。生きる意志さえ

   おはよう

      これは

ない女。もう、

   だからおはよう

      これはわた

生死、そんな事象の存在さえとっくに忘却されていたから。

店を抜け出し、そして(——夢路の在籍していた店。歌舞伎町の)渋谷に(ホスト。移籍させられた。わたしは)連れてきた。女を。(専務に、だから)それは(あの和哉に、あしたから)店での唐突な、まだ(夢路の店に來って。…さ。あいつが、)淺かった夜の(…さ。でも)思い付き。(もう二度と俺の前に顏ださないでくれる?)夢路の。ただの、その日の。わたしに一言の相談も無かった。そっと耳打ちする、その夜の彼のこれからの計画の告白さえ。たとえ深刻ななんでも冗談めかさずにいられない、いつもの夢路の噓をつくに似たやさしい物言いでさえ、だから、——なに?

いいから、さ。

どこ?

いいか

どこへ?







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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