流波 rūpa ……詩と小説071・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
「噓。…」
いつ?きみの
「なにそれ」
「ね?」
頬にとけてったその
「なに?」
「未來、見えるんだよね」と、……え?「…なに?」そう聞き直したわたしに彼は、ほとんど表情というものの見当たらない——正確には、やわらかでかすかな笑みに近い色合いという以外の、ただ…虹彩。なぜ?あざやかなだけで、はっきりしたなにものもそれは、なぜ?見当たらない顏に、「未來、見えるんだよ。俺」と、彼は云った。
「そっちの系の人なの?」
「…別に。でも、」
虹彩。なぜ?
不安だった。いつだって
「はっきり見える」
「どんな?」
それは、なぜ
ぼくは。ただきみを
「あなたの…ごめん、名前…」
「眞沙雪」と、思わず言ってしまった本名を、そして慌てて言い直す眞沙夜の源氏名も、どちらも男は耳に入った気配もなく、「あなたの未來だけ」
見てしまおうよ
あきれるくらい、さ
「なにそれ?…どんな」
「もう、終わり」
ぼくら、ほら、この
ばかばかしいくらい、さ
「なに?…って、死ぬって?」
「死ぬより殘酷」
夜が、まだ
わらっちゃうくらい、さ
「なんだよ、それ」
「俺に狂っちゃうから」え?…と、唇に聲に出すのをさえ忘れ、頭の遠いどこかにつぶやきながら、わたしは「…え?」彼を見つめていた。
「なに?」
「あんたの人生、もう終わり」
なぜ?
匂うね。すっごい
「お前、」
「生まれるより凄惨で」せーさんで、と、彼は
なぜ、そんなに
やばっ。すっごい
「ね?」
「死ぬより無慚」ささやく。眼差しの奧の方にだけ、そのいたずらじみた嘲弄の…ば。ぁーか。気配を…ば。ぁーか。くすぐり、「ぜんぶ、あなたのぜんぶで、俺に狂っちゃうから、…ね?」
「笑っていい?」つぶやいたその「まじうける、いい?俺、ひとり笑って」わたしに、「もう、」と、そして「おそい。もう」と、やさしく冴えていたその眼差し。彼はそうつぶやいた。
「あんた、もうすでにニヤついてんじゃん」
「…ゆめじ(…ぢ?)」と。
頭の斜め上に男の聲がして(——専務)返り見ると(わたしをひたすら)「なに?(ひとり、忌み嫌っていたその)…夢路。なに、お前…」そこに「おまえ、キャッチされたの?…こいつに」
「純也。」男は、だから、夢路と呼ばれたその男は、専務にふと、思いついたようにつぶやいて笑んだ。
専務はあらゆる表情をすてて、だから推し量れないただの顏に、その夢路という名のかれを見下ろし、「和哉だろ?」だから「俺、…」表情さえもう、變えるすべも?すぐさま「和哉。」そう云った。「俺の名前、和哉じゃない?」その時にわたしは気付いた、かれ、——此の男の名前、…源氏名?は、夢路。…と。ようやく。
夢路は専務を見上げて、素直に呆気に取られ、やがて聲を立てて派手に笑うしなかった。思った、この専務は踏み越えた口なのだ、と。つまりは男との恋愛に。専務が、だから和哉が、単なるストレートだということはすでに知っていた。それはいちいち口頭に確認するまでもなく、どこからどう見てもただ、まさにそうだった。おそらくは夢路に誘導されて、かれと一緒にその明確な境界線を、明確な決意もなくいつか越えてしまっていたのだ。そして、わたしたちの不思議な会話。
気まずい沈黙の——ん…あっ。後の、三人ともみんな、——ん…あっ。それぞれにそれぞれの話す——ん…あっ。言葉を、聞くでもなく、答えるでも、無視するでもなく、ただ、——ん…あっ。言いたいことをそれぞれに——ん…あっ。思い付きでそれぞれの唇に口走っているだけの、所詮要約不能。文脈などなにもない会話。雑談。…らしき?それら。
時には
ぼくらは、こんなに
笑っていい?
笑い聲さえ立ちながら、あるいは
こんなにも饒舌
その
傍目には色づく
饒舌。こんなにも
やさしすぎた聲
色めく好き勝手で
沈黙。沈黙。そして
聲。笑ってい
好き放題な
知らず知らずに、ほら知ら
その
だから男たちの
もう赤裸々に赤裸
せつなすぎた聲
華やかな、華やいだ、華やぎすた、ただしどこまでも
寂寥
こ
希薄な。それでいて倦怠さえもない。やや無防備な?そんな。結局は——どんな?容赦なく我が侭なだけの言葉の群れのかさなるともなく集積し集積するともなく消失していく中に、夢路は——だれ?不意に耳打ちした。
「ね、…」と、「いいこと考えた」
と、構わず話しかけつづける和哉の言葉のこちらに
「ね、なにも、聞いてないふりして、」
そして抜いたシャンパン。夢路のオーダーした
「まるで、もう、ばれてるけど」
金色の…モエの泡立ち
「だれにだって、…さ。ばれてるけど」
好きだったよね。純也、…モエのほうが
「なんにも聞いてないふりして」
ドンペリ飽きたもん…じゃ
「…ね」
じゃ、さ、俺らの
「聞いてる?」
再会を祝して
「いいこと、考えた。俺」と、夢路のその聲をわたしが聞き取り終わらないうちに、「純也、…さ」彼は「係、換えて」和哉に云った。
「今日から、この子が俺の係。…ね?」むしろほくそ笑みながら。
陰湿な、あきらかな惡意を隱さない、だからだれが見ても不愉快な…惚れたの?眼差しに。…おまえ惚れ
「なに?…お前、」
「オッケー?」
見てしまおうよ
ささやきは
「ごめん、意味わからない。いきなり」
「ね、…お前」
ほら、この
犯罪。もう
「こいつに惚れちゃったとか?」
「日本語わかる?」
夜が、いま
かわいすぎるよ
「なに云ってんの?」
「すぐ、換えてよ」
燃え上がるのを
つぶやきは
「大丈夫?…お前」
「噓」
見てしまおうよ
極刑。もう
「常識考えろよ、お前」
「ね、…噓」
まるで、なにも
いとしすぎるよ
「それ、すっごい」
「あんた、ひょっとして客に困ってた?」
見えなかったふりして
まばたけば
「あまってるよ」
「じゃ、…だったら、いいじゃん」
見てしまおうよ
ふるえる
「自分、なにやってるかわかってんの?…これ」
「うざい」
ほら、ぼくら
世界の
「火種だよ。自分で、だからこいつの」
「消えて」と、そう云ってグラスのシャンパンを和哉にぶちまけ、だから夢路は茫然の、ひとり…ぼくひとり。濡れ放題の…ぼくひとり。和哉の綺羅めく…ぼくひと。顏を見つめ、——匂う?
その金色の、もはや透明な綺羅。
匂う?…その鼻。ややあって、夢路は和哉を見つめつづけたまま、そして、思いきりわたしの頬に——ぶっ。口づけた。
「お前、酔っぱらってるでしょ」
和哉は、——ぶっ。我に返ったように、そして、ひとりだけ先に——ぶっ。大人の冷静さを——ぶっ。取り戻して、
「…いいよ」
つぶやいた。
「いまから、こいつ、お前のかかりな。かつ、速攻いまクビ」
わたしに。だから、夢路。頬に唇のふれたまま、「オッケー。じゃ、おれが、こいつ、引き」
「でもさ、」と。なにか言いかけて、和哉は不意に言葉を咬む。ふと、立ち上がりかけた。
「と、…なに?」
引き取ろう。おれが
好きにしろ
「なんでもない」
おれの店に、さ
おまえの、やりたっ
「云いなよ。純也、何が」
いいよね?
やりたいよう
「和哉。…お前、むしろ俺らをひっかきまわしたいだけでしょ」
沈黙。何秒の?見つめ合う。わたしをは置き去りにして、ふたりだけで。…嫉妬?…その時、わたしは?ジェラ、やがて、専務は立ち上がり、その立ち去り際に、「そんなじゃ、お前、確実に不幸になるだけだよ」言い捨てて、…それはわたしに。わたしだけに。…わたしを、かれの眼はあくまでわたしをだけ見ていたから。わたしに?…と、見せかけ夢路に?そして、もはや此の上もない静かさで専務は、ただ切ないくらいにやさしくわたしの爲に、…いいよ。笑んだ。「これから、そっちに行くね」と、…いいよ。ベイベー。電話に出るなり…い。言った。ユエンが。
「なに?」
「ちょっと、わたし、確認する、から、ね?」
「確認?」
「…する、だけ、だから、…ね?」と、…來れるの?いま、「ロック・ダウンでしょ?…」そう「ここらへん、ぜんぶ」言いかけた時にはすでにLineの無料通話は切られていた。わたしはスマートホンを枕許に投げた。
ふたたび。
沙羅はもう行爲をやめていた。自慰以上のなんの意味があるのか、わたしにはわからない彼女の(…だけ、の?)行爲。窓際に立ち、そして日差しの中に(…だけ、に?)身を曝す。その、逆光とも云えないやさしい(…だけ、の?)、しずかな昏みの中に、その無防備な背中に褐色をいや濃くさせて。
瘠せた肌。
…肌?
腰のくびれと尾骶骨の肥大。それらが彼女の性別をせめても、かつ慥かにあざやかにあかす。それ以外には、あるいは華奢な少年?の、ような?…それ。ただそれこそがわたしに、彼女に最低限の興味を引かせた最大の——好き。理由だったとしたら?
見ようによっては、謂わば
好き。す
両性具有の(…単に)気配さえ(瘠せすぎた、
好き。す
…単に)感じさせないではない(瘠せ身すぎたその、
きみがす
あくまでも)やわらかく(単に女のそれに過ぎない、
好き。す
だから)しなやかな(…妄想?)筋肉の(…あやうい無理やりの)瀟洒で(連想?ただ単なる)エレガントな(虛構。ひとりよがりで、まるで)息吹き(…幻のような?)。その
日差しはそっと
まばたのだった。それら
正体を明かさない
ふれては、そっと
歪む死者ら。それらの
陽炎の下で。本來はなんの神秘性もないただの
消滅?…しては、そっと
こちらに…むこうに?
必然に過ぎなかったそれら、揺らぎ。それら
日差しは、そっと
まばたくのだった、それら
光りの、あるいは翳りの、九鬼と
ふれては、そっと
どちら?…死者ら
わたしの、≪流沙≫の爲のあたらしい曲の、…曲ともいない音響の?響き。
響き、響きあい、響いた。
響き、——その爲の設計図、またはそもそもの腹案など、実際にはなにも響き。
響き、響きあい、響いた。
響き、なかった。ふいに思ったのだった。ふと、全人類規模の…ふいに、パンデミック、ふと、…つまりは小学生の爲の歴史の敎科書にさえ、そのうち響き。
響き、響きあい、響いた。
響き、最新版の最後のページの数行か、あるいは一ページぜんぶかを…人類の闘争。埋め、たぶん…かつ迷走その響き。
響き、響きあい、響いた。
響き、人類の苦難を、そしてそれからの勝利を、もしくはあらたに始まったおわりなき新種ヴィルスとの共生のかたちを、あらたな響き。
響き、響きあい、響いた。
響き、人類の生態系を、あらたな様式を、——なにを?響き。
響き、響きあい、響いた。
響き、
記述するに違いないこれらもはや日常的事象の中にあって、瞑想的で…寝ても覚めても。神秘的でもの…醒めても寝ても。思わし気な≪流沙≫が彼の(…彼女。ひょっとして、)いま(…だれ?)まさに(あるいは)鳴らされるべき(いく)固有の(いくつかの神話が描いたようにトラ)響きが発せられないのはおかしいと(トランスジェンダー、または)…長い、(…だれ?)沈黙と(男女未分化、時には)不在を(…だれ?)破って、(両性具有の?)そうでなければおかしい。
響き
見て!…ね
どんな響き。
響き、響きあい、響いた
ね、ね、ね、ね、…
どんな?
響き
だからこれは、朝
沙羅の背中の、
それら
あたらしい、朝
微細な
響き
見て!…ね
翳り。どんな
響き、響きあい、響いた
ね、ね、ね、ね、…
響きを?
響き
これが、その朝
見つめるともなく、その翳りの淡い——形態とさえ言えない、あわっ…どんな?翳りの、あわっ…どんなあわっ響きを?思っていた。彼は(彼女は、…)鳴らすのだろう?どんな(彼にして彼女、もしくは)響きを、あわっその耳、謂わば(彼でもなく)内なる耳に、いま(彼女でない、)聞いていたのだろう?(それは)所詮虛構の。淡い、それら
沙羅の背中の翳りのような?光りの
死者ら。それら
反射、(…ら。反射、ら)その(…れ、ら?れら?)
死者ら。それらを
白濁のような。褐色の
まばたきもせずに
0コメント