流波 rūpa ……詩と小説070・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



慥かに、錯覚。容赦なく、錯覚。その人はこの世のものではないから。ひたすらあざやかな、そんな錯覚のそもそもの理由はその人の、男装の麗人じみたパンツ姿、だから不意に匂う倒錯の…ほら。見て気配のせいだった。のちに至っても、瑠璃が…ほら。見て外を歩く時はいつも、パンツに

「店でも?」

   見て。ほら

      あやうく

履き替えて、そのくせ

「何?」

   あたたかな風が

      そっと

誇示するように

「…パンツ」

   …夏?

      …夏?

香り立つ黑髮、その

「まさか」

   巻き立てたあなたの

      肌に沁み込んだ

ゆるいカーブを

「着替えるんだよ。いちいち」

   うなじの髪。ほら

      それは、夜の

埀らした肩と胸元に

「嫌いだから」

   ひとすじの

      …夏?

騒がせ、騒がしすぎるほどの

「女みたいなの」と、そう、いつか、六本木に行ってからもそうささやき、その頃にはもう、惡趣味なほどに濃い口紅は、淫売じみた下品な卑猥を顏にあざやかに描いた。いずれにせよはじめてその人を見た時、投げ捨てるようにサングラスを外せば、感情の目立たない醒めた黒い眼差しが幾重にもしわを寄せた複雑な瞼の下に開かれて、思わず目を逸らしそうになる。そんな、それは冴えた嘲笑。単に——だれに?卑猥にすぎないノー・メイクの——だれに?唇のかたちに、そんな——その、気配を——ほほ笑み。匂わせて。——だれに?

だからこれみよがしに野蛮で、ゆるしがたく狂暴な

   わすれてないよ

      泣いた唇。…その

生き物。タクシーから

   まだ、おれ

      いつの?

降りたその人は

   わすれ

      ふるえ。ぼくが

ふいに、彷徨うに似た須臾の

   まだ、あな

      いつの?

ためらいのあと、もはやなんの

   淚のあ

      唇でつぶした

ためらいもなく(…決めていなかった、と、ただ)わたしの(それだ)眼の前まで來て(それだけなのかもしれない。その日)しかもその先の(と)行方をは(とりあえず入り込む店を、まだ)唐突に(早いから。まだ)見失ってしまったかのように(夜になったばかりだから。だから)それでいて(かぶ)顯らかに(歌舞伎町に辿り着いて猶も)立ち去り(かれ)あぐねて「いま、何時?」

   ふるえるていたの

      足元に

聲。そ

   ふるえたていの

      孔。ひらいた

の、聲。そ

   わたしの、こころ

      孔。その

の人の、だか

   あなたの、こころ、も

      足元に

ら高い、ふれた耳に、いつま

   ふる

      なに?

でも殘り、響き続ける、そんな印象のゆるい——だれ?ソプラノ。

「…ね」

と、…だれ?だ

「今、何時?」

その、——れ?だれ?いつか繰り返されていた聲——だれ?にわたしはよう——だれ?やく気付き、顏をあげると眼差しの中にあきらかにうつくしすぎたその男(——女?)がいた。その人、だからうつくしい人、咄嗟には、性別を見取れなかった。だからその時、その人はまだ性の未分化の人にすぎず、人?

   ね、ふれて

      …いい?

人が人で有り得た必然とは?そしてすぐそばには華奢な足。——女?(繊細な、瘠せた人?

   ね、いま

      …いい?

人が人で有り得た必然とは?男の?)わたしを見下ろし、微動だにせず、ただ、無造作に人?

   ね、ふれて

      …いい?

人が人で有り得た必然とは?立って。…立ち尽くしていた?そんな錯覚さえ、「…わかる?」

   昏い。黑

      ちいさい。あまりにも

         …いぃい…まっ

笑った。不意に、——誰が?

   見上げれば、…なに・

      ビルの盡きた

         …るぃい…まっ

わたしが。むしろ、あるいはこれみよがしに

   空?黑

      果ての先に

         …てぃい…まっ

見下し(…て、いるかにも?)サングラスごしに見下ろす(…て、いるかにも?)その人の不遜の下で、わたしは(…て、いるかにも?)思わず、…なぜ?

もう、笑っていた。聲もなく、——なぜ?知らない。だから——な?例えば、いきなり時間を聞き始める男(——女?)のそのおしつけがましい滑稽さ

   知れ!莫迦

      だから嵐の夜だった

を。なにがいったい

   莫迦!知れ

      心のあ

滑稽なのかは知らないまま。どうしたの?…とは「なんで、笑ってるの?」女は、そんな言葉は言わなかった。決して、まるで笑い聲など——なに?気にせず、そして——どおしたの?ひとり笑い崩れるわたしの——どぅお姿など——どぅおすぃたぼ?見えもしないかのように、そしてわたしをだけ見つめつづけながら、「…時間?」ささやいた。

   ください

      かなしいね

わたしは。

   ささやき

      ぼくらは、みんな

見つめあい、だから

   せんさいな

      きず、おいながら

見つめあうしかなく、

   ひびき

      それでも

沈黙し、

   いま

      ゆめを

沈黙している事実にさえ

   その肛門のいちばん内部の奧のお

      おもいえがいて

気付かないまま、だから沈黙しているしかなく、軈て、ようやく、もう——なに?数十秒の後になって、…時間?と、——あ。思い出した。わたしは、その——あ。人の問いかけを、「…いまの?…いま?」

   あ。いま、ね?

「わかる?…あるの?」

「なに?」

   あ。天使が、いま

「時計。わかる?」

「ない」

   あ。ふれた気が

「わかんない?」

「ないけどさ…重いじゃん」

   くぽっ

「なに?」女は(——男は?)首をかしげて見せた。

「サングラス、外せよ」その時は、かならずしも眼の前の、至近のそのひとが綺麗だとは思わなかった。とりたてて、ただか殊更美しいとも。ましてかわいいとも、ハンサムとも?びゅーりぃ…または不細工だとも。すうぃーてー…いつ、その人をびゅびゅびゅーりぃー…美しいと思い始めたのか、わたしに正確な記憶はない。しかも、恋愛感情?…を?

その人はわたしに、所属の店の名前を…をを?聞いた。そして、「…じゃ、」と、…ををっ?これから、一緒に…をっ?行こう、と。

なんの会話をするともなく、歩いて五分もない店の前に差し掛かると、——ここは…と、

   だから、さ。虹彩。なぜ?

      不安。ただ

「なに?」

「ここ、係、いるかもな」

   それは、なぜ

      わたしは

「遊んでるの?」

「優也…かな?まだいる?」

   こんなにも深く、さ

      …だれ?

「知らない」…じゃ、と。

男は(——女は?)ささやいた、

   あまりにも

      不安。あなたに

「もうやめた、…かな」

わずかに…ぱぱっ。笑った気配を、その…ぱっ

   淺い、それら

      …だれ?

「…どうでも、いいか」

聲ににじませ、

   綺羅めき

      見つめられるたびに

   綺羅めき

      なぜ?

   色彩。ただ

      不安。ただ

   綺羅めきしか知ら

      わたしは

   綺羅めき

      …だれ?

   綺羅めき

      不安。あなたが

   色彩。その

      …だれ?

   虹彩。なぜ?

      ほほ笑むたびに

   それは、な

      不安。ただ

   こんなにも深く

      わたしは

店はまだ

   あまりにも

      …だれ?

閑散としていた。周囲の

   淺く、それら

      不安。あなたが

キャバクラの、ラストオーダーさえ回らない時間だったから。

その年上の男はいかにも暇そうに、そしてソファに尻を投げ捨てるように座って「仕事、なにやってる人?」

わたしはテーブルにつくなり尋ねた。「…ね」

「仕事?」

「なん?」

「新人でしょ」

彼はささやき、そして聲もなく笑み。——何で?

   なになに?

     になにな?

「…下手」と、「あまりにも、おしゃべり」さ行の

   なぜなぜ?

     ぜなぜな?

発音に、まるで、

   だれだれ?

     れだれだ?

外国人じみた「下手すぎ」独特の

   レダと白鳥

      だれ?

癖がある。かすかに、鼻にだけ笑い聲をたてた彼の眼差しからそっと、だから眼を逸らした。思った。同業者?と、自信を持ってそうとは思えない、と、曖昧な不穏さが、と、あった。わたしの心には。だから、あくまで彼に対して。ふいに容赦なく目を逸らしてしまった自分を厭う。——なぜ?

なにを羞じたのでも、まして

   恥じらいを知る

      あったかなんだ

彼を恐れたのでもなくて。

   その

      雪の温度は

なぜ?

   頬に、だから

      あった

思い附く理由など何もなくただ、そうなる以外になすすべなく想える、とはいえあくまで不意打ちの他人のしぐさのように?だから、——なぜ?わたしの唇は…ん?思わず…ん?ささやく、

「どこの人?」

「店?」

   いつ?

「歌舞伎町じゃないよね」

「なんで?」

   その雪

「なんとなく」

「六本木」

   見たの、それ

「そう…なんで」








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000