流波 rūpa ……詩と小説069・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
半身の爛れに理由を
燒きつくせ。ほら
昏い目を
類推するし、わたしもそう
消えないうちに
ほら、…ね?
類推した。本当かどうかは
あの消えかけた
瞼さえない
知ら…興味さえ、…想えば慥かに
あなたの背後に
ほら、…ね?
あれから…いつ?そうだという状況証拠ともいえない事実(——とは、なに?)が、…だれ?わたしの(この期におよんでその)
消えかけた朝燒け
目に、もう
眼の前に(事実、とは?)…なに?存在するだけ。
かろうじて。
やさしい息吹きに
存在。
目覚めた鳥ら
散在?
鳥ら
むしろ、あるいはなにをも示現しないそのままありのまますてばちなくらいのただの、…散在?その日の(——そのままとは?)わたしは硬度をなかなかなくさなかったので、沙羅は…ぅう?だから、ひとり好きなだけ…ぅう?楽しんだ。自慰に…ぅう?没頭するように。見つめあう、…ぅう?見つめあいつづけた潤いのある——愛し合うみたく、もう。眼差しの中に、そして——愛し合うみたく、もう。せつないくらいに——愛し合うみたく、もう。だから愛しあうかのように?
まさにふたりで…ぅう?性愛に…ぁう?没頭するかのように?
つまり、その時、やがててふいに飽きた沙羅が、それを勝手に引き抜いて…ぅう?仕舞うまでは。
もう、ふれあっていないことの隠しようもない明るい光りのなかの、…なに?それ。…なに?記憶?…なぜ?追想?…だれ?もはや馴れてしまっていた、だから他人事のような、しかもあくまで自分だけのものに他ならなかったその感覚を、意識の半分で味わっていたのだった。ふれあいながら、…余韻は?抜かれて。ふれあうままに、あくまでも鮮明に、性的な興奮も…余韻は?屈辱的な。欲望もなく、すでに神経のさらされていたそれら感覚器の伝える微細なものの…余韻は?もはや莫迦っぽい。感覚…感触、それ自体の…余韻は?生殺しの。…鮮明さ。赤裸々。鮮度。心地よさ?…かならずしも性的なものに結びつく心地よさではなくて、例えば頭を撫でられたような?お腹を撫でられたような?それらよりは鋭利な、とは言え、それが性的であるとは。
不可解なほどあざやかながら、どこまでも性的な昂揚とは切り離されて、それでも猶もなにか特殊な快感は、それ固有の触感として脳に…びびびっ、ば。響く。なら、此の感覚はいったい…びびびっ、ば。何なのかと…びびびっ、ば。疑う。それでも…余韻は?おあずけの。執拗に、あくまで性的なものと謂うなら、感じているのは…余韻は?いじめないで。誰なのか。だれがいま、性行爲に耽り、貪っているのか。だれがいま、その…余韻は?やん。快感を?。
時に疑いはさらに拡がる。そもそもなにを以て性的というのか。なにが?射精が、それだけが?なら女には性的なものは存在しない。不可解な、ただ、不可解な疑問。そして、それを解きほぐしたところで、多分、その尊敬すべき眞理はなにをもたらすでもなく、うばうでもなく、赦すでも、禁じたでもそれ。感謝するべきだろうか?
ほら、ね、…いま
ななめに
だれに?
そのやわらかな瞼
まだ、やや淺い
瑠璃に(——なぜ?)。与えてくれたのだから(なぜなの、
ほら、ね、…いま
ななめに。まだ
こんなにも)、此のわたしに(空は、
白濁させた、あたたかい
ちょっと、やや淺く
こんなにも)此の(いま、)あたらしい固有の不可解な風景を?捧げるべきだろうか、無限の感謝。彼女に、あの、生まれたまま、ついにいじられることのなかった黑髮の色に。長い髮、その
どうして?
光沢に。唇。色づく下唇の
あなたは、そんなに
昏み。…眩み?ほくろに。右の頬に
見つめたのだろう?その
好みの、長い、埀れるような
腐りかけの花。どうして
ピアスに。長い、…それは首。うなじ。気付かないくらい
あなたは、ただ
淡いちいさな痣。それに。体臭に。独特の、
見つめたのだろう?もう
腐り始めたキャベツにレモンと砂糖を散らしたような?そんな?
言葉もなく
あきらかな——臭気(…芳香?)、あるいは
なにを得られることもなく
香気、…と?長い、ながい、長く華奢
なにを得
な小指。薬指よりはやや(…殴ったことある
なにを捨て得ることもなく
拳、だよね?)短いだけの、長い、
なにを
その。そして手首のしみ。リストカットの
なにを見い出し得
痕跡のような数本の沁み。縱の、ながい
な
長い。ながく、だからそれを
その、自分自身さえ
厭い、なかったものにした…病的な
裸眼には見い出し得
拒否として?手入れする事を拒否した、渦を撒く
双渺に、な
陰毛。その繁りに。妖艶でかつ瀟洒な女の、意外な
あなたは、そん
汚点、そんな気配の。翳何歳?…と、初めて遇った時に、——何歳?
おれ?
「何歳?」云った。「噓、言わないで、…ね?」と、いたずらじみて目をのぞきこむ、そのふたつの
「あなたに?」
「本当のことだけ、言って」
「十九」
…ね、ね、ね
言って。だから
「噓」
「噓じゃない」
…ん?
ささやいて
「本当なの?それ、」
「じゃ、何歳」
…ねねっ、ね
ささやいて。だから
「眞沙夜が?」
「おれ、何歳?」
…ん?
つぶやいて
「十五、六?」
「犯罪でしょ。それ」
…ねーねっ。ね…
つぶやいて。だから
「犯罪者なの?眞沙夜」
「あなたこそ」
…ん?
その擬態。ほら
「なんで?」
「未成年者だよ」
…ねっ。ね
まるで唇があるかのように
「十九もそう、…じゃなかった?」
「なに?」
…ん?
まるで舌があるかのように
「お酒も飲めない未成年の…二十二、三?」
「だれ?」
…ねね…ね…
まるで喉さえあるかのように
「眞沙夜」
「おれ?」
…ん?
つぶやいて。だから
「十五、六か、違ったら、二十…」
「なにそれ。…大丈夫?」
…ねっ。…ねっ
ささやいて
「なに?」
「頭、あなたの、…」
…ん?
ささやいて。だから
「なに?」
「壊れてない?」と、「それとも」
…ね?
言って
そう言って、わたしは「眼、壊れてるの?」その押し付けられた胸、なにかこなれない硬みと、しなやかさと、暴力的なまでの生命力の、だから息吹き?それらの中に、ふと、笑った。ちいさく。わたしを見つめる眼差しの爲だけに。見せつけた気はない。ホストになって一年もたたない頃、だから、本当は十七歳だった。…十六?…七?…やっぱり、七?…十歳近く、…以上?年上のはずのその、眼の前のうつくしい人は、だから…なぜ?
その憐れむような。
憐れみかつ、嘲笑しかつ、しかもすでにもう赦してくれていたかのような?
その虹彩。
三十?、二十八、九?…七?…だったにちがいない。いつでも。そしてたぶん永遠に?もう、正確にはわからない。つまりは、同い年かもしれない、と、彼女は、いずれにせよ…なぜ?
その憐れむような。
憐れみかつ、嘲笑しかつ、しかもすでにもう赦してくれていたかのような?
その虹彩。
瑠璃が最終的に、わたしの噓に気が付いていたのか、知っていたのか、敎えられて…だれに?いたのか、気付きも知りも敎えられもしないままだったのか、わたしは終に知らない。瑠璃は…なぜ?
その憐れむような。
憐れみかつ、嘲笑しかつ、しかもすでにもう赦してくれていたかのような?
その虹彩。
わたしが初めて抱いた女だった。あるいは女と付き合うということ自体、…いつから?その…なぜ?
その憐れむような。
憐れみかつ、嘲笑しかつ、しかもすでにもう赦してくれていたかのような?
その虹彩。
十七の時から?はじめてだった。とは言え、客とホストの関係で、そもそもかならずしも明確な恋愛感情があったのかどうか(わたしは、そして)だったら、正確には(瑠璃も、たぶん)交際とは、…あるいは(最初は)と、(あやういものに…だから夢路も)思う、わたしは(あえて)だったら、(危険をおかして?)わたしは(近づく、敢えて、もはや最低限の危機管理さえ知らないものたち、もはや…獸?)一度でも(勇敢な?…けも)あったのだろうか、所謂(そんな…獸?愚かさを)普通の意味での(だから獸の、…愚かさを身に纏うことの愚かささえ)恋人を?(自覚された愚かさ?)…自分に(快感?…獸じみた?所詮自己満足の)得たこと。だれかの(快感に、ただ)まっどうな(盲目的な欲望として引きずり込まれまた引きずり込まれることをみずからに赦した、そんな?しかし、)彼氏であったこと。…あっ(獸ほど臆病で危機へ感性をのみひたすら研ぎ澄ましていたものなど、)…あった?
いつ?
世界はやがて
たかが日本、そのたかが
いつ、終わるの?この
すぐ、もう
東京というすべてに於て脆弱な
いままさに
世界はやがて
都市が、まさに
終わりそうなこの
すぐに、もう
世界の頂点であり得るという妄想に、現実的で冷酷な判断として未だだれもが取り憑かれていた頃、千九百九十一年あたりの歌舞伎町で、瑠璃は、——夢路は?はじめてわたしを見い出した。そして軈て、見た目には變らず二十代後半だった瑠璃は≪花しずく≫というクラブの中堅ホステスになって、眼差し。…ら。眼差しら。それら、毎晩のさまざまな男たち、女たち、さまざまに
いつ?
…らしいよ
その目に瑠璃を
いつ、終わるのでしょう?この
…らしいよ
見い出していた、——さまざまな表情。それら双渺の
いままさに
明日らしいよ
群れ。しかも——さまざまな思惑。その本当の(…なに?)形姿を(…なに?)捉えることなど——さまざまな
終わりそうな世界
蕾、ひらくのは
印象。だれにも、——さまざまな、できはしなかった。六本木クラスの店の女にはめずらしく、瑠璃は歌舞伎町でも顏が知られた。かならずしも男に飢えたわけでもなかった瑠璃が歌舞伎町に入りびたった最大の理由は、たぶん暇だったから?ないし感傷?ないし時には追憶?…いずれにせよ暇な時の余技。わたしはその頃、そう思っていた。いまもそうとしか思えない。店の従業員としての拘束時間以上の、ビフォア、アフター、謂わば賃金時間外の交際に費やされる銀座・六本木で、瑠璃は異端だった。たまの、ほんの数時間程度の同伴以外に、営業終了後のカラオケにさえも付き合ったことがなかった。瑠璃の固有の特権として。ママのいる店で最初からそんな特権が許されていたとも思えない。考えれば、特権が得られるまで在籍できることさえあり得ないのだった。まして、それでも、何らかの形で、あるいは何らかの幸運、なんらかの手段で結局は彼女はその固有の特権を手に入れた。彼女が参加するアフターは特別な夜だった。だから客はそれを楽しんだ。もはや、むしろ必要以上に彼女に時間外接待を求めなかった。落ちずの女王が時間外にも付き合った事実は、彼等のステータスにさえなったから。だからむしろ、アフターなどしないがいいのだ。体をだけ与える働き蜂ならママなりなんなりが口を利けばいくらでもいた。
いつ、どのように瑠璃が六本木交差点近くのその店に現わしたのか、わたしは
その町
かつて
知らない。耳にするのはその頃の
交通の利便性はなく
もう滅びた、かつて
過剰な神話まがいのいくつかの、まちがいなく
昼は港区
輝く都市のなかの
フェイク——本店の、…グループ会長の
夜は無国籍。かつ
廃墟。かつて
女だった、…孫娘らしい、…私生児でしょ?
伝統的なネオン街
春の櫻。それ
…ホームレスだった、それを
印象に殘るのは
旧防衛庁
あそこの専務が、…吉原の
離れた東京タワーの
その廃墟
ソープランドから
朱色だけ
かつて
拾われた女、或る百貨店グループの会長がフィリピン人に生ませた私生児、ひとり娘。マイクロ・ソフトの日本法人の社長の、…くせのある体臭?…日本人?七十年代に活躍したデザイナーが、スペイン人モデルとの間に作った隠し子、だから、欧米系の、——それら。
フェイク(かもしれない、かもしれないでもないかもしれない、かもしれなくもない錯綜するだれにもとっても半信半疑の情報)の、群れ。群れ、群れなし、群れて、繁殖しきって数えきれない(もし、…)けばけばしい(あるいは、真実だったら?)過去のかたちの(例えば、それらの)無造作な群れ。もはや(すべてが?)まともにだれも覚えていないそれら。そして、何十年も過ぎればもう、一握り、たぶん片手程度の数人が時に思い出さないでもない程度にしか、——そ、そうそうそうそう。記憶していない、——そ、そうそうそうそう。それら。
日付けを跨いでようやく数十分すぎる頃、その日、わたしは区役所通りのパリジェンヌという喫茶店の前で座り込んでいた。まだまともな客の來店もなく、新人で、しかも予定のないわたしはキャッチに出ていた。当時の専務の強制だった。彼はわたしをあきらかに憎んでいた。理由はあきらかだった。彼の手持ちの客の多くが、わたしに入れ込み始めていたから。係制なので、それほど彼に重要な問題ではない。ただ、はまり方が惡ければ客はつぶれる。女たちの入れ込み方はあからさまにその惡い方の実例に近かった。瑠璃との出逢いにドラマなどない。ただ、眼の前にタクシーが止まった。ありふれた、慥か綠色の?…普通の会社。普通のトヨタの、個人でさえない普通の。止まって、ややあって、後部座席のドアが普通に開き、夜にサングラスをかけたスーツ姿のその人が左足から降りた。あるいは、ありふれた夜間のサングラス。そこは歌舞伎町だから。遊びを売る町で、遊びとは昼間との顚倒以外に有り得ないから。昼間通りならそれは単なる日常にすぎない。そのスーツは華のある明るい色。そして(…忘れた、その)全体を見れば(色は。ただし、生地。その)あまりにも(いかにもやわらかな、)ゆたかな(つるつるする、だからシルクのような)長髮をひっ含め(なめらかな)しかも無造作に、その(手ざわり。たぶん)色めいた人は(指先にふれれば)水商売の人に(指を流すように)間違いなかったがまるで(すべるに違いない、光沢のある、)昼間の仕事の、ありえない美貌のありえない若い重役かなにかにも、それはだから、わたしの眼差しの錯覚。
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