流波 rūpa ……詩と小説066・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



   その

「ひきぬいた針を」

「感じたことのない感情を」

   色気のなさすぎる

「頭に、その」

「かわいそうじゃない?」

   なめらかな

「蝶…知ってる?」

「でもさ、それ」

   指先にだけ

「あれ」

「生きたまま殺すんでしょ?」

   冷え性?それとも

「すごくかたいんだよ。あれ」

「あたりまえか」

   冷房の?

「すごくかたいんだよ。あのやわらかな」

「生きたまま殺すんでしょ?」

   冷えたグラスの水滴

「すごくかたくて色彩。やわらかな」

「あたりまえだよね?みんな」

   さっきまでふれていた

「蝶の。色彩。なめらかな、——あたまって、すごく」

「生きたまま殺されるよね。みんな」

   グラスの移した?

「硬いんだよ。だから、たぶん」

「生きたまま死んでいくよね?みんな」

   ひょっとして、実は

「硬すぎて、よじれて、針の先」

「消え失せて行く、時には」

   もう死んじゃってたとか?

「ひこって。ひこって。よじれて、たぶん、その時、…かな?眼玉、…だからだから、ひっかいちゃって」

「冴えた儘の意識の中に」

   流れる血さえ

「蝶の、…傷つけながら」

「時には」

   冷たいとか?

「ささった。ぶすっ。指」

「混濁し切った叫び聲のさなかの混乱の」

   蜥蜴と蛇から進化したとか?

「わたしの指に、針が」

「意識らしきもの」

   つめたい、指先

「ぶすっ。蝶をぶすっ。突き刺した針」

「時には」

   あわてて逸らし

「痛み。感じた」

「なにもさだかじゃない壊れかけの意識に」

   離れた、だから、その

「わたしは、指先に」

「時には」

   わたしの指先に

「ぶすっ。イノチ、いま」

「錯乱。ひたすらに」

   彼女は知った、そこに

「指につかんだ、その、もうすぐ死んでいくはずの」

「熱をだけ帯びた、不意の」

   唐突な恥じらい。…あっ

「蝶の」

「昂揚。時には」

   と、——ね?

「痛み。…指先の」

「ないんだ。ないんだ。もう、なにも、なにもなくてさ、ほらもう音もなくなり遠ざかる」

   好きだった?

「痛み。わたし、いそいで針、ぬいて」

「意識に」

   実は、ほんとは

「見てた」

「生きたままで」

   わたしのこと

「指先を」

「まだ」

   好きだった?…不快

「そっと、血が」

「イノチあるまま」

   その、赤裸々な彼女の

「わたしの血、にじみはじめるのを」

「生きたままで」

   心の赤裸々な戸惑いが

「待った。わたし」

「すべて」

   不快。だから

「でも、そんな小さな針の」

「生れて來たものは」

   目を逸らさないまま

「でしょ?血なんか。ただ」

「生きたままで」

   わたしは笑い

「爪の橫に、その」

「殘酷?」

   笑うのだった。わたしは

「蝶をつかんだ、指の」

「そうなの?」

   ひとりで

「爪の橫に痕跡」

「殘酷?」

   彼女をおいてけぼりにし

「赤らみもしない、針の痕跡」

「そうなの?」

   ひとりで

「死なない。だれも」

「死ねよ。お前」

   彼女をじっと

「まだ」

「蝶よりも価値のない」

   見つめてやりながら

「串刺しにされた蝶さえ。もう」

「まったく無価値な」

   思い切り派手に

「羽の模様は、もう」

「お前のイノチ、」

   眼の前で

「崩壊したのに」

「今日、」

その月初めの第一金曜日、女は來なかった。連れの女がひとりで來たのだった。たしかに

「ひとり?」

そうでなければならなかった。記憶違いなどでは、…だから女はたぶん

「だめ?」

その前の週の土曜日に?

「だめじゃないけど」

交通事故で?…生きるか死ぬか?その

「気になる?」

瀬戸際を?

「別に」

死んだ?もう

「つめたくない?」

死んだのかも知れない。もう

「どうしたの?」

わたしの知らない、いつかの

「あいつ?」

彼女の切実な生きたその死の時に。

「気にしないで」と、連れの女は云い、わたしだけを席に呼んだ。一人で來れば「あの子、ひとり、」そうなることはもう店の「海外出張。…帰りは」だれもが知っていた。連れの女の「いつだろ。向こうで」本当の目当てが「羽根伸ばしてると思う。うるさい」わたし以外にないことは「上司いないから。だって、」

「それ、お前のことでしょ?」聲を立て笑った。その、眼の前の三十女は。

ようやくわたしを独り占めして、好き放題、無防備なまでにわたしに媚をつくりながら、やがて、ほんの数杯の(…ふり。)カクテルに(あくまで、ふり。だから)酔っ払い(そんなふりを、しかも)彼女は(精一杯して見せて、軈て)ささやく(いつか本当に、あまりにも自然な酔っぱらいになりおおせてしまいながら)、

「好きな色は?」

「知ってた」

   笑わないで

      わたしたちの

「なに?だから、色。あんたの」

「俺」

   耳元で

      生態は、だから

「答えて、あんたの」

「知ってたよ。ずっと」

   大きな聲で

      ひたすら

「好きな食べ物。なに?」

「見てたもん。いつも」

   笑わないで

      埋めることだった

「甘いの?」

「俺のことだけ」

   散りますから

      いつでも

「キスより」

「ずっと」

   ほら

      わずかな沈黙

「わたしのキスより?」

「話してるふり」

   その、朝露

      ほんのすこしの

「だれの?…ね、」

「他のやつ見てる、そんな」

   ゆらぎ

      失語さえ

「だれかのキスより?」

「ふりの、だから、こっち側で」

   ゆらっと

      まるでそんな須臾、存在しなかったように?

「甘いの?好きな女、…ね、」

「おれのことだけ」

   きらっ

      埋めること

「どんな?」

「…知ってた」

   ささやかないで

      埋めつくすことだった

「なに、好き?」

「だから」

   耳元で

      たとえば

「なに?」

「俺のこと好きなんでしょ?」

   ひそめた聲で

      ささやきで?

「なに、すること?」

「好き?」

   ささやかないで

      たとえば

「好き?なに?」

「考えられない?」

   散りますから

      つぶやきで?

「食べること?」

「俺のこと以外」

   ほら

      たとえば

「おしいしいもの、」

「好き?」

   その、朝露

      罵聲で?

「スキューバ?」

「俺だけが?」

   ゆらぎ

      たとえば

「読むこと?意外に、さ、…本とか?」

「狂いそう。もう」

   ゆらっと

      悲鳴で?

「好き?」

「どうしようもないくらいに」

   くらっ

      たとえば

「意外に、アニメ?」

「壊れちゃう。もう」

   まばたかないで

      絶叫で?

「スキーとか、」

「壊れそうなくらいに」

   耳元で

      たとえば

「好き?」

「…違う?」

   聞こえないほどの

      沈黙の不在を擬態した沈黙でさえ

「スノボ?」

「好き?」

   その微弱音さえ

      失語の不可能を擬態した失語でさえ

「車、バイク」

「笑う。なんか」

   まばたかないで

      埋めつくし

「好き?」

「笑える。お前、ずっと」

   その瞼

      わたしたちは

「なに?」

「盗み見してて」

   散りますから

      もう、なにも

「たとえば空を飛ぶこと?いきなり」

「…ね?」

   ほら

      ささやかれるべきことも







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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