流波 rūpa ……詩と小説065・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //…見て/なにを?/見ていた/いつ?


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



「生きたまま?」

   せつなく、もう

「標本?」

「でも、さ」

   心、傷むほどせつなく

「それ、…で、かれ」

「殘酷だよね。それ」

   泣きそうな顏で

「もう、それしかなくて」

「…違う?」

   笑うのだ。彼女は

「時間ない、から。だから」

「殘酷じゃない?」

   小鼻をはっきり

「まさか朝顔の栽培日記とか、そういうの無理じゃん?」

「なんでだろう?」

   痙攣させて

「時間、もう」

「おれたちの」

   …病んでる?

「だから、彼」

「…人間たちの?」

   かくかく?

「父がひとりで捕まえて來た。わたしったら、もう」

「俺たちのすべて」

   ぷるぷる?

「ひとりで諦めてるから、…っから、だから」

「やることなすこと」

   てぃてぃてぃてぃ

「わたし、泣きもしないで、もう」

「…さ」

   引き攣らせて

「ぜんぶ投げて、ぜんぶ」

「なんで?」

   彼女は笑う。いつだって

「捨てちゃってて、勝手に」

「どうして?」

   あかるい聲に

「ふてくされてるだけ」

「なぜ、こんなにも穢くて、」

   赤裸々な聲

「最低。だから」

「なにもかにもが冷酷で、」

   無邪気な聲に

「父、ひとりで」

「ただひたすらに殘酷で何故、こんなにも」

   彼女は笑った

「兄の、ちいっちゃいころの昆虫採集の」

「無慈悲でただただ救いようがない、」

   顎をかすかに

「蟲籠、そのなかに」

「それ、なんで?」

   目立たないほど

「蝶。白いの」

「見た?」

   突き出して、彼女は

「黃色。黑」

「おまえは」

   泣きそうな顏で

「紫とか」

「それらの」

   苦しいの?いま

「そんな、よっつ、いつつ」

「おののき。あざやかな」

   なんか、詰まった?その

「蝶って、なんて数えるの?あれ」

「捕獲され、不意に」

   喉に?…そんな

「一羽、二羽?」

「危機に落ちた生き物たちの」

   苦し気な顏の

「言わなかった。わたし、もう」

「それら」

   泣きそうな顏で

「ありがとうの言葉も」

「イノチの容赦ないおののき」

   彼女はひとりで

「…って、言ったかな?」

「助けを求めることもなく」

   笑うのだ。いつも

「云った?…わたしってば、云った?」

「逃げようとすることもない」

   右の瞼だけ

「…かな?父に?…かな?」

「だから、ただ」

   ゆらがせないで

「画用紙に、マジックで」

「ひたすらなおののき」

   そっちのほうだけ

「タイトル、それから」

「ひたすらな、」

   なに?…神経

「日付け。採取した、だから」

「それらイノチが」

   切れてる?筋肉

「ウソの。でたらめ。…だから」

「崩壊するまで」

   切れてる?そんな

「…っから、七月の終わりの」

「おののきつづけ」

   若干、變な

「採取場所…とか?」

「言葉も」

   顏の癖を

「じゃない?じゃない?じゃない?家の裏の方の」

「意識もなく」

   ただ無防備にさらし

「川原の上の方、…とかぁあー…」

「もはや意志も」

   だれにも見せて

「神社のぉおー…茂みぃいー?、とかぁとか、その」

「絶望も」

   泣きそうな顏で

「暗がりの中」

「願いも」

   聞いていた

「それから、わたし」

「戸惑いも」

   だれ?…だから

「知らなかったんだ。わたしは」

「懊悩も」

   わたしは

「やったことなかった。…んだ。そういう」

「悔恨も」

   耳に、しずかに

「昆虫採取の標本づくり」

「でもね、そんな人間的な風景などなにもない、ただ」

   かすれたノイズ

「放っといても、あれ、そのままじゃそのままいつまでたっても死なないじゃん。だから」

「彼等に固有の」

   話し終わる語尾

「考え付かない。どうやって」

「蝶だけの知ってた、」

   吐いた息

「どうやって殺すの?その」

「風景。お前も俺も知ったことじゃない、」

   吸い込む息にも

「そいつら、かたちを、その、かたち、上手に、」

「風景。おののく。…ね?」

   かすれるノイズ

「羽を、…さ。壊さないように」

「わかる?」

   疾患?…肺に?

「損なわないように」

「…ね?」

   見ていた

「イノチだけ、完璧壊す。完璧殺す」

「おれたちが一度も」

   だれ?…だから

「どうやって?」

「どうやっても、不可能だった」

   わたしは

「だから、最初…わぁあー…」

「見ることなど」

   額の右のすみ

「刺した。ぶすっ。針で」

「どうやっても不可能な」

   切り傷。たぶん

「ぶすっ。体。ぶすっ。胴体」

「…知ってる?」

   子供の頃の?

「ブスって差別語?お腹の方からぶすっ」

「たぶん、お前」

   なんということもない

「針を」

「いま」

   ありふれた、傷

「羽をそっと、指につまんで」

「お前が体験したことなど一度もない」

   決して目立たない、だから

「もがく、よね?かすかに」

「風景を語る。いちども」

   記憶にさえ、普通

「もがく、よね?やっぱ」

「お前はそんな」

   殘りはしない、そんな

「羽の模様、壊れやすいから」

「経験なんか」

   たぶん、本気で愛されて

「イノチより、もう」

「なにもしなかった。もう」

   見つめられつづけない限り

「壊れやすいから」

「過去など。もう」

   あるいは、それでも?

「壊れてく。もう」

「どこにも。もう」

   見止められない、そんな

「なすすべもなく」

「最初から、そんな過去などなかった」

   肌になじんだ淡い

「壊れてく。もう」

「なにもなかった、もう」

   傷を見ていた。時に

「死なない。でも」

「そんな記憶など、もう」

   時に?…いつも

「羽のあざやかな色彩はもう、指の腹の見えないところで」

「最初から、なにもかも」

   彼女と話す時には

「壊われながら」

「なにもなかった」

   なぜなら

「手ざわりでわかった。色彩の」

「だから」

   その話はいつも

「壊れていく触感」

「ふれたことなど」

   退屈だから。聞く前から

「イノチは」

「お前が」

   もう

「壊れながらも。…それら色彩はどんどん」

「いちどもふれたことなど」

   話しはじめた時には

「どんどんどんどん壊れていくのに、イノチは」

「ふれえもしなかったものを、語る。いま」

   もう

「もがくだけ。だからまだ」

「おまえは、その」

   話そうと、口を

「生きてる。感じられないほどかすかに」

「お前のものでさえ」

   開きかけた瞬間には、もう

「もがくだけ。だからまだ」

「…だれの」

   飽きた。もう

「生きてる。死なない標本を」

「誰のものでさえない、その」

   聞き飽きた。そんな

「生きてる。蝶を」

「おまえの唇で」

   ひたすらな退屈を

「生きてる。感じて、…ね?」

「咬みちぎるように。もはや」

   かさねた奥歯に

「想像して」

「その齒でなんども」

   咬みながら

「指さきにつまんで、死にかけの蝶を持て余してる十二歳の」

「咬みちぎるように」

   ふれた

「途方に暮れて」

「語る。いちども」

   だれ?…だから

「暮れて暮れちゃってどうしよう?」

「感じたことのない」

   わたしは

「…って、だから、…って、」

「お前の」








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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