流波 rūpa ……詩と小説047・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



「考えた」

「話したよね?」

「こんなフィクションを考えた。…深い、深い、深い、だれが見たよりも深い地獄の中から生還した男がいる。…あるいは、男と呼ぶ必要もない。もう、それは男であることさえ不可能になっているから。女でさえなかった。もとから…だから、それは」

「なんの話?」

「それはもとから、眼が見えなかったし、まともな神経も、…生まれつきの脳障害の結果、言葉も話せなかった。母親。あの母

   それは、なんですか?

      見ないで

 言語中枢が、やられてんのさ。それは

   花です。花

      …ん?

 ひっでぇ母親のせい。

   あなたの

      見ないで。もう

 臨月にさえ、薬、やめられなかったから。そいつ

   ひっくり返った肛門に

      …あ?

 だからかれは

   そりかえって咲いた

      見ないで。その

 完全、ジャンキーだったから。父親は

   花です。花

      …う?

 その顏さえ知らない。父親なんか、そもそも

   それは、なんですか?

      それは死屍

 母親にさえどの男がそれか

   蝶です。蝶

      …い?

 分からなかったし。…ね?言葉を

   肛門に咲く

      だれかの死屍

 持たないそれは自分の言葉もなくて、

   向日葵色の白い花を

      …び?

 他人の言葉、だから聞き取ることも

   噉いちぎるのは

      例えばあなたの

 言葉というものの手前の、言葉には

   それは蝶です。さっき

      …ぢ?

 あくまで無関係な言葉以前の音響の群れだけ

   あなたの噛み千切り

      いつかは死んだ、あなたの屍

 かれは聞き続けた。それは、そういう…

   いま、その歯と

      …べ?

 不幸だったのかな?…そうなの?かならずしも

   歯茎の隙間に

      見ないで

 そうとは言えない。なぜなら母親はむしろ

   蛹なす鴨の

      …でぃ?

 それに無償の愛をそそいだから。時に

   産み落とした蝶

      見ないで。もう

 錯乱のなかで手首を切りながら。そして

   それは、なんですか?

      …どぅ?

 自分でその時その時の男たちを

   蛆虫です。蛆

      それは死屍

 いちゃついてしたり、…さ?

   深海深くに生息し

      …ぃん?

 彼女はそれを愛していたから。その生き物を、そして

   あらゆるものの肌に

      あなたが殺した

 元シンガーだった母親は、かれに

   やわらかなトリケラトプスを塗りたくる

      …びぃ?

 音楽を敎えた。彼女の部屋に未だ殘っていた

   いつか見た蛆

      わたしの死屍

 むかしのDX‐7の使い方を敎えて彼女は

   蛆です。蛆

      …んぃ?

 それに、音楽という響きを敎えた。あるいは

   蠅になりますか?

      例えばあなたの

 かれは幸福だったのだ。それは無数の音響と

   無重力状態で発火して

      …ゔぅ?

 無償の、無条件の、母の愛に

   軈て龍の

      見殺しにした

 受け入れられていたから。でも

   たてがみに噉いつきます

      …るぃ?

 悲劇は唐突に訪れる。その日、親子のマンションで

   そう、それは

      ひな鳥の死屍

 火災が発生した。母親の連れこんだ男の

   まるで、明け方を飛ぶ

      …ぃはっ?

 寝たばこが原因。男は煙にすぐさまに起きた。そして

   鱗のない鳥のようなもの

      見ないで。

 一人だけ逃げた。たっぷり

   一瞬でさえも

      …ぅだ?

 覚醒剤を打ち込んだ母親は、燄のなかで

   生きられなかった

      見ないで。もう

 信じられない行動を取る。逃げだせば逃げられないでも無かった時に

   それは、なんですか?

      …ぴはっ?

 その場で必死にそれを抱きかかえ、炎から

   蜥蜴ですか?蜥蜴?

      見ないで。それは

 護ろうとしたのだ。炎はやがて部屋を包み

   蜥蜴の横に

      …くはっ?

 逃げだすことを不可能にし

   ひとり翳る、その

      空。ほら

 その母親の肉体を燒き焦がした。消防が

   白い蛙と

      …がぃぶっ?

 炎を消した後に、その焦げた煙の臭気の中に

   赤い兜虫です。兜

      見ないで

 うずくまる燒死体の下にかろうじて

   羽を毟られたシーラカンスの

      …でぃら?

 生存していたかれを発見した。命がけで

   末裔たちの成れの果て

      ほら、その

 母親はそれを護ったのだった。それは

   昨日すでに

      …ぎぃん?

 母親の生死を認識することはできなかった。かれはただ

   死んでいった。もう

      燃え上がる空

 炎と、壊れていく母親の

   この世界に生まれたこと

      …えんっ?

 崩壊の息吹きをだけ記憶さ、その

   それさえも

      真っ白く

 何も見えない白い眸を見開き、かれは

   この世界に息吹いたこと

      …るっ?

 ある人物が引き取った、その人物の名前は公表できない。実は

   それさえも

      音もなく

 その母親って、俺のかつての知り合いだったんだ。まだ

   この世界が存在したこと

      …はぁ?

 アマの頃に…対バンとかは、彼女とは、しなかったけど

   それさえも呪って

      燃え上がった空

 よく逢って、音楽の話、したりね。俺

   死んでいった、そんな朝に

      …だびぃ?

 実は知ってた、音楽やめてからの、彼女の

   輝いていた

      見ないで。いま

 …堕落?——か?

   金星の投げた影に咲いた

      …はひぃ?

 彼女の、生活、すさんだ…そして

   月見草です

      空に、いま

 出産。笑うんだよ。彼女、それに

   だから

      …りぃ?

 重度の障碍あること、もう充分、知ってて、おれに

   月のかわりに

      拡がる荒廃

 かれを、ちいさなかれを抱かせてくれながら

   海王星を見ていたのだ

      …とぃんっ?

 かわいいでしょって?…この子ね。

   なぜ?その指に

      だから、わたしたちは

 泥水の中に咲く、睡蓮みたいな子なの。だって

   爪がないから

      …とぃわっ?

 泥水から生れて、こんなに

   それは、なんですか?

      羽搏きをやめた

 見て

   猨です。猨

      …ぐんぶっ?

 無垢なんだから、と。——わたしの天使ちゃん

   罵倒された猨です。昨日

      鳥たちの

 それを引き取ったことを、A氏に聞かされた時、俺は

   じゃないっ…

      …ぃはぁ?

 頻繁にA氏の自宅を訪れるようになった。俺には

   おととい

      交配をそっと

 悔恨があったから。俺がイノチを

   じゃないっ…え?

      …とぃっ?

 なによりその魂を救えなかったかつての

   いつ?

      見ていた。そっと

 友達への悔恨。見捨てたりはしなかったよ。けど

   明日以外に辛辣に

      …ぃばぁ?

 同じ事だろ?…じゃん?結果的には。…じゃん?救えなかった友人は

   罵倒された猨

      息をひそめ

 たぶん、いつでももう

   その、追放し

      …えぃん?

 見捨てて仕舞っていた友人なんだ。その頃

   見殺しにした

      もう、眼球にさえ

 それ、ひどかったよ、もう。…毎日

   鐵の甲羅の

      …はぃはっ?

 発作、おこすんだ。燄の記憶。すぐそば

   鮫です。なぜなら

      焰をうつし

 肌ふれ合いながら、燒かれ

   その鮫は

      …ぃみゅ?

 死んでいく、最愛の、唯一の人の

   だれよりも、もう

      唇にさえ

 苦痛と死…わめくんだ。言葉にならない聲で。さけぶんだ。もはや

   上手に空が飛べるから

      …とるぃ?

 人の咽の発すべきでさえない音響で

   もう、だれの迷惑にもならず

      焰をなめて

 ときには自分の肉体を傷つけながら。かれ、自分で

   自由に

      …ははっ?

 叩きつけた頭に血を流しながら、もう

   だから水没

      見ないで

 苦痛以外に生きる根拠など

   あたまから突っ込むだろうおとといの水溜まり

      …やぃ?

 ないとばかりに?…それはもう

   だから水没

      見ないで。もう

 狂ってるんだよ。もう

   莫迦でしょ?

      …ぴぃる?

 壊れてるんだよ。もう

   仕方ない。でも

      その燃える

 生まれたときからそうだったんだよ。最初から

   猨はやがて、蜂になるから








Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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