流波 rūpa ……詩と小説046・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
「勝手に、おまえ」
「…って」
だれ?
…やっ。ま、…ん
「なに話してる?それ、」
「べつに、…」
おれ?…猫?
…んんー…
「どんなストーリー?」
「いや。違うんだけどね、なにも」
どこ?…そこ
…や。んやっ
「結局、おまえ」
「お前の言うとおりに」
あそこ?…ここ
…んまっ
「なにいま話してるの?」
「…じゃ、ないか」
いつ?…猫?
まっ、まっ、まっ
不意に蘭は聲を立てて笑った。
「どうしたの?」
素直にちいさな驚きの、ちいさな顏付きをさらした(…はずの)わたしに(わたしの顏を)九鬼はなぜか(わたしは)諦めたように(見たことがない。左右反転の、人さま向けの表情を作った、それでも猶もわたしが見る爲だけの鏡像以外には)
うるさい黙れ
口どこ?口どこ?口どこ?
「実はさ、別に、…本当に別に、お前の設計図(…と、此の時にはじめて)あれどおりに、さ(かれは)つくった気なんか(此の言葉、設計図、と)全然なくて、いや(それ以後)違う。…そ。やっぱ(わたしたちの≪流沙≫の)なんか、お前のこと、ずっと、なんか、ずっと、(作曲活動のキーワードとなる)考えてた。あの…(言葉)でも、…」
ふたたび九鬼はわたしを
うるさい黙れ
鼻どこ?鼻どこ?鼻どこ?
横目に見た(それまでかれはわたしに横顏をむけて、なにもない白い壁の方を、そこにかれの話し相手が存在しているかのようにそこに、ひとり無意味な仮構を施し、そこに、ただそこに向かってだけ、話していた。わたしと目をあわせることを羞じているかのように。わたしに、…あ。どうしようもない羞恥を…あっ。かかえているかのように。はじめて…あ。好きになった少女に、はじめて…あっ。話しかけた、しかもはじめて部屋の外た少年のように?…とでも?)
「結局、此の曲、だれが作ったんだろうね?」
ため息のような笑い方を、その時に九鬼はした。耳元に、その吐いた息。そして
うるさい黙れ
目どこ?……は?そこ
「お前だろ?」
わたしから又、眼を逸らした。もう何度目かに。
うるさい黙れ
鼻どこ?……ば?ぼこ
「俺とは言えないな」
「なんで?」
いぃるぅんた
ばぃば
「おれ、明日香蘭だぜ」
「だから?」
ぃばぁあたん
ばぃばぃばん
「ぜんぜん、こういうの」
「メディテーション系?」
どぃんばっ
てぃいんらん
「キャラが違うよ。オーディエンスの、」
「…安心しな」
たーんばー
んらんばん
「求めてるものじゃない」
「もう」
ぼーんばー
ひぃいんだっ
「…ん、じゃない?って」
「だれも明日香蘭なんて覚えてない」
ばーんばー
だっただー
「正直、思うんだよね、」
「≪さくらの通いみち≫?…そんなの、」
ぉんるぃいばっ
るぉんばっ
「おれ、」
「時々」
いだったー
ぶふうばっ
「だれも本当の姿なんて」
「酔っぱらったカラオケの」
るぅうぃいぃ…
いぃばっ
「見てないよ。だれも」
「ネタ詰まりの最後の方でだれかが」
てぃいぃら
どんぃっ
「知ってる?」
「ようやく、思い付きで」
て、ひぃいら
どんぃっ
「バイアス。つまり」
「思い出しながら歌い始める」
い、るぃいたー
とりぃんゅ
「みんな、自分が見えると思ってる物を見てるんだよ。見てる物を見て知るなんて、見る事の訓練でもしっかり積んだ、…画家?例えば?…そんな所謂、見ることのプロフェッショナルの営爲に過ぎない。だれも、見えてると思ってるものを見てる。だから、かれ等に本当は眼なんか必要ないない。眼を
流せ!流せ!
かゆっ
くりぬいたって、かれ等は(——俺たちは?)
血を流せ
かゆすぎっ
見るよ。ちゃんと(——か?)かれ等に
流せ!流せ!
かゆっ
見えるものを。」
「だから?」と、思わず笑いだしていたわたしを、九鬼はもう目に咎めもしなかった。かれは、「この曲が最高の曲だったとして」わたしの聲をその「かれ等はそう聞かないよ」耳にはしながら「絶対に、だって」かならずしも「…明日香蘭の曲じゃないから」聞き取ってなどいなかったから。
「でも、此れ、話題になってなかった?」
「なってるね…て、それは」
なに?…これ
あっ…と
「だったらさ、…放置?」
「半分は本当だけど、正確に謂えばさ」
これ、なんだろ
ぼくは思わず
「…しとけば?そのまま放置。で」
「話題になりかかってるのを」
なんの匂いだろ?
聲を上げそうになって
「勝手に売れるに任せて、さ」
「レコード会社が煽ったわけ」
くさくないけど
なんで?
「でも、実際、半分は話題になったわけでしょ」
「まだ気付いてないから」
微妙に
だって背後に
「なに?」
「みんな、明日香蘭の名前に」
なに?
顏のとけた
「知ってるじゃん?…CD買ったやつ、だれでも」
「正確に意識されてないから。まだ」
なに?
いそぎんちゃくがゆらぐから
「なに、それ」
「だから、はっきり明日香蘭って。…わかんねぇかな…知ってるけどまだまともに意識してない感じ?」
これ、なんの匂い?
ゆらゆららって
「なにそれ?」
「正確にかれ等が意識したら、とたんに曲は聞かれなくなる…變なバイアスがかかって」
なんか
ゆらららゆらって
「むかし一瞬だけ有名で、いま完全かんぺき駄目になっちゃった奴がたまたまつくった暗い地味な曲…って、こいつも草喰ってんじゃね?…みたいな?」九鬼はわたしを無視するともなくに、「この曲にとって、≪あす・ゆめ≫のせつない系ポップの記憶って邪魔なんだよ。≪あす・ゆめ≫にとっても、この曲の…なに?透明な重さみたいな?やさしい暴力性みたいな?掻き毟る吐息みたいな?要するにそういう御大層なファイン・アート臭が過剰なんだよ。どっちも得しない。ジャニ・タレの新曲がヤニス・クセナキス作曲じゃやばいでしょ?」
「どうしたいの?」
「それにそもそも俺の曲じゃない」
どこに?
あっ…と
「自分で作っといて?」
「お前の代作」
どこに?
ぼくは思わず
「俺の?」
「だって、設計図どおりだぜ、これ」
なにがたてた
つぶやきそうになった唇を
「そう?」
「たぶん、これ」
匂いでしょう?
踏んだのである
「ぜんぜん、俺」
「おまえが頭の中に聞いてた、」
どうしてでしょう?
だって、そこに
「おれ、こんなの鳴らせって云った?…第一」
「そのとおりの」
こころは、そっと
それはおちてたからだ
「あれ、その場の適当な」
「ごまかすなよ」蘭は此の時、はじめて眉に辛辣な色をさらした。一瞬、わたしの胸を撃つ程度には。もともとフェミニン、フェミニンとさんざんメディアに煽られたくらいの優しい顏立ちだったので、その辛辣さはただ、かれ自身の爲に痛ましいだけだった。
その刹那
腐った?
「もちろん、一音一音がお前の頭にあったままじゃないだろ。でも、此処にあるのは、確実におまえが響かせてた世界なんだよ。すくなくともその殘像なんだよ。それだけは認めろよ」
わたしは答えなかった。わたしに
その刹那
埀れた?
理解不能なばかりか、そもそももとから無関係だったにすぎない勝手な議論に関わることはできなかった。だから、なにも言わずに蘭を見、そして、やがては
見て。ほら
なに?
笑った。
月に雪、降り
いま
かれの爲に、そしてささやいた。
「で、お前、どうしたいの?」
「來月、発売になるの。此れ」
やさしい光りの
「此の曲?」
「俺の名義で」
そんな午後。ほら
「…なら、結局」
「でもさ、俺」
こまかい塵らも
「まさにお前の曲じゃん」
「告白するよ」
綺羅きらと
「なに?」
一瞬で、九鬼の表情は不可解なほどに邪気も無く澄んだ、それでいて悲痛な色をさらした。
「雑誌に…多分、この曲、いまの話題性考えたら、——だいたいセールスの谷間だから、今。ま、それなりのセールス、もう見込めてるわけ。だから、発売半月ぐらい寝かせて、ぎり、半月だな。一般誌に…音楽雑誌じゃくて、さ。スキャンダルお得意の…煽ってもらわないとさ…だからあくまで一般の…」
「お前、いま」
「暴露する」
「なんの話してる?」
「ゴースト・ライター、いるって」
「だからおまえの曲だろ?」
「事実だろ?おれの曲じゃない事実はある。…ただ、一般に分かりにくいわけ。そのストーリー。」
「だろな。…もはやおれ、いまお前の日本語語彙の語彙的意味以外理解できてないもん。…で?」
「考えたんだよ。この複雑な事情を、どうやったら理解しやすく、事実よりより眞実により近く、よりはっきり表現できるか…そこに見えてない色彩をかさねるとこで、よりあざやかにより眞実をよりあばく画家のように」
「それは異論もあるね」
「お前のこと、考えた」
「まさか俺が實作者なの?」
「迷惑だろ?どうせ。おまえ的には。で、ふと、お前のこと…ひさしぶりにあったじゃん。俺ら。…かつて、高校のころのお前って、ほんと、危うかった」
「頭、おかしかったからね」
「自虐すんな。そもそも俺にとっての思い出でもある。かけがえない、…ね?だから、おれの思い出まで侵害しないで」
「それで?」
「綺麗な、女みたいな顏して、だれよりやばかったよね。…大体いきなりキレるからな」
「キレてない。…むしろ」
「ひさしぶりに逢ったら」
「冷静だったよ」
「ごめん、おれ。ちょっと、言いづらい、聞きづらいこと、言うね」
「どうぞ」
「咽がつまった。再会した最初、ひと目、」
「胸がつまったじゃない?」
「いや、ほんと、咽が締め付けられたんだよ」
「胸だろ?」
「包帯だらけ、傷だらけ、なんかぶっ壊れました的な、なんか眞っ黑い…いや、黝ずんでたぜ。お前…包帯の下の火傷の迹なんて、ほとんど全然見えてないのに、なんかその黑さ、赤さ、おれ、見えちゃったのね。感覚的にね、…わかるじゃない。なんか、燒かれちゃったんだなって。あれ…すごく、なんか、痛くて」
「痛み止めうってたよ」
「いや、おれがだよ。かつての…いや、いまも、違い意味で綺麗——美しい男だよ。お前は。やっぱり。けど、その意味が今とかつてじゃ全然違う。いま泥沼に咲いた睡蓮なら昔はもっとおおらかな薔薇だった。棘まみれで、ただただ不遜な」
「それ、ほめてる?」
「つまり」
「思いっきり、けなしてない?」
「まるで別人のような、けど、一目ですぐにお前と、…はるかな、はるかな、はるかな時を隔ててあの廊下ですぐに分かった。お前であることがあきらかなお前の、かつてと今をつなぐ空隙に、いったい…なに?何があったの?って、…というか」
「大したことない」
「なにがあるべきだったのか」
「頭のおかしな女が」
「空隙を何が埋めるべきだったか、それを考えると」
「火、つけて燒いただけ。ぼんっ。…もう」
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