流波 rūpa ……詩と小説044・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
知らない。皮膚を剝ぎ取って丸洗いしているとでも?バスルームに入って、十分ばかりの無音の時間があって、ようやくシャワーの飛沫の音がしはじめる。だから、いつも、わたしは忘れる。その沈黙の十分の間に、彼女のいま入浴している事実を。沙羅がドアを閉め、その音を聞かせた数分後には、…数十秒後には、…あるいは須臾の後にも。我に返ったように
ど
思いつく、——沙羅は?と。
どこ?
広くはない、しかし
あなたは
ワンルームに過ぎない。キングサイズの
ど
ベッドがふたつ。そして
どこで泣いてる?
それと同じだけのスペースの空間に、なんということもないソファ・セット。それだけ。隔たりのない、そこ。だからどこに身を隱すというすべもない。
音。
どこ?
壁の向こうに響き始める
あなたは
飛沫の響きが沙羅の
ど
所在を知らせる。あるいは
どこで笑っ
響きを知る前にはっと(——なぜ?)思い出す。いつものことだ、と。彼女が——それ、なんですか?
花。あなたのこころにシャワー前に、なにも言わず不意に——それ、なんですか?
花。あなたのこころに姿を消して仕舞うのは、と。この時にはその——それ、なんですか?
花。あなたのこころにどちらでもなかった。飛沫の音響の、やがて鳴り響き始めたときにもわたしは沙羅の——それ、なんですか?
花。あなたのこころに存在を忘れていたから。だから、いつ彼女の肌を水流が…ざわざわ。濡らし…ざわざわ。始めたのか、わたしは…ざ
流れた。いま
いつくしむように…あっ
知らない。わたしは
流れた、…あっ
なぶるように
見ていた。
見て、ほら
なじるように
どこを?
肌に…あっ水滴
撫ぜるように…あっ
天井を
流れた
敵対するように
なぜ。…その
流れ、その
ふれた?…ね?
ゆらぐ
綺羅…あっ
ふれるとは
翳りの——光りの?
なに?
なに?…あっ
陽炎。7階の天井に、どこから何が半反射して生じた陽炎なのかは知らない。晴れた日の直射に光る水の反射が時に例えば壁に——それ、なんですか?
花。あなたのこころに描く、ゆらぐ陽炎の光が(——翳りが)天井の(——色彩のない)三分の一を死者ら。それら染めていた。ちょうど。窓際の死者ら。それらベッドの、上のあたりを。その死者ら。色彩の無い陽炎の向こうに、色彩のないジェルを擦り付けたように死者が、その形を失い、しかも
死者ら。それら
ゆらぎ
へばりついて。あるいは
死者ら。それら
ゆらぎつづけ
そんなふうに眼差しを
死者ら。色彩のない
擦り
錯覚させて。もはやその
翳りの
擦り付けられ
死者が
死者ら
わななき
だれであるのかさえわからない。子供のころにはそれは、向こうの人たちと呼んだものだった。向こうの…だれ?世界にいるからではない。視野の遠近の…だれ?埒外に、そして…なに?は?眼差しのそこに…は?なに?存在していた(…いる?)から。あるいは(…いる?)向こうの人とでも(…どこに?)謂うしかないのだった。あまりにも不正確なその…は?だれ?言葉で。父には
いるよ
秘密にした。母に言った時に、それは
いるよ。だから
父親にだけは黙って置くように…ね?
ここにいるよ
言われたから。…約束、ね?
ここにもいたよ
なぜ?…ね?
なぜ?
死者らの、色彩も匂いも無い形姿は、なにを訴えるでなくだから形も姿もうしなったままにそれら、猶も形も姿もうしなった口蓋をしかも、開けた。骨格など存在しなかった。口を開くことで(…そして、すでに)自分のその(兩の眼窩さえ)擦り付けられた(…なに?)形姿をさえ(見ひらかれ、所詮)喪失し始めながら(なにも、)その(なにも、もう)不埒なまでに(見てなどいなのに、所詮)赤裸々な(もはや、)口蓋の(見るべきものさえも、もはや)開口を(そん)さらす。見せ附ける気もない儘(存在しないから。もは)ただ曝す以外に開口の必然はない。…ね?
花散る夜は
だれ?
と。あの時に——まさか。
花咲く月を
ね、その
半身を
花咲く月には
ささやくの
「何?」ガソリンで燒かれた後の
花散る夜を
だれ?
敎会で、瑠璃に(…もはや)わたしは上空の空の(ひとことの呻きさえ)金色の月を(発し得なかったのに。その)見ながら(爛れた口は)…ね?
「何?」
ささやく、
「言いたいなら、さっさと」
死ね!
永遠…
「輪廻轉生ってあるじゃん?」
蘇れ!
それは、譬えば
「言って、さっさと」
死ね!
なに?
「だれが謂い出したことなのか、そんなことはいいとして、あれって俺たち、今、たぶんその本來の風景を見失ってるんだよ。…あれってどれも、どんな話でも、みんな記憶なくすでしょ?記憶を無くした場合、その時点で人格なんて断絶してる。因縁なんて崩壊してる。だったらそれでもそれはわたしだ、それをあなただって謂う場合のわたしも、あなたも、結局は空っぽであるしかない。だったら、そもそもわたしも、あなたも、彼も彼女もこれもあれも全部、本來わたしである必然もなくあなたである必然もなく彼も彼女もこれもあれも全部、彼や彼女やこれやあれである必然はない。その差異自体曖昧になるしかない。すべてに差異などないにもかかわらず俺たちは差異を見た。ひとつであることも有り得ず、それであることも断ち切られて。しかも、こうも考えられる。例えば片手で生まれた男がいる。例えば過去世の因縁のせいで。記憶も無ければ結局、贖罪の可能性など完全に断たれてる。淨罪の可能性も。解消のすべが完全に断たれてるから、事実上は既に無垢にすぎない。なにもすることがない無垢。なにもできることがない無垢。すべきことがなにもない無垢、…ね?わかる?片腕の男はもう完璧に無罪なんだよ。それでも片腕の因縁がまさに男に継続されているので、だから、もはや、明らかに単になにもかも不当でしょ?生まれつきの盲目も、生まれつきの聾唖も、生まれつきの知能障害も、生まれつきの畸形も、生まれつきの美貌も、生まれつきの裕福、貧困、貴賤その他、そこにあらわれてるものは全部不当でしょ?記憶も無い他人のせいなんだもん。…違う?これって、恐ろしくない?つまり輪廻転生という視野の中にあるべき片手の不在を見たときに、あるいははじめて宿命という視野が眼差しを掩う。見ているものは容赦もない他人の所作にすぎない。すべて、他人のしたことだった。いままばたくことも、息遣うことも、ぜんぶ他人の所作にすぎない。…ね?輪廻転生は、眼の前に見る風景を、容赦なく圧倒的とでも謂う他なものとして見い出すためのひとつの眼差しの方法に過ぎない。すべて他人のもの。圧倒的に、かつ、しかも自分のもの。容赦もなく。もはや、自分と他人その兩方が壊滅を赤裸々に眼の前にさらし、兩方ともが最早暴流と化して、かつ、すでにもはや崩壊していた。例えばありふれたオカルト主義者がひとこと、過去世の因果と、そう当たり前のように謂ってしまった時点で、俺たちはそんな風景を実は、体験してる。…違う?」スマートホンが鳴った。
九鬼蘭だった。だからわたしは、はるかな距離に隔たった九鬼の聲を、耳元に聞いた。
「ひさしぶりですね、雅雪さん、いま」
「…ごめん、前、さ、」
「どこ?いま、…そろそろ」
「前、電話くれたとき、あれ」
「モロッコあたり?」
「それ、ポール・ボウルズ?」
「元気でした?」
「前、一回、俺シカトしたよね、あれ、…あの着信」
「いいよ、べつに。いまさら。いつもじゃん?」
「というか、…気分的に、さ」
「また病んでるの?」と、九鬼はそう云って笑った。「…でも、いいか。別に。それはそれで」そしてさらに蘭はひとりで勝手に笑うのだった。だから、耳にはスマホの表面の質感と、冷たいともぬるいとも言えない、曖昧な温度。…バッテリー?不調?指の腹に、「他人事だね」鮮明な熱。
「でも、それ、僕らの売りだったでしょ?」
だれ?
その響き
「なに?…病気が?狂気が?…それ、≪流沙≫?」
「狂気と、瞑想と、神秘のカリスマ。」
あなたは
響き
「また、やらない?…あれ」
「≪流沙≫?」
だれ?
長い持続
「ちょっと、いま…」
「新曲?…なんか、」
顏は?
響き
「あとで送るよ。図面」
「設計図?…口頭でもいいですよ。もはや。あとはこっちで召喚するんで…」
あなたの
不意の中断
「さすがだね」
「でも、さ」
顏は?
反復される
「なに?」
「なんで今更?…まさか、金?」
いつ?
音型
「いや」
「…じゃないよね。結構持ってるもん。眞砂くんは。でも、そもそも、いま音楽なんてさ」
ささやかれたの
響き
「でも、ストリーミングとかは?」
「あんなもん、所詮、物品の印税に比べると」
いつ?
あくまでも
「CD?」
「実質、ライブでの収入で採算あわさないとって言うところに、このコロナで」
どこ?
微弱音。苛烈な
「俺たちには関係ないじゃない。だから、≪流沙≫」
「…たち、じゃないから。俺にはってだけ。そっちだけよ。俺の方は、さ」
そこ
ストレス。むしろ、その
「関係ありまくる?」
「だって今、プロデュース業なんて、」
どこ?
耳に癒しなどなにも
「そっちの方で、最近、蘭の名前、聞かないもんな」
「だいたいチェックしてないでしょ。俺の仕事なんて。でも、考えたらね、レコード・ビジネスって、要するエジソン以降の百年前後のビジネスモデルじゃない」
知ってる?
強烈な負担。苛酷な
「いきなり、歴史語るの?」
「有史以來、人類の営み続けた音楽っていう」
わたしは
負荷としての
「お前のはそんなに」
「そういう、だから、長い、さ」
あなたを?
微弱音。ごくごくごく
「大したもんじゃないよ」
「いや、歴史の話ですよ。音楽史。音楽ぜんぶの。だからレコード産業って、ま、交通事故みたいなもんだったんですよ」
知ってる?
ごくかすかな、それら
「お前の≪あす・ゆめ≫?」
「やめて。その名前、いまや、相当恥ずかしいな」
あなたは
響き。わずかな聲部の
「何の事故よ?」
「音楽産業が」
わたしを?
ずれつづける
「だから?」
「レコードビジネス。あれ。」
だれ?
各聲部、…なにが?
「あだ花、みたいな?」
「そこまでは行かない。しかも」
わたしは
ずれつづける拍子
「でも、いま、みんなアーティストに成りたがるじゃない?いま、すぐ成れるちゃうから」
「配信とか?You tubeとか?」
だれ?
響き、ずれつづけ
「要するに、好き勝手に発表できるわけじゃない」
「それが一番最惡だと思う」
顏は?
響きはじめ
「なんで?」
「プロデューサー不在でしょ。」
どこ?
響き、ずれ
「いるんじゃない?それ風のは。…なに?スタッフさんたち」
「プロじゃないもん。所詮かれ等は。しかも基本、資本主不在でしょ?」
顏は?
持続し
「レコード会社?」
「やっぱ、資本主の理不尽な権力行使って、時に表現を鍛えるわけですよ。」
どれ?
響き
「それ風のこというじゃん」
「いま、本当に実感する。ネット音源みんな」
わたしの
不意に響き、不意に
「生ぬるい?」
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