流波 rūpa ……詩と小説042・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
赤裸々なままに
すでに滅びた
言葉も無く渡り、そして
なにも…どれ?
光の群れは、まるで
長くでたらめに張り巡らされた
見えはしない…なに?
ただ
テープを、くぐった。砂濱は
その…どの?
他人のように
遮断されていた。湾岸道路の
散乱も。そして
まるで
砂濱ぞいを赤と白の
色彩も。その
ぼくたちは、はじめて
テープがやや埀れて
色は、あるいは色の
気配をかさ
見晴るかす先の先の先のずっと先まで。視線の盡きる先までも。不法侵入の——海へ。決意があったわけでもない。ただ、——海へ。なんとなく。なにに——海へ。惹かれるでもなく。なにに——なぜ?誘われたでもなく、なんの必然もなにも、一歩一歩の歩みにも、体の不意の傾斜にもなににもなにも意味などなく、…なぜ?
綺麗…って
なら、なぜ、わたしは砂濱を(——わたしたちは?)
思った?いま
降りるのだろう、と(——沙羅は?背後に、その)、ひそかに
羽根をゆらがした、いま
思った。その時に
その蝶は、ほら
わたしは、息遣いながら、だから、…なに?聞いた。その…なに?音。音を、…なに?響きを。
吐け
やばっ
麁い、粗雑な、吐き捨てるような、…普通に
もう。吐け
鼻から淚
礙げなくそっと吐くことが、もう不可能なのだ。
もう。その
やばっ
乱れ、なんのリズムもなく乱れ
内臓吐いちゃえ
鼻から直腸
投げやりな。そして汗の気配が——だれ?…背後に、
えづきながら
やばっ
振り返れば、当然のような笑顏の沙羅がそこにいた。息を切らせ(…はずませ)て。彼女は(は、は、は、は、)
待ってよ、ね
走ったのだった。その(犬みたく?は、
待ってってば、ね
は、は、は、)暗い目の(は、は、)少女。微笑んでさえもその眼だけは暗い。それ以上、もっと赤裸々に笑えば
舞ってよ、ね
痴呆に墮す。その顏は、だからあるいは
舞ってってば、ね
まともな笑顏をさらした事など一度もないのだ。沙羅は、——いたの?と。
聞こえた?
こすれあう
わたしは
聞こえた?
ココナッツの
言った。沙羅は答えた。ア音から始まる
わたしの
葉。だから
六音節。…五音節?
え?
はるか頭上に
彼女の言語で。ベトナム語。いつものように。わたしの日本語など、理解できたはずもないのに。(ところでなぜベトナム語を知らないわたしがそれをベトナム語として判断し、かつ疑いもしないでいられるのだろう?あるいはそんな、やわらかな狂気…かたいの?日常的で…ね?日常を支え…ひょっとして、ケツ日常そのものにすぎない、なんの…くそ堅かった?支えも持たない絶対的な、そして…まじ?日常的な狂気)——あなた、ご飯と反対に來たよ。沙羅はそう言ったのだと、わたしは知った。…思った?…推測した?…察知した?…知った。ア音から始まる六音節。…五音節?はずむ息にかき乱された沙羅の
知らない。知らない
頭の上の先の遠くに、ホテルが
あなたをつつんだ、それら
見えた。その先に空は
音響の群れなど
太陽の白濁点もなく、唯、青い。白みを帶びた
知らない。知らない
見えますか?——いま
青、黃味のある青、赤味をひそめた
あなたをつつむ、それら
墜ちるよ…墜ちるよ…空が
気の遠くなるような青、それらの境のない推移、それら、その
音響の群れなど
墜ちたんだあの姿を見せはしなかった月の山の彼方に向かって
色彩。わたしたちのわずかな背後
莫迦?
あくまで頭上に太陽は、まだ傾きのある姿をさらす。たぶん
莫迦なの?
海に向かっていたさっきまで、わたしはそれを眼差しに納めていたはずだった。記憶にはなかった。忘れられたのか、認知さえされていなかったのか、あるいは本当に存在さえしなかったのか。いずれにせよ東の、その海の
なに?
莫迦?
上、わたしの背後に太陽は
だれ?…お前
莫迦なの?
見えていなければならない。いつもの飲食店はホテルの裏手にあった。ホテルのちょうど背面に。時間は九時。朝の早いベトナム人たちにとって今の時間に取られる朝食は、あるいは異邦人観光客の、有閑貴族の朝食なのだろうか。かれ等、結局はここになにも生みだしはせず、貪り荒らし汚しては消えて失せるだから假りの存在たち。もっとも急速に再開発されたこの土地、あるいはその前には三十年近い統一戦争で荒らされた土地のすべてが、どこまで土着と謂えるかはわからない。…定着する、とは何なのか。
常に、日常的に動き、身をこなし、息遣い、移動し、活動しなければ生存し得ない生態にとって?かつて海のうつぼ以外に定住者など存在したのだろうか。苔とか、キノコとか?
噉う?
あるいは、数百年の、無数の
おれのくろいの
樹木たち。
噉う?
草も。
「海、見に行こう」
と、わたしは言った。
沙羅はもはや、自分の理解できない言語に、自分が理解できないことを表明することさえなかった。わずかな眉の動きにさえも。あるいは、もとからそんな表情を見せたことなどあっただろうか?一度でも?たぶん、最初からこんなふうに、まるで未知の言語のこまかな響きの(…ない。)ニュアンスさえも(なにも、)聞き取っているかの(…興味など)表情で、そして(ありはしない。そんなもの)聞き取りながら(ないのだった。彼女には)あえてそれに何の(その耳には)直接的な(だから)反応を(否応なく聞き取られる音声のその)示さずに、むしろ(意味には。話された音聲の)ただ、そっと(それら)押しつけがましいまでに(意味には。なにも)微笑んで(…ない)みせる、そんな(興味など、なにも。だから)…なに?と(聞き取られなかったと同じく)眉を顰めた沙羅の、(なにも)その(まったく變らない強度で彼女は)眉の記憶がある。いつか(聞き取りつづけ)最初のころに、なに?と(聞き洩らしつづけ)いま、あなた、(なに?)なに、言ったの?なに?——いいよ。
海よ
くさくね?
「行こうよ」と。
海よ。この
なんか、さ
そう言った。沙羅は
大いなる
なんか、くさくね?
「でも、ね、…」と。昏い目に、口元だけの、やさしく、脆い
はかない?
明るさではかなく笑み、わたしの横を
せつないほどに
とおりすぎながらささやく、「もう、ここが、
はかなくて
海だよ」ヤ音から始まる、途切れ途切れの音節の、六拍の音声で(——あるいは、)。
ケツかゆい
かゆっ…と?沙羅
その(狂ってる?…ね、あんた)通り過ぎる時に
ケツいたい
いたっ…と?沙羅
彼女は(正気なの?とでも)殘した(?あるいは)。わたしの
ケツ笑った
げらげら…と?沙羅
鼻孔に(海?…ごめん。もう)彼女の髮の毛の匂い、その(干からびちゃったかな。…と)周囲に分厚く(あるいは)低く(海なら、昨日)溢れ返った潮の(月が)臭気の(月)こちら側に(食い散らしてったよ。今日が)。嗅ぎ取られた(ば?)時には(…ほら、)すでに(たぶん満月の)かつて(ば?)嗅がれていた(綺麗な)香りの(夜だから、…と?)記憶として(あるいは)認識されながら、(気付いて、もう)聲。…(と、深い悲しみに)聲?(ば?)むしろ、呼吸音(襲われながら、なんで、まだ)単なる
深い
不快?
雑音。沙羅は(生きてるふりを?
深い
まじ?
生まれる前に)不意に
深く遠く
てかさ、お前
駈けだすふりをしながら
遠い、その
不愉快
(死んでたのに)振り返り(もう、)ひらいた口で、
潮騒よ。鳴れ
死ね
聞き取れない(…ね?)吐息でだけ笑った。いつもの(腐ったよ。腐って)知性の無い(くさっ)笑顏を(腐り落ちて)顏中に(くさっ)散らして。わたしは(土になったよ。もう)思わず(くさっ)眼を背けそうになる。眼の前に(栄養たっぷりの)海が(くさっ)あり、そして(土になったよ)女は痴呆だった。
滅びよう、俺は
くさくね?
なぜ?
海よ。お前の
なんか、さ
…と。
綺羅の散乱
妙に、さ、なんかもう
それがなぜ、いけないの?と、わたしは
そのなかに
くさくね?
思いつき、逸らしかけのままで沙羅を
腐ってんの?
見つめた。沙羅はもう(…留まれ)走るそぶりも(…留まれ)なかった。(…あなたは、いま)滿足していたのだった。わたしに笑い、駈けだすそぶりを見せたことで、すでに、充分に。ここでも、男と女がいて、ふたりの前に海がひらけたら、とりえずは女のほうが駈けだしてはしゃぎはじめるべき、なのだろうか。痴呆の、(…つぎは、砂濱に)殘酷で、(ころがって、そして)醜惡なまでに(あつい、)無邪気な眼差しのまま沙羅はわたしを見つめ、不意に歯を見せて笑った。怯え切りもう慄き切ってしまった孤独な猨のように、
綺羅ら
昏いよ
逆光。身を
きら綺羅ら
昏いよ
よじり、振り返ったむこうには
綺羅ら
なにも見え
海が見える。煌めき、どうしようもなく綺羅めきを揺らがせ、見い出されながら、見い出された自らの形姿をは既に過去の不在の、一瞬の記憶の殘骸にしてしまいながらも、そこに
海、その
顯らわれつづけるのを
色彩。鮮明に見え
やめない、それは海?明るすぎる
決し
風景の中で、ひとり
決して見え
沙羅だけが逆光にくらむ。当然の風景。あるいは、他のだれかの眼差しには椰子の木も、ビルも、駐車された車も、バイクも昏む。
…当然の風景。あるいは、他のだれかの眼差しには椰子の木も、ビルも、駐車された車も、バイクも綺羅の白濁に昏み、…当然の風景。あるいは、わたしは今この瞬間に、どうやってもそれ以外の、だれかの見た逆光を見ることはなかった。数えきれないほどの無数に存在してるそれらを。例えば足元に翳りだけを殘した鳥の、…二羽?あるいはわたしの眼差しは孤独で、あるいはわたしの眼差し以外のそれらすべての悉くはすべて、孤独だった。…当然の風景。
聞いていた。
顏面をなくした花が
すでに。
だから舌を
なにが?
ちぎり
だから耳?
ぶちっ
聞いた。
ちちっ
もう。
ぶぶっ
だから聞いていたことを思い出した(…て、いた)。
いたっ
飛べ。それら
わたしはすでに耳に、海の響き、波の、それら、
痛いっ
鳥らの無数…二羽?
音響、——潮のひびき。響きの
見る。足元にも
群れ。かさなり、
落ちた、翳り
生滅し、聞き取られたときには既に
飛び行くもの
記憶に過ぎない。
飛び來たもの
見い出される綺羅めきと同じく。
鳥ら
流れた雲が太陽を(…上空は、)覆い始め、風景を(突風?)やわらかに昏ませる。軈て、一分にも至らない間にその空に孤立した薄ら雲の不意の切れ目に、それ。漏れ出したもの。太陽光は、そして唐突に青空の中に一筋の白い光りを——綺羅ら。落とした。まるで、——綺羅きらら。白濁した雨上がりの——綺羅ら。曇り空の、切れ目の光の帶のように。
空に散る雲はほんの纔かにすぎない。だから、晴れたおびただしい青の色彩か、それともそのひとすじだけの光の帶か、どちらが噓でなければならない錯覚に陥る。沙羅はすでに、わたしの胸にしがみついた。聲なす息に…ははっ。笑っていた。その…はっ。体臭が…ははっ。匂った。いかにも…はははっ。女の、清潔に澄んだ、かつ陰湿に淀んだ匂い。あるいは臭気、あるいは芳香。あるいは異臭?沙羅、たとえばパルメザンチーズを焦がしたような?そしてそれとは何の類似も示さない潮の(——本当に?)匂いの(——まじ?)こちら側に(——本当?)ちいさく(——まじで?)執拗な執着を見せながら。
知っていた。
顎の下にはちょうど、顏をあげた沙羅の額が
でっぷり太った
白い、まるでひらいた
あるに違いなかった。暗い
太った月
孔のような
色彩を崩壊させた、痴呆の(——あなたには)まなざしにわたしを(無間の闇か、赤裸々な)見つめた(無垢?むしろ)沙羅の、そして(無垢しかないと?つまり)笑うその(白癡)吐かれた(白癡という)息が「後悔してる?」
「何を?」
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