流波 rūpa ……詩と小説040・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
腹部?
鼻の頭に。
ね?
胸
その丸味の、ことさらに堅い団子鼻。
あなたは
胸?
人種的個性。
綺麗なの?
鳩尾?
だれもがそんな硬さをもつ。
敎えて
どこ?
ここでは。
ね?
なに?(やばくね?)
陥没。
あなたは
だれ?
失墜。
うつくしいの?
いつ?(まじくそ)
無間の底へ?
敎えて
もしも、いま
まさか。
あたたかな
瞼を、いま(くそ)
ほんの纔かな。
そのくせ冴えて
ひらいたら(…やっ)
けれど、おどろくべき、急激さでの足場の
どこか、まだ
たぶん
不在。そのままなぜればすぐに唇の上の端に
冷やかさのある
昏む。その(やばっ)
ふれる。知っていた。彼女が
だから、それら
眼差しは
むしろ、そのまま唇をなぜてもらいたがっていることは。
光りのうちに
だから(ば、やばっ)
知っていた。あるいは
言葉もなく
ガラス越しに(ばばっ)そそぐ
もはや指先などではなくて、唇をこそ?
沙羅。わたしは
陽光に
知っていた。だから
ささやくのだった
光りに
阻止した。わたしの
だれに?
それら(きれー…)
指先が彼女の唇にふれることをは。そして
あなたに
無防備な
だからわたしの指先は、唇にふれるその敢えてのすれすれを丁寧に且つは慎重に迂回し、
決して、あなたの
散乱(れっ…れ)
なぞる。綺麗に、彼女の唇の
耳にひびきが
白濁
かたちを。決定的な
ふれないように
だから(きぃぅ)
不均衡。——恥辱じみた?下唇が極端に
聲のひびきも
その(…きぃっ)眼差しは
厚い。あるいは美しく挑発する
その
いきなりの
不細工。あるいは単にできそこなった
息遣いのそれさえ
白濁
無様。あるいは
褐色の
だから
人眼をひく魅力?…なに?
あざやかな
その(ぃきっ…)眼差しは
あるいは眼を逸らしたくなる恥部?…その
色彩。それは
いきなりの
ひとつのものが、つねにひとつの形姿をまなざしに曝しつづけなければならない必然はない。いずれにせよ
あなたの
失神(きぃっ)
わたしの指先に迂回されながら、女の唇は開かれて、——音も無く。だから
肌の。だから
墜ちる
唾液の糸。
息遣い
墜ちるのだ
ふたすじの。なにも
息吹く
引き上げられるように
云わない。唇の
白濁。それは
昇りつめるように
至近には不在の、咥えようとして咥え得ないそれを咥え受けようと、——咬む?
だから
光りに(きれー…)
むしろ、——咬む?噛もうと?…だから、わたしは思わず聲を立てて笑った。
「なんで?」どうして笑うの?…「なに?」いきなり…、とは、女は(——少女は?)言わなかった。だからむしろ、そこにあった沈黙。不意にひらいた瞼の、その眼差しが未だわたしを見い出さないうちに、——だから沈黙のこちらに?それは明白につぶやかれていた。だれに
どこに?
頭は?
沈黙が!いま
聞き取られ得る可能性も
ぼくの手は
ね?
燃え上がる苛烈な
見い出さない儘に。わたしは
どこに?
頭は?
ちんも
ベトナムにいた。中部の都市、ダナン。観光都市。海辺の町。だから当然ビーチを売りにしている。海は所詮、大平洋の眞ん中の孤島ほどの美しさはなく、大陸にぶつかり盡きる海のどん詰まりの終焉の色しか曝さない。
かならずしも気に入ったわけではなかった。決して辿り着いたのではない。むしろ流れ着いたに過ぎない。だから居座りつづける必然もなく、同じく立ち去る必然もなかった。そうしてすでに七年近く経過した。
女は(——少女は?)我に返ったように身を起こし、海辺のホテルの七階の、浅い午前の窓ごしの光に肌をさらした。それは
あやうい
わたしの
その日差し。ほら
部屋の中だった。…二年目?
あやうい
一度オーナーが變わった。たぶん。女は未だに正気づかない風をする。それが彼女の寝起きの、いつもの科のつくりかただった。あなたは、——と。
わたしをどこへ連れさってしまったの?
だれにも見つけられない場所、…あなた以外にはもう、だれもが決定的に無力な場所へ、
あやうい
…と。いかにも
その眼差し。ほら
ひ弱な眼差しをうかべた、醒めた、狂暴な
あや
目つきの褐色の肌の女。瘠せた、そして獸じみて動く。名前は、
獸?…そのことば
典雅で
獸とはなに?
沙羅、と、わたしはひそかに、そう
獸とはなに?
野蛮な?
獸?…そのことば
名付けた。親のつけた名前は知らない。はじめて遇った時に、沙羅は沙羅なりに名乘ったのかもしれない。わたしの理解しない現地語で。聞き取れなかった。何年もここに住んで、未だに現地の言葉が話せない。おはよう、ありがとう、それら片言以外は。
必要ない。なにも
だってもう
なぜ?
ぼくには、もう
口さえ朽ちて
興味がないから。知ったことではないから。話さなくても生きていけるから。このあたりでは、日本人は——と、十年以上前なら日本人限定でそう言ったのだろう。いま、東アジアの人間は、となる。中韓をも含めて。たぶん軈て、それら所謂先進国貴族たちの一部特権として特殊生息し得る場所は消滅して仕舞うだろう。うつくしい、平等な平べったい世界。だれもがうつくしい、平等な平べったい貴族。だれもがうつくしい、平等な平べったい賤民。いくつもの細分化された個人格差というこまかな段差と不意の陥穽に面食らいながら生きる。それでも白人たちは自分たちが特権的だと認識し続けるのだろうか?自分の差別性と搾取性を警戒しながら。もはやひとつの、宗敎のように。
沙羅は、十八歳だ、と、知り合いのユエンが言った。彼女、日本語敎師の。
時にユエンは、わたしに日本語を敎えてくれとホテルに來た。その時に。その授業の要請の、本当の気持ちは知っている。女なら、その多くがわたしに感じるち違いないもの。恋心、発情、独占欲と、自分勝手な諦め、絶望、およびそのやわらかで
うつくしい人
破壊的な美
やさしい感傷。だから、
うつく
美とは決して
知ってる。好きなんでしょ、
夢のよ
憩うすべのない美
この子…とでも?ユエンはなにかそんな、心に浮かびかけた痛ましい(——彼女にとって)言葉を(ユエンにとってだけは)敢えて(傷でしかない、)聞こえなかった、と
だれ?…そこで
流れ出るんだ
だから、その無音の静寂、だから
そこでひとり
だから鼻血。…ぶっ、ぶ、
そのどうしようもない虛構の中で(——すでに)…いいよ。…と
傷ついたの
勝手に鼻ぶっ、ぶ、ぶぶ、
でも、と(はっきり
だれ?
だからぶっ
聞き取ったことば、)好きなんでしょう?眞沙雪さん、…なら(獸以下の、)だったら、(野蛮で、狂暴で、たぶん)…ね?いいんじゃない?(危険な、と)応援はしないけど(…咬みつくよ)なにも、「…ね?」言わないで「…ね?」おくよ(敎育なんか、だれもしなかった「…やさしよ。わたしは、は」狂犬病の)なにも(子猫「…ね?やさ」だから)十八歳だよ。
「そうなの?」
なにが違うの?
違うよぜんぜん
たぶん。
「なにそれ?」
八十八歳と
わかってなくね?おれって
見た感じ、そんな感じ、
十八歳とは
そんなじゃねぇからまじ
と。ユエンは言った。入ってきたユエンを返り見、しかも挨拶も、纔かなほほ笑みさえもなくすぐに眼を逸らし、——あら?
蚊?
スマートホン弄りに明け暮れるベッドの上の——あら?
蚊?
褐色の女。その、——あら?
蚊?
寝起きの——あら?
蚊?
全裸の——あら?狂犬病の子猫(…そう言ったら、ユエンは「狂犬病の、…あいつ」笑った)。
にゃお
はははははは
あれ?…と。
おはよう
びびびびびび
眠たげなぼぼぼぼぼ沙羅はいまさらにわぶぶぶぶぶぶたしを見ヹヹヹヹヹヹた。振りヸヸ返って。そして知性の無い顏をして、昏く——あら?
蚊?狂暴に調和した顏を無慚に崩しながら、そこで無様に——あら?
花に雪?笑った。——見てくださいませ。その、…
庭の椿に、ほら、しら雪のそれがいつもの死者ら。それら色彩の沙羅の笑い方だった。
どこ?
ここだよ
窓越しの陽光に
どこ?
ずっと
昏らむ。わたしは
あなたの知性
咬みついてたよ
見つめた。沙羅を。はじめて
どこ行った?
あんたにケツに
遇った時はあやういくらいに、慥かにあきらかに幼かった。いまはそれなりに色気を作り始め、だから醸し出す?醸し醸し出しやや、大人になったのだった。わたしの——あら?
蚊?ホテルに住み着き、だれにもわたしに毎晩だかれているものと思われながら、まともに愛撫さえされたことのない少女。
「起きたの?」
わたしはささやく。その死者ら。それら色彩のない沙羅に。
沙羅は無様な笑みに崩れつづけ、何も死者ら。それら答えない。
「じゃ、起きろ…立ち上がれよ」
と。
わたしは壁にもたれ、窓とベッドを正面に見ながら床に胡坐をかいていた。立ち上がるそぶりも見せずに。
だから、沙羅も死者ら。
それら、色彩のない死者ら。
立ちあがろうとはしない。
寢つくまえに同じ、なにも身に纏わないあけすけな素肌に、そして沙羅はベッドの上に
死者ら。それら
翳りの
胡坐をかく。
色彩の無い
死者ら。それら
見る。わたしを。そして
死者ら。それら
孔ひろげる
笑う。もはや
孔ひろげる
死者ら。それら
それ以外になにも、なすべき事が
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