流波 rūpa ……詩と小説038・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは


以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



数回、…一か月。彼女の顏には變化が現れていた。あきかな暴力の兆候。彼女の男(が、いる、と。そう優紀の客はいつか言っていた。あいつ、しょうもない男と…まじ?…てか、興味なさそ。…それが本当かどうか、また)に、やられたに違いない。最初は(実際、どういう男だったか、どういう)右眼に青タン、次に(関係だったかは、わたしは)唇に傷痕。次に(知らない。)下の前歯。

交通事故で死なずとも(…死んではいない。まだ)彼女の生活、(彼女は、)あるいは(死んでは。ただ)心?…精神。もしくは(死んだにもひとしい)意識?(かかわりようのない)…なに?(他人になった、…もちろん)いずれにせよ彼女は(わたしが勝手にそう見なしただけだ。)間を置かず壊れたに違いない。

その当時、彼女にいくつもあり得た壊れ方の、有り得べきひとつのしかし不意打ちとしての、顯現?実現?…みたいな?

優紀から彼女(その女、もはや)の、あるいは(その、だから)死、あるいは(——少女、もはや)破綻、要するに(すでに名前さえ、…いや。)廃人状態?…(名前など、)みたいな?と(最初から)わたしは言ったのだった、その(わたしは彼女の名前など)彼女の事故を(いちども)聞いた時にはすでに(覚えていなかった、最初に)事故から(…バディ。バ)一週間ほどたっていた。その間(…バティ、と、そう)わたしは彼女の存在をも忘れていた。いつも(優紀が連れてきた女が、そう呼んだ、その)そうだった。店に來て、または(バティ。——なに?)メールが來て(なになに?)はじめてわたしは彼女を、(なにそれ?…と、笑う。そして)そうなの?…と、優紀に笑みながら、わたしは事故の話にふさわしい表情を探そうと努め、時置かず見つからずに諦め、時置かず結局は(ささやく、早口に。この子)笑む。優紀に(だってバッタもんのキティっぽくない?…と)いつ?…一週間前、…かな?(ふたたび)…そう。…(だから、わたしたちは)結構(もう一度)ひどいらしいよ。…そう?(ふたたび笑う。まるで)そうなの?それって(はじめて笑うことを覚えたいきもののように?…あまりにも)廃人状態的な?…かも。と、(ぎこちなく?)優紀は(新鮮に?)笑って、いつも以上に(清潔に?)眞沙夜さん、(新鮮に?)その(瑞々しく?)冷酷さ冴えすぎ。

   花たちはふるえた

      もうすぐ、ね?

笑う。

   凍てつく冴えた

      すぐに、ほら

軽蔑など無い。むしろわたしたちは今、そこに不在のその廃人状態の彼女の爲に笑っているのだと、わたしは

   泣かないで

そう思っていた(…いつ?)。おそらくは

   ひとりじゃ、ないよ

笑うことの(…だれが?)もう

   泣かないで。だから

二度と出來ない(…なぜ?)人間以下の、かつてあるいは人間だったかもしれないその生き物の爲に。

   それでも猶も

      いつか、ぼくらは

夢を見た。

   それでも猶も

      青空に散った、あの

その日、夢。その

   夢見つづけて

      雨上がりの

夢、見上げられた青空に(——だれが?)開いた、と。そう(あなたが?)思った。その(…どのつらさげて?)白い孔が。それは(って。…だれ?)あるいは小さな孔と謂うべきで、ほんの(だれが?)ちいさな、…だから(だれ?)親指と人差し指で(だれ?)丸を(俺?)つくったくらいの(まさか。一度も)けれど、知っている、遠近法の(瞼など、一度たりとも)距離感。だから空のそれ(開かれさえもしなかった。なのに、…)遠い、遠い、遠い、遥かに、はるかに、はるかに(…ない。)遠い、それは(ないから。だって存在)巨大だったに違いない。実際には(瞼など、存在しなかったから、最初から、)…月?(だから)たぶん正午の青空の、本來(——だれが?)太陽のあるべき場所に(俺?)誤った白い(——あなたが?)滿月の(だれ?)光り、…白い(見ないで)光り。見ているものたち(——だれが?)そして

   見ないよ。もう

      息吹きを

わたしは(眼球さえも。

   なにも、もう

      せめて、その

…まさか)その、すがたを

   見ないよ。もう

      あざやかすぎた春の

見せない無数の

   あなた以外は

      春の息吹きを

いきものたちは(そんなもの、あったためしもないのに、そんな)だから(そんなもの、あったためしもないのに、そんな)わたしも(そんなもの、あったためしもないのに、そんな)狼だったに違いない。見ているものたちすべては(いつ?…いつ、)狼たちだった(そんな)、だから(存在したことなんどない、眼球など)その姿さえ(だから)曝しもせずに(視神経?)裂けた口に(…まさか。——だから)遠吠えをすることさもなく、だから(そんなもの、あったためしもないのに、そんな)わたしたちはそれぞれに固有のまなざしに於て月を見ていたので、青空の白い月はそれぞれ無数に存在し、それぞれに固有の時間を発生させていたに違いないが、解けた、と(…る、と?)。

   溶けましたか?

わたしは

   溶けた?ほら

思った。わたしたちの群生には気付かれないように(…ままに)、解ける、と(…た、と?)。

   わたしの心も、あの

なにが?

   雪とともに

      だれ?

この世界が。あるいは、正確にはわたしの見い出したその世界が、わたしそのものさえもまきぞいにして、

   溶けましたか?

      おまえ、だれ?

解ける、と。なぜ?

   溶けた?ほら

      口もないのに

その月は

   その蕾のひらかない花弁も、あの

      ほざく莫迦

ごく微塵の、眼差しに

   雪とともに

      だれ?

捉えるとこさえもできない白い兎たちの密集に過ぎなかったから。それら、もはや無際限なまでに無数のナノ・ラビットたちはかさなりあって、睦み、睦みあって、かさなり、白い、しろい、白い、だから空の不意打ちの月をそっとかたちづくり、だからそれはそこにそっと開いた孔に他ならなかった。ナノ・レヴェルとは云え、終には存在の逆をさらし、孔と化してしまうこと自体に、わたしは

   孔。ほら

      陥没。…なに?

目を疑った。見い出されている以上それは

   孔ひらけ。ほら

      陥没。ぼっこん

事実に過ぎなくて、いま、月は終にその自己矛盾に遂に堪えられずに、遂に解けはじめるの(…たの?)だった。

空に、だからしずかに音も無く(——ないから。ないから。ないから。わたしたち)ゆらめきしない

   突起は陥没

      だいじょうぶ?

絹糸のように(狼には耳などないから。ないから。ないから。存在し

   陥没こそ突起

      あたま、ついてる?

ないから。ないから。なかったから)白い月、むしろ(だから)孔、だから(響きは)不在の、その(…音響さえ。もはや)あざやかな月の流した淚のように。

   孔。…ぼこっ

眼を!

   孔。…どこっ?

…と、わたしは

   どこに孔?

      そこにも、ほら

ささやく、——眼を!

   どこに孔を

      ここにも、ほら

俺に、…俺に眼を!と。

   どこに

      花たちはひらき

ささやく。聞き取れないほどの音嚮に、…なぜ?

   春です

もしも眼があったなら

   春です。もう

見えたに違いないかった。狼たちの

   破廉恥なほど

足の下、あまりにも

   いとしい

宏大でその邊りさえもない湖の、波さえもない(死んだから、もう、)水面に(風も)映るその(風など、生まれさえも、風など)月が。狼たちの(一瞬)すべての眼差しに(刹那)白い、水の中の(須臾にも)…上の?(存在さえしないから。ないから。なかったから)…底の?

   ここだよ

      見ないで

どこの?——月が。…と。

   ぼくは、ほら

      その

目覚めた時には、かたわらに

   ここにいるよ

      くそ嫌らしい目で

優紀が寝息を立てていた。昼の、

   発情期?…カス

…何時?…一時くらい?未だ目覚めるには早い。ふたたび眠る気にもならなかった。だからわたしは

   存在など

      めまいさえ!

眠る優紀の橫向きの頬、その、かならずしも

   一度だってそれは

      めま

愛しているわけでもない頬に

   存在などしなかった。その

      めまいさえ!

口づけ、あるいは

   あなたが見出した

      くらみそうな

ひとり戯れているにすぎないそれら

   その月は

      その

   存在など

      ひかりの

   一度だってそれは

      あおぞら

   存在などしなかった。その

      それは

   わたしが見いだした

      ばしょ?

   そのつきは

      めまいさえ

   そらの果てにも

      めま

   空のはてた、果ての

      めまいさえ

   盡き、もえ盡きさえした

      あかるい、ただ

   しき彩さえない塵の

      絶ぼう的なまでに

   散りまどう、そんな

      む防びなまでに

   くう間のはての盡きたさきにも

      無ざんなまでに

   その月は

      破れん恥なまでに

   そん在など

      むじ悲なほどに

   いちどだってそれは

      めまいさえ!

ふれる。…その

   存ざいなどしなかった。その

      めま

指さきで。——なぜ?

   ををかみたちは

      めまいさえ!

そうするべきだから。そう

   ささやきあって

      だから

彼女が求めていたから。女の

   むぼう備なほどに

      ぼくたちはもう壊れただろう

不用意な程に

   ささやきあって

      もう

やわらかな、——どこに?

   む慚なほどに

      ぼくたちはすでに

ふれる。そして

   はれん恥なほどに

      壊れただろう。ぼくたちは

瞼に、彼女の

   むじ悲なまでに

      めまいさえ!

唇は(…だれの?)わたしの(あなたなど)まぶたに。そっと(存在さえもしなかった)閉じられた瞼に。

そっと。その女がなぜ、わたしの眼の(…莫迦な。)前に(閉じられた瞼の)存在していなければならないの(向こうに!)それが理解できない。…(遥かに!)ちがう。むしろ(遥かに!)許せない?いずれにせよ(辿りつけ得ないかれ方に!)彼女はわたしの(久遠にも近い)眼の前に存在するべきではなかった。譬え


癡多 citta


彼女の存在がかつてなければわたしそのものが存在しなかっとしても猶も、にもかかわらず彼女は最初から存在するべきではなかった。

   死ね!死ね!死ね!

      なんてこと

なぜ?

   かつて一度も死に得たことなどなかったものたち

      なんて苛酷で

狂っているから。…彼女、嘗てわたしを生んだ女。名前は眞沙美。旧姓は

   生きろ!生きろ!生きろ!

      なんてこと

安原。出身は広島。宮島で生まれた。所謂

   かつて一度も生まれ

      なんてあざやかな

嚴島神社の。もはや彼女がその島に帰ることはない。すでに無関係な(…だれ?)他人の(だれ?)土地に過ぎないから。年の(だから、さ)離れた兄が(だから、)いた。当時(おまえ、だれなん?)三十過ぎのかれは(死んでお願い)広島市内に起こした事業に失敗しかけていた。だから実家を抵当に入れることを思いついた。その話し合いはうまくいかなかったのに違いない。その日、家は火事を起こした。延燒した。周囲の三軒に火を移した。燒き跡から発見されたのはふたりぶんの人体の殘骸にすぎなかった。近所の人間は家の息子がその日ひさしぶりに帰って來たのを見ていた。かれは明るく挨拶さえかわしたから。そして当たり障りのない雑談。いつものように。世慣れした、要領のいいのが取り柄の息子。だから一人分の殘骸がたりなかった。ふたり分の殘骸は、しかし、まだ死んではいない。全身

   死とは?

      なに?その

大火傷で生死をあやぶまれながらも、

   なに?その

      死とは?

それ。皮膚。筋肉。神経。内臓器官への

   死とは?









Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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