流波 rūpa ……詩と小説033・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
育ての父親が
知ってる?
事象の地平だけ
言ったらしい、…あいつ、もう駄目だよ、と。そうあの女が言ったのだった、「まじ、駄目。…もう無理。…もう」十七歳の風俗嬢、歌舞伎町の店に來た女(——少女?違法の)。そして(勤務。違法の)その(來店)慥か二回目の時に、「ダメだから、もうやっちゃうしかないよって、なんか、そう言ったんだって」
「ダメって何が?」
「やばっ…」と、女は(——少女は、と)云った。まるで(そう言うべきだったろう、未だ)不意に後ろから(彼女は)だれかに息を(慥かに、そのなんということなく見返す眼差しさえもはっきりと)その首筋に(幼なかった)吹きかけられたように——興味あるの?
知ってる?
直視された強烈な光りに於ける色彩の消滅。それも
そして、ただ邪気もなく
知ってる?
単純な色
笑った。わたしに
知ってる?
直視された強烈な
その意図もない、軽蔑、…の、ようなもの?
なに?
淡い、鈍重な、麁い、稀薄な、かつ
なに?
あざやかで、赤裸々な、
なに?
あきらかな感情のゆらぎ、あるいは
だれが、ささやく?
微風。その
翳り、「…別に」と。
いま、だれが?
そのささやきは
ややあって笑いかけてやるわたしを見つめながら、女はすでに
だれが、ささやく?
微風。その
自分だけが見ている、彼女の話に
いま、だれが?
その蚊にゆらぐ繊細なつばさに
引き込まれてしまった、美しい(…だが、もはや)男の顏を、どこか(その頃からすでに)素直な矜持を隱すことなく(くずれかけの、)曝して、彼女は(隱しようもない醜さに)ささやく、秘密めかして?あるいは(素手でふれた、)単なる
違法ですよ
その笑顏
当然として、彼女は(汚れた、)わたしの
犯罪ですよ
その微笑
耳に唇を(台無しになりかかった、)縋るようなかたちに、か彼女は(歌舞伎町のホストの顏を見ていた)殺すしかないな。——なんで?
と、そう問い返す連れ子に、その男は答えなかった。むしろ、こう言った「お前らの親父さん。…な?…あいつに電話して」
「おれが?」
「そしたら、あいつが段取りすると思うから。そういう話になってるから。…な?」
そんな風に云った。…たぶん。
つまり、兄のほうに。
女の(——少女の?)その躰臭をかぎながら(思春期のひからびかけた曖昧な肌の臭気)その(もうすぐ、)かすかな(大人だね)汗とアルコールとを混濁させた、湿気た、なまあたたかい温度のある、その。不意に感じられたものは、悲しみのようなもの。
なぜ?
同情として?憐憫。共感じみた、単なる侮蔑。あるいは?いずれにせよ、あわく執拗な悲しみのようなもの。そして兄は生みの父親に電話した。怒鳴られた。と、兄が云ったのだとその弟がその、…だから彼がかつて彼女を強姦したあとで、いつか自然に彼の彼女のような存在になってしまった女に(——少女に?)言って、そして、何年か後に、わたしにそう言った。いきなり
やめて、もう
いつ?
怒鳴りつけて、男は
耳、咬まないで
いつ死んだ?
罵る。もう時間がない、なにをしていた、ぐずぐずするな、もう待ち合わせの時間を過ぎてる、これからあいつに電話かけて、そこで待つように、…仕方ない。俺が云っておいてやる、だからどこそこまですぐに行け、なんだったら、母親に乘せて行ってもらえ、終わったら電話して迎えに來てもらえよ。あいつ、ひとりでいるから、そこで難癖つけて片付けて仕舞え、そのくらいの始末ならお前でもできるだろう、など、など、など、と?
兄は弟の自分の自転車で行ったようだ。自分のバイクは
いったいどれだけの沈黙をわたしたちは
赤裸々に空
その時、友人に
いったいどれだけの
晴れ上がって
貸していた。だから、相当遅刻してその、犯行現場に辿り着いたに違いない。
いったいどれだけの饒舌を
赤裸々に空
思うのだが、殺したのはいったい
いったいどれだけの
雨の日の白濁
だれなのだろう?
なに?
谷底の男に最初に(…だれ?)手を出したのは(ささやくのは、いま)兄の方だった。兄の方が(…だれ?)たっぷりと時間をかけて男をその死に近づけつづけながら、兄にはその
だれ?
一線を越えることができなかった。恐れたから(なにを?その)あるいは(難解な心理的事象)単純に、かれが思うより人体の生命力の方が強靭だったから。もて余した兄が
だれ?
ささやくのは、いま
弟に電話をかけ、弟は
だれ?
ささやくのは
放っておいても数時間後には死んだに違いない人間の、死にまで辿り着く時間を一気に短縮したに過ぎない、とも、言える。なら、殺しはしなかった兄の方が
だれ?
沈黙しているのは、いま
本当の殺人者で、弟はむしろ
だれ?
沈黙
部外者にすぎなかったとも言える。勿論、直接その命を断ったのが弟である事実は
だれ?
沈黙しかけたのは、いま
揺るがし難い。考えて見よ。あるいは
だれ?
沈黙
思考実験として?…この場合、だれが殺したのか。殺し始めた者なのか、あるいは最終的に殺した者なのか。次の犯行は
だれ?
沈黙していたのは
二か月後。…正確に言えば、一か月半、くらい?同じ
だれ?
だれ?
渓流の、もっと頂き近く、その先の山上集落に至る直前くらいのところ(…どこ?)。
深い深夜の車道で。
同じく大人たちが恐喝していた、家電販売店の店長だったか何だったかを、今度は車の中で銃殺した、と。彼女は(——その女は、…少女?)そう云った。育ての(その少女は、…女?)父が運転した。車の名義は(色づくよ)母親。その(花)軽自動車の(その花)後部座席で、要するに
色づくよ
さらさらと
地元のやくざの
花。咲き
色彩
下っ端にすぎなかった育ての
色づくよ
さらさらと
父の入手してきた改造拳銃で、頭部を打った。一方的にさんざん脅して…むしろ、たんなる嗜虐として、ということなのだろう、焦る運転席の父をこれ見よがしに焦燥させながら、兄は執拗に犠牲者をいたぶった。その陰湿な言葉の群れ。助かりたいの?…
なんで?
色づくよ
きらきらと
助かっても。…いま、な。
色づくよ
色彩
いま、よ。
色づくよ
きらきらと、だから
いま。…いま、だけ、いま、
色づくよ
それら
助かっても、あしたからまた
色づくよ
色彩のふるえ
おっさん、いじめられるよ。おれらに
色づくよ
その花弁
くいものにされて、
色づくよ
ななめの光りに
知ってる?
色づくよ
白濁しながら
わかるよな?お前
色づくよ
さらさらと
もう死んだ方がよくない?
色づくよ
色彩
なんで?
色づくよ
さらさらと
助かりたいの?
色づくよ
きらきらと
なんで?…まだ?
色づくよ
色彩
なんの夢みてる?
色づくよ
きらきらと
なんの希望、託してる?
色づくよ
まばたくのだった
なんで?
色づくよ
思わず、だから
おまえ、まだ助かりたいの?——あいつは死刑よ、と、弟は(その十七歳の殺人者は)そう言った、と、あの女は(——少女は?)云った。うすいモスコミュールしか飲めない。ビールは、「…や…ん。や…」ビール自体の匂いが「や…だめ。…や…」嫌いだと言った。燒酎は「ん。…や…」それを飲んだ人間の肌にかく汗の蒸発するときの匂いが嫌いだと云った。…なに?ブランデー、ウィスキーはそもそも氷や水の溶けてまざっている渦の、それ自体の色彩のない流動、まわり、くずれ、とどこおり、ゆらぎ、ながれつづけその失しなわれつづけるかたちの群れが(…なに?)嫌いだと言った。あるいは(なになに?)それが彼女のトラウマの何かを語っていたのか。単にすこし詩的な?…私的な印象にすぎなかったのか。ワインとシャンパンは、そもそも自分の飲むべきものではないとなぜか(——なぜ?)頑なに信じ切っていた。何の(——なぜ?)根拠もないままに。一発目を(——だれ?)助手席から身をよじって、振り返った姿勢に発砲したのは兄の方だった。はじめての発砲だった。しかも格好をつけて振り向きざまに発砲したので(…死にたいの?)姿勢に無理が(…いいよ。…じゃ見逃してやるよ)あった。あやうく銃を(…って、うっそー…)飛ばしてしまいそうになりがら発砲された弾丸は、男の咽の脇にかろうじて突き刺さった。肉だけ
やべっ…
吹き飛ばして、血とともに
やべくそっ…
派手に飛び散った。必死に
やべっ…
振り返る男を見て、前の座席のふたりの笑うのを弟は見ていた。こいつら完璧死刑だと思ったと、後に言った。一回目の判決が下る直前の、面会で。「…あいつさ、」でもな、と。泣きそうな顏しながら、と、「…もう、あいつ、鼻水たれてさ…」女は「たらたらたれてさ」言った、親父と母親は、あれは無実だ、と、そう云ったと、彼女は云った。
ここで親父とは育ての父のことを謂う。あのふたりは兄貴とおやっさんに(…生みの父親に)利用されただけだ、もて遊ばれただけだ、早い話が慰み者よ、と。だから、本当に
悲しいの?
惡いのは、兄貴と
悲しいの?
親父の一人だけなんだよ、と、そう云て、あいつ、笑うんだよ。けらけら笑うから、でも。メモ取ってる人、
悲しいの?
なにが、いま
面会室にいるじゃん、あれ、
悲しいの?
こころにふれた?
チクるよね?どうせ、そういう奴らじゃない?と。その女は
悲しいの?
なにを、いま
その前髮は
そう言った。血まみれの男が
悲しいの?
こころは咬んだ?
かすかにゆれて
横にいるのだった。だから、弟は(…十七歳の殺人者は)怯えたのだろうか?すこしくらいは?それとも冷静なままだったのだろうか?すこししくらいは?高揚感に?…その咽の血管さえ燒けつくような、そんな、少しくらいは?兄が笑いながら弟に熱い銃を渡した。その銃の温度に兄がつくづく気の効かない男だと思った。そう女は云った。俺の指が火傷したらどうするの?「…じゃん?…ね、」自分ばかり「…じゃん?…ね、」安全地帯避難かよ、「…じゃん?…ね、」糞、だろ?「…じゃん?…ね、」と。此の状況、わたしにはよくわからない。つまり、銃口のほうを差し出したということか。それとも先に発砲したこと自体が無性にむかついたのだ、と?…お前、始末してやって。
きれいに、しとこ
おれ?
そのこころのなか
…そ、だね。
いつもきれいに
発砲。こめかみに
すなおに、しとこ
銃口をあてて。だが、一回でしとめることはできなかった。かたわらに身じろぎしないその男。横向きの目を剝いて、ひたすら眼の前の兄のほうをだけ、その目と目との間、鼻の始まるそのあたりをだけ凝視し続ける執拗な男の、横向きの首が不意に(…抗って?)のけぞったのか、はじめての
抗って
遠い背後に
発砲を弟の手首も
抗って飛び立つ
その時、背後に
御し得なかっただけなのか。男の
抗って
その鳥たち
左の眼窩の骨格を派手に
重力に抗い
羽搏いたものたち
損傷しながら天井に突き
月?
刺った。…駄目だろ、と。
明けた朝には
兄の
ありあけのしろい
冷静な聲を聞いた。≪ドス≫をきかせて。敢えてささやき、つきはなすような気配をつくり、それに自ら酔う気配を隱しもしないで。
…はん?
ブラッドのコールドなやばめのダンディ?
…ははん?
0コメント