流波 rūpa ……詩と小説032・流波 rūpa 癡多 citta ver.1.01 //なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは
以下、一部に暴力的あるいは露骨な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
爾時舍利弗白佛言
世尊是淨無垢無淨
佛言淨故羅什譯小
品般若歎淨品第九
//なぜ?/だれ?/なぜ?/いま、あなたは
こう聞いた。
その女、——名前は忘れた。彼女は(…だれ?)十四の時はじめて肌を(…いつ?)許した男、正確には(…だれ?)男たち。四人だったから。その(あなたが?)首謀者が(…と、彼女は云ったのだった、慥かに主謀者、と、…ただ、もっと短く、ボス、と、思わずひとりで笑い出してしまいながら)彼女の(…なぜ?——その、)生涯の(笑う息づかい。邪気もなく自覚もなく無造作かつ自然でしかもあざやかなうえにもいやあざやかな軽蔑とともに)伴侶になった。少なくとも(…だれを?)結果的には(…あなたは、だれを?)。
二歳上の無職、高校中退の十六歳。名前は忘れた。だから、わたしは(…だれ?)もはや(…だれ?)なにも覚えていないに等しい。
十六歳の方は
そそぐもの
さんさんと
十七歳になったときに始めて
それは光り
それは、さんさんと
人を殺した。あるいは
そそぎ、まるで
まぶた閉じてさえ
正確に謂えばとどめを
へばりつくように
さんさんと
刺した。かれの
ずれ流れるように
それは、さんさんと
家族構成は、父が
ゆらぎさえして
眼窩なくてさえ
ふたり、母、兄、そしてかれ自身と犬六匹。場所は静岡、あのいくつか日付け變更線を跨ぎそうな細長い土地の、その何処だったかは忘れた。
母に見限られた生みの父は交流を斷たれてはいなかった。まるで現行の家族の親しい友人のように家に出入りした。新しい、実質的な育ての父親もかつての父親を拒むでもなく、許すでもなく、打ち解けるでもなく、一線を引くでもなく、謂わば妻と連れ子たちのなつかしい友人として、——ということ?
これらを、もっと混乱した、複雑な、困難な、色付け過剰な、滑稽な、辛辣な、それら吐く言葉と吐く息とその吐かれた息遣いの乱れとしかも妙に他人ごとの冷淡とまるで自分の話をするような昂揚その他で語りかけながら、彼女は見つめた。だから
さわぐのです
屍をさがす
その女は、
なにが?
さがす
わたしを。…だけを、その時、…何歳?
明け方の鳥がさわ
屍を
だれが?——わたしが。何歳だったのか?たぶん、三十をすこし超えたくらいか。何年前?…いずれにせよ十七歳の殺人者はかれが十七歳の殺人者になる日に兄に携帯電話で呼び出された。そのi-mailで。
覚えてる?
あなたの生きざま
静岡の渓流ぞいの(?)山道を
知ってる?
あなたの魂
父の(…育ての?)バイクで(…無免許で?
勉強した?
あなたのケツの孔
あるいは、)登り、指定された場所を探す。すぐには見つからない。…一時間たって…ちがうか。「…ね?」…二時間?「ん。んー…」…ちがうか?(…笑う。もう、)「…ね?」…あいつ、(笑うしかなくない?)頭(笑うしかなくなくない?)惡いからね、「お兄ちゃんに(…わたしが
…ね?
じゃん?
守ってやらないと、だから)電話すればいいじゃない?」…じゃん?…ね。「…じゃん?」けど(だれかが、護ってやらないと、だから)らしいよ。ずっと、ひとりで、バイクで…「ずっと、だよ」(母親の最初の敎育、わるかったから、だから。…)「…じゃん?」乘りにくい、…「…じゃん。」山道。あそこらへん、「…まじくそ田舎」
…ね?
わかるよね?
舗装が(いまだにまもってやらないと、だから)探してたんだって、…と。「…田舎って、いま、差別用語なの?」
その女は、だれかの自慢話を勝手に自分の話として語る、そんな口調の「…遅いじゃん」
手の伸ばせば
ねぇ…
「探してたんだよ…は?」
空には
あれは、なに?
「手伝えよ」
霞をしる、青の
あの大きく
「何を?…は?」
手を伸ばせば
青い、大きな
「は?…見りゃわかるんじゃね?」…たぶん、そんな。
かれは(…だれ?)兄と(…だれ?あなたは)二言三言(ささやくのは、…いま)話す(仲のいい兄弟ではなかった、と。これはあるいはテレビの報道で耳にしたものだったか。つまり、元同級生のモザイク變聲つき談話として)。見る。兄の背後、すこし離れたところに死にかけの人間がひとり、ころがっている。
どんな風に?
せんさいな
かれは、母親のパート先のスーパーの
血まみれの芋虫のように?
あまりにせんさいな
主任だったか、なんだったか、…お偉いさん、と。
どんな風に?
それは微風
女は云った、わたしに、耳元に、その時、十七歳だったその
血まみれの蛆虫のように?
微風。かすかに
唇に、モスコミュールの匂いと
どんな風に?
しかも迷いなく
口紅の鈍いきらめき。だから
血まみれの
吹き抜けた。もう、それは
なんだよ、これ。…と、そう云っただろうか、
青虫のように…やがては
微風。ほんのすこし
かれ、つまり人殺しのかれは。「親父の命令だよ」
飛び立つのか。その
なに?この
「おやっさん(…と、育ての父のことを彼はそう呼び、生みの父のことをは名字にさんづけで呼んでいた、と)?…いつ?」
皮をもやぶって、蝶の
匂い、なに?この
「だから、今朝」
翅の羽搏きとともに
匂いは
「は?…なんで?」
「こいつ糞だからじゃん」と(でたらめな会話。此れらはわたしに依る勝手な創作にすぎない。だから、たぶん、)吐き捨てるようにつぶやき、そして(こんなふうだったんじゃない?…報道によれば、…じゃない?そして)笑い聲を立てる兄を、かれは(女の語りかける、その…)呼び出された不愉快を(…なに?)噛み千切りながら(雰囲気?…なんとなくの、…なに?)見ていた。兄は(…感じ?)無能だった。
ひびきあうのだった
なぜ?
無造作に
人ひとり、満足に殺せないから。
かれ、——だから、ここで假りに名づけて十七歳の殺人者、と、その殺人者自体、その時点で未だだれか殺していわけではない…(また実際、かれは現実にはだれも、ひとりとして殺しはしなかったのだった。十七歳の殺人者はだから)苛立ち、かつ口蓋のうちにののしり、侮辱し、かつ彼は(無限にも近い苦痛と、悔恨と、悩みと)ひとりで浸っていた、かれ自身がいま兄以上の存在であり得ているというなんの根拠もない(なぜ、あの日そこに存在していたのかという、それは、被害者側の)そして何の実績も無い(一方的な悔恨を)優越感に?(それらを、かれは)あるいは、かれは(…与えただけ?ほら、いま、あなたは生まれたことさえ後悔できる、と?)
ひびきあうのだった
こすれあう
兄がその血まみれの(…正確じゃない。比喩としても、それは)男に、昨日の
無造作に
それら、葉々
夜の十時過ぎから(血など、おそらくはもう、流れたとしてほんの纔かしか)数時間、夜明けを過ぎる時間にまで渡って施したのは(なぜなら)、金属バットでの殴打だけ。その(むしろ内出血の方がひどかったにちがいなく、)小学校以來使われていなかったバットは(骨格の陥没、そして)むしろ、血まみれの男が(内臓の損傷?あるいは)自分で
ひびきあうのだった
こすれあう
腕と足に抱きかかえていた。それで、もはや(いずれにせよ)立ち向かう
無造作に
それら、枝々
気力もなく(むしろ深く、…深く、…深く沈んだ)、あるいは、そもそも(土気色で、だから黝ずみの散乱。深く)そんな(…深く、…深くただ深く)発想さえもない、だから(沈んだ、むしろ暗い)寒さに(しずかな…)ふるえる、そして(そんな土気色で)若干、頭のおかしな男が冬の夜にただ一枚与えられた毛布にしがみついたように(——なにそれ?)…かぶれよ。
莫迦。せめて
なんという、…ほら
男は這い、身もだえするように這い、…死なないんだよ。なかなか
あたまから被れよ、まるで
騒音に満ち盈ちた
と、兄は、…こいつ、ぶちのめしたんだけど、なかなか
蝶の出生前のさなぎののように
なんという、…ほら
と、…死なないんだよ、と、だから寒さにふるえる、そして若干、頭のおかしな男が冬の夜にただ一枚与えられた毛布にしがみつくように、…かぶれよ。
莫迦。せめて
やさしい騒音に満ち盈ちた
男は這い、身もだえするように這い、…死なないんだよ。なかなか
その既に孵化せずに腐った成りかけの蝶の
なんという、…ほら
と、兄は、…こいつ、ぶちのめしたんだけど、なかなか
分解されていく纔かな匂いをだけでも
此の静寂
十七歳の殺人者は男の腕からバットを奪い取り、頭部を何度も叩いた。バットの先で、突き刺すようにして。途中からそれは遊びになった。戯れになった。いつか陽気なダンスになった。だから人見知りをしない子だった、と。近所のだれかが云った。そのテレビの取材に(差し出されたマイクロフォン)明るい(その色は、黑)子だった、と(ゆらぐモザイク)その(…じっとしてろよ。あんた)もはや(…緊張してんの?)性別さえわたしに忘れられたその、頭もいい子だったのに、と、その、むしろ複数の、その、それら、人々、かれら、あるいは彼女ら、もしくはかれら彼女ら、中学からじゃない?あいつら、惡くなったのは、と。
ささやくように、いま
ふるえ
軈て、もう
ささやくように
ふるえ
死に絶えた(——そう思った)血まみれの
木の葉も枝もふるえます
とめどもなく
男を(かれは、…そして)それは弟の(だから十七歳の殺人者の)思い附きだった、ほら(兄も、だから、かれらはその時に)そのガードレールから(そう思ったのだった、だから)じゃない?…見つかるだろ(俺は、いま、人殺しだと、そのひとりは。——そう思った。また)つきおとせばいいんだよ、その、しろい(かれは人殺しだと、そのひとりは。——そう思った。また、ともかく、いま)見つかるだろ、すぐに、莫迦。…まさか(ここで、眼の前で、いま、ひとりの)腐るぜ。だって、今(ひとが死んで行くのだ、と、あまりにも)だれかが見つける前に(無慚に、と、この)先に、だって(だからあまりにも殘酷で苛酷な此の世界の中で、と)夏だぜ、と。
そう弟が云った時に、兄に方は慥かに、と、そう思い(あるいは、そんな莫迦なと思いながらも?…だってだれも)むしろ(來ないじゃん?)自分で、軈てあらい息を喉に(その息。もう、いま、それ以外にはふさわしい仕草さがないと?)吐きさえしながら(胸。せりあがって、その胸。急激に墜ち)、ひとりで(冷静に、冴えた
墜ちる
眼差しで)男の、
墜ちる
泣きながら…まだ(熱狂的な、噎せ返った、熱狂的な、そして血管の中に這う熱気。その)あたたかい。まるで(混乱。だた赤裸々なまでに混乱を)いままさに慥かにまさしくここに生きているかのように、泣きながら、そして(悼みながら。悲しみながら。愛おしみながら。呪いながら死んで行く男の)やわらかくて、——落とした。ようやく(厭う。死んだ肉体。その死にかけの)ガードレールの
墜ちる
木の葉は
向こうの(なぜ?…なぜ
墜ちる
ふららっ…
こんなにも穢らしく)谷底に、自分の上半身さえあやうく落として仕舞いそうになりながら。
それは山奥の閑静な人通りのない車道での犯行だった。車はほとんど通らない。まして自転車や、歩行者など。一応は引かれた歩道。そんなもの形だけのもので、基本的に実用性などない。そんな、それは道。
とはいえ、だれも通り過ぎなかったわけではなかった。むしろ此れ等一連の行爲のあいだ、十台未満の車が通過している。このことは、その兄弟の記憶に據づく。公開された調書の記述である。故にもっと多かったかも知れないし、逆にほんの二、三台にすぎなかったかも知れない。所詮は尋常でない状況での記憶の、尋常ではない環境での、しかも後々の想起である。とまれ事実として(——なに?)は、だれも通報もせず、車内の(——なに?)流れる須臾に(なにを、見てる?)目視したかもしれない状況を、いちいち車を止めて確認するでもなく、そのまま(——なに?)放置されていたということは(——なに?)言える。報道は(なにを、聞いてる?)その顏もない目撃者たちの冷酷さを非難した。当時SNSがあったら、もっとひどい非難合戦が(——なに?)生れていたのではないか。それら(——なに?)数も顏も名前も人称もない被告を(なに、感じてる?…いま)裁判台に立たせた、文字通りだれもが不在の糾弾は。
兄の方は云った、だれも
正義とは
下の方には
本気にしなかったんじゃない?…と。朝の
殺傷の爲の兵器
足の下には
八時前だったから。朝から
不義とは
小川のせせらぎ
道で、人が死んだり殺されたりするわけがないじゃない?…と。これは、慥か雑誌で読んだのだ。裁判での証言だったか。笑いながら、自分以外のだれもをも小馬鹿にするように話し、これがかれの印象をより惡くし、死刑判決やむなしの印象を与えた、云々と。
その崖の磐(…があるんじゃない?たぶん。知らないよ)に叩きつけられながら、谷底に落ちた男は
落ちた
ゆらぐのは
かれ等兄弟の母親に
落ちた。その
色彩。その
交際を迫ったのだ。一方的に、かつ
年老いた花弁
複雑に
暴力的に、職場の権力にものを謂わせ、と、此れらも裁判での供述。母親、及びふたりの父親に依る。あるいは子供たちも?つまりは家族に共通の認識?
知ってる?
ゆらぐのは
本当かどうかは知らない。事実としては
知ってる?
色彩。その
なんらかのかたちで一家の大人
知ってる?
複雑に
三人に脅されていた、…と。特に、窓口を生みの父親がこなして。脅され、個人的になんとか工面し、求めるだけの金を渡す。または店の売り上げを胡麻化して、なんとかかんとか上納する。上納先はパートタイマーなのだから、店は彼女にとって二重に
知ってる?
事象の地平だけ
収入源だったということだ。兄の方に
知ってる?
単純な色とは
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