中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀成壞品・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(26)
中論卷の第三
龍樹菩薩造
梵志靑目釋
姚秦三藏鳩摩羅什譯す
■中論觀成壞品第二十一//二十偈
問曰。一切世間事現是壞敗相。是故有壞。答曰。
◎
問へらく〔=曰〕、
「一切世間事、現に是れ壞敗の相なり。
是の故、壞は有り」と。
答へらく〔=曰〕、
離成及共成 是中無有壞
離壞及共壞 是中亦無成
若有成若無成俱無壞。若有壞若無壞俱無成。何以故。
◎
≪成を離る、及び成と共なる
是の中に壞有ること無し
壞を離る、及び壞と共なる
是の中にも〔=亦〕成は無し≫
「若しは成有り。
若しは成無し。
俱に壞は無し。
若しは壞有り。
若しは壞無し。
俱に成は無し。
何を以ての故に。
若離於成者 云何而有壞
如離生有死 是事則不然
成壞共有者 云何有成壞
如世間生死 一時俱不然
若離於壞者 云何當有成
無常未曾有 不在諸法時
若離成壞不可得。何以故。若離成有壞者。則不因成有壞。壞則無因。又無成法而可壞。成名衆緣合。壞名衆緣散。若離成有壞者。無成誰當壞。如無瓶不得言瓶壞。是故離成無壞。若謂共成有壞者。是亦不然。何以故。法先別成而後有合。合法不離異。若壞離異壞則無因。是故共成亦無壞。若離壞共壞無有成者。若離壞有成成則爲常。常是不壞相。而實不見有法常不壞相。是故離壞無成。若謂共壞有成者。是亦不然。成壞相違。云何一時有。如人有髮無髮不得一時俱。成壞亦爾。是故共壞有成。是事不然。何以故。若謂分別法者。說成中常有壞。是事不然。何以故。若成中常有壞。則不應有住法。而實有住。是故若離壞共壞不應有成。復次。
◎
≪(若)成を〔=於〕離れ〔=者〕
云何んが(而)壞有る
生を離れ死有るが如き
是の事は〔=則〕然らず
成・壞、共なりたれ〔=有〕ば〔=者〕
云何んが成・壞有らん
世間に生死
一時俱なる然らざるが如く
(若)壞を〔=於〕離れ〔=者〕
云何んが當に成有らん
無常、未だ曾て有らず
諸法に在らざる時は≫
若し成を離るればその壞、不可得なり。
何を以ての故に。
若し成を離れ壞有らば〔=者〕則ち、成に因りて壞有らず。
壞は〔=則〕無因なり。
又、成法無きに〔=而〕壞す可くば、……その成、衆緣合すと名づく。
その壞、衆緣散ずと名づく。
若し成を離れ壞有らば〔=者〕、成は無し。
誰か當に壞すべき。
瓶無きに『瓶壞したり』と言ふを得ざるが如くに。
是の故、成を離れ壞無し。
若し『成と共に壞有り』と謂はば〔=者〕是れも〔=亦〕然らず。
何を以ての故に。
法、先きに別に成じて〔=而〕後に合有り。
合法、異を離れず。
若し壞、異を離るれば壞、則ち無因なり。
是の故、成と共なりても〔=亦〕壞無し。
(若)壞を離れても、壞と共なりても成有ること無しとは〔=者〕、若し壞を離れ成有らばこの成は〔=則〕常なり〔=爲〕。
常是れ不壞相なり。
而れど實には法有るも常なりて不壞相なるをは見ず。
是の故、壞を離れ成無し。
若し『壞と共に成有り』と謂はば〔=者〕是れも〔=亦〕然らず。
成・壞相違すれば。
云何んが一時に有らん。
人、その髮有り・髮無し一時俱なるを得ざるが如くに。
成・壞も〔=亦〕爾り。
是の故、壞に共なり成有る是の事、然らず。
何を以ての故に。
若し『法を分別法すれば〔=者〕こそ成中にも常に壞有り』と謂はば是の事、然らず。
何を以ての故に。
若し成中に常に壞有らば〔=則〕應に住法有り。
而れど實には住有らず。
是の故、(若)壞を離るるも、壞と共なるも、應に成有るべからず。
復、次に、
成壞共無成 離亦無有成
是二俱不可 云何當有成
若成壞共亦無成。離亦無成。若共成則二法相違。云何一時。若離則無因。二門俱不成。云何當有成。若有應說。問曰現有盡滅相法。是盡滅相法。亦說盡亦說不盡。如是則應有成壞。答曰。
◎
≪成・壞共にその成無し
離れても〔=亦〕その成有ること無し
是の二俱に不可
云何んが當に成有るべき≫
(若)成・壞共なるも〔=亦〕成無く、離るるも〔=亦〕成無し。
若し共なりて成ずも〔=則〕二法相違す。
云何んが一時なる。
若し離るれば〔=則〕無因なり。
二門俱に成ぜず。
云何んが當に成有るべき。
若し有らば應に說くべし」と。
問へらく〔=曰〕、
「現に盡滅相と法有り。
是の盡滅相法、亦は盡と說かん。
亦は不盡と說かん。
是の如きは〔=則〕應に成・壞有り」と。
答へらく〔=曰〕、
盡則無有成 不盡亦無成
盡則無有壞 不盡亦不壞
諸法日夜中念念常滅盡過去。如水流不住。是則名盡。是事不可取不可說。如野馬無決定性可得。如是盡無決定性可得。云何可得分別說有成。是故言盡亦不成。成無故亦不應有壞。是故說盡亦無有壞。又念念生滅常相續不斷故名不盡。如是法決定常住不斷。云何可得分別說言今是成時。是故說無盡亦無成。成無故無壞。是故說不盡亦無壞。如是推求。實事不可得故。無成無壞。問曰。且置成壞。但令有法有何咎。答曰。
◎
≪盡、(則)その成有ること無し
不盡も〔=亦〕成無し
盡、(則)その壞有ること無し
不盡も〔=亦〕壞せず≫
「諸法、日夜中に念念に常に滅盡し過ぎ去る。
水流不住の如し。
是れぞ〔=則〕盡と名づく。
是の事、取る可くもなし。
說く可くもなし。
野馬に決定性の得可き無きが如く、是の如くに盡、決定性得可くも無し。
云何んが分別し『成有り』と說くを得可き。
是の故、盡を言ふも〔=亦〕成ぜず。
成無くば〔=故〕亦應に壞有るべからず。
是の故、≪盡にも〔=亦〕その壞有ること無し≫と說きたり。
又、念念に生滅し常に相續不斷の故に不盡と名づく。
是の如き法、決定なり。
常住なり。
不斷なり。
云何んが分別して說き、『今是れ成ず時なり』と言ひ得可き。
是の故、≪盡無くも〔=亦〕成無し≫と說きたり。
成無くば〔=故〕壞無し。
是の故、≪不盡にも〔=亦〕壞無し≫と說きたり。
是の如く推求せば實事、不可得なるが故に成無し。
壞も無し」と。
問へらく〔=曰〕、
「且〔姑〕らく成・壞を置け。
但、法を有らしむ〔=令〕のみにして何の咎有る」と。
答へらく〔=曰〕、
若離於成壞 是亦無有法
若當離於法 亦無有成壞
離成壞無法者。若法無成無壞。是法應或無或常。而世間無有常法。汝說離成壞有法。是事不然。問曰。若離法但有成壞。有何咎。答曰。離法有成壞。是亦不然。何以故。若離法誰成誰壞。是故離法有成壞。是事不然。復次。
◎
≪若し成・壞を〔=於〕離るれば
是れ(亦)その法も有ること無し
若し當に法を〔=於〕離るべくば
(亦)その成・壞も有ること無し≫
「成・壞を離れ法無しとは〔=者〕、若し法に成無く壞無くば是の法に應に或は無、或る常なりとなり。
而れど世間に常法有ること無し。
汝、『成・壞を離れ法有り』と說く是の事、然らず」と。
問へらく〔=曰〕、
「若し法を離れ但、成・壞有るのみならば何の咎有る」と。
答へらく〔=曰〕、
「法を離れ成・壞有るといふ是れ亦、然らず。
何を以ての故に。
若し法を離れ誰か成じ誰か壞す。
是の故に法を離れ成・壞有る是の事、然らず。
復、次に、
若法性空者 誰當有成壞
若性不空者 亦無有成壞
若諸法性空。空何有成壞。若諸法性不空。不空則決定有。亦不應有成壞。復次。
◎
≪若し法性空ならば〔=者〕
誰にか當に成・壞有る
若し性空ならずも〔=者〕
(亦)成・壞有ること無し≫
若し諸法性空ならば空に何んが成・壞有る。
若し諸法性空ならずも空ならざれば〔=則〕決定有り。
亦應に成・壞有るべからず。
復、次に、
成壞若一者 是事則不然
成壞若異者 是事亦不然
推求成壞一則不可得。何以故。異相故。種種分別故。又成壞異亦不可得。何以故。無有別故。亦無因故。復次。
◎
≪成・壞若し一とせば〔=者〕
是の事は〔=則〕然らず
成・壞若し異とすも〔=者〕
是の事も〔=亦〕然らず≫
推求するに成・壞一ならば〔=則〕不可得なり。
何を以ての故に。
異相なるが故に。
種種に分別するが故に。
又、成・壞異なりても〔=亦〕不可得なり。
何を以ての故に。
別に有ること無きが故に。
亦、無因の故に。
復、次に、
若謂以眼見 而有生滅者
則爲是癡妄 而見有生滅
若謂以眼見有生滅者。云何以言說破。是事不然。何以故。眼見生滅者。則是愚癡顚倒故。見諸法性空無決定如幻如夢。但凡夫先世顚倒因緣得此眼。今世憶想分別因緣故。言眼見生滅。第一義中實無生滅。是事已於破相品中廣說。復次。
◎
≪若し眼に見ゆを以て
而れど生滅有りと謂はば〔=者〕
則ち是れ癡妄なり〔=爲〕
而して生滅有るを見ん≫
若し『眼見に〔=以〕生滅有るに〔=者〕云何んが言說を以て破さん』と謂はば是の事、然らず。
何を以ての故に。
眼見に〔=以〕生滅すとは〔=者〕則ち是れ愚癡なりて顚倒なるが故に。
諸法性空なり。
決定無し。
幻の如し、夢の如し。
但に凡夫のみ先世の顚倒の因緣に此の眼を得たり。
今世に憶想分別する因緣の故に『眼に生滅見えたり』と言ふ。
第一義中に實には生滅無し。
是の事已に破相品中に〔=於〕廣說したり。
復、次に、
從法不生法 亦不生非法
從非法不生 法及於非法
從法不生法者。若失若至二俱不然。從法生法。若至若失是則無因。無因則墮斷常。若已至從法生法。是法至已而名爲生。則爲是常。又生已更生。又亦無因生。是事不然。若已失從法生法者。是則失因。生者無因。是故從失亦不生法。從法不生非法者。非法名無所有。法名有。云何從有相生無相。是故從法不生非法。從非法不生法者。非法名爲無。無云何生有。若從無生有者。是則無因。無因則有大過。是故不從非法生法。不從非法生非法者。非法名無所有。云何從無所有生無所有。如兎角不生龜毛。是故不從非法生非法。問曰。法非法雖種種分別故無生。但法應生法。答曰。
◎
≪法從り法は生ぜず
(亦)非法も生ぜず
非法從りも生ぜず
法も〔=及〕非法さへも(於)≫
法從り法生ぜずとは〔=者〕、若しは失ふも、若しは至たれるも二俱に然らず。
法從り法生ぜば、若しは至たれるも、若しは失ふも是れらは〔=則〕無因なり。
無因ならば〔=則〕斷常に墮す。
若し已に至たり法從り法生ぜば是の法、至り已はりて〔=而〕名づけて生じきと爲す。
則ち是れ常なり〔=爲〕。
(又)生じ已はり更に生じたり。
(又)亦、無因に生じき。
是の事、然らず。
若し已に失ひ法從り法を生ぜば〔=者〕是れ則ち因を失したり。
その生は〔=者〕無因。
是の故、失從りも〔=亦〕法は生ぜず。
法從り非法生ぜずとは〔=者〕、非法を無所有と名づく。
法を有と名づく。
云何んが有相從り無相を生ず。
是の故、法從り非法生ぜず。
非法從り法ぜずば〔=者〕非法、名づけて無とす〔=爲〕。
無、云何んが有を生ず。
若し無從り有生ずれば〔=者〕是れ則ち無因。
無因には〔=則〕大過有り。
是の故、非法從り法生ぜず。
非法從り非法生ぜずとは〔=者〕非法、無所有と名づく。
云何んが無所有從り無所有を生ず。
兎の角、龜の毛を生ぜぬが如くに。
是の故、非法從り非法生ぜず」と。
問へらく〔=曰〕、
「法、非法、種種に分別するも〔=故〕生無し。
しかれど〔=雖〕但、法のみ應に法を生ずべし」と。
答へらく〔=曰〕、
法不從自生 亦不從他生
不從自他生 云何而有生
法未生時無所有故。又即自不生故。是故法不自生。若法未生則亦無他。無他故不得言從他生。又未生則無自。無自亦無他。共亦不生。若三種不生。云何從法有法生。復次。
◎
≪法、自從り生ぜず
亦他從りも生ぜず
自他從りも生ぜず
云何んが(而)生有る≫
「法、未生の時、無所有なるが故に又、即ち自らを生ぜざるが故に、是の故に法、自生せず。
若し法、未生ならば〔=則〕(亦)他も無し。
他無くば〔=故〕『他從り生ず』とは言ひ得ず。
又、未生ならば〔=則〕その自だに無し。
自も無く、(亦)他も無くば、それら共なるも〔=亦〕生ぜず。
若し三種、生ぜずば云何んが法從り法の生ず有る。
復、次に、
若有所受法 即墮於斷常
當知所受法 爲常爲無常
受法者。分別是善是不善常無常等。是人必墮若常見若斷見。何以故。所受法應有二種。若常若無常。二俱不然。何以故。若常即墮常邊。若無常即墮斷邊。問曰。
◎
≪若し所受の法有らば
即ち斷常に〔=於〕墮す
當に知るべし所受の法
常なり〔=爲〕、また無常なり〔=爲〕と≫
法を受くとは〔=者〕『是れ善、是れ不善、常、無常』等の分別なり。
是の人、必らず若しは常見、若しは斷見に墮す。
何を以ての故に。
所受の法、應に二種有り。
若しは常。
若しは無常。
二俱に然らず。
何を以ての故に。
若し常ならば〔=即〕常邊に墮す。
若し無常ならば〔=即〕斷邊に墮す」と。
問へらく〔=曰〕、
所有受法者 不墮於斷常
因果相續故 不斷亦不常
有人雖信受分別說諸法。而不墮斷常。如經說五陰無常苦空無我。而不斷滅。雖說罪福無量劫數不失。而不是常。何以故。是法因果常生滅相續故往來不絕。生滅故不常。相續故不斷。答曰。
◎
≪あらゆる〔=所有〕受法は〔=者〕
斷常に〔=於〕墮さず
因果相續の故に
斷ならず、亦、常ならず≫
人有り、說ける諸法を分別し信受すれど〔=雖〕(而)斷常に墮さず。
經說の如し、
≪五陰無常なり。
苦なり。
空なり。
無我なり。
而して斷滅ならず≫と。
罪福、無量劫數に不失なるを說けど〔=雖〕(而)是れ常ならず。
何を以ての故に。
是の法、因果、常に生滅し相續するが故に往來し絕えず。
生滅の故に常ならず。
相續の故に斷ならず」と。
答へらく〔=曰〕、
若因果生滅 相續而不斷
滅更不生故 因即爲斷滅
若汝說諸法因果相續故不斷不常。若滅法已滅更不復生。是則因斷。若因斷云何有相續。已滅不生故。復次。
◎
≪若し因果、生滅し
相續ひて〔=而〕斷ならずば
滅し更らに生ぜず、故に
因は〔=即〕その斷滅なり〔=爲〕≫
「(若)汝、說けらく『諸法、因果相續の故に斷ならず、常ならず』と。
若し滅すべき法ならば已に滅して更に復には生ぜず。
是れ則ち因を斷ず。
(若)因を斷じたるに云何んがその相續有る。
已に滅し生ぜぬが故に。
復、次に、
法住於自性 不應有有無
涅槃滅相續 則墮於斷滅
法決定在有相中。爾時無無相。如瓶定在瓶相。爾時無失壞相。隨有瓶時無失壞相。無瓶時亦無失壞相。何以故。若無瓶則無所破。以是義故滅不可得。離滅故亦無生。何以故。生滅相因待故。又有常等過故。是故不應於一法而有有無。又汝先說因果生滅相續故。雖受諸法不墮斷常。是事不然。何以故。汝說因果相續故有三有相續。滅相續名涅槃。若爾者。涅槃時應墮斷滅。以滅三有相續故。復次。
◎
≪法、自性に〔=於〕住するに
應に無の有ること有るべからず
涅槃、相續を滅せば
〔=則〕斷滅に〔=於〕墮す≫
法、決定し有相中に在らば爾の時、無相無し。
瓶、定まりて瓶相に在らば爾の時、失壞相無きが如くに。
瓶有る時にも(隨)失壞相無し。
瓶無き時にも〔=亦〕失壞相無し。
何を以ての故に。
若し瓶無くば〔=則〕その所破だに無し。
是の義を以ての故に滅、不可得なり。
滅を離るるが故、(亦)生も無し。
何を以ての故に。
生滅相、因待するが故に。
又、常なり等の過有らば〔=故〕。
是の故、應に一法に〔=於〕(而)無の有ること有るべからず。
又、汝、先きに因果生滅し相續するが故、諸法を受けども〔=雖〕斷常に墮さず』と說くも是の事、然らず。
何を以ての故に。
汝、因果相續を說きたれば〔=故〕三の有、その相續有り。
相續の滅を涅槃と名づく。
若し爾らば〔=者〕涅槃の時、應に斷滅に墮すべし。
三有の相續の滅を以ての故に。
復、次に、
若初有滅者 則無有後有
初有若不滅 亦無有後有
初有名今世有。後有名來世有。若初有滅次有後有。是即無因。是事不然。是故不得言初有滅有後有。若初有不滅。亦不應有後有。何以故。若初有未滅而有後有者。是則一時有二有。是事不然。是故初有不滅無有後有。問曰。後有不以初有滅生。不以不滅生。但滅時生。答曰。
◎
≪若し初有滅せば〔=者〕
則ち後有、有ること無し
初有、若し滅せずも
〔=亦〕に後有、有ること無し≫
初有、今世有と名づく。
後有、來世有と名づく。
若し初有滅し、次に後有有らば是れは〔=即〕無因。
是の事、然らず。
是の故、『初有滅して後有有り』とは言ひ得ず。
若し初有滅せずても〔=亦〕應に後有有るべからず。
何を以ての故に。
若し初有、未だ滅せぬに〔=而〕後有有らば〔=者〕是れ則ち一時に二有ぞ有り。
是の事、然らず。
是の故、初有滅せぬに後有有ること無し」と。
問へらく〔=曰〕、
「後有、初有の滅を以ては生ぜず。
滅せぬを以ても生ぜず。
但に滅時にのみ生ず」と。
答へらく〔=曰〕、
若初有滅時 而後有生者
滅時是一有 生時是一有
若初有滅時。後有生者。即二有一時俱。一有是滅時。一有是生時。問曰。滅時生時二有俱者則不然。但現見初有滅時後有生。答曰。
◎
≪若し初有滅す時
而れど後有生じれば〔=者〕
滅時、是れ一有
生時、是れ一有≫
「若し初有の滅時、後有生ぜば〔=者〕即ち二有、一時に俱なりたり。
一の有、是れ滅時なり。
一の有、是れ生時なり」と。
問へらく〔=曰〕、
「滅時・生時の二有、俱なるといふは〔=者〕則ち然らず。
但、現見に初有の滅時に後有生じたるのみ」と。
答へらく〔=曰〕、
若言於生滅 而謂一時者
則於此陰死 即於此陰生
若生時滅時一時無二有。而謂初有滅時後有生者。今應隨在何陰中死。即於此陰生。不應餘陰中生。何以故。死者即是生者。如是死生相違法。不應一時一處。是故汝先說滅時生時一時無二有。但現見初有滅時後有生者。是事不然。復次。
◎
≪若し生に於き滅すと言ひ
而も一時なりと謂はば〔=者〕
則ち此の陰に〔=於〕死に
即ち此の陰に〔=於〕生じたり≫
「若し生時・滅時、一時にして二有無くて〔=而〕
『初有の滅時に後有生じき』と謂はば〔=者〕、今應に何の陰中に在るに隨ひ死ぬ。
(即)此の陰に〔=於〕生じたるに、應に餘の陰中に生ずべからず。
何を以ての故に。
死者、即是にして生者ならば。
是の如き死生、相違法なり。
應に一時一處ならず。
是の故、汝先きに說けらく、『滅時・生時、一時にして二有無し。
但に現見に初有の滅時に後有生じき』とは〔=者〕是の事、然らず。
復、次に、
三世中求有 相續不可得
若三世中無 何有有相續
三有名欲有色有無色有。無始生死中不得實智故。常有三有相續。今於三世中諦求不可得。若三世中無有。當於何處有有相續。當知有有相續。皆從愚癡顚倒故有。實中則無。
◎
≪三世中に有を求め
その相續、不可得なり
若し三世中に無くば
何んが有の相續有らん≫
三有は、欲有・色有・無色有と名づく。
始めも無き生死中に實智を得ざれば〔=故〕。
常に三有の相續有り。
今、三世中に〔=於〕諦求して不可得なり。(※諦=明らかに、求む)
若し三世中に有ること無きに、當に何處に〔=於〕有の相續や有らん。
當に知るべし有の相續有るは皆、愚癡顚倒に從るが故に有りと。
實の中には〔=則〕無し」と。
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