中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀時品・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(24)


中論卷の第三

  龍樹菩薩造

  梵志靑目釋

  姚秦三藏鳩摩羅什譯す



■中論觀時品第十九//六偈

問曰。應有時以因待故成。因有過去時。則有未來現在時。因現在時。有過去未來時。因未來時。有過去現在時。上中下一異等法。亦相因待故有。答曰。

問へらく〔=曰〕、

「應に時ぞ有らん。

 因待を以ての故、成じたり。

 過去時有るに因りぞ〔=則〕未來・現在時有り。

 現在時に因り過去・未來時有り。

 未來時に因り過去・現在時有り。

 上中下一異等の法、ともに〔=亦〕相ひ因待するが故に有り」と。

答へらく〔=曰〕、


 若因過去時  有未來現在

 未來及現在  應在過去時

若因過去時。有未來現在時者。則過去時中。應有未來現在時。何以故。隨所因處有法成。是處應有是法。如因燈有明成。隨有燈處應有明。如是因過去時。成未來現在時者。則過去時中。應有未來現在時。若過去時中。有未來現在時者。則三時盡名過去時。何以故。未來現在時。在過去時中故。若一切時盡過去者。則無未來現在時。盡過去故。若無未來現在時。亦應無過去時。何以故。過去時因未來現在時故。名過去時。如因過去時成未來現在時。如是亦應因未來現在時成過去時。今無未來現在時故。過去時亦應無。是故先說。因過去時成未來現在時。是事不然。若謂過去時中無未來現在時。而因過去時成未來現在時。是事不然。何以故。

≪若し過去時に因り

  未來・現在有らば

 未來及び現在

  應に過去時に在らん≫

「若し過去時に因り未來・現在時有らば〔=者〕則ち、過去時中に應に未來・現在時は有らん。

 何を以ての故に。

 所因の處の隨に法の成有らば。

 是處、應に是の法有らん。

 燈に因り明の成有り。

 燈有る處の隨に應に明有るが如く、是の如くに過去時に因り未來・現在時成ず。

 しからば〔=者〕則ち過去時中に應に未來・現在時は有らん。

 若し過去時中に未來・現在時有らば〔=者〕則ち三時盡くに過去時と名づけん。

 何を以ての故に。

 未來・現在時、過去時中に在るが故に。

 若し一切時、盡く過去なれば〔=者〕則ち、未來・現在時無し。

 盡く過去なれば〔=故〕。

 若し未來・現在時無くば亦應に、過去時も無し。

 何を以ての故に。

 過去時、未來・現在時に因るが故に過去時と名づけたり。

 過去時に因り未來・現在時成ずるが如く、是の如くに亦應に未來・現在時に因り過去時を成じたり。

 今、未來・現在時無くば〔=故〕過去時も〔=亦〕應に無し。

 是の故に先きに說きたり、≪過去時に因り未來・現在時成ずとは、是の事、然らず≫と。

 若し『過去時中の未來・現在時無きも〔=而〕過去時に因り未來・現在時を成ず』と謂はば是の事、然らず。

 何を以ての故に。


 若過去時中  無未來現在

 未來現在時  云何因過去

若未來現在時。不在過去時中者。云何因過去時。成未來現在時。何以故。若三時各異相。不應相因待成。如瓶衣等物各自別成不相因待。而今不因過去時。則未來現在時不成。不因現在時。則過去未來時不成。不因未來時。則過去現在時不成。汝先說過去時中。雖無未來現在時。而因過去時。成未來現在時者。是事不然。問曰。若不因過去時。成未來現在時。而有何咎。答曰。

≪若し過去時中に

  未來・現在無くば

 未來・現在時

  云何んが過去に因る≫

 若し未來・現在時、過去時中に不在ならば〔=者〕云何んが過去時に因り未來・現在時は成じたる。

 何を以ての故に。

 若し三時各に異相ならば應に相ひ因待しては成ぜず。

 瓶衣等の物各自に別なり。

 それら相ひ因待して成ぜぬが如くに。

 而れど今、過去時に因らずば〔=則〕未來・現在時、成ぜず。

 現在時に因らずば〔=則〕過去・未來時、成ぜず。

 未來時に因らずば〔=則〕過去・現在時、成ぜず。

 汝、先說すらく、『過去時中に未來・現在時無くも〔=雖〕而れど過去時に因り未來・現在時成ず』とは〔=者〕是の事、然らず」と。

問へらく〔=曰〕、

「若し過去時に因らず未來・現在時成じて〔=而〕何の咎有る」と。

答へらく〔=曰〕、


 不因過去時  則無未來時

 亦無現在時  是故無二時

不因過去時。則不成未來現在時。何以故。若不因過去時。有現在時者。於何處有現在時。未來亦如是。於何處有未來時。是故不因過去時。則無未來現在時。如是相待有故。實無有時。

≪過去時に因らずば

  〔=則〕未來時無し

 (亦)現在時も無し

  是の故、二時無し≫

「過去時に因らずば〔=則〕未來・現在時成ぜず。

 何を以ての故に。

 若し過去時に因らず現在時有らば〔=者〕何處に〔=於〕か現在時有る。

 未來も〔=亦〕是の如し。

 何處に〔=於〕か未來時有る。

 是の故、過去時に因らずば〔=則〕未來・現在時無し。

 是の如く相待し有らば〔=故〕實には時、有ること無し。


 以如是義故  則知餘二時

 上中下一異  是等法皆無

以如是義故。當知餘未來現在亦應無。及上中下一異等諸法亦應皆無。如因上有中下。離上則無中下。若離上有中下。則不應相因待。因一故有異。因異故有一。若一實有不應因異而有。若異實有。不應因一而有。如是等諸法。亦應如是破。問曰。如有歲月日須臾等差別故知有時。答曰。

≪是の如き義を以ての故に

  則ち知れ、餘の二時

 上中下、一異

  是等の法皆無なりと≫

 是の如き義を以ての故に當に知るべし、餘の未來・現在も亦應に無しと。

 及び上中下一異等の諸法も亦應に皆無なりと。

 上に因り中下有り。

 上を離るれば〔=則〕中下無きが如くに。

 若し上を離れ中下有らば〔=則〕應に相ひ因待せず。

 一に因るが故、異有り。

 異に因るが故、一有り。

 若し一、實有ならば應に異に因り〔=而〕有るならず。

 若し異、實有ならば應に一に因り〔=而〕有るならず。

 是の如き等の諸法、亦應に是の如く破せ」と。

問へらく〔=曰〕、

「歲、月、日、須臾等の差別有るが如く、かるが故に時有るを知らん」と。

答へらく〔=曰〕、


 時住不可得  時去亦叵得

 時若不可得  云何說時相

 因物故有時  離物何有時

 物尚無所有  何況當有時

時若不住不應可得。時住亦無。若時不可得。云何說時相。若無時相則無時。因物生故則名時。若離物則無時。上來種種因緣破諸物。物無故何有時。

≪時の住は不可得

  時の去も〔=亦〕得叵〔難〕し

 時ぞ(若)不可得なるに

  云何んが時の相を說く

 物に因りて〔=故〕ぞ時有る

  物を離れ何ぞ時有る

 物だに〔=尚〕無所有

  何を況んや當に時の有をや≫

 時、(若)不住ならば應に得可くもなし。

 時、住しても〔=亦〕、無し。

 (若)時、得可くもなくば云何んが時の相を說く。

 (若)時の相無くば〔=則〕時は無し。

 物に因り生ずれば〔=故〕則ち時と名づけり。

 若し物を離るれば〔=則〕時無し。

 上來に種種の因緣に諸物を破したり。

 物だに無きに〔=故〕何の時や有る」と。






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000