中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀合品・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(18)


中論卷の第二

  龍樹菩薩造

  梵志靑目釋

  姚秦三藏鳩摩羅什譯す



■中論觀合品第十四、八偈

說曰。上破根品中。說見所見見者皆不成。此三事無異法故則無合。無合義今當說。問曰。何故眼等三事無合。答曰。

說へらく〔=曰〕、

「上の破根品中に『見、所見、見者皆成ぜず』と說きたり。

 此の三事、異法無くば〔=故」則ちその合も無し。

 合無きの義、今當に說かん」と。

問へらく〔=曰〕、

「何故に眼等の三事、その合無き」と。

答へらく〔=曰〕、


 見可見見者  是三各異方

 如是三法異  終無有合時

見是眼根。可見是色塵。見者是我。是三事各在異處終無合時。異處者。眼在身內色在身外。我者或言在身內。或言遍一切處。是故無合。復次若謂有見法。爲合而見不合而見。二俱不然。何以故。若合而見者。隨有塵處應有根有我。但是事不然。是故不合。若不合而見者。根我塵各在異處亦應有見。而不見。何以故。如眼根在此不見遠處瓶。是故二俱不見。問曰。我意根塵。四事合故有知生。能知瓶衣等萬物。是故有見可見見者。答曰。是事根品中已破。今當更說。汝說四事合故知生。是知爲見瓶衣等物已生。爲未見而生。若見已生者。知則無用。若未見而生者。是則未合。云何有知生。若謂四事一時合而知生。是亦不然。若一時生則無相待。何以故。先有瓶次見後知生。一時則無先後。知無故見可見見者亦無。如是諸法如幻如夢無有定相。何得有合。無合故空。復次。

≪見・可見・見者

  是の三、各に異方なり

 是の如き三法、異なり

  終にその合時、有ること無し≫

「見は是れ眼根。

 可見は是れ色塵。

 見者は是れ我。

 是れら三事、各に異處に在り。

 終に合す時無し。

 異處とは〔=者〕、眼は身內に在りるも色は身外に在り。

 我は〔=者〕或は言さく『身內に在り』と。

 或は言さく『遍く一切處にあり』と。

 是の故、その合無し。

 復、次に若し『見法有り』と謂はば、合して〔=而〕見るとせ〔=爲〕んも、不合にして〔=而〕見るとせんも、二俱に然らず。

 何を以ての故に。

 若し合して〔=而〕見れば〔=者〕塵有る處の隨に應に根有り、我有り。

 但に是の事、然らず。

 是の故、不合なり。

 若し不合にして〔=而〕見れば〔=者〕根・我・塵、各に異處に在り。

 亦應に見有るべし。

 而も見ず。

 何を以ての故に。

 眼根、此れに在らば、遠處の瓶をは見ず。

 是の故、二俱には不見なり」と。

問へらく〔=曰〕、

「我、意、根、塵、四事合するが故、知の生ずる有り。

 能く瓶衣等の萬物を知る。

 是の故、見・可見・見者有り」と。

答へらく〔=曰〕、

「是の事、根品中に已に破したり。

 今當に更に說かん。

 汝說けらく、『四事合すれば〔=故〕知、生ず』と。

 是の知、瓶衣等の物を見已はりて生じたりとせ〔=爲〕ん。

 未見にして〔=而〕生じたりとせ〔=爲〕ん。

 若し見已はり生ずれば〔=者〕知には〔=則〕用無し。

 若し未見にして〔=而〕生ずれば〔=者〕是れ則ち未だ合せず。

 云何んが知の生有らん。

 若し『四事一時に合して〔=而〕知、生ず』と謂はば是れも〔=亦〕然らず。

 若し一時に生ぜば〔=則〕相待無し。

 何を以ての故に。

 先きに瓶有り。

 次に見、後ちに知、生ず。

 一時ならば〔=則〕先後無し。

 知、無くば〔=故〕見・可見・見者も〔=亦〕無し。

 是の如き諸法、幻の如し、夢の如し、定相有ること無し。

 何ぞ合、有り得ん。

 合無くば〔=故〕空なり。

 復、次に、


 染與於可染  染者亦復然

 餘入餘煩惱  皆亦復如是

如見可見見者無合故。染可染染者亦應無合。如說見可見見者三法。則說聞可聞聞者餘入等。如說染可染染者。則說瞋可瞋瞋者餘煩惱等。復次。

≪染、可染と〔=與〕

  染者に〔=於〕も亦復に然れり

 餘の入、餘の煩惱

  皆、亦復に是の如し≫

 見・可見・見者に合無きが如く、故に染・可染・染者にも亦應に合無し。

 見・可見・見者の三法に說くが如く、則ち聞・可聞・聞者、餘の入等にも說かん。

 染・可染・染者に說くが如く、則ち、瞋・可瞋・瞋者、餘の煩惱等にも說かん。

 復、次に、


 異法當有合  見等無有異

 異相不成故  見等云何合

凡物皆以異故有合。而見等異相不可得。是故無合。復次。

≪異法に當に合有り

  見等には異有ること無し

 異相、成ぜざれば〔=故〕

  見等、云何んが合す≫

 凡そ物皆、異を以ての故に合有り。

 而れど見等の異相、不可得なり。

 是の故に合無し。

 復、次に、


 非但見等法  異相不可得

 所有一切法  皆亦無異相

非但見可見見者等三事異相不可得。一切法皆無異相。問曰。何故無有異相。答曰。

≪但に見等の法

  異相不可得なるのみならず〔=非〕

 あらゆる〔所有〕一切法

  皆に亦、異相無し≫

 但に見・可見・見者等の三事の異相不可得なるのみに非らず。

 一切法皆、異相無し」と。

問へらく〔=曰〕、

「何故に異相有ること無き」と。

答へらく〔=曰〕、


 異因異有異  異離異無異

 若法從因出  是法不異因

汝所謂異。是異因異法故名爲異。離異法不名爲異。何以故。若法從衆緣生。是法不異因。因壞果亦壞故。如因樑椽等有舍。舍不異樑椽。樑椽等壞舍亦壞故。問曰。若有定異法。有何咎。答曰。

≪異、異に因り異有り

  異、異を離れ異無し

 若し法、因從り出づれば

  是の法、因に異ならず≫

「汝が所謂る異、是の異は異法に因れり。

 故に名づけて異とす〔=爲〕。

 異法を離るれば名づけて異とせ〔=爲〕ず。

 何を以ての故に。

 若し法、衆緣從り生ぜば是の法、因に異ならず。

 因、壞すれば果も〔=亦〕壞す。

 この故に。

 樑椽等に因り舍有るが如し。

 舍、樑椽に異ならず。

 樑椽等壞すれば舍も〔=亦〕壞するが故に」と。

問へらく〔=曰〕、

「若し異法、定有らば何の咎有る」と。

答へらく〔=曰〕、


 若離從異異  應餘異有異

 離從異無異  是故無有異

若離從異有異法者。則應離餘異有異法。而實離從異無有異法。是故無餘異。如離五指異有拳異者拳異。應於瓶等異物有異。今離五指異。拳異不可得。是故拳異。於瓶等無有異法。問曰。我經說。異相不從衆緣生。分別總相故有異相。因異相故有異法。答曰。

≪若し異從り離れ異なれば

  應に餘の異に異有らん

 異從り離れ異無し

  是の故、異有ること無し≫

「若し異從り離れ異法有らば〔=者〕則ち、應に餘の異を離れ異法有り。

 而れど實には異從り離れ異法有ること無し。

 是の故、餘の異無し。

 五指の異を離れ拳の異有らば〔=者〕拳の異、應に瓶等の異物に〔=於〕異有らん。

 この如く、今、五指の異を離れ拳の異、不可得なり。

 是の故、拳の異、瓶等に〔=於〕異法有ること無し」と。

問へらく〔=曰〕、

「我が經に說けらく、

 ≪異相、衆緣從り生ぜず。

  分別と總相の故に異相有り。

  異相に因るが故に異法有り≫と」と。

答へらく〔=曰〕、


 異中無異相  不異中亦無

 無有異相故  則無此彼異

汝言分別總相故有異相。因異相故有異法。若爾者。異相從衆緣生。如是即說衆緣法。是異相離異法不可得故。異相因異法而有。不能獨成。今異法中無異相。何以故。先有異法故何用異相。不異法中亦無異相。何以故。若異相在不異法中。不名不異法。若二處俱無。即無異相。異相無故此彼法亦無。復次異法無故亦無合。

≪異中に異相無し

  不異中にも〔=亦〕無し

 異相有ること無くば〔=故〕

  則ち此彼の異も無し≫

「汝言さく、『分別と總相の故に異相有り、異相に因るが故に異法有り』と。

 若し爾らば〔=者〕異相、衆緣從り生じたり。

 是の如き、即ち衆緣の法を說きたり。

 是の異相、異法を離れ不可得なり。

 故に異相、異法に因りて〔=而〕有り。

 獨り成ず能はず。

 今、異法中に異相無し。

 何を以ての故に。

 すでに〔=先〕異法有るに〔故〕、何ぞ異相を用ふ。

 不異法中にも〔=亦〕異相無し。

 何を以ての故に。

 若し異相、不異法中に在らば異法と名づけず。

 若し二處俱に無くば即ち異相無し。

 異相無くば〔=故〕此彼の法も〔=亦〕無し。

 復、次に異法無くば〔=故〕(亦)合も無し。


 是法不自合  異法亦不合

 合者及合時  合法亦皆無

是法自體不合。以一故。如一指不自合。異法亦不合。以異故。異事已成不須合故。如是思惟。合法不可得。是故說合者合時合法。皆不可得。

中論卷第二

≪是の法、自らに合せず

  異法にも〔亦=〕合せず

 合者、及び合時

  合法も〔=亦〕皆、無し≫

 是の法、自體に合せず。

 一なるを以ての故に。

 一指、自らに合せざるが如くに。

 異法も亦合せず。

 異なるを以ての故に。

 異事已に成ぜば合をは須〔用〕ひざるが故に。

 是の如く思惟せば合法、不可得なり。

 是の故に說きたり、≪合者、合時、合法、皆に不可得なり≫と」と。

中論卷第二






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000