中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀三相品2・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(10)
中論卷の第二
龍樹菩薩造
梵志靑目釋
姚秦三藏鳩摩羅什譯す
生非生已生 亦非未生生
生時亦不生 去來中已答
生名衆緣和合有生。已生中無作故無生。未生中無作故無生。生時亦不然。離生法生時不可得。離生時生法亦不可得。云何生時生。是事去來中已答。已生法不可生。何以故。生已復生。如是展轉則爲無窮。如作已復作。復次若生已更生者。以何生法生。是生相未生。而言生已生者。則自違所說。何以故。生相未生而汝謂生。若未生謂生者。法或可生已而生。或可未生而生。汝先說生已生。是則不定。復次如燒已不應復燒。去已不應復去。如是等因緣故。生已不應生。未生法亦不生。何以故。法若未生。則不應與生緣和合。若不與生緣和合。則無法生。若法未與生緣和合而生者。應無作法而作。無去法而去。無染法而染。無恚法而恚。無癡法而癡。如是則皆破世間法。是故未生法不生。
◎
≪生、生じ已はりて生ずるに非らず
(亦)未だ生ぜず生ずるにも非らず
生時も〔=亦〕生ぜず
去來中に已に答へたり≫
生、衆緣和合して生有るに名づく。
已生中に作無きが故に生無し。
未生中にも作無きが故に生無し。
生時にも〔=亦〕然らず。
生法を離れ生時、不可得なり。
生時を離れ生法も亦、不可得なり。
云何んが生時に生じん。
是の事、去來中に已に答へたり。
已生の法、生ず可くもなし。
何を以ての故に。
生じ已はり復に生ず、是の如き展轉は〔=則〕無窮なり〔=爲〕。
作し已はり復に作すが如くに。
復、次に若し生じ已はり更に生ぜば〔=者〕何づれの生法を以て生じたる。
是の生相、未生なり。
而れども『生じ已はりて生ず』と言はば〔=者〕則ち、自らの所說に違へり。
何を以ての故に。
生相、未生にして〔=而〕汝、『生ず』と謂ひたり。
若し未生にして『生ず』と謂はば〔=者〕法、或は生じ已はりて而して生ず可し。
或は未生にして而れど生ず可し。
汝、先きに『生じ已はりて生ず』と說きたる是れ則ち、不定なり。
復、次に燒き已はれるに應に復に燒かじ。
去り已はれるに應に復に去らじ。
是の如き等の因緣の故、生じ已はれるに應に生ずべからじ。
未生法も〔=亦〕生ぜず。
何を以ての故に。
法、若し未生ならば〔=則〕應に生の緣と〔=與〕和合すべからず。
若し生の緣と〔=與〕和合せずば〔=則〕法の生ずること無し。
若し法、未だ生緣と〔=與〕和合せざるに(而)生ぜば〔=者〕應に、作法無くして〔=而〕作りたり。
去法無くして〔=而〕去りたり。
染法無くして〔=而〕染みたり。
恚法無くして〔=而〕恚るたり。
癡法無くして〔=而〕癡したり。
是の如きは〔=則〕皆、世間法を破ぶれり。
是の故、未生法、生ぜず。
復次若未生法生者。世間未生法皆應生。一切凡夫未生菩提今應生菩提不壞法。阿羅漢無有煩惱。今應生煩惱。兎等無角今皆應生。但是事不然。是故未生法亦不生。問曰。未生法不生者。以未有緣無作無作者無時無方等故不生。若有緣有作有作者有時有方等和合故未生法生。是故若說一切未生法皆不生。是事不爾。答曰。若法有緣有時有方等和合則生者。先有亦不生。先無亦不生。有無亦不生。三種先已破。是故生已不生。未生亦不生。生時亦不生。何以故。已生分不生。未生分亦不生。如先答。復次若離生有生時者。應生時生。但離生無生時。是故生時亦不生。復次若言生時生者。則有二生過。一以生故名生時。二以生時中生。二皆不然。無有二法。云何有二生。是故生時亦不生。復次生法未發則無生時。生時無故生何所依。是故不得言生時生。如是推求。生已無生。未生無生。生時無生。無生故生不成。生不成故住滅亦不成。生住滅不成故有爲法不成。是故偈中說去未去去時中已答。問曰。我不定言生已生未生生生時生。但衆緣和合故有生。答曰。汝雖有是說。此則不然。何以故。
◎
復、次に若し未生法、生ぜば〔=者〕世間の未生の法皆に應に生じん。
一切凡夫の未生の菩提、今應に菩提不壞の法を生じん。
阿羅漢の煩惱有ること無きに、今應に煩惱ぞ生じん。
兎等、角無きに今皆、應に生じん。
但、是の事然らず。
是の故、未生法も〔=亦〕生ぜず」と。
問へらく〔=曰〕、
「未生法、生ぜずば〔=者〕未だ緣有らざるを以て作無く、作者無く、時無く、方等無きが故にぞ生まれざりき。
若し緣有り、作有り、作者有り、時有り方等有りて和合せば〔=故〕未生法は生ず。
是の故に(若)『一切未生法皆に生ぜず』と說かば是の事、爾らず」と。
答へらく〔=曰〕、
「若し法、緣有り、時有り、方等有り和合して則ち生ぜば〔=者〕、先有も亦、生せず。
先無も亦、生ぜず。
有無も亦、生ぜず。
三種、先きに已に破したり。
是の故、生じ已はりて生ぜず。
未生なるも〔=亦〕生ぜず。
生時も〔=亦〕生ぜず。
何を以ての故に。
已生の分、生ぜざれば。
未生の分も亦生ぜざれば。
先きに答へたるが如くに。
復、次に若し生を離れ生時有らば〔=者〕應に生時に生じん。
但、生を離れ生時無し。
是の故、生時にも〔=亦〕生ぜず。
復、次に若し『生時に生ず』と言はば〔=者〕則ち二生の過有り。
一には生を以ての故に生時と名づけたり。
二には生時中を以て生じたり。
この二皆、然らず。
二法有ること無きに云何んが二生有らん。
是の故、生時にも〔=亦〕生ぜず。
復、次に生法、未だ發せざれば〔=則〕生時無し。
生時無きに〔=故〕何の所依に生ず。
是の故、『生時に生ず』とは言ひ得ず。
是の如く推求せば生じ已はりて生、無し。
未生にして生、無し。
生時に生、無し。
生、無きが故に生、成ぜず。
生、成ぜざるが故に住も滅も〔=亦〕成ぜず。
生・住・滅、成ぜざるが故に有爲法も成ぜず。
是の故、偈中に≪去・未去・去時中に已に答へたり≫と說きたり」と。
問へらく〔=曰〕、
「我、定んで『生じ已はりて生じ、未生にして生じ、生時に生ず』とは言はず。
但に衆緣和合の故に生有るのみ」と。
答へらく〔=曰〕、
「汝に是の說有れど〔=雖〕此れだに則ち、然らず。
何を以ての故に。
若謂生時生 是事已不成
云何衆緣合 爾時而得生
生時生已種種因緣破。汝今何以更說衆緣和合故有生。若衆緣具足不具足。皆與生同破。復次。
◎
≪若し生時に生ずと謂はば
是の事、已に不成
云何んが衆緣、合す
爾の時(而)生じ得ん≫
生時の生、已に種種の因緣に破したり。
汝、今何ぞ〔=以〕更らに『衆緣和合の故に生有り』と說く。
(若)衆緣の具足も不具足も皆に生と〔=與〕同じきに破したり。
復、次に、
若法衆緣生 即是寂滅性
是故生生時 是二俱寂滅
衆緣所生法。無自性故寂滅。寂滅名爲無。此無彼無相。斷言語道滅諸戲論。衆緣名。如因縷有布因蒲有席。若縷自有定相。不應從麻出。若布自有定相。不應從縷出。而實從縷有布。從麻有縷。是故縷亦無定性。布亦無定性。如燃可燃因緣和合成。無有自性。可燃無故燃亦無。燃無故可燃亦無。一切法亦如是。是故從衆緣生法無自性。無自性故空如野馬無實。是故偈中說生與生時二俱寂滅。不應說生時生。汝雖種種因緣欲成生相。皆是戲論非寂滅相。問曰。定有三世別異。未來世法得生。因緣即生。何故言無生。答曰。
◎
≪若し法、衆緣に生ぜば
即ち是れ寂滅性
是の故に生・生時
是の二俱に寂滅≫
衆緣に所生の法、その自性無きが故、寂滅なり。
寂滅を名づけ無とす〔=爲〕。
此の無、彼の無相、言語の道を斷じ諸の戲論を滅す。
衆緣の名、縷〔糸〕に因り布有り、蒲〔がま〕に因り蓆〔むしろ〕有るが如き。
若し縷、自らの定相有らば應に麻從り出でじ。
若し布、自らの定相有らば應に縷從り出でじ。
而れど實に縷從り布有り。
麻從り縷有り。
是の故、縷も〔=亦〕その定性無し。
布も〔=亦〕その定性無し。
燃・可燃、因緣和合して成じ、その自性有ること無し。
可燃、無きが故、燃も〔=亦〕無し。
燃、無きが故、可燃も〔=亦〕無し。
一切法も〔=亦〕是に如し。
是の故、衆緣從り生ずる法にその自性は無し。
自性無くば〔=故〕空なり。
野馬の實無きが如くに。
是の故、偈中に說けらく≪生、生時と〔=與〕二俱に寂滅なり≫と。
應に生時の生を說くべからず。
汝、種種の因緣に生相を成ぜん〔=欲〕とせど〔=雖〕皆、是れ戲論なり。
寂滅相に非らず」と。
問へらく〔=曰〕、
「三世の別異は定有なり。
未來世の法、生じ得。
因緣に即ち生ず。
何故に『生無し』と言ふ」と。
答へらく〔=曰〕、
若有未生法 說言有生者
此法先已有 更復何用生
若未來世中。有未生法而生。是法先已有。何用更生。有法不應更生。問曰。未來雖有。非如現在相。以現在相故說生。答曰。現在相未來中無。若無云何言未來生法生。若有不名未來。應名現在。現在不應更生。二俱無生故不生。復次汝謂生時生亦能生彼。今當更說。
◎
≪若し未生法有り
說いて生者有りと言はば
此の法、先きに已に有るに
更に復、何んが生を用ふ≫
(若)未來世中に未生法有りて〔=而〕生ぜば是の法、先きに已に有り。
何んが更に生を用ふ。
法有らば應に更に生ずべからず」と。
問へらく〔=曰〕、
「未來に有れど〔=雖〕現在相の如くに非らず。
現在相となるを以ての故に『生ず』と說きたり」と。
答へらく〔=曰〕、
「現在相、未來中に無し。
若し無くば云何んが未來の生法の生を言はん。
若し有らば未來とは名づけず。
應に現在と名づくべし。
現在は應に更に生ずべからず。
二俱に生無くば〔=故〕生ぜず。
復、次に汝、『生時に生じ亦、能く彼をも生ず』と謂はば、今當に更らに說かん。
若言生時生 是能有所生
何得更有生 而能生是生
若生生時能生彼。是生誰復能生。
◎
≪若し生時に生ずと言はば
是れ能く所生有り
何んが更に、生有りて
〔=而〕能く是の生を生ずるを得ん≫
若し生、生時に能く彼をも生ぜば是の生、誰か復能く生じたる。
若謂更有生 生生則無窮
離生生有生 法皆能自生
若生更有生。生則無窮。若是生更無生而自生者。一切法亦皆能自生。而實不爾。復次。
◎
≪若し更なる生有りと謂はば
生じ生じて則ち無窮
生を離れ生の生有らば
法皆、能く自生せん≫
若し生に更らに生有らば生、則ち無窮なり。
若し是の生、更らに生無くして〔=而〕自生せば〔=者〕一切法、亦皆に能く自生せん。
而れど實には爾らず。
復、次に、
有法不應生 無亦不應生
有無亦不生 此義先已說
凡所有生。爲有法有生。爲無法有生。爲有無法有生。是皆不然。是事先已說。離此三事更無有生。是故無生。復次。
◎
≪有法、應に生ぜず
無も〔=亦〕應に生ぜず
有無も〔=亦〕に生ぜず
此の義、先きに已に說きたり≫
凡そ、ありとあらゆる〔=所有〕生、有法にして生有りとせ〔=爲〕んも、無法にして生有りとせ〔=爲〕んも、有無法にして生有りとせ〔=爲〕んも、是れら皆、然らず。
是の事、先きに已に說きたり。
此れら三事を離れ更に生、有ること無し。
是の故、生は無し。
復、次に、
若諸法滅時 是時不應生
法若不滅者 終無有是事
若法滅相是法不應生。何以故。二相相違故。一是滅相。知法是滅。一是生相。知法是生。二相相違法。一時則不然。是故滅相法不應生。問曰。若滅相法不應生。不滅相法應生。答曰。一切有爲法念念滅故。無不滅法離有爲。無有決定無爲法。無爲法但有名字。是故說不滅法終無有是事。問曰。若法無生應有住。答曰。
◎
≪(若)諸法の滅時
是の時、應に生じず
法の(若)不滅も〔=者〕
終に是の事、有ること無し≫
若し法、滅相ならば是の法應に生ずべからず。
何を以ての故に。
二相、相違するが故に。
一には是れ滅相、法是れ滅なりと知れり。
一には是れ生相、法是れ生なりと知れり。
二相相違の法、一時なるは〔=則〕然らず。
是の故、滅相の法、應に生ずべからず」と。
問へらく〔=曰〕、
「若し滅相の法、應に生ずべからざれば不滅相の法、應に生じん」と。
答へらく〔=曰〕、
「一切の有爲法、念念に滅せば〔=故〕不滅法無し。
有爲を離れ決定して無爲なる法、有ること無し。
無爲法、但に名字のみ有り。
是の故に說けらく、≪不滅法、終に是の事有ること無し≫と」と。
問へらく〔=曰〕、
「(若)法、生ずる無くも應に住ぞ有らん」と。
答へらく〔=曰〕、
不住法不住 住法亦不住
住時亦不住 無生云何住
不住法不住。無住相故。住法亦不住。何以故。已有住故。因去故有住。若住法先有。不應更住。住時亦不住。離住不住更無住時。是故亦不住。如是一切處求住不可得故。即是無生。若無生云何有住。復次。
◎
≪不住法は不住
住法も〔=亦〕不住
住時も〔=亦〕不住
生無きに云何んが住す≫
「不住法、住せず。
住相無きが故に。
住法も〔=亦〕住せず。
何を以ての故に。
已に住有るが故に。
去に因るが故、住有り。
若し住法先きに有らば應に更らに住さじ。
住時にも〔=亦〕住せず。
住・不住を離れ更らに住時無し。
是の故、亦も住せず。
是の如き一切處に住を求むれど不可得なれば〔=故〕、即是にして生、無し。
(若)生だに無きに云何んが住のみ有る。
復、次に、
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