中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀染染者品・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(8)


中論卷の第一

  龍樹菩薩造

  梵志靑目釋

  姚秦三藏鳩摩羅什譯す



■中論觀染染者品第六、十偈

問曰。經說貪欲瞋恚愚癡。是世間根本。貪欲有種種名。初名愛次名著次名染次名婬欲。次名貪欲。有如是等名字此是結使。依止衆生衆生名染者。貪欲名染法。有染法染者故。則有貪欲。餘二亦如是。有瞋則有瞋者。有癡則有癡者。以此三毒因緣起三業。三業因緣起三界。是故有一切法答曰。經雖說有三毒名字。求實不可得。何以故。

問へらく〔=曰〕、

「經に說けらく、

 ≪貪欲、瞋恚、愚癡。

  是れ世間の根本なり≫と。

 貪欲に種種の名有り。

 初めは愛と名づく。

 次は著と名づく。

 次は染と名づく。

 次は婬欲と名づく。

 次は貪欲と名づく。

 是の如き等の名字有り。

 此れら、是れぞ結使なり。

 衆生、依止したり。

 衆生、染者と名づく。

 貪欲、染法を名づく。

 染法、染者有るが故にぞ〔=則〕貪欲は有り。

 餘の二も〔=亦〕是の如し。

 瞋有り、則ち瞋者有り。

 癡有り、則ち癡者有り。

 此れら三毒の因緣に〔=以〕三業、起こりき。

 三業の因緣に三界は起こりき。

 是の故、一切法は有り」と。

答へらく〔=曰〕、

「經、≪三毒の名字有り≫と說くも〔=雖〕求めて實には不可得なり。

 何を以ての故に。


 若離於染法  先自有染者

 因是染欲者  應生於染法

 若無有染者  云何當有染

 若有若無染  染者亦如是

若先定有染者。則不更須染。染者先已染故。若先定無染者。亦復不應起染。要當先有染者然後起染。若先無染者。則無受染者。染法亦如是。若先離人定有染法。此則無因。云何得起似如無薪火。若先定無染法。則無有染者。是故偈中說若有若無染。染者亦如是。問曰。若染法染者先後相待生。是事不可得者。若一時生有何咎。答曰。

≪若し染法を〔=於〕離れ

  先きに自ら染者有らば

 是の染欲者に因り

  應に染法は〔=於〕生ず

 若し染者有ること無くば

  云何んが當に染は有る

 若しは染有るも、若しは無きも

  染者も亦に是の如し≫

 若し先きに染者先有ならば〔=則〕更には染を用ひず。

 染者先きに已に染するが故に。

 若し先きに染者定無ならば亦復に應に染は起こるべからず。

 要〔必〕らず當に先きに染者有り、然して後ちに染は起こる。

 (若)先きに染者無くば〔=則〕、受染者も無し。

 染法も〔=亦〕是の如し。

 若し先きに人を離れ定んで染法有らば此れ、則ち無因なり。

 云何んが起を得ん。

 薪〔たきぎ〕無き火のごとし〔=似如〕。

 若し先きに染法定無ならば〔=則〕、染者有ること無し。

 是の故、偈中に說きたり、≪若し染有るも、若し無きも、染者も〔=亦〕是の如し≫と」と。

問へらく〔=曰〕、

「(若)染法、染者、その先後相待して生ずること、是の事不可得ならん。

 しからば〔=者〕(若)一時に生じて何の咎有る」と。

答へらく〔=曰〕、


 染者及染法  俱成則不然

 染者染法俱  則無有相待

若染法染者一時成。則不相待。不因染者有染法。不因染法有染者。是二應常。已無因成故。若常則多過。無有解脫法。復次今當以一異法。破染法染者。何以故。

≪染者、及び染法

  俱成するは〔=則〕然らず

 染者、染法俱なれば

  〔=則〕その相待、有ること無し≫

 若し染法と染者と一時に成ぜば〔=則〕相待せず。

 染者に因らず染法有り。

 染法に因らず染者有り。

 是れら二、應に常なり。

 已に無因にして成じたれば〔=故〕。

 若し常ならば〔=則〕その過多し。

 その解脫法有ること無し。

 復、次に今當に一異法に〔=以〕染法、染者を破さん。

 何を以ての故に。


 染者染法一  一法云何合

 染者染法異  異法云何合

染法染者。若以一法合。若以異法合。若一則無合。何以故。一法云何自合。如指端不能自觸。若以異法合。是亦不可。何以故。以異成故。若各成竟不須復合。雖合猶異。復次一異俱不可。何以故。

≪染者、染法、一ならば

  一法、云何んが合す

 染者、染法、異ならば

  異法、云何んが合す≫

 染法と染者と、若しは一法なるを以て合すや。

 若しは異法なるを以て合すや。

 若し一ならば〔=則〕その合、無し。

 何を以ての故に。

 一法、云何んが自ら合さん。

 指端、自ら觸るる能はざるが如くに。

 若し異法なるを以て合せば是れも〔=亦〕不可。

 何を以ての故に。

 異を以て成じたるが故に。

 若し各に成じ竟はれば復に合をは須〔用〕ひず。

 合すとも〔=雖〕猶も異なり。

 復、次に一異、俱に不可。

 何を以ての故に。


 若一有合者  離伴應有合

 若異有合者  離伴亦應合

若染染者一。强名爲合者。應離餘因緣而有染染者。復次若一。亦不應有染染者二名。染是法染者是人。若人法爲一。是則大亂。若染染者各異。而言合者。則不須餘因緣而有合。若異而合者。雖遠亦應合。問曰。一不合可爾。眼見異法共合。答曰。

≪若し一にして合有らば〔=者〕

  伴を離れ應に合有らん

 若し異にして合有らば〔=者〕

  伴を離れ亦も應に合さん≫

 若し染と染者と一なるを强ひて名づけ合とせ〔=爲〕ば〔=者〕應に餘の因緣を離れ而も染と染者と有れり。

 復、次に若し一なるも亦應に染と染者との二の名有らん。

 染、是れ法。

 染者、是れ人。

 若し人と法と一なら〔=爲〕ば、是れ則ち大亂なり。

 若し染と染者と各に異なりて〔=而〕合すと言はば〔=者〕則ち、餘の因緣を須〔用〕ひずして〔=而〕合有り。

 若し異にして〔=而〕合さば〔=者〕遠きだに〔=雖〕亦應に合さん。」

問へらく〔=曰〕、

「一にして合せざるは爾る可し。

 しかれど眼見に異法、共に合したり。」

答へらく〔=曰〕、


 若異而有合  染染者何事

 是二相先異  然後說合相

若染染者。先有決定異相。而後合者是則不合何以故。是二相先已異。而後强說合。復次。

≪若し異にして而も合有らば

  染と染者とは何の事ぞ

 是の二相、先きに異なり

  然る後ちに合相を說きたり≫

 若し染と染者と、先きに決定して異相有り、而る後に合せば〔=者〕是れ則ち合ならず。

 何を以ての故に。

 是の二相、先きに已に異なるを、而る後ちに强ひて合と說きたれば。

 復、次に、


 若染及染者  先各成異相

 既已成異相  云何而言合

若染染者先各成別相。汝今何以强說合相。復次。

≪若し染、及び染者

  先きに各に異相を成ぜば

 既に已にも異相を成じき

  云何んが而もその合を言ふ≫

 若し染と染者、先きに各に別相を成ぜば汝、今何を以て强ひて合相を說く。

 復、次に、


 異相無有成  是故汝欲合

 合相竟無成  而復說異相

汝已染染者異相不成故。復說合相。合相中有過。染染者不成。汝爲成合相故。復說異相。汝自已爲定。而所說不定。何以故。

≪異相の成、有ること無し

  是の故に汝、合を欲す

 合相、竟〔終〕その成は無し

  而して復に、異相を說く≫

 汝、已に染と染者との異相成ぜざるが故にぞ〔=復〕合相を說きたり。

 合相中に過有り。

 染と染者とは成ぜず。

 汝、合相を成ぜんが爲の故にぞ〔=復〕異相を說きたり。

 汝、自ら已に定と爲すも而れど所說、不定なり。

 何を以ての故に。


 異相不成故  合相則不成

 於何異相中  而欲說合相

以此中染染者異相不成故。合相亦不成。汝於何異相中而欲說合相。復次。

≪異相、成ぜざるが故

  合相は〔=則〕成ぜず

 何の異相中に〔=於〕

  (而)合相を說かん〔=欲〕とす≫

 此の中に染と染者との異相、成ぜざるを以ての故に合相も〔=亦〕成ぜず。

 汝、何の異相中に於て(而)合相を說かん〔=欲〕とすや。

 復、次に、


 如是染染者  非合不合成

 諸法亦如是  非合不合成

如染恚癡亦如是。如三毒一切煩惱一切法亦如是。非先非後非合非散。等因緣所成。

中論卷第一

≪是の如き染・染者

  合・不合、成ずるに非らず

 諸法も〔=亦〕是の如く

  合・不合、成ずるに非らず≫

 染の如く恚、癡も亦に是の如し。

 三毒の如く一切煩惱、一切法も〔=亦〕是の如く、先きに非らず後ちに非らず、合に非らず散に非らざるがごとく〔=等〕に因緣の所成なり」と。

中論卷第一







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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