中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀五陰品・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(6)
中論卷の第一
龍樹菩薩造
梵志靑目釋
姚秦三藏鳩摩羅什譯す
■中論觀五陰品第四、九偈
問曰。經說有五陰。是事云何。答曰。
◎
問へらく〔=曰〕、
「經說すらく、
≪五陰有り≫と。
是の事、云何ん」と。
答へらく〔=曰〕、
若離於色因 色則不可得
若當離於色 色因不可得
色因者。如布因縷。除縷則無布。除布則無縷。布如色縷如因。問曰若離色因有色。有何過。答曰。
◎
≪(若)色因を〔=於〕離れ
色は〔=則〕不可得
(若)當に色を〔=於〕離れ
色因は不可得≫
色因とは〔=者〕布の縷〔糸〕に因るが如し。
縷を除けば〔=則〕布無し。
布を除けば〔=則〕縷無し。
布、色に如く。
縷、因に如く」と。
問へらく〔=曰〕、
「若し色因を離れ色有らば、何の過有る」と。
答へらく〔=曰〕、
離色因有色 是色則無因
無因而有法 是事則不然
如離縷有布。布則無因。無因而有法。世間所無有。問曰。佛法外道法世間法中皆有無因法。佛法有三無爲。無爲常故無因。外道法中虛空時方神微塵涅槃等。世間法虛空時方等。是三法無處不有。故名爲常。常故無因。汝何以說無因法世間所無。答曰。此無因法但有言說。思惟分別則皆無。若法從因緣有。不應言無因。若無因緣則如我說。問曰。有二種因。一者作因。二者言說因。是無因法無作因。但有言說因。令人知故。答曰。雖有言說因。是事不然。虛空如六種中破。餘事後當破。復次現事尚皆可破。何況微塵等不可見法。是故說無因法世間所無。問曰。若離色有色因。有何過。答曰。
◎
≪色因を離れ色有らば
是の色は〔=則〕無因
無因にして〔=而〕法有るといふ
是の事は〔=則〕然らず≫
縷を離れ布有らばその布は〔=則〕無因なり。
この如く無因にして〔=而〕法有ること、世間に有るべくも無きこと〔=所無有〕なり」と。
問へらく〔=曰〕、
「佛法、外道法、世間法中に皆、無因の法有り。
佛法に三の無爲有り。
無爲、常なれば〔=故〕無因なり。
外道法中に虛空・時・方・神・微塵・涅槃等。
世間法に虛空・時・方等。
是れら三法、處として有らざる無し。
故に名づけて常と爲す。
常ならば〔=故〕に無因なり。
汝、何を以てか≪無因の法、世間に無かりき〔=所無〕≫と說きたる」と。
答へらく〔=曰〕、
「此れら無因の法、但に言說のみ有り。
思惟し分別せれば則ち皆無なり。
若し法、因緣に從り有らば應に無因と言はじ。
若し因緣無くば〔=則〕我が說の如し」と。
問へらく〔=曰〕、
「二種の因有り。
一は〔=者〕作因。
二は〔=者〕言說因。
是の無因の法、作因無し。
但に言說因のみ有りて人に知らしむる〔=令〕が故に」と。
答へらく〔=曰〕、
「言說因有れど〔=雖〕是の事、然らず。
虛空、六種中に破するが如く、餘事も後に當に破さん。
復、次に現事だに〔=尚〕皆、破す可きに何を況んや微塵等の不可見の法をや。
是の故、≪無因の法、世間に無かりき〔=所無〕≫と說きき」と。
問へらく〔=曰〕、
「若し色を離れ色因有らば、何の過有る」と。
答へらく〔=曰〕、
若離色有因 則是無果因
若言無果因 則無有是處
若除色果。但有色因者。即是無果因。問曰。若無果有因。有何咎。答曰。無果有因世間所無。何以故。以果故名爲因。若無果云何名因。復次若因中無果者。物何以不從非因生。是事如破因緣品中說。是故無有無果因。復次。
◎
≪若し色を離れ因有らば
則是に無果の因
若し無果の因を言はば
〔=則]是處は有ること無し≫
若し色果を除き但に色因のみ有らば〔=者〕即ち是れ、その果無き因なり」と。
問へらく〔=曰〕、
「若し無果にして因有らば何の咎有る」と。
答へらく〔=曰〕、
「無果にして因有ること、世間に無かりき〔=所無〕。
何を以ての故に。
果を以ての故に名づけて因とす〔=爲〕。
(若)その果無きに云何んが因と名づく。
復、次に若し因中に無果なれば〔=者〕物、何を以てか非因に從りて生ぜざる。
是の事、破因緣品中に說きたる如し。
是の故、無果なる因有ること無し。
復、次に、
若已有色者 則不用色因
若無有色者 亦不用色因
二處有色因。是則不然。若先因中有色。不名爲色因。若先因中無色。亦不名爲色因。問曰。若二處俱不然。但有無因色。有何咎。答曰。
◎
≪若し已に色有らば〔=者〕
〔=則〕色因をは用ひず
若し色有ること無くも〔=者〕
(亦)色因をは用ひず≫
二處に色因有れば是れ則ち、然らず。
若し先きに因中に色有らば名づけ色因とせ〔=爲〕ず。
若し先きに因中に色無くも〔=亦〕名づけ色因とせ〔=爲〕ず」と。
問へらく〔=曰〕、
「若し二處俱に然らずして但に無因なる色のみ有らば、何の咎有る」と。
答へらく〔=曰〕、
無因而有色 是事終不然
是故有智者 不應分別色
若因中有果因中無果。此事尚不可得何況無因有色。是故言無因而有色。是事終不然。是故有智者。不應分別色。分別名凡夫。以無明愛染貪著色。然後以邪見生分別戲論說因中有果無果等。今此中求色不可得。是故智者不應分別。復次。
◎
≪無因なり、而れど色有り
是の事終に然らず
是の故、有智者
應に色を分別せざれ≫
(若)因中に有果なるも、因中に無果なるも、此の事だに〔=尚〕不可得なり。
何を況んや無因にして色有るをや。
是の故に言さく、≪無因にして而も色有らば是の事、終に然らず。
是の故に有智者、應に色を分別せざれ≫と。
分別、凡夫と名づく。
無明、愛、染を以て色に貪著したり。
然る後、邪見に〔=以〕分別・戲論を生じ因中に有果、無果等を說く。
今此の中に色を求むるも不可得なりき。
是の故に智者、應に分別すべからず。
復、次に
若果似於因 是事則不然
果若不似因 是事亦不然
若果與因相似。是事不然。因細果麤故。因果色力等各異。如布似縷則不名布。縷多布一故。不得言因果相似。若因果不相似。是亦不然。如麻縷不成絹。麤縷無出細布。是故不得言因果不相似。二義不然。故無色無色因。
◎
≪若しは果、因に〔=於〕似たり
是の事は〔=則〕然らず
果、若しは因に似ず
是の事も〔=亦〕然らず≫
若し果、因と〔=與〕相似せば是の事、然らず。
因は細なり、果は麤なるが故に。
因果、色力等各に異なり。
布と縷、似たれど〔=則〕布と名づけず。
縷は多く、布は一なるが故に。
この如く、『因果は相似したり』とは言ひ得ず。
若し因果、相似せずば是れも〔=亦〕然らず。
麻〔ま〕縷〔ろ〕は絹〔けん〕を成ぜず。
麤〔そ〕縷〔ろ〕は細布を出だすこと無し。
この如くに。
是の故、『因果、相似せず』とも言ひ得ず。
二義、然らず。
故に色無し。
色因も無し。
受陰及想陰 行陰識陰等
其餘一切法 皆同於色陰
四陰及一切法。亦應如是思惟破。又今造論者。欲讚美空義故。而說偈。
◎
≪受陰及び想陰
行陰、識陰等
其の餘の一切法
皆に色陰に〔=於〕同じき≫
四陰及び一切法も〔=亦〕應に是の如く思惟し破せ。
又、今、造論者、空の義を讚美せん〔=欲〕が故、而して偈說すらく、
若人有問者 離空而欲答
是則不成答 俱同於彼疑
若人有難問 離空說其過
是不成難問 俱同於彼疑
若人論議時。各有所執。離於空義而有問答者。皆不成問答。俱亦同疑。如人言瓶是無常。問者言。何以故無常。答言。從無常因生故。此不名答。何以故。因緣中亦疑不知爲常爲無常。是爲同彼所疑。問者若欲說其過。不依於空而說諸法無常。則不名問難。何以故。汝因無常破我常。我亦因常破汝無常。若實無常則無業報。眼耳等諸法念念滅。亦無有分別。有如是等過。皆不成問難。同彼所疑。若依空破常者。則無有過。何以故。此人不取空相故。是故若欲問答。尚應依於空法。何況欲求離苦寂滅相者。
◎
≪若し人、問者有らんに
空なりを離なれ〔=而〕答へん〔=欲〕とせば
是れ則ち答へを成ぜず
俱なりて彼の疑に〔=於〕同じ
若し人、難問す有らんに
空なりを離れ其の過を說かば
是れ難問を成ぜず
俱なりて彼の疑に〔=於〕同じ≫
若し人、論議する時は各に所執有り。
空なりの義を〔=於〕離れて〔=而〕問答者有らば皆、問答を成ぜず。
俱に亦、疑に同じ。
人の、『瓶、是れ無常なり』と言ふが如し。
問者言さく、『何を以ての故に無常なる』と。
答へて言さく、『無常の因從り生ずれば〔=故〕』と。
此れを答ふとは名づけず。
何を以ての故に。
因緣中に亦、疑はしくて常なる〔=爲〕や無常なる〔=爲〕を知らず。
是れ彼の所疑に同じきなり〔=爲〕。
問者、若し其の過を說かん〔=欲〕とすも、空に〔=於〕依らず〔=而〕諸法無常を說かば〔=則〕難問〔=問難〕と名づけず。
何を以ての故に。
汝、無常に因り我が常を破したるも、我は亦、常に因りて汝が無常を破さん。
若し實に無常ならば〔=則〕業報も無し。
眼耳等の諸法、念念に滅し、亦に分別有ること無し。
是の如き等の過有り。
皆、難問〔=問難〕を成ぜざる彼の所疑に同じ。
若し空に依り常を破せば〔=者〕則ち、過有ること無し。
何を以ての故に。
此の人、空相を取らざるが故に。
是の故に若し問答せん〔=欲〕とせば、それだに〔=尚〕も應に空なりの法に〔=於〕依れ。
何を況んや離苦寂滅の相を求めん〔=欲〕とする者をや。」
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