蚊頭囉岐王——小説72
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
赤裸々なまでに
耳の近くに
雪の下にも
ふれあうばかりの
雪の上にも
耳の近くに
たゞひたすらに
その
ただ無慚なだけ
わたしは餓える、と
その醜さに
今たゞ悲しみそのものとなって燃え上がる
わたしは自分で噎せ返りながら
あなたの心の
わたしは狂った夢をあざ笑う
あるいはその存在の痛ましさに
わたしの見い出す
わたしの心は共に感じた
狂った夢を
あなたの心の
かくて哿豆囉古
その痛ましさをこそ
爾に都儛耶氣良玖
ふるえた。
かさなりあった心は。
こゝにふるえた。
わずかにふれあうことさえもなく。
わたしたちは。
ひたすら震えた。
かクてすでに蚊頭囉岐ノ且つは加我ノ且つハ古布ノ斗璃伎與爾に蚊頭囉岐ノ且つハ加我ノ且ツは古布ノ斗璃摩娑が開きタる無數の口に喰ひ畢てタりき故レ蚊頭囉岐ノ且ツは加我ノ且つは古布ノ斗璃摩娑爾に蚊頭囉岐ノ且つハ加我ノ且つは古布ノ斗璃伎與が肉をも骨ヲも腫瘍をモ無數の口に喰ヒ畢てテ故レ斗璃摩娑ひトりその肉ヲ肥大さスその骨を肥大さスその血と瀛ミを泡立て散らス且つハ斗璃摩娑ひトりその肉ヲ膨張さスそノ骨を膨張さスその血ト瀛ミを沸騰シ散らす斗璃摩娑ひトりその肉ヲ爛れさスそノ骨を爛れさすそノ血と瀛ミを腐らシ散らすかクて已に登唎摩娑もハや心に憩ふこトなく且つハ心に安らグことなく且つハ心に歡ぶこトなく且つハ心に樂シむことなくテ故レその肉ヲ崩れさせそノ骨を碎かセその血をしたタらせたダひたすらに死に懸けのイノチの生キるイノチの息吹キを貪り噎せ返りタれば爾に陁哿牟羅ひとり笑みテ哿豆囉古と俱なりテひとり娑娑彌氣囉玖
微笑んで
知っている
狂った人
愛という想いのその凄慘を
人でさえない
知っている
狂った幻
愛という想いのその無慚を
微笑んで
たゞ容赦もなく
なにを悼むことがあった?
愛はひたすら壞すのだった
もはや
たゞ心に
なにを哀しむことがあった?
心に巢食って
もはや
肉躰に
なにを欷くことがあった?
肉體に生まれ
最初からすでに
生まれたときから肉体を
あなたが夢みた人でさえなかった
肉躰を已に裏切って
あなたが幻見た人でさえなかった
肉體を已に辱め
ただ無慚でむごたらしい死に懸けの肉
肉体をすでに屠り去り
醜い肉の
愛は終にひたすらに
肉の吐く息
精神に巢食う
微笑んで
精神に共喰らう
狂ったイノチ
救いなど
微笑んで
愛に救いなど在る筈はなかった
イノチでさえない
そのありうべきかたちさえ
無樣な殘骸
その正当なかたちさえなく
あなたもはや
それはひたすら
かくて多香牟良
もはやそれ以外に
爾に都儛耶氣良玖
さゝやく。
耳元に。
耳元と仮定されたその引き裂かれた口。
口の生やした無数の齒に拓いた無数の口の孔の中に。
さゝやく。
耳などもはや存在しない無数の孔のひとつの孔に。
あなたは誰?
と。
さゝやけばあなたは答える。
忘れたと。
なぜ?
あなたはもとから人でさえない。
あなたの思った人でさえない。
あなたはもとからイノチでさえない。
あなたの描いたイノチでさえない。
あなたはただの狂氣だから。
だからすでにその名前さえあなたは忘れ仕舞った。
あなたは誰?
と。
わたしはさゝやく。
あなたのかわりにわたしはさゝやく。
耳元に。
耳も眼ないあなたのかわりに。
目も鼻もないあなたのかわりに。
花も口も無いあなたのかわりに。
わたしは畸形と。
ことごくのイノチの群れが。
その悉くが畸形にすぎなかったように。
私は狂氣と。
ことごくのイノチの群れが。
その悉くが狂氣にすぎなかったように。
私は多哿牟羅と。
あなたにわたしの名前をあげた。
まさにあなたはあなたとしてその限りも無く美しい固有のイノチを貪るのだから。
他人の名前をあなたにあげる。
まさにあなたのイノチの固有はかけがえも無い。
わたしの名前に嬲ってあげる。
死に懸けて未だ死にきれない儘の長イ長い最後の須臾のイノチの中に。
蚊頭囉岐王舞樂破第四
啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism Ⅱ
2021.01.14.黎マ
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