蚊頭囉岐王——小説71


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



 その冷酷な嗤い聲を

  ただ絶望的なまなざしのうちに

 無慈悲なだけの聲を聞く

  狂ったことを知っても猶も

 その血も淚もない硬質な聲を

  狂った冷酷な夢を見る

 むしろ引き裂け

  現実よりも殘酷な

 哀れみさえもしないなら

  現実よりも顯らかな夢に

 救いもせず

  せめて

 憐れみさえもしないのならば

  現実の無殘を隱して?

 むしろ引き裂け

  せめて

 肉も骨も

  現実の凄慘を掩って?

 俺の存在した事実ごとすべて

  知っていた

 吹き出す血の雫

  目に移る物のすべてがすでに

 ことごとくさえをも

  わたしにやさしい

かくて斗璃摩娑

  嘘をついた

爾に

  せめてもの嘘を

都儛耶氣良玖

 喰う。

 のたうつ肉が。

 肉が喰う。

 肉を。

 貪れ。

 もはや。

 貪れ。

 喰う。

 のたうつ骨が。

 骨が喰う。

 骨を。

 貪れ。

 もはや。

 貪れ。

 喰う。

 のたうつ血が。

 血がすゝる。

 血を。

 酉淨の血を。

 彼の骨を。

 彼の肉を。

 その肉をすべて苦痛にだけに噎せ返らせて。

 その骨をすべて苦痛にだけに噎せ返らせて。

 その血をすべて苦痛にだけに噎せ返らせて。

かクて笑へル多伽牟羅ひトり娑娑彌氣囉玖

 飛び散る血を

  見上げれば

 血を隱す

  あまりにも

 雪は

  あまりにも深い

 雪を紅に穢したそれを

  深い白濁

 血を隱す

  どこまでも

 雪は

  鈍く

 飛び散る肉を

  鈍くも淡く

 肉を隱す

  淡くも限りなく

 花は

  啼き臥したくなる

 花を紅に穢したそれを

  目を覆いたくなる

 肉を隱す

  ひたすらな白濁

 花は

  空に

 舞う

  雪

 花は今

  雪の

 舞う

  空に

 雪と共に

  花

 雪舞う中に

  花の舞う

 花舞う中に

かくて多哿牟羅

  空に

爾に都儛耶氣良玖

 見ていた。

 狂氣した獸を。

 もはや獸でさえない化け物を。

 もはや化け物でさえないイノチの殘骸を。

 開かれた無數の口。

 肉のわなゝき、わなゝく肉の皮の裂けめに開かれた無數の口ら。

 それらの貪るまにまに聲もなく開き裂けて切れるのを。

 見た。

 狂氣したイノチを。

 貪るしかなく聲もなく吐く息使いに白む息をまき散らすイノチを。

 哀しいの?

 わたしは笑った。

 痛いの?

 心が。

 その躬づから裂ける肉體さえも?

 顯らかに貪る血まみれのイノチは歓喜した。

 貪る肉に。

 貪られる肉にも?

 だからイノチは歓喜していた。

かくテ哿豆囉古ひトり爾に歡喜せり所以者何すデにして哿豆囉古こコろに登唎摩娑の息吹キを感ジたるが故なりキ故レ爾に多哿牟羅と俱なりテ娑娑彌氣囉玖

 聲もなく

  もっと醜く

 聲さえもなく

  目を覆うばかりに

 さゝやいたあなたの聲を聞いた

  もっと醜く

 耳の近くに

  所詮醜くしかあり得なかった

 ふれあうばかりの

  あなたの最上の美しい時

 耳の近くに

  かがやく時

 その

  光差す時

 わたしは痛む、と

  その時でさえも

 聲もなく

  匂いある

 聲さえもなく

  温度在る

 さゝやいたあなたの聲を聞いた

  分泌し

 耳の近くに

  排泄し

 ふれあうばかりの

  貪る息ものの

 耳の近くに

  そのすさまじい醜さを

 その

  もっと醜く

 わたしは渇く、と

  もっと穢く

 聲もなく

  むしろさらして仕舞えばよかった

 聲さえもなく

  日の光の下

 さゝやいたあなたの聲を聞いた






Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

0コメント

  • 1000 / 1000