蚊頭囉岐王——小説67


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



かクて比登らが古與美弐仟貮拾壱年ノ拾弐月爾に蚊頭囉岐ノ且つは加我ノ且つは古布ノ斗璃摩娑已に喰ひ殺シたる蚊頭囉岐ノ且つは迦我ノ且つは古布ノ斗璃伎與が腫瘍乃至そノ左伎多摩の肥大に已にその半身ダに崩れさシて躬の芳香に左伎多摩が腐臭だにモ交わらせタりき故レ斗璃伎與爾に齡拾九を數へき故レ斗璃摩娑爾に齡什九ヲ數へき爾に女ありき名を阿迦井ノ哿豆良古ト曰ふ女すでにシて時のうちにあらず故レ斗璃摩娑その摩那許にのみ迦豆囉古失せタる齡のかタちにシ見い出シき爾に女ありき名を夜麻陀ノ多迦牟羅と曰ふ故レ齡爾に十九なりき多迦牟羅そノ躰にひとり迦豆囉古と俱なりテありき故レ爾に迦豆囉古ひとり多迦牟良と俱なりて娑娑彌氣囉玖

 嗅いだ

  ゆらゆらと

 あなたの肌の匂いを

  カーテンごしに日の光は

 甘やぎいや甘やぐ

  陽炎まゝに

 漂う香気を

  時の立つさえ

 嗅いだ

  忘れてあなたを

 腐った肉の

  見つめて居よう

 瀛の臭気を

  もはや人のかたちさえ

 錆び色の匂い

  維持されてはいないかたちを

 腐乱の魚の群れ成す匂いなす臭気を

  その無樣さを

かくて

  そのいまだ死にもしない

爾に布斯美

  あなたのイノチを

都儛耶氣良玖

 すでに。

 連れこんだ時には。

 この部屋に。

 連れ込んだ時にはすでにあなたは人でさえなかった。

 匂う惡臭を勝手に埀れ流して。

 體の半分に肥大した肉に噎せ返る。

 肌の半分に吹き出す瀛に黃色を染まる。

 ながれる黃色の匂いを嗅いだ。

 嗤っていゝ?

 あなたのその穢さを。

 分泌物に塗れたあなたの。

 あるいは廃棄物にまみれたあなたの?

 もしくはイノチそのものだったのか。

 その分泌された廃棄物そものものこそが?

 あなたの。

 嗤っていゝ?

 もはや人の言葉さえまともに話せもせずに。

 嗤っていゝ?

 肉腫の肥大にあまりに不自由な口に音をなぞる。

 胃のような舌が突き出されて。

 黃色い分泌物をそれでもなおも粘膜に吐瀉した。

 聲と音。

 あまりにも穢いあなたを見ていた。

此の拾壱月朝の七時に斗璃摩娑焦燥と俱に宮島に歸りき故レそノ足宮島の圡を踏みタり故レその目宮島の色を見タり故レそノ心宮島のかタちを見たり時に斗璃摩娑朝のすデに燒けおチたル靑の空の下に海を見き故レ爾に海はそノ躬づからをさらしき斗璃摩娑が目にその色且ツはそのかタちなきかたち且つハその馨る潮の臭気且ツは臭う鹽の馨り且つハさザなム波ノ音ノ靜かノとよみを斗璃摩娑そノ目に見て覩たるまマに娑娑彌氣囉玖

 わなゝいてた

  音を立てゝ

 酉淨の息て生き續ける未だ死なない不死の肉が

  喰っていた

 香り立つ

  なに?

 その腐った肉の臭いなす匂い

  わたしを

 彼の表皮の

  私の肉を

 その腐ったまゝに海におよぐ魚の群れの匂いなす匂い

  骨までも

 表皮の瀛みの

  骨髄までも

 毛孔にさえたれる膿みの

  肉汁も

 匂いに噎せる

  血も

 躬づからさえも

  精神さえも食っていた

 酉淨さえも

  その齒に

 だからわたしさえも

  匂う齒に

 だからわたしたちは俱に

  酉淨は

 その匂いに噎せて

  その異形の齒にも

 噎せかえりながら

  噛み千切る

 音を聞いた

  囓み、咬み砕き

 酉淨の耳も

  飲み

 その耳に

  あふれだした胃液の中に

 躬づからの齒の咀嚼する音

  匂うその胃液の中にも

 私の肉を

  咀嚼した

 肉體を

  喰われながら

 骨までも

  わたしの肌は

 骨髄までも

  毛孔さえもが

 肉汁までも

  彼の腐った匂いを嗅いだ

 血さえ

  その腐った肉のにおいなす匂い

 精神までも咀嚼する音

  その腐ったままに海におよぐ魚の群れの匂いなす匂い

 その赤裸々な音を

かくて斗璃摩娑

  噎せ刈りながら

爾に都儛耶氣良玖

 夢を見た。

 迦豆囉古をふたゝび煞した時にも。

 ふたゝびその首に包丁を刺した彼女の眼にも。

 その目の見ていた風景の中にも。

 夢を見ていた。

 生まれた時から。

 すでに。

 その繰り返し見続けていた夢を。

 夢を見た。

 聽く。

 酉淨の齒の咀嚼の音を。

 覩る。

 肌にふれ合うその表皮の肥大を。

 嗅ぐ。

 あふれかえるその魚の腐臭なす惡臭を。

 その夢に問いかけらるまゝにいつか。

 まさにこの時。

 夢に誘われ。

 夢を追うまゝ。

 だからこゝに俺は來た。

故レ夢に見たル夢に誘はるゝ儘に美夜島に歸りてひとり斗璃摩娑島ノ埠に見まわし爾に今まサに躬ヅからの美夜島にありタるを知りキすでに古我ノ伎與麻娑は失せタりき故レ祇樹古藤記念園を詣でムとす故レ步きて山際なル祇樹園に至るに祇樹園の鐵門已に錆びタりキ故レ斗璃摩娑ひトり思へらく祇樹園廃園されタるやらんとかクて見て見ルに白き建物すデにして蔦に覆わレ窓ノ硝子ことごくに割れて皹入り處所に樹木の枝ノぞかせ且ツは更に枝に葉しげらせテありき爾に斗璃摩娑恠シむともなクに恠シみ知らぬうちにモ時のいチはやく百年千年を經りたるにも思ヒきかクて祇樹園に人ノ気配すでになカりき故レ斗璃摩娑鐵の錆びムす門を軋ませそノうちに入りき建物正面の門の硝子ノ自動扉朽ちて割レ崩れ斜めにそノ殘骸を傾けり故レ斗璃摩娑こコろに娑娑彌氣囉玖

 ことごく

  喚ぶ?

 すべてはそのかたちも懐かしいまゝ

  誰を?

 ことごく

  喚び出す?

 すべては曝した。ぼくの見知らぬかたちを

  どうやって

 その色さえも

  おそらくは聲は







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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