蚊頭囉岐王——小説66
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
ふたりのときも
いまさらに?
さんにんのときも
何に怯える?
だからお前しか知らない
ましてや絶望
その
もうすぐぼくらは滅びてしまう
ひとりの時さえ
跡形もなく
お前はその昏い眼に笑う
廢墟はやがて消え失せるだろう
そうに違いない
茂る樹木の
自分勝手に
その好き放題の繁茂の内に
お前固有の自分の都合で
遠い先住動物たちの
勝手に傷ついたに過ぎない息物
殘した遺跡の痕跡として
うつくしいだけが取り柄の
もしもいつか意識が目覺めたならば
無口な存在
人と同じような
かくて登唎麻紗
知性のカタチが目覺めるのならば
都儛耶氣良玖
足の下に聲がした。
女の悲鳴。
壁の向こう。
遠い下に。
スラグの向こう。
地表の近くに。
多分誰かが覺醒したのだ。
その細胞の。
完璧すぎる萬能化。
多分誰かが覚醒したのだ。
死にさえせずに。
ただ人の知性の殻を破って。
痕跡さえも殘しはせずに。
かクて多毗登そノ登唎麻紗の多毗登を見詰メたル眼差しを見きすデに夜ハ明けたりき多毗登思へらクすでに壁の向カうの空ノ朝燒けダにも燃え墜ちタるやらんと故レ窓ノ向カうに西の空はたダ澄ムで澄ミ渡りひたすらに靑白ミきかクて爾に眠レる那岐紗ひとりソのこコろに娑娑彌氣囉玖
這った
痛みを
血管の中を
もっと痛みを
夥しい百合の花が
せめて生きると
その芳香を撒きながら
まだ生きているのだと
その血の色にさえ
自覺させるだけの
穢れもしないで
せめても痛みを
眞白いままに
棘むしていれば
纔かに黄ばんで
旅人のそれが
這った
釘の棘で
血管の中を
錆びた釘の
さきほこる百合
曲がった棘で
花の無数は
密集していえば
わたしは花をさかせるだろう
痛みを
だから
せめて痛みを
ふいに拓いたこの口蓋に
もっと痛みを
喉の奧にも
むしろ生むべきか
その花を
最後の時に
白百合の花を
滅びて行く
かくて多毗登爾に
種族の最後を
都儛耶氣良玖
ひとり立ち上がる鳥雅を見た。
昨日の朝には鳥雅を抱いた。
肛門に咲く花の夢。
鳥雅はひとり息をつく。
たちあがって。
步く。
どこに?
窓のちかくに。
見ていた筈だった。
その目。
彼の眼差しは。
すでに明けた空。
ただ靑い。
わたしはひそかに目を閉じた。
鳥雅の気配を感じる爲に
聲を聞いた。
——なんで?
と。
その鳥雅の聲。
——おかしくなった?
そのさゝやいた聲。
——俺の眼…
と。
かくて登唎麻紗ひとり聲にも娑娑彌氣囉玖
見えた
たなびく
その色
雲は
薄紫の
ながれる
色
雲は
空の
たぶん
千切れた雲
上空は激流
雲さえも
風の
色
すさまじい
薄紫の
破壞的な迄の
はじめて覩る色
ながれる
かくて多毗登
かたちをくずさないまゝにその雲
爾に
目を覆うばかりの強靭
都儛耶氣良玖
俺は見ていた。
瞼の内に。
その窓を開け放つのを。
鳥雅が。
渚がすがるその肉躰が。
匂い立ちながらも。
窓を開け放つのを。
俺は見ていた。
瞼の内に。
光はふれた。
ただ無造作に。
鳥雅に。
その全身に。
鳥雅はひとり身を乘り出す。
鳥雅はひとり背をのけぞらす。
だから俺は見ていた。
閉じた瞼の内に。
聲もたてずに。
身を投げた鳥雅。
開いた窓から。
光の内に。
墜ちながら。
見下ろしたに違いなかった。
その空の靑。
一番高い空の色を。
最後の時に。
失神に墮ちる前の。
彼の。
彼だけの。
最後の時に。
亂聲蚊頭囉岐王舞樂第三
啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism Ⅱ
2021.01.28.黎マ
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