蚊頭囉岐王——小説59

以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。

　その少年を。

　なにを？

かくテ那岐紗ひトり登唎麻紗ノ素肌をさらさシそノ色に見蕩れそノかたちに見蕩れたダ心惑へば娑娑彌氣囉玖

　流れる

　　傷つけないから

　したゝるように

　　あなたを

　くずれるように

　　けっして

　ちいさいくそれだけ雪崩れたように

　　指さえふれずに

　鳩尾に

　　わたしは時間を

　そのあせの粒は

　　やきつくすのだろう

かくて那岐紗

　　なぜ？…

爾に都儛耶氣良玖

　少年の近くに添う。

　彼のベッド。

　その眠るベッドの中で。

　すべてを曝して。

　しめられないカーテンのせいで。

　すべてを曝して。

　見つめる視線はなにもないから。

　見つめる人は誰もいないから。

　すべてを曝して。

　あなたと同じに眞似をした。

　眠ったふりを。

　眠ったふりをするをする。

　あなたととなりに。

かくて傍らに登唎麻紗ノ躰の温度ノ感ジられたれバ那岐紗ひトり娑娑彌氣囉玖

　夢を見る

　　喉に恒星が燃えた

　それとも幻

　　わたしの喉に

　ねむり墮ちないまゝの瞳に

　　なぜならあなたの喉にも燃えていたから

　あくまでも

　　だから牙を

　眠りを擬態する

　　獸はわたしに牙を立てた

　それ

　　うつくしいあなたは

　かりそめの瞳に

　　恒星が喉に

　夢を見る

　　巨大なまゝに

　それともまぼろし

　　燃え立ったから

　あざやかに

　　飲み込めない

かくて登唎麻紗ねむりの内にも

　あきらかに

都儛耶氣良玖

　落ちた。

　匂いの渦が。

　散乱。

　匂いの渦が。

　舞う。

　匂い。

　あまい匂い。

　死んだ鼠の崩壊した肉躰。

　その匂い。

　饐えた匂い。

　腐った魚の。

　牛肉の筋の匂い。

　川の匂い。

　その水の臭気。

　苦い匂い。

　葉を噛んだ匂い。

　草を噛んだ匂い。

　菌類の日影の匂い。

　匂う。

　降り注ぐ。

　匂う。

　だから嗅いだ。

　わたしは。

　その馨を嗅いだ。

かくテ夜のうツらうツらに那岐紗ひトり娑娑彌氣囉玖

　さゝやく

　　誰？

　言った

　　わたし？

　さゝやいた

　　何？

　いう

　　誰が？

　つぶやく

　　何するの？

　聞いた

　　何したい？

　つぶやいた

　　やめる？

　言った

　　なぜ？

　さゝやく

　　だれ？

　こだます

　　何を？

かくて那岐紗

　ひゞきあい

爾に都儛耶氣良玖

　知っていた。

　わたしの躰にふれないだろう。

　彼は。

　うつくしい少年。

　殘酷な獸は。

　ふれえないから。

　なぜなら指先一本さえも。

　ふれないから。

　わたしは。

　知っていた。

　もはや何をも叫ばないだろう。

　彼は。

　うつくしい少年。

　そのやわらかな喉は。

　聲がないから。

　齕み千切ったから。

　わたしが喉を。

　その喉を。

　知っていた。

　開かないだろう。

　彼は。

　うつくしい少年。

　その瞼を。

　何もないから。

　瞼も瞳も。

　こぼすべき淚さえもはや。

　なにもないから。

　わたしには。

軈て明けノ空に朝焼けノ紅蓮の兆シて部屋の中を染メれバ登唎麻紗ひとり目を覺まシ故れ躬を覆いタる女の見知らヌ全裸を刎ねき故レその肌に女ノながしたる汗を倦ミて倦みきるトもなく見レば窓の向カうに空ノ色に見蕩レり故レすでに眠レる女ヲも返り見ズにその窓ノ近くに寄りテひとり娑娑彌氣囉玖

　燃える

　　知らない女は

　何億万回目にも空は

　　寢息を立てる

　あざやかに

　　それ以外に

　たゞ

　　すべを無み

　あざやかというしかない

　　知らない女

　屈辱に

　　自分の眠りにさえ

　気付かせもしないで

　　そのふかさにも

　だから

　　夢の中にも

　おきざりにもせず

　　溺れるものを

　とりのこしもせず

　　ひとりして

かくて登唎麻紗

　空は

爾に

　燒けた

都儛耶氣良玖

　始めた見たような？

　空。

　いや。

　朝燒け。

　もう何度も。

　その陽炎。

　飽きるほど何度も。

　吹き出すような。

　無殘な。

　紅。

　何度も。

亂聲蚊頭囉岐王舞樂第三

啞ン癡anti王瑠我貮翠梦organism Ⅱ

2021.01.28.黎マ