中論 Mūlamadhyamaka-kārikā 觀去來品後半・龍樹 Nāgārjuna の偈を、青目 Piṅgala が釈し、三蔵法師鳩摩羅什 Kumārajīva が訳す・漢訳原文と書き下し(3)
中論卷の第一
龍樹菩薩造
梵志靑目釋
姚秦三藏鳩摩羅什譯す
■中論觀去來品第二、二十五偈
問曰。世間眼見三時有作。已去未去去時。以有作故當知有諸法。答曰。
◎
問へらく〔=曰〕、
「世間眼見に三時に作〔さ〕有り。
已去〔いこ、既に去る〕に。
未去〔みこ、未だ去らず〕に。
去時〔こじ、今去る〕に。
作有るを以ての故に當に知るべし、諸法有りと。」
答へらく〔=曰〕、
已去無有去 未去亦無去
離已去未去 去時亦無去
已去無有去已去故。若離去有去業。是事不然。未去亦無去。未有去法故。去時名半去半未去。不離已去未去故。問曰。
◎
≪已去に去有ること無し
未去にも〔=亦〕去、無し
已去・未去を離れ
去時にも〔=亦〕去、無し≫
已去に去有ること無し。
已去なるが故に。
若し去を離れ去の業有らば是の事、然らず。
未去にも〔=亦〕去は無し。
未だ去法有らざるが故に。
去時を半去・半未去と名づく。
已去・未去を離れざるが故に。」
問へらく〔=曰〕、
動處則有去 此中有去時
非已去未去 是故去時去
隨有作業處。是中應有去。眼見去時中有作業。已去中作業已滅。未去中未有作業。是故當知去時有去。答曰。
◎
≪動處に則ち去有り
此の中に去時有り
已去・未去には非らず
是の故、去時に去れり≫
「作業有る處の隨に、是の中に應に去有らん。
眼見に去時中に作業有り。
已去中には作業、已に滅したり。
未去中には未だ作業、有らず。
是の故に當に知るべし、去時に去有りと。」
答へらく〔=曰〕、
云何於去時 而當有去法
若離於去法 去時不可得
去時有去法。是事不然。何以故。離去法去時不可得。若離去法有去時者。應去時中有去。如器中有果。復次。
◎
≪云何んが去時に〔=於〕
(而)當に去法有るべき
若し去法を〔=於〕離るれば
去時、不可得なり≫
「去時に去法有りといふ是の事、然らず。
何を以ての故に。
去法を離るれば去時、不可得なれば。
若し去法を離れたるも去時のみ有らば〔=者〕應に去時中にも去有ること器の中に果有るが如し。
復、次に、
若言去時去 是人則有咎
離去有去時 去時獨去故
若謂已去未去中無去。去時實有去者。是人則有咎。若離去法有去時。則不相因待。何以故。若說去時有去。是則爲二。而實不爾。是故不得言離去有去時。復次。
◎
≪若し去時に去ありと言はば
是の人則ち咎有り
去を離れ去時有らば
去時、獨り去ならんに〔=故〕≫
若し『已去・未去の中に去無く、去時に實に去有り』と謂はば〔=者〕是の人、則ち咎有り。
若し去法を離れて去時有らば則ち、相ひ因待せず。
何を以ての故に。
若し『去時に去有り』と說かば是れ則ち、二なり〔=爲〕。
而れど實には爾らず。
是の故『去を離れて去時有り』とは言ひ得ず。
復、次に、
若去時有去 則有二種去
一謂爲去時 二謂去時去
若謂去時有去是則有過。所謂有二去。一者因去有去時。二者去時中有去。問曰。若有二去有何咎。答曰。
◎
≪若し去時に去有らば
則ち二種の去有り
一に謂はく去時なり〔=爲〕
二に謂はく去時の去≫
若し『去時に去有り』と謂はば是れ則ち、過有り。
所謂、二去有らば。
一には〔=者〕去に因り去時有り。
二には〔=者〕去時中に去有り。」
問へらく〔=曰〕、
「若し二去有らば何の咎有る。」
答へらく〔=曰〕、
若有二去法 則有二去者
以離於去者 去法不可得
若有二去法。則有二去者。何以故。因去法有去者故。一人有二去二去者。此則不然。是故去時亦無去。問曰。離去者無去法可爾。今三時中定有去者。答曰。
◎
≪若し二の去法有らば
則ち二の去者有らん
去者を〔=於〕離れ〔=以〕
去法、不可得≫
若し二の去法有らば則ち、二の去者有らん。
何を以ての故に。
去法に因り去者有るが故に。
一人に二去、二去者有り。
此れ則ち然らず。
是の故、去時にも〔=亦〕去無し。」
問へらく〔=曰〕、
「去者を離れ去法無きは爾る可し。
今、三時の中に去者、定有ならん。」
答へらく〔=曰〕、
若離於去者 去法不可得
以無去法故 何得有去者
若離於去者。則去法不可得。今云何於無去法中。言三時定有去者。復次。
◎
≪若し去者を〔=於〕離るれば
去法、不可得
去法無きを以ての故
何んが去者有り得ん≫
若し去者を〔=於〕離るれば〔=則〕去法、不可得なり。
今云何んが去法だに無き中に〔=於〕三時に去者の定有を言はん。
復、次に、
去者則不去 不去者不去
離去不去者 無第三去者
無有去者。何以故。若有去者則有二種。若去者若不去者。若離是二。無第三去者。問曰。若去者去有何咎。答曰。
◎
≪去者は〔=則〕不去
不去者もまた不去
去と不去者とを離るれば
第三の去者も無し≫
去者、有ること無し。
何を以ての故に。
若し去者有らば〔=則〕二種に有り。
若しは去者。
若しは不去者。
若し是の二を離るれば第三の去者も無し。」
問へらく〔=曰〕、
「若し去者、去すに何の咎有る。」
答へらく〔=曰〕、
若言去者去 云何有此義
若離於去法 去者不可得
若謂定有去者用去法。是事不然。何以故。離去法。去者不可得故。若離去者定有去法。則去者能用去法。而實不爾。復次。
◎
≪若し去者、去ると言はば
云何んが此の義有らん
若し去法を〔=於〕離るれば
去者、不可得≫
「若し『定んで去者は去法を用ふる有り』と謂はば是の事、然らず。
何を以ての故に。
去法を離るれば去者、不可得なるが故に。
若し去者を離れて定んで去法有らば〔=則〕去者、能く去法を用ひたり。
而れど實には爾らず。
復、次に、
若去者有去 則有二種去
一謂去者去 二謂去法去
若言去者用去法。則有二過。於一去者中而有二去。一以去法成去者。二以去者成去法。去者成已然後用去法。是事不然。是故先三時中。謂定有去者用去法。是事不然。復次。
◎
≪若し去者に去有らば
〔=則〕二種の去有り
一に謂はく、去者の去
二に謂はく、去法の去≫
若し『去者は去法を用ふ』と言はば則ち、二過有り。
一の去者中に〔=於〕而も二の去有り。
一は去法を以て去者を成ず。
二は去者を以て去法を成ず。
『去者、成じ已はりて然して後に去法を用ふ』といふ是の事、然らず。
是の故、先きに三時中に『定んで去者の去法を用ふる有り』と謂ふ是の事、然らず。
復、次に、
若謂去者去 是人則有咎
離去有去者 說去者有去
若人說去者能用去法。是人則有咎。離去法有去者。何以故。說去者用去法。是爲先有去者後有去法。是事不然。是故三時中無有去者。復次若決定有去有去者。應有初發。而於三時中。求發不可得。何以故。
◎
≪若し去者は去すと謂はば
是の人は〔=則〕咎有り
去を離れて去者有り
去者に去有りと說けば≫
若し人『去者は能く去法を用ふ』と說かば是の人、則ち咎有り。
去法を離れて去者有れば。
何を以ての故に。
『去者は去法を用ふ』の說、是れ先きに去者有り。
後に去法有るなり〔=爲〕。
是の事、然らず。
是の故、三時中に去者有ること無し。
復、次に若し決定して去有り、去者有らば應に、初發や有らん。
而れど三時中に〔=於〕發を求めて不可得なり。
何を以ての故に。
已去中無發 未去中無發
去時中無發 何處當有發
何以故。三時中無發。
◎
≪已去中にも發無し
未去中にも發無し
去時中にも發無し
何處にか當に發有るべき≫
何を以ての故に三時の中に發無きや。
未發無去時 亦無有已去
是二應有發 未去何有發
無去無未去 亦復無去時
一切無有發 何故而分別
若人未發則無去時。亦無已去。若有發當在二處。去時已去中。二俱不然。未去時未有發故。未去中何有發。發無故無去。無去故無去者。何得有已去未去去時。問曰。若無去無去者。應有住住者。答曰。
◎
≪未だ發せずば去時無し
亦、已去も有ること無し
是の二、應に發有るべき
未去に何んが發有らん
去無し、未去無し
亦復に去時も無し
一切の發有ること無きに
何が故に(而)分別す≫
若し人、未だ發せずば〔=則〕去時無し。
亦、已去も無し。
若し發有らば當に二處に在るべし。
去時・已去の中に。
二俱に然らず。
未去時、未だ發有らざれば〔=故〕。
未去中に何んが發有らん。
發無くば〔=故〕去無し。
去無くば〔=故〕去者無し。
何んが已去・未去・去時は有り得る。」
問へらく〔=曰〕、
「若し去無く、去者無くば應に住と住者有らん。」
答へらく〔=曰〕、
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