蚊頭囉岐王——小説48


以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。



 ——おかしくない?

 ——運動しろよ

 ——ママだよ

 ——むしろあんまり可愛くない方が普通に幸せなんじゃない?

 ——わたしが

 ——水泳とか?

 ——ママだよ

 ——普通でいゝかなって

 ——おかしくない?

 ——じゃない?

 ——笑う…

 ——なんか妊婦用の体操なかった?

 ——どのつらさげって

 ——働かないと…

 ——秘密だね

 ——名前はどうする?

 ——私に仕事は

 ——何月生まれ?

 ——傷つけちゃうから

 ——考えた?

 ——たぶん、子供

 ——いつか、結婚しよう

 ——卑怯だけど

 ——12月?…かな?

 ——関係なくない?

 ——生まれて、落ち着いたら…

 ——卑怯の方が好き

 ——順調なら

 ——だってさ

 ——じゃない?

 ——傷つく子供みたくない

 ——必要だよね。

 ——ね?

 ——重い?

 ——うれしい?

 ——でも

 ——ね?

 ——まだか。…

 ——ほんとにうれしい?

 ——どこで?

 ——怖い

 ——痛い?

 ——大丈夫かな?

 ——東京でいゝの?

 ——痛いんだよ

 ——からだ、いたい?

 ——子供倦むの

 ——東京で育てる?

 ——だいたい切るからね

 ——出身何処?

 ——痛いんだよ

 ——だいじょうぶ?

 ——でもね

 ——お前…

 ——だから?

 ——さわっていゝ?

 ——めっちゃくっちゃ嬉しいんだって

 ——東京でいゝのかな?

 ——かわいゝんだって

 ——お腹

 ——ね?

 ——いちばん無難なの、東京?

 ——想像できない

 ——大丈夫?

 ——してるけど

 ——いゝの?

 ——もう二百回くらい生んだ

 ——いじめとか。

 ——二千回くらい育てた

 ——強くなるか。そっちのほうが…

 ——二万回くらいお乳上げた

 ——あったかい…かな?

 ——抱いて…

 ——ね?

 ——落っことしそうになって、で、笑って

 ——お前、幸せ?

かクて斗璃摩娑は見き比哿琉ひとり嘔吐シ比哿琉彌羸せルを見き故レ比哿琉が爲にノみ笑んで見つメき且つは比哿璃ひとり嘔吐し比哿璃見窶レたるを見き故レ比哿琉が爲にのミ笑んで見つめき故レ比哿琉嘔吐のあトに登唎摩娑が腕に抱かレたるにも娑娑彌氣囉玖

 絶望よりも

  痛かった

 苦痛よりも

  痛みが走る

 恐怖よりも

  迸り

 怒りよりも

  痛かった

 あまりにも幸福という感覺は

  さわぎあう

 わたしたちをあざやかに殲滅する

  血管の中にも

 あまりにも幸福という感覺は

  喚き合った

 無慈悲竆りないほどにさえも

  無防備なまでに

かくて比哿琉

 あまりにも

爾に都儛耶氣良玖

 六月の雨に降られて。

 雨に。

 その雨に降られて。

 わたしはバルコニーの植栽に花の咲いていたのを見た。

 鳥雅がいまだ目を覺まさない夕方に。

 生きてる?

 思う。

 わたしは思った。

 ひとり。

 顯らかな彼の眠る息吹を。

 その寝息さえ聞き取れもせず。

 もうすぐ出勤する夕方に。

 雨の雲に日没に焼かれることもなく。

 思う。

 鳥雅は死んだに違いなかった。

 ベッドの上で。

 ひとり。

 わたしと彼の子供とを殘して。

 わたしの子供を。

 私と彼の子供をお腹に。

 生きるに違いなかった。

 わたしは。

 彼がたとえ目を覺まさなくとも。

 当たり前だった。

 鳥雅はもう死んだのだから。

 わたしがひとり取り殘されても。

 当たり前だった。

 鳥雅は已に死んでいたのだから。

 生きるに違いなかった。

 わたしは。

 花が搖れた。

 雨の中にも。

 聞かなかった。

 その花の搖れる音をは。

 若しも蝶なら。

 もしも雨の雫の中にさえ。

 雫の無残なまでの無数の降り落ちる間を飛ぶ蝶だったら。

 あるいはそれは聞き取るのだろうか?

 鳴り響く最強音の雨のそれ。

 その怒號の内に。

 轟音のかさなる四維の響きうちに。

 その花の搖れた一度の音を?

 その紫陽花。

 紫の花の。

かクて六月の畢りそノ明けの比に登唎摩娑部屋にアりてノックの音に返り見き故レさサやけらく——誰?トしかすがにそのひと何ヲも答えずてシかれども登唎摩娑恠しむこともなシ所以者何斗璃摩娑すでに知りけらクそノ人比哿琉にほかならズと故レドアに近寄りきさサやけく——誰?と爾に応える聲ノなき沈黙を聞きテ斗璃摩娑ひとり比哿琉が爲にのミ笑みて思へらクむしろ開けたドアの向こうに死神でも立っていたなら?燃え上がる昏い顏の男でも。ないしは羽衣の天女でも。或いは花の妖精。時には月のかぐや媛でも?明けたドアのむこうに開いたブラックホールの見えない平面が俺を静かに飲み込んでいけば?故レ斗璃摩娑爾にさサやけらく——誰?トその答える聲の鳴るも鳴らぬもマたズてすぐにひらいたドアの向カうに登唎摩娑ハ見き降る雨に纔かに肩を濡らシたる比哿琉を故レ比哿琉ぬれたりそノ髮纔かに故レ比哿琉濡れたりそノ頬纔かに故レ比哿琉塗れタりソの二ノ腕纔かに爾に登唎摩娑は見き比哿琉上目に登唎摩娑を見テ且つは微笑ミたるを見て覩つヅくるとモなくに故レ斗璃摩娑ひとり比哿琉が爲に笑ミき且つは斗璃摩娑ひとり比哿琉が爲にさサやけらくは——雨?と故レ比哿琉爾に娑娑彌氣囉玖







Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

ベトナム在住の覆面アマチュア作家《Lê Ma》による小説と批評、 音楽およびアートに関するエッセイ、そして、時に哲学的考察。… 好きな人たちは、ブライアン・ファーニホウ、モートン・フェルドマン、 J-L ゴダール、《裁かるるジャンヌ》、ジョン・ケージ、 ドゥルーズ、フーコー、ヤニス・クセナキスなど。 Web小説のサイトです。 純文学系・恋愛小説・実験的小説・詩、または詩と小説の融合…

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