般若理趣分(般若經理趣分)6
底本は大正大藏般若07。(※)はその校異。
又、◎は『國譯大藏經經部第三卷』の書き下し文。※はその註釋。譯者椎尾辨匡識の署名有り。
又奧書云、大正七年四月廿八日印刷、同三十日發行。昭和十年十二月廿八日四版發行。發行所國民文庫刊行會。
■13
爾時世尊復依究竟無邊際法如來之相。爲諸菩薩宣說般若波羅蜜多究竟住持法義平等金剛法門。
謂甚深般若波羅蜜多無邊故一切如來亦無邊。
甚深般若波羅蜜多無際故一切如來亦無際。
甚深般若波羅蜜多一味故一切法亦一味。
甚深般若波羅蜜多究竟故一切法亦究竟。
◎
爾の時、世尊は復、究竟無邊際法如來の(之)相に依りて諸の菩薩の爲に般若波羅蜜多究竟住持法義平等金剛の法門を宣說したまふ。
謂ゆる甚深の般若波羅蜜多無邊なるが故に一切の如來も亦無邊なり。
甚深の般若波羅蜜多無際なるが故に一切の如來も亦無際なり。
甚深の般若波羅蜜多一味なるが故に一切の法も亦一味なり。
甚深の般若波羅蜜多究竟なるが故に一切の法も亦究竟なり。
※正宗分第十三無邊際法章。
密に第十六四波羅蜜部中大曼荼羅章とす。
彼の十三七女天集會品、十四三兄弟集會品、十五四姉妹集會品は本經に無し。
佛說如是無邊無際究竟理趣金剛法已。告金剛手菩薩等言。
若有得聞如是究竟般若理趣金剛法門。信解受持讀誦修習。
一切障法皆悉消除。定得如來執金剛性。疾證無上正等菩提。
◎
佛、是の如く無邊無際究竟の理趣、金剛の法を說き已りて金剛手菩薩等に告げて言たまはく、
「若し有得聞如是の如きの究竟般若の理趣、金剛の法門を聞くことを得て信解受持し讀誦修習するもの有らば一切の障法皆、悉く消除し定んで如來の執金剛の性を得、疾く無上正等菩提を證せん。」
■14
爾時世尊復依遍照如來之相。爲諸菩薩宣說般若波羅蜜多得諸如來祕密法性及一切法無戲論性大樂金剛不空神呪金剛法‘性。初中後位最勝第一甚深理趣無上法門。
(※性字三本俱作門字)
謂大貪等最勝成就。令大菩薩大樂最勝成就。
大樂最勝成就。令大菩薩一切如來大覺最勝成就。
一切如來大覺最勝成就。令大菩薩降伏一切大魔最勝成就。
降伏一切大魔最勝成就。令大菩薩普大三界自在最勝成就。
普大三界自在最勝成就。令大菩薩能無遺餘。
拔有情界利益安樂一切有情。畢竟大樂最勝成就。
◎
爾の時、世尊は復、遍照如來の(之)相に依りて諸菩薩の爲に般若波羅蜜多、諸の如來の祕密法性及び一切法の無戲論性、大樂金剛、不空神咒、金剛の法性、初中後位最勝第一なることを得る甚深の理趣、無上の法門を宣說したまふ。
謂ゆる大貪等の最勝成就すれば大菩薩をして大樂の最勝成就せしむ(令)。
大樂の最勝成就すれば大菩薩をして一切如來の大覺の最勝成就せしむ(令)。
一切如來の大覺の最勝成就すれば大菩薩をして一切の大魔を降伏する最勝成就せしむ(令)。
一切の大魔を降伏する最勝成就すれば大菩薩をして普大三界自在の最勝成就せしむ(令)。
普大三界自在の最勝成就すれば大菩薩をして能く遺餘無く有情界を拔きて一切の有情を利益し安樂ならしめ畢竟大樂の最勝成就せしむ(令)。
※正宗分第十四如來秘密章。
密に第十七五種秘密三摩地章とす。
前來中間十二章に對する結論なり。
※大樂金剛不空は金剛薩埵の別名なり。
又これ般若の不壞、眞實なるを云ふ。
※金剛法性。三本には「性」の字を門に作くる。
※初中後位。一切圓滿なるを云ふ。
※大貪等。食欲等惡として斷捨すべきものなし。
小我の小貪を罪とするのみ。
一切衆生を愛貪するを大貪の最勝成就とす。
斷念も亦然り。
※大樂の最勝。勝妙の喜樂なり。
金剛薩埵の大樂なり。
※大覺。自證化他圓極するなり。
※普大三界自在。三界に周遍して主となるを云ふ。
所以者何。乃至生死流轉住處有勝智者齊此常能以無等法。饒益有情不入寂滅。
又以般若波羅蜜多方便善巧成立勝智。善辦一切淸淨事業。能令諸有皆得淸淨。
又以貪等調伏世間。普遍恒時乃至諸有。皆令淸淨自然調伏。
又如蓮華形色光淨。不爲一切穢物所染。如是貪等饒益世間。住‘過有過常不能染。
(※過字元明本俱作遍字)
又大貪等能得淸淨大樂大財三界自在。常能堅固饒益有情。
◎
所以は(者)何ん。
乃ち生死流轉の住處に至り、勝智有る者は此こに齊〔限〕りて常に能く無等の法を以て有情を饒益して寂滅に入らず。
又、般若波羅蜜多方便善巧成立の勝智を以て善く一切淸淨の事業を辨じて能く諸有をして皆、淸淨なることを得しむ(令)。
又、貪等を以て世間を調伏すること普`遍〔二字あまね〕く恒時にす、乃至諸有をして皆、淸淨ならしめ(令)自然に調伏す。
又、蓮華の形色光淨にして不爲一切の穢物の染ずる所と爲らざるが如く、是の如く貪等、世間を饒益し過有過に住して常に染ずること能はず。
又、大貪等、能く淸淨を得て大樂大財三界に自在なり。
常に能く堅固にして有情を饒益す。
※流轉の住處生死の盡くる際を云ふ。
即ち苦報滅する自利行なり。
※勝智有る者。般若無相を學なぶ菩薩なり。
※此こに齊り。生死界のみにあるを云ふ。
※無等の法。無相般若なり。
※寂滅に入らず。自度を求め解脱涅槃に安住せず。
※是の如く貪等。住過不染と利樂自在と饒益堅固とを明かす。
※過有過。過法罪惡と有過の人法となり。
元(本と)明(本)には遍有過に作くるこれ一切の有過の意なり。
■15
爾時如來即說神呪。
納慕薄伽筏帝[一]
鉢刺壤波囉弭多曳[二]
薄底[丁履‘反]筏攃[七葛`反]羅曳[三]
(※反字上三本有反字、反字明本作切字下附`同字同)
罨跛履弭多窶拏曳[四]
薩縛呾他掲多跛履布視多曳[五]
薩縛咀他掲多奴壤多奴壤多邲壤多曳[六]
咀姪他[七]
鉢刺‘‘兮(‘‘兮字は日に兮下同)[一‘弟`反]鉢刺‘‘兮[八]
莫訶鉢‘喇‘‘兮[九]
(※弟字三本俱作第字。喇字三本俱作刺字)
鉢刺壤婆娑羯囇[十]
鉢刺壤路迦羯囇[十一]
案馱迦囇毘談末‘埿[十二]
(※埿字三本俱作泥字)
悉遞[十三]
蘇悉遞[十四]
悉殿都漫薄伽筏底[十五]
薩防伽孫達囉[十六]
薄底筏攃囇[十七]
鉢刺娑履多喝悉帝[十八]
參磨濕嚩‘婆羯囇[十九]
(※婆羯二字三本俱作羯婆二字)
勃‘‘陀(‘‘陀字は口に陀下同)勃‘‘陀[二十]
悉‘‘陀悉‘‘陀[二十一]
劔波劔波[二十二]
浙羅浙羅[二十三]
曷邏嚩曷邏嚩[二十四]
阿掲車阿掲車[二十五]
薄伽筏底[二十六]
麼毘濫婆[二十七]
莎訶[二十八]
◎
爾の時、如來は即ち神咒を說きたまく、
納〔ナ〕慕〔モ〕薄〔バ〕伽〔ギヤ〕筏〔バ〕帝〔テイ〕[一]
鉢〔ハ〕刺〔ラ〕壤〔ジヤ〕波〔ハ〕囉〔ラ〕弭〔ミ〕多〔タ〕曳〔エイ〕[二]
薄〔バ〕底〔チ〕[丁履反]筏〔バ〕攃〔サ〕[七葛反]羅〔ラ〕曳〔エイ〕[三]
罨〔アフ〕跛〔ハ〕履〔リ〕弭〔ミ〕多〔タ〕窶〔グ〕拏〔ナ〕曳〔エイ〕[四]
薩〔サル〕縛〔ボ〕呾〔タ〕他〔タ〕掲〔ギヤ〕多〔タ〕、
跛〔ハ〕履〔リ〕布〔フ〕視〔シ〕多〔タ〕曳〔エイ〕[五]
薩〔サル〕縛〔ボ〕咀〔タ〕他〔タ〕掲〔ギヤ〕多〔タ〕、
奴〔ド〕壤〔ジヤ〕多〔タ〕奴〔ド〕壤〔ジヤ〕多〔タ〕、
邲〔ビ/ビツ〕壤〔ジヤ〕多〔タ〕曳〔エイ〕[六]
咀〔タ〕姪〔ジヤ〕他〔タ〕[七]
鉢〔ハ〕刺〔ラ〕‘‘兮〔エイ〕[一弟反]鉢〔ハ〕刺〔ラ〕‘‘兮〔エイ〕[八]
莫〔マ〕訶〔カ〕鉢〔ハ〕刺〔ラ〕‘‘兮〔エイ〕[九]
鉢〔ハ〕刺〔ラ〕壤〔ジヤ〕婆〔バ〕娑〔シヤ〕羯〔キヤ〕囇〔レイ〕[十]
鉢〔ハ〕刺〔ラ〕壤〔ジヤ〕路〔ロ〕迦〔キヤ〕羯〔キヤ〕囇〔レイ〕[十一]
案〔アン〕馱〔ダ〕迦〔キヤ〕囉〔ラ〕(囉字儘)、
毗〔ビ〕(毗字儘)談〔ダン〕末〔マ〕埿〔ニ〕[十二]
悉〔シツ〕遞〔デイ〕[十三]
蘇〔ソ〕悉〔シツ〕遞〔デイ〕[十四]
悉〔シツ〕殿〔デン〕都〔ト〕漫〔マン〕、
薄〔バ〕伽〔ギヤ〕筏〔バ〕底〔チ〕[十五]
薩〔サル〕防〔ボウ〕伽〔ギャ〕孫〔ソン〕達〔ダ〕囇〔レイ〕(囇字儘)[十六]
薄〔バ〕底〔チ〕筏〔バ〕攃〔サ〕囇〔レイ〕[十七]
鉢〔ハ〕刺〔ラ〕娑〔サ儘〕履〔リ〕多〔タ〕喝〔カ〕悉〔シツ〕帝〔テイ〕[十八]
參〔サン〕磨〔マ〕濕〔ジン〕嚩〔バ〕娑〔サ〕(娑字儘)羯〔キヤ〕囇〔レイ〕[十九]
勃〔ボ〕‘‘陀〔ダ〕勃〔ボ〕‘‘陀〔ダ〕[二十]
悉〔シツ〕‘‘陀〔ダ〕悉〔シツ〕‘‘陀〔ダ〕[二十一]
劔〔ケン〕波〔バ〕劔〔ケン〕波〔バ〕[二十二]
浙〔シヤ〕羅〔ラ〕浙〔シヤ〕羅〔ラ〕[二十三]
曷〔キヤ〕邏〔ラ〕嚩〔バ〕曷〔キヤ〕邏〔ラ〕嚩〔バ〕[二十四]
阿〔ア〕掲〔ギヤ〕車〔シヤ〕阿〔ア〕掲〔ギヤ〕車〔シヤ〕[二十五]
薄〔バ〕伽〔ギヤ〕筏〔バ〕底〔チ〕[二十六]
麼〔マ〕毗〔ビ〕(毗字儘)濫〔ラン〕婆〔バ〕[二十七]
莎〔ソハ〕訶〔カ〕[二十八]
※正宗分第十五神咒章。
以下三咒を擧ぐ。
陀羅尼集經第三及び法苑珠林第七十五にも出す。
今第一の神咒及び受持の功德を明かす。
※集經には此の咒を大般若咒と名づく。
※集經の音字多く異なるを以て全文を掲ぐ。(下〔〕内大正大藏)
那[上]謨[上]婆伽婆[去]帝[一]
〔納慕薄伽筏帝[一]〕
摩訶波囉[上二合]若[若冶反下同]波囉彌多[去]曳[二]
〔鉢刺壤波囉弭多曳[二]〕
薄訖底[一合]伐蹉羅〔[二合]〕曳[三]
〔薄底[丁履‘反]筏攃[七葛`反]羅曳[三]〕
阿波唎[二合]彌多瞿拏曳[四]
〔罨跛履弭多窶拏曳[四]〕
薩婆〔縛〕怛他掲多[五]
〔薩縛呾他掲多〕
波唎布自他[去普]曳[六]
〔跛履布視多曳[五]〕
薩婆怛他掲多[七]
〔薩縛咀他掲多〕
努若多努若多[八]
〔奴壤多奴壤多〕
毗若多[上]曳[九]
〔邲壤多曳[六]〕
哆姪他[十]
〔咀姪他[七]〕
波囉[上二合]若波囉若[十一]
〔鉢刺‘‘兮(‘‘兮字は日に兮下同)[一弟反]鉢刺‘‘兮[八]〕
摩訶波囉[上二合]若[十二]
〔莫訶鉢喇‘‘兮[九]〕
波囉若嚧迦掲唎[上十四]
〔鉢刺壤婆娑羯囇[十]〕
波囉若嚧迦掲唎安馱迦[去]囉[十五]
〔鉢刺壤路迦羯囇[十一]案馱迦囇〕
毗談麼泥[十六]
〔毘談末埿[十二](※但し埿字三本俱作泥字)〕
徒提蘇徒提[十七]
〔悉遞[十三]蘇悉遞[十四]〕
徒殿覩縵[十八]
〔悉殿都漫〕
婆伽婆[去]底[十九]
〔薄伽筏底[十五]〕
薩防[去]伽孫怛唎[二十]
〔薩防伽孫達囉[十六]〕
婆枳底[二合]伐蹉哩[二合二十一]
〔薄底筏攃囇[十七]〕
波囉[二合]娑哩跢訶[上]悉羝[二合二十二]
〔鉢刺娑履多喝悉帝[十八]〕
三摩莎婆羯哩[二合二十三]
〔參磨濕嚩婆羯囇[十九](※婆羯二字三本俱作羯婆二字)〕
勃地勃地冒駄耶[二十四]
〔勃‘‘陀(‘‘陀字は口に陀下同)勃‘‘陀[二十]〕
悉地悉地[地野反上同二十五]
〔悉‘‘陀悉‘‘陀[二十一]〕
劔婆劔婆[二十六]
〔劔波劔波[二十二]〕
迦羅迦羅[二十七]
〔浙羅浙羅[二十三]〕
者羅者羅[二十八]
〔曷邏嚩曷邏〕
頞婆頞婆[二十九]
〔嚩[二十四]〕
阿掲車阿掲車[三十]
〔阿掲車阿掲車[二十五]〕
婆伽婆[去]帝[三十一]
〔伽筏底[二十六]〕
摩毗嚧[去]婆[三十二]
〔麼毘濫婆[二十七]〕
莎訶[三十三]
〔莎訶[二十八]〕
如是神呪三世諸佛皆共宣說‘同所護念。
(※同字明本作個字)
能受持者一切障滅。隨心所欲無不成辦。疾證無上正等菩提。
◎
是の如きの神呪は三世の諸佛皆共に宣說し同じく護念したまふ所なり。
能く受持する者は一切の障滅して隨心の所欲に隨ひて成辦ぜさること無く疾く無上正等菩提を證せん。
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