蚊頭囉岐王——小説34
以下、一部に暴力的な描写を含みます。ご了承の上、お読みすすめください。
花は降った。
白い花。
雪のようにも?
見上げれば葉の。
綠り散らす色。
葉の群れのなかに散るその花ら。
寄生した白い黴のようにも。
繁殖した白い黴のようにも。
花は白。
笑んだ。
多摩美の血の玉散るなかに。
笑んだ。
花散る下の雪なす花に血。
玉散る血の色。
花にも玉散り
かク聞きゝかくて或ハ頭又は顏面噛み千切らレたる皮膚と肉に血を流シたる斗璃摩娑こときレんとすルに耳元に遠クにも搖サぶり喚く伎與麻娑が聲を聞キたるものノかの腕に抱きあゲられたるそノ儘に虛ろなす黑目ノこちら降り注グ木漏レの光の散在を見てまバたきもせズて爾に娑娑彌氣囉玖
うめきを聞いた
なかないで
くいちぎられる母の喉の
かなしまないで
さらしたうめきを
ぼくはイノチ
耳はたしかに
あなたはイノチ
聞いた気がした
かくて伎與麻娑爾に
慥かに。猶も
都儛耶氣良玖
失神した。
すでに。
失神していた。
その肉躰を。
ぼくは搖さぶる。
まるでにすでに。
脊椎さえもがくだけたかにも。
その肉躰を。
腕に抱えたその肉躰を。
ぼくはゆすった。
花降るなかに。
色散るなかに。
さわぐ轟音。
ひゞく轟音。
人々の聲。
喚き散らす。
怒號。
それらは聞こえていた筈だった。
たしかにそれらも。
かく聞きゝかクて比登らが古與美の貮仟拾弐年斗璃麻沙十にナる二タ月前の一月に雪ハ降りき故レ宮島ノ山中腹なる家に斗璃摩娑爾に伎與麻娑を俱なヒて降る雪を見きかクて雪シ降りつゝ音もなくにも雪し舞ヒつゝ爾時に伎與麻娑かタわらノまぢかに娑娑彌氣琉斗璃摩娑が娑娑夜伎の許惠を聞きゝ故レ爾時斗璃摩娑くチびるにそノ聲に娑娑夜祁羅久
あ、…と
つたわった
あ。
触感として
こぼれる聲に
温度としても
あ、…と
ふともゝにさえ
あ。
その肌にさえ
こぼれた一度のその聲に
失禁の?
わたしは聞いた
明らかに違う
振り返り見た目
失禁とは
加賀淨雅のその眼差しの
ながれる血の
わずかな下の唇の
その触感を
こぼした聲を
そこにはすでに感覺があった
え?…と
濕った感覺
その
ついに零れて
え?
あふれだす
こぼれた一度のその聲に
それは顯らかに
わたしは見やった
はじめて流れ落ちた血
頭のすこし上にすこしだけいぶかる
だったらそれは
加賀淨雅のほゝ笑みの
それは傷口?
目
傷つけられる前には已に
かくて伎與麻娑
開かれていた
爾に
それは傷口?
都儛耶氣良玖
あるいは早すぎたに違いなかった。
雪の日のその鳥雅の初潮は。
感じた損失。
もしも珠美が生きて在ればと。
鳥雅に殺されることもなく。
すでに心を砕いた固有の肉の組成としてではなくて。
もしも珠美が生きて在ればと。
鳥雅は怯えたに違いなかった。
はじめてのその出血に。
鳥雅は知った。
或ははじめて女の躰を。
自分の少年の肉躰に。
哺乳類種の或る一生態。
もしも珠美が生きて在れば。
聲もなく。
開いた。
聲もなく。
息も吐かずに。
その唇をだけ。
細めた眼に。
わたしを見ながら鳥雅は。
わたしを見ていた。——なに?
と。
さゝやいた私の頬は笑んだまゝ。——なに?
と。
あくまでやさしくさゝやく聲は。
もしも多摩美が生きて在れば。
——どうした?
わたしの聲に答えもせずに。
覩た。
その目に。
鳥雅は。
思わずに幼い右の指先が下着の中をまさぐるのを見た。
わたしの眼は。
ひきだされた指の先端に着いた紅の色を。
見た。
鳥雅は。
怯えるというわけでもあくて。
いぶかるというわけでもなくて。
まして慄くわけもなくひとり。
鳥雅は嗅いだ。
指の匂い。
その血の匂いを。
躰内に芽生えた、——破棄した?
その血の匂いを。
流されたそれ。
イノチなす原型の流した?
あるいは女の躰だけが流す。
血。
かクて伎與麻娑爾に鳥雅が秘めタる性別を知りき故レ斗璃摩娑爾に躬ヅからが秘めタる性別を知りき厥レ成成而成餘る處ノ先端にかスかに匂う血はしたタりきしかれば斗璃摩娑思ハずに笑んで伎與麻娑を見き伎與麻娑もはヤなにを慄クとも厭フともなクその血を赦しシかれども不意に伎與麻娑思へらクに——なら、…だったら…と故レ駈けルように携帶電話を手にツかみとれバ爾に想へらク——あの子のほうは?…なら、あの子のほうは?ト故レ祇樹園なる笠原を電話に呼ビ出しケれば笠原出ざりき故レ斗璃摩娑が耳に
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